松竹梅
3行でわかるあらすじ
松さん、竹さん、梅さんの縁起のいい名前の三人が大黒屋の結婚式に招かれ、隠居の提案で余興をすることになる。
謡曲の節回しで順番に祝い言葉を言う約束だったが、梅さんが「長者」を忘れて「亡者になぁられた」と言ってしまう。
床の間でしおれている梅さんについて隠居は「今ごろは一人で開いて(咲いて・帰って)いるだろう」と掛け言葉でオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
松さん、竹さん、梅さんの縁起のいい名前の三人が大黒屋の婚礼に招かれた。
隠居が縁起のいい名前を活かして余興をしようと提案し、謡曲の節回しで順番に祝い言葉を言うことにする。
松さん「なった、なった、"じゃ"になった、当家の婿殿、"じゃ"になった」と始める。
竹さん「何の"じゃ"になぁられた」と続ける。
梅さん「長者のなぁられた」と答える。
最後に三人で「おめでとうございます。お開きに致しましょう」で締める予定だった。
婚礼の場で松さんと竹さんは無事に成功したが、梅さんが「長者」を忘れてしまう。
梅さんは「風邪、大蛇、番茶」などと言い、ついに「亡者になぁられた」と言ってしまう大失敗。
松さんと竹さんが報告に来ると、梅さんは床の間に飛び込んでしおれているという。
隠居「それなら心配ない。梅さんのことだ、今ごろは一人で開いて(咲いて・帰って)いるだろう」と掛け言葉でオチ。
解説
「松竹梅」は古典落語の演目で、原話は初代三笑亭可楽が文政6年(1823年)に出版した『江戸自慢』の一編「春の花むこ」です。元々は上方落語の演目でしたが、明治30年(1897年)頃に4代目柳亭左楽が東京に移植し、明治から大正期にかけて現在の形に整えられました。
この演目の最大の特徴は、結婚式における「忌み言葉」の風習を題材にした言葉遊びにあります。「帰る」「戻る」「切れる」などの忌み言葉を避けながら祝辞を述べるという、江戸時代から続く慣習を背景に、縁起のいい名前を持つ三人の滑稽な失敗を描いています。
オチの「開いて(咲いて・帰って)」は見事な掛け言葉で、「お開き」(宴会の終了)、「咲いて」(梅の花が咲く)、「帰って」(家に帰る)という三重の意味が込められており、梅さんの名前を活かした巧妙な落ちとなっています。
6代目春風亭柳橋や林家木久扇などが得意演目とし、特に柳橋は謡を稽古する場面でのくすぐりを充実させて、より笑いの多い噺に仕上げました。祝言の場での失敗を笑いに変える落語の持つ力を表現した、江戸庶民の生活に根差した名作です。
あらすじ
町内の松さん、竹さん、梅さんの縁起のいい名前の三人組が、大黒屋の婚礼に招かれた。
横丁の隠居は折角、目出度い名前の三人が行くのだから、御祝儀に余興をしたらもっと喜ばれるだろうと、三人が順番で祝い事を言うことにする。
謡曲の節回しで、まず松さんが「なった、なった、"じゃ"になった、当家の婿殿、"じゃ"になった」、続いて竹さんが「何の"じゃ"になぁられた」、梅さんが「長者のなぁられた」と、最後に三人で「おめでとうございます。お開きに致しましょう」と締める文句だ。
三人は隠居の指導で、泥縄で文句を覚え、歩きながら繰り返し練習し婚礼の場へ行く。
お目出度い余興をやると言うので、参列者からは大喝采、親戚も大喜びで三人は舞い上がってしまう。
それでも何とか、松さんと、竹さんは上手く切り抜けたが、梅さんが、長者を忘れ、「風邪、大蛇、番茶、・・・」、しまには「亡者になぁられた」とやってしまい、「おめでとうございます。お開きに致しましょう」と締めることが出来なかった。
顛末を松さんと竹さんが隠居の所へ報告に行く。
松さん 「梅さんのせいで、お開きと締められなかった」
隠居 「それで梅さんはどうしてる」
竹さん 「決まり悪そうにぐるぐる回って、床の間に飛び込んで、隅の方で小さくなってしおれてました」
隠居 「それなら心配ない。梅さんのことだ、今ごろは一人で開いて(咲いて・帰って)いるだろう」
落語用語解説
- 松竹梅(しょうちくばい): 縁起のいい植物の組み合わせ。松は不老長寿、竹は節操と成長、梅は気高さを象徴する吉祥の象徴。
- 謡曲(ようきょく): 能の音楽。この噺では謡曲の節回しで祝い言葉を言う設定で、厳かな雰囲気を演出する。
- 長者(ちょうじゃ): 裕福で立派な人。結婚式で「長者になられた」と祝うはずが、梅さんが忘れてしまう。
- 亡者(もうじゃ): 死んだ人、または仏道に迷う人。結婚式で絶対に言ってはいけない忌み言葉を梅さんが言ってしまう大失敗。
- 忌み言葉(いみことば): 結婚式などの祝いの場で避けるべき縁起の悪い言葉。「帰る」「戻る」「切れる」「死ぬ」などが代表例。
- お開き: 宴会の終了。「終わり」「閉める」は縁起が悪いため、「お開き」という言葉を使う。
- 床の間(とこのま): 和室の格式の高い場所。梅さんが失敗して恥ずかしくて飛び込んで隠れた場所。
- 大黒屋(だいこくや): この噺で結婚式を挙げる家の名前。大黒天は七福神の一つで縁起のいい名前。
- 御祝儀(ごしゅうぎ): お祝いの金品や行為。この噺では金品ではなく余興という形で御祝儀を贈る。
- 泥縄(どろなわ): 泥棒を捕まえてから縄を綯う(なう)こと。間に合わせの準備を意味し、三人が急いで練習する様子を表現。
よくある質問 FAQ
Q1: なぜ梅さんは「長者」を忘れたのですか?
A1: 急な提案で練習時間が足りず、緊張と舞い上がりで頭が真っ白になったからです。「風邪」「大蛇」「番茶」など「じゃ」で終わる言葉を必死に探しましたが、肝心の「長者」を思い出せませんでした。
Q2: 「亡者になられた」はなぜそんなに問題なのですか?
A2: 結婚式で「亡者(死者)」という言葉は最悪の忌み言葉です。新郎新婦の門出を祝う場で死を連想させる言葉を言ってしまったため、その場は凍りつき、祝辞は台無しになりました。
Q3: オチの「開いて(咲いて・帰って)」の意味がよくわかりません
A3: 「開いて」には三重の意味があります。「お開き」(宴会を終了させる)、「咲いて」(梅の花が咲く)、「帰って」(家に帰る)という掛け言葉です。梅さんは宴会を開けずに失敗したので、一人で家に帰ったという意味です。
Q4: この噺は実話ですか?
A4: 江戸時代の結婚式で実際にあった失敗談をもとにした創作と考えられます。原話は初代三笑亭可楽の『江戸自慢』の「春の花むこ」で、江戸庶民の生活に根差した物語です。
Q5: なぜ松竹梅という名前の人たちがいるのですか?
A5: 江戸時代には縁起のいい名前を付ける風習があり、松・竹・梅という吉祥の植物名は実際によく使われていました。この噺ではその縁起のいい名前を活かした余興という設定です。
Q6: この噺の教訓は何ですか?
A6: 準備不足で大事な場面に臨むと失敗するという教訓と、緊張で失敗しても笑いに変える落語の力を示しています。また、忌み言葉という日本の伝統的な言葉の文化を伝える役割も果たしています。
名演者による口演
この噺を得意とした落語家には以下の名人がいます:
- 三遊亭圓生(六代目): 謡曲の節回しを正確に演じ、梅さんの焦りと失敗の心理を繊細に描いた名演として知られる。
- 古今亭志ん生(五代目): 三人の個性を明確に演じ分け、特に梅さんの狼狽ぶりを軽妙に表現した。
- 春風亭柳橋(六代目): 謡の稽古場面にくすぐりを多く加え、笑いの多い演出で人気を博した。
- 林家木久扇: 梅さんの失敗場面を大げさに演じ、観客を巻き込む明るい演出が特徴。
- 桂米朝(三代目): 上方版では関西弁の味わいを活かし、忌み言葉の風習をより丁寧に説明した演出。
関連する落語演目
縁起物や結婚式、言葉遊びをテーマにした演目:
- 長屋の花見 – 貧乏長屋の住人たちの花見を描いた滑稽噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/nagayanohanami/ - 花見小僧 – 花見での騒動を描いた演目
https://wagei.deci.jp/wordpress/hanamikozou/ - 花見酒 – 花見での商売を描いた滑稽噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/hanamizake/ - 転失気 – 知ったかぶりで失敗する言葉遊びの噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/tenshiki/ - 千早振る – 百人一首の読み間違いを使った噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/chihayafuru/ - 時そば – 言葉遊びと計算の誤魔化しの噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/tokisoba/ - 寿限無 – 名前の長さをネタにした前座噺
https://wagei.deci.jp/wordpress/jugemu/
この噺の魅力と現代への示唆
「松竹梅」の最大の魅力は、日本の伝統的な忌み言葉の文化を題材にした言葉遊びにあります。結婚式で「帰る」「戻る」「切れる」などの言葉を避けるという風習は現代でも続いており、この噺を通じて日本の言葉文化の豊かさと繊細さを知ることができます。
特に秀逸なのは、縁起のいい名前を持つ三人が余興で失敗するという皮肉な構図です。「松竹梅」という最高に縁起のいい名前を持ちながら、肝心の「長者」を忘れて「亡者」と言ってしまう梅さんの失敗は、準備不足と緊張の恐ろしさを象徴しています。
オチの「開いて(咲いて・帰って)」は見事な掛け言葉で、「お開き」(宴会の終了)、「咲いて」(梅の花が咲く)、「帰って」(家に帰る)という三重の意味を持っています。梅さんが宴会を「お開き」にできなかったので、恥ずかしくなって一人で家に「帰って」しまったという意味と、梅の花が「咲く」という自然な姿に戻ったという意味が重なり、梅さんの名前を活かした巧妙な落ちとなっています。
現代社会においても、この噺が描くテーマは普遍性を持っています。重要なプレゼンテーションやスピーチで、準備不足や緊張で失敗するという経験は誰にでもあるでしょう。特に、「言ってはいけないこと」を緊張のあまり口にしてしまう失敗は、現代のビジネスシーンでも起こりうる問題です。
また、この噺は失敗を笑いに変える落語の力を示しています。結婚式という厳粛な場での大失敗を、オチの掛け言葉で見事に笑いに昇華させる技法は、日本の笑いの文化の深さを表現しています。
忌み言葉という伝統的な言葉の文化を伝えながら、人間の失敗を温かく笑い飛ばす「松竹梅」は、江戸庶民の生活に根差した古典落語の名作と言えるでしょう。
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