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【古典落語】米揚げ笊 あらすじ・オチ・解説 | 米相場ゲン担ぎ商法と叩いてもつぶれない最強セールストーク

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話芸の殿堂-古典落語-米揚げ笊
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米揚げ笊

3行でわかるあらすじ

笊屋の売り子になった男が『米を揚げる笊』を売り歩き、堂島の米相場で強気の相場師に縁起がいいと大歓迎される。
男の家族の話で『上』や『高い』という言葉が出る度に相場師が大喜びするが、『上過ぎるのでたらたらと二、三町下がった』で怒らせてしまう。
最後は『叩いてもつぶれるような笊と、品物が違います』というセールストークでオチをつける。

10行でわかるあらすじとオチ

甚兵衛に勧められた男が天満の源蔵町の笊屋重兵衛の所で売り子の仕事を始める。
重兵衛から『叩いてもつぶれるようなもんと、品物が違います』というセールストークを教わる。
男は『大豆、中豆、小豆に米を揚げる笊』を売り歩き、堂島の米相場界隈にやってくる。
強気の相場師が『米を揚げる』という声を聞いて「こりゃゲンがええ」と大歓迎し、男を店に招き入れる。
相場師は『跳び上がるほど嬉しい』『神棚に上げて』などの言葉にどんどん景品をあげる。
男の家族の話で『姉が上町の上潮町の上田屋』『兄が淀川の上の京都』『背の高い鼻の高い、威高い気高い男』など、『上』や『高い』という言葉が出る度に相場師が大喜びする。
しかし男が兄の住まいについて『今居てるところがちょっと上過ぎるので、たらたらと二、三町下がったところに』と言った途端に相場師が怒って、あげたものをみな返せと言い出す。
番頭が「相場は頂上が知れないもので、下がったところで天井と気がつく」と誤めて相場師をなだめる。
最後に笊屋が『いや、阿保らしい。叩いてもつぶれるような笊と、品物が違います』と最初に教わったセールストークでオチをつける。

解説

「米揚げ笊」は江戸時代の商業と米相場を背景にした商売落語で、特に堂島の米相場を舞台にした作品です。

この落語の最大の特徴は、相場での「上がる」「下がる」という縁起を担いだ言葉遊びで、笊屋の売り子が無意識に相場師の心理を揺さぶる構造になっています。
「米を揚げる」という売り声から始まり、「上」や「高い」という言葉が登場する度に相場師が大喜びし、逆に「下がる」という言葉で怒り出すという、相場師の迷信深さをコミカルに描いています。
番頭の登場で相場の本質を説く部分は、単なる笑いだけでなく投機への批判的な視点も含んでいます。

最後のオチは、最初に教わった笊のセールストーク「叩いてもつぶれるような笊と、品物が違います」で結ぶことで、相場の話から笊の話に上手く戻し、商売落語としての結構を綺麗にまとめています。

また、大阪の地名や当時の商業の様子を詳細に描いた江戸時代の風俗資料としても貴重な作品です。

あらすじ

甚兵衛さんから天満の源蔵町の笊屋(いかきや)の売り子の仕事を勧められた男。
紹介状を持って、丼池から北へ、土佐堀川へ突き当り右へ、栴檀木橋は渡らずに浪花橋を渡って、天満の源蔵町の笊屋重兵衛の店へやって来た。

重兵衛から「・・・大豆(おおまめ)、中豆(ちゅうまめ)、小豆(こまめ)に米揚げ笊を重ねて、上からポンポンと叩いて、”叩いてもつぶれるようなもんと、品物が違います”と言って丈夫な笊と思わせ、、実は竹にふいている粉を落とすのや・・・」など売るコツを教わる。

笊を持って往来へ売りに出た男だが、なかなか売り声が出ない。
やっと小さな声で「いか・・・いか・・・き」、「ちょっとイワシ屋さん」と間違われたりする。
そのうちの段々と慣れてきて、「大豆、中豆、小豆に米を揚げる笊はどうでおます・・・」なんて売り声も板について、やって来たのが米相場が立つ堂島界隈。

強気の相場師は上がる、昇るを喜ぶ。
笊屋の男は、大強気の店の前で、「・・・米を揚げる米揚げ笊・・・」、これを聞いた店の主人「こりゃゲンがええ、呼んで買うてやれ」で、笊屋は「暖簾は頭で上げて入る」と店に入った。

主人 「嬉しい奴やな。みな買うてやるぞ」

笊屋 「・・・跳び上がるほど嬉しい」

主人 「・・・もう財布ごとやるぞ」

笊屋 「神棚に上げて、拝み上げます」

主人 「嬉しい奴や、ひいきにしたろ。お前兄弟はあるんか」

笊屋 「姉が上町の上汐町の上田屋宇右衛門という紙屋の上(かみ)の女中を務めとりまっせ」

主人 「・・・須磨の別荘、お前にやろ、兄はおるんか」

笊屋 「淀川の上の京都におりまんねん」

主人 「娘やろ、貰うたってくれ。京はどこや」

笊屋 「高瀬のずーっと上だんねん」

主人 「もう、うちのかかあやるわ、ほんま、嬉しい奴や 兄貴はどんな男や」

笊屋 「へえ、わたいと違うて背の高い鼻の高い、威高い気高い男であます」

主人 「うーん、わいもやるわ、兄から便りはあるか」

笊屋 「商売を広げたいので宅替えをしたいてなことを」

主人 「そや、商いは場所が肝心や。何処へ宅替えすると」

笊屋 「今居てるところがちょっと上過ぎるので、たらたらと二、三町下がったところに・・・」

主人 「こら!今何ぬかした。今やったもんみな返せ」

笊屋 「お気に障ったんならこのとおり頭を下げて謝ります」

主人 「下げなというのや。
もうそれが気に入らん。出ていけ!」

番頭 「いいえ、旦さん、そら笊屋の方がもっともでっせ。
相場というものは頂上が知れんもんで、今笊屋が言うたように、たらたらと二、三町下がったところで、ああ、あれが天井やったと気がついて、そこで初めて手が合うて、どんどんとお儲けになります。
旦さんみたいに、上がる昇るの一点張りでは、高つぶれにつぶれてしまいますわ。なあ、笊屋はん」

笊屋 「いや、阿保らしい。叩いてもつぶれるような笊と、品物が違います」

落語用語解説

笊(ざる)

竹や籐で編んだ目の粗い容器で、米を洗ったり水を切ったりする際に使用されます。江戸時代には笊売りという行商人が存在し、各家庭を回って笊や籠などを販売していました。「米揚げ笊」は特に米の水切り用として使われる笊を指します。

堂島米相場(どうじまこめそうば)

大阪・堂島にあった世界初の公設先物取引市場です。享保15年(1730年)に公認され、全国の米価の基準となっていました。商人たちは米の値段の上下で大きな利益や損失を得ることから、縁起を極端に担ぐ習慣がありました。

縁起担ぎ(えんぎかつぎ)

商売の成功や幸運を願って、特定の言葉や行動を避けたり好んだりする習慣です。特に相場師や商人の間では、「上がる」「下がる」といった言葉に過敏になるなど、日常生活にまで及ぶほど徹底していました。

米揚げ(こめあげ)

本来は水に浸した米を笊で引き上げて水を切る動作を指しますが、この噺では米相場が「上がる」という縁起の良い言葉と掛けられています。笊屋の何気ない言葉が、偶然にも相場師の心を掴む結果となります。

番頭(ばんとう)

商家で主人に次ぐ地位にあり、店の実務全般を取り仕切る重要な役職です。主人の代わりに客の応対や商談を行うこともあり、この噺でも番頭が主人の気性を理解して笊屋に注意を促す場面が描かれています。

相場師(そうばし)

米相場などの先物取引で利益を得ることを生業とする人々を指します。情報収集能力と判断力、そして運が求められる職業で、大当たりすれば大金持ちになれる反面、失敗すれば破産することもある博打的要素の強い商売でした。

大坂商人(おおさかしょうにん)

江戸時代、大坂は「天下の台所」と呼ばれ、全国の物資が集まる商業都市でした。大坂の商人は実利を重んじる合理的な気質で知られる一方、この噺のように縁起担ぎなどの迷信も大切にする面もありました。

言葉のあや

何気なく使った言葉が思わぬ意味に取られてしまうことを指します。この噺では「米揚げ」「上がった」という言葉が相場師を喜ばせ、「下がった」という言葉が怒りを買うという、言葉の綾が生み出すユーモアが描かれています。

よくある質問

Q1: 堂島米相場とはどのような仕組みだったのですか?

A1: 堂島米相場は世界初の公設先物取引市場として知られています。全国各地の大名が年貢米を大坂の蔵屋敷に納め、それを担保とした米切手(証券)が発行されました。この米切手が売買されることで、実際の米の受け渡しを伴わない相場取引が行われたのです。現代の先物取引の原型とも言える画期的なシステムでした。

Q2: なぜ相場師はそこまで縁起を担いだのでしょうか?

A2: 相場取引は情報と運に左右される不確実性の高い商売でした。どれほど情報を集めても、天候不順や政治的要因など予測不可能な事態で相場が急変することもありました。そのため、自分でコントロールできない部分については神仏や縁起に頼るしかなく、日常生活にまで及ぶほど徹底した縁起担ぎが行われたのです。

Q3: この噺の笊屋はなぜ最初は歓迎され、最後に追い出されたのですか?

A3: 笊屋が「米揚げ笊」と言ったことで、相場師は米価が「上がる」という縁起の良い言葉と受け取り大喜びしました。しかし最後に笊屋が「下がった笊」(使い込んで古くなった笊)と言ってしまったため、米価が「下がる」を連想させる不吉な言葉として怒りを買い、追い出されてしまったのです。偶然の言葉の一致が運命を分けた滑稽さが笑いを生んでいます。

Q4: 実際に笊売りという商売は存在したのですか?

A4: はい、江戸時代には笊や籠などを作って売り歩く職人や行商人が実際に存在しました。竹細工は日用品として需要が高く、使い古した笊を新しいものと交換する「笊替え」のような商売も行われていました。この噺はそうした庶民の日常に、大坂商人の縁起担ぎという特殊な習慣を絡めることで生まれたユーモアです。

Q5: この噺の舞台が大坂である理由は何ですか?

A5: 堂島米相場が大坂にあったことが最大の理由です。また大坂は「天下の台所」として全国の物資が集まる商業都市であり、相場師を含む多様な商人が活動していました。江戸と比べて大坂の商人は実利を重んじる合理的な気質で知られていましたが、同時に縁起担ぎなども大切にする面があり、その矛盾した人間性が噺の面白さを生んでいます。

名演者による口演

三代目 桂米朝

上方落語の重鎮として、大坂商人の気質を細やかに演じ分ける技術に定評がありました。「米揚げ笊」では、相場師の縁起担ぎの度合いを絶妙なバランスで表現し、単なる迷信深い人物ではなく、商売の不確実性に翻弄される人間の姿を浮かび上がらせました。番頭の困惑した様子と笊屋の無邪気さの対比も見事に演じられています。

三代目 桂春団治

戦前の名人として知られ、大坂商人の実利的でありながら迷信深い矛盾した性格を、リアリティを持って演じることで評判でした。「米揚げ笊」では相場師の感情の起伏を大げさすぎず、かといって淡々としすぎず、絶妙な塩梅で表現していました。

桂枝雀

独特のハイテンションな演技で知られる枝雀師匠は、「米揚げ笊」でも相場師の喜怒哀楽を大きな身振り手振りで表現し、客席を笑いの渦に巻き込みました。特に「米揚げ」と聞いて歓喜する場面と、「下がった」と聞いて激怒する場面の落差が際立っていました。

桂文枝(五代目)

テレビでも活躍した五代目文枝師匠は、わかりやすく親しみやすい語り口で「米揚げ笊」を演じました。相場師の縁起担ぎを現代の聴衆にも理解しやすいように説明を加えながら、それでいて噺のテンポを損なわない技術は見事でした。

関連する演目

この噺と同じく、商人の縁起担ぎや言葉の綾を扱った演目、あるいは行商人が登場する演目をご紹介します。

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この噺の魅力と現代への示唆

「米揚げ笊」は、言葉が持つ偶然の力と、人間の心理の不思議さを軽妙に描いた作品です。相場師が「米揚げ」という言葉に歓喜し、「下がった」という言葉に激怒する様子は、一見すると滑稽で非合理的に見えます。しかし現代でも、株式トレーダーが験を担いだり、ビジネスの場で「忌み言葉」を避けたりする習慣は残っています。

特に注目すべきは、笊屋が意図せず発した言葉が、相手の心理状態によってまったく異なる意味に受け取られるという点です。これは現代のコミュニケーションにも通じる教訓です。同じ言葉でも、相手の状況や心理状態によって受け取られ方が変わる。プレゼンテーションや商談の場面で、相手の背景や心理を理解することの重要性を、この噺はユーモラスに示しています。

また、相場取引という不確実性の高い商売に携わる人々が、縁起担ぎという形で心の安定を求める姿は、現代の投資家やビジネスパーソンにも共通する人間性です。どれほど合理的に分析しても、最後は運に左右される部分がある。そうした不確実性と向き合う人間の脆さと強さが、この噺には描かれています。

さらに、番頭が笊屋に注意を促そうとする場面には、組織内での気配りやリスク管理の大切さも読み取れます。主人の性格を理解し、トラブルを未然に防ごうとする番頭の姿勢は、現代の企業組織におけるマネジメントにも通じるものがあります。

「米揚げ笊」は、言葉の面白さ、人間心理の機微、そして商売の不確実性という普遍的なテーマを、大坂の米相場という具体的な舞台で描いた傑作です。笑いの中に、コミュニケーションの本質や、不確実性との向き合い方という現代にも通じる示唆が込められています。

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