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【古典落語】紀州 あらすじ・オチ・解説 | 鍛冶屋の音で決まった将軍の座

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話芸の殿堂-古典落語-紀州
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紀州

3行でわかるあらすじ

徳川七代将軍の跡目を巡り、尾州公と紀州公が候補となる。
尾州公は鍛冶屋の音を「天下取る」と聞き違え、見栄を張って将軍職を断ってしまう。
紀州公が八代将軍となり、帰り道の鍛冶屋の音は「キシュゥー」と聞こえた。

10行でわかるあらすじとオチ

徳川七代将軍家継が幼くして病死し、跡継ぎ問題が発生。
候補は尾州公徳川継友と紀州公徳川吉宗の二人。
尾州公が登城する途中、鍛冶屋の槌音が「テンカトル(天下取る)」と聞こえる。
江戸城の評定で、大久保加賀守がまず尾州公に将軍就任を要請。
尾州公は大人物を気取り「徳薄くして任にあたわず」と遠慮してしまう。
次に紀州公への要請があり、紀州公は「しかしながら任官いたすべし」と受諾。
尾州公の将軍の夢は破れ、がっかりして屋敷へ帰ることに。
帰り道、また鍛冶屋の音が「テンカトル」と聞こえ、まだ望みがあると勘違い。
しかし鍛冶屋が真っ赤な鉄を水に入れる音は違った。
「キシュゥー」という音で、紀州公の勝利を決定的に表現するオチ。

解説

「紀州」は、実際の歴史的事実である徳川吉宗の八代将軍就任を題材にした落語です。
史実では確かに尾張藩の徳川継友と紀州藩の徳川吉宗が候補となり、最終的に吉宗が選ばれました。

この落語の巧みな点は、鍛冶屋の作業音を言葉遊びに使っているところです。
「トンテンカン」という槌音を「テンカトル(天下取る)」と聞き違え、最後は焼けた鉄を水で冷やす「ジュー」という音を「キシュゥー(紀州)」と表現することで、音のダジャレで歴史的な出来事を面白おかしく描いています。
見栄を張って失敗する尾州公の人間臭さと、偶然の音の聞き間違いが運命を左右するという皮肉が効いた作品です。

あらすじ

徳川家七代将軍家継は幼くして病死、八代将軍の座は尾州公徳川継友か紀州公徳川吉宗のどちらかだ。

江戸城での評定の日、尾張藩上屋敷から駕籠で登城する道すがら、鍛冶屋の「トンテンカン、トンテンカン」と槌を打つ音が、尾州公の耳には「テンカトル、テンカトル」と聞こえた。

評定の席で小田原城主、大久保加賀守が尾州公の前に進み出て、「この度、七代将軍ご他界し、お跡目これなく、・・・・・・任官あってしかるべし」と頭を下げた。

すると尾州公は意に反して、「余はその徳薄くしてその任にあたわず」と断ってしまった。
再度の要請があると思い大人物を気取り、見栄を張って遠慮したのだ。

こんどは加賀守は紀州公の前へ行き同じく、「・・・・任官あってしかるべし」と頭を下げた。
紀州公も「余は徳薄くしてその任にあたわず」と、ここまでは同じで断ると思いきや、
紀州公 「しかしながら・・・・任官いたすべし」と答え、尾州公の将軍の夢はおじゃん、パアとなった。

尾州公はがっかりして江戸城を去って屋敷への帰り道、また鍛冶屋の前を通ると、やっぱり「テンカトル、テンカトル」だ。
そうか紀州は将軍職を受ける返事はしたが、「やはり将軍職は尾州公に」と頼みに来るんだろうなんて虫の良いことを考え出した。

すっかりその考えに満足して浸っていると、鍛冶屋の親方は真っ赤に焼けた鉄を水の中に勢いよく入れた。

「キシュゥ-」


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 尾州公(びしゅうこう) – 尾張藩主・徳川継友のこと。尾張徳川家は御三家の一つで、江戸幕府の将軍家に次ぐ格式を持っていました。
  • 紀州公(きしゅうこう) – 紀州藩主・徳川吉宗のこと。のちに八代将軍となり、享保の改革を行った名君として知られています。
  • 御三家(ごさんけ) – 尾張・紀州・水戸の徳川家三家。将軍家に跡継ぎがいない場合、ここから養子を迎えることができました。
  • 評定(ひょうじょう) – 幕府の重要事項を協議する会議。老中や大名が集まって政策を決定しました。
  • 大久保加賀守(おおくぼかがのかみ) – この噺に登場する小田原城主。史実では大久保忠増が該当しますが、実際の将軍選定での役割は落語の創作です。
  • 駕籠(かご) – 大名や富裕層が使用した乗り物。棒で担がれて移動する、江戸時代の主要な交通手段でした。
  • 登城(とじょう) – 大名や幕臣が江戸城に出仕すること。定期的な参勤交代や重要な儀式の際に行われました。
  • 徳薄くしてその任にあたわず(とくうすくしてそのにんにあたわず) – 謙遜の言葉で「自分には徳が足りず、その役目を務める資格がない」という意味。本来は辞退の表現です。

よくある質問(FAQ)

Q: この噺は史実に基づいているのですか?
A: 八代将軍の選定で尾張藩の徳川継友と紀州藩の徳川吉宗が候補となり、最終的に吉宗が選ばれたことは史実です。しかし、鍛冶屋の音で決断が左右されたという話は完全な創作です。実際には政治的な駆け引きと幕閣の判断によって吉宗が選ばれました。

Q: なぜ尾州公は辞退してしまったのですか?
A: 噺では「大人物を気取って見栄を張った」とされています。鍛冶屋の音を「天下取る」と聞き違えて自信過剰になり、「一度辞退すれば重ねて要請が来るだろう」と踏んでいたのですが、予想が外れてしまったわけです。人間の虚栄心と判断ミスを風刺した設定と言えます。

Q: 鍛冶屋の音の聞き間違いは実際にありうるのですか?
A: これは落語的な誇張表現です。槌音「トンテンカン」を「テンカトル(天下取る)」と聞くのは無理がありますが、鉄を水で冷やす「ジュー」という音を「キシュー(紀州)」と表現するのは、音の響きを利用した巧妙な言葉遊びです。

Q: 徳川吉宗は本当に名君だったのですか?
A: はい、徳川吉宗は「享保の改革」を断行した名君として評価されています。財政再建、法制度の整備、農業振興など様々な改革を実施し、「米将軍」の異名を持ちました。テレビドラマ「暴れん坊将軍」のモデルとしても有名です。

Q: この噺は江戸落語ですか?上方落語ですか?
A: 江戸落語の演目です。江戸幕府の将軍選定を題材にしており、江戸の視点で語られる歴史噺の典型例です。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 古今亭志ん生(五代目) – 歴史噺を得意とし、この噺でも独特のテンポで尾州公の心理を巧みに表現しました。
  • 古今亭志ん朝(三代目) – 品格ある語り口で、大名たちの格式と鍛冶屋の音の対比を見事に演じました。
  • 柳家小三治(十代目) – 人間国宝。この噺でも丁寧な人物描写で、尾州公の虚栄心と後悔を繊細に描き出します。
  • 春風亭一朝(三代目) – 軽妙な語り口で、鍛冶屋の音の聞き間違いを効果的に表現します。

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この噺の魅力と現代への示唆

「紀州」は、歴史的事実を題材にしながら、音の言葉遊びで巧妙にオチをつける落語の技法が光る作品です。

この噺の最大の魅力は、二つの音による言葉遊びの構造にあります。鍛冶屋の槌音「トンテンカン」を「テンカトル(天下取る)」と聞き、それに気を良くした尾州公が見栄を張って失敗する。そして最後は、焼けた鉄を水で冷やす「ジュー」という音を「キシュー(紀州)」と表現して、紀州公の勝利を決定的に印象づける。この対照的な音の使い方が、物語に起承転結をもたらしています。

尾州公の失敗は、現代にも通じる教訓を含んでいます。虚栄心から来る判断ミス、「相手が再度頼みに来るだろう」という甘い見通し、自分に都合の良い解釈をしてしまう人間の弱さ。これらは時代を超えた普遍的な人間の性質です。

また、この噺は歴史に「もしも」を持ち込む面白さもあります。もし尾州公が将軍になっていたら、日本の歴史はどう変わっていたのか。実際には吉宗の享保の改革が江戸幕府の延命に大きく貢献したことを考えると、この選択は歴史的に重要な意味を持っていました。

鍛冶屋の音という日常的な風景を、将軍選定という歴史的大事件と結びつける発想も秀逸です。庶民の視点から大名の世界を描くことで、権力者も所詮は人間であり、些細なことで判断を誤ることがあるという風刺が効いています。

実際の高座では、演者によって鍛冶屋の音の表現方法が異なり、それぞれの工夫を楽しむことができます。音の響きを楽しむ落語ならではの魅力を、ぜひ生の落語会でご堪能ください。


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