かつぎや
3行でわかるあらすじ
度を越して縁起担ぎをする呉服屋の五兵衛が、年賀の品を帳面に付ける際に番頭の略語が縁起悪く聞こえて激怒する。
宝船売りも最初は縁起の悪い言い方をして断られるが、二番目の船屋は縁起の良い言い方で気に入られる。
最後に船屋が「七福神が揃っている」と言って、恵比寿(旦那)・弁天(娘)・呉服(五福)で七福神という洒落たオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
呉服屋の五兵衛は度を越した縁起担ぎで、正月に井戸神様に橙を納める際も縁起の良い歌を詠ませる。
年賀の品を帳面に付ける際、番頭の定吉が略語で「あぶく(油久)」「津波(津波)」「できし(出岸)」と言うのが縁起悪く聞こえて激怒。
さらに「しぶとう(渋藤)」「ゆかん(湯勘)」「せきとう(関藤)」など死を連想させる言葉ばかりで旦那は頭痛になる。
番頭が気を利かせて「鶴亀(鶴亀)」「ことぶき(琴武)」と縁起の良い言い方に変えて旦那の機嫌が直る。
宝船売りが来て「四文(しもん)」「四十文(しじゅうもん)」「四百文(しひゃくもん)」と縁起悪い言い方をして断られる。
番頭が別の船屋を連れてきて、今度は「四文(よもん)」「四十文(よじゅうもん)」「四百文(よひゃくもん)」と縁起良く言う。
旦那が全部買うと決めて「どのくらいある」と聞くと、船屋は「旦那のお年ほど」と答えて「八百枚」と言う。
船屋はさらに「お宅では七福神がお揃いですな」と言い、旦那が喜んで聞き返す。
「旦那様がニコニコ恵比寿顔、お嬢様が弁天様」と言うが、旦那は「二福じゃないか」と指摘する。
船屋が「ご商売が呉服(五福)でございます」と答えて、恵比寿・弁天・五福で七福神が揃うという洒落たオチになる。
解説
「かつぎや」は江戸古典落語の中でも縁起担ぎをテーマにした代表的な演目です。江戸時代の商人は縁起を非常に重視しており、特に呉服屋のような高級商品を扱う商家では、縁起の良し悪しが商売の成否に関わると信じられていました。
この落語の最大の見どころは、言葉の音の響きによる縁起の良し悪しを巧みに活用した言葉遊びです。「四文(しもん)」は「死門」、「津波」は災害、「できし」は「溺死」を連想させるなど、同音異義語を駆使して笑いを生み出しています。一方で「よもん」「よじゅうもん」「よひゃくもん」という読み方の変化で縁起を良くする発想も秀逸です。
最後のオチ「恵比寿・弁天・呉服(五福)」で七福神が揃うという結末は、縁起担ぎの極致とも言える完璧な言葉遊びです。恵比寿は商売繁盛の神、弁天は芸能の神として親しまれ、「五福」は五つの幸福を意味します。この巧妙な数合わせは、江戸っ子の洒脱な機知を表現した名オチとして評価されています。
江戸時代の商人文化における縁起担ぎの実態を描きながら、過度な迷信への皮肉も込められた、ユーモアと風刺が絶妙に調和した作品です。
あらすじ
度を越して縁起をかつぐ呉服屋の旦那の五兵衛さん。
正月に権助を呼んで、「吉例によって井戸神様に橙(だいだい)を納めることになっている。”あら玉の年立ち返る朝(あした)より若やぎ水を汲みそめにけり、これはお年玉”、こう言ってこの橙を入れて来なさい」。
権助は「目の玉のでんぐり返(け)える朝より末期の水を汲みそめにけり。こりゃあ、お人魂・・・・」と言って井戸に橙を入れて、旦那に大目玉を食う。
権助は庭の植込みから手を合わせ、「草葉の陰から拝んでいるから勘弁しろ」と、正月早々旦那をおちょくっている。
旦那は定吉が持ってきた年賀の品を帳面に付ける。
定吉 「では、伊勢屋の久兵衛さん、次は美濃屋の善兵衛さん・・・」
旦那 「そう長たらしく言わないで、略して伊勢久さん、美濃善さんとか言いなさい」
定吉 「へい、ではあぶくと願います」
旦那 「誰だいそれは」
定吉 「油屋の久兵衛さんで」
定吉 「次は津波で」
旦那 「誰だいそれは」
定吉 「津軽屋の波兵衛さんで」
旦那 「津波はいけないねえ」
定吉 「お次はできしで」
旦那吉 「おいおい、津波の次が溺死か」
定吉 「出島屋の岸兵衛さんで」、さらに、しぶとう(死人)が渋屋の藤兵衛で、ゆかん(湯灌)が湯屋の勘蔵、せきとう(石塔)が関口屋の藤吉で、旦那は頭が痛くなって来た。
番頭が気をきかして定吉に替わり、「鶴亀と願います。鶴屋の亀吉さんでございます」、「次は琴平屋の武吉さんで、ことぶき(寿)となります」で、旦那の機嫌は直った。
「お宝、お宝」と七福神の宝船の絵を売りに来た。
枕の下に敷いていい初夢を見るのだ。
旦那 「宝船は一枚いくらだ」
船屋 「へい、四文(しもん)でございます」、十枚で四十文(しじゅうもん)、百枚で四百文(しひゃくもん)と、船屋はどこまでも縁起の悪い言い方をする。
旦那が買わないから帰ってくれと言うと、
船屋 「・・・覚えてやがれ、近えうちにてめえんとこのひさしで首くくってやるから・・・」と捨て台詞をはいて出て行ってしまった。
困った番頭は裏口から出て別の船屋を見つけ、縁起の悪い言葉は言わないようにと念押しして店へ連れて来る。
旦那 「一枚いくらだ」
船屋 「へい、四文(よもん)でございます。十枚で四十文(よじゅうもん)、百枚で四百文(よひゃくもん)でございます」。
すっかり喜んだ旦那「うれしいねえ、全部買うとするか、どのくらいある」
船屋 「旦那のお年ほどございます」
旦那 「わたしの年の数ほどとは?」
船屋 「八百枚ほどで」、船屋はすっかり旦那の懐に飛び込んでしまって、祝儀までもらっている。
さらに船屋 「旦那さま、お宅様では七福神がお揃いですな」
旦那 「嬉しいことを言ってくれるな。どこに揃っているんだ」
船屋 「えー、旦那さまがニコニコ恵比寿顔でいらっしゃいます。それから先ほどあちらにお顔が見えましたお綺麗なお方は、お嬢様で・・・それで弁天様と、これで七福神が揃いました」
旦那 「えっ、恵比寿と弁天ではまだ二福じゃないか」
船屋 「ご商売が呉服(五福)でございます」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 縁起担ぎ(えんぎかつぎ) – 縁起の良い事柄を重視し、悪い事を避けようとする行為。江戸時代の商人は特に縁起を重んじ、言葉の音の響きまで気にしました。「四(し)」が「死」を連想させるため避けるなど、現代にも続く習慣です。
- 呉服屋(ごふくや) – 絹織物や高級な着物を扱う商店。江戸時代は大店(おおだな)として繁栄し、三井呉服店(後の三越)や白木屋などが有名でした。格式が高く、縁起担ぎも厳重に行われました。
- 七福神(しちふくじん) – 福をもたらす七柱の神々。恵比寿(商売繁盛)、大黒天(財福)、毘沙門天(武運)、弁財天(芸能・学問)、福禄寿(幸福・富貴・長寿)、寿老人(長寿)、布袋(度量・福徳)で構成されます。
- 宝船(たからぶね) – 七福神が乗る帆船の絵。正月に枕の下に敷いて寝ると良い初夢が見られるという言い伝えがあり、新年の縁起物として売られました。
- 橙(だいだい) – ミカン科の果実で、「代々(だいだい)」と掛けて家が代々栄えるという縁起物。正月飾りに使われ、鏡餅の上に載せる習慣もあります。
- 井戸神様 – 井戸に宿る神様。生活用水を提供する井戸は神聖視され、正月などに供物を捧げて感謝と繁栄を祈願しました。
- 四文(しもん/よもん) – 江戸時代の貨幣単位。「し」と読むと「死」を連想させるため縁起が悪く、「よ」と読み替えることで縁起を良くする工夫が落語の笑いの核になっています。
よくある質問(FAQ)
Q: 「かつぎや」はいつ頃の時代設定ですか?
A: 江戸時代後期から幕末にかけての江戸の町が舞台です。呉服屋という商売の形態や、縁起担ぎの習慣、宝船売りの存在など、江戸の庶民文化が色濃く反映されています。
Q: 江戸時代の商人は本当にここまで縁起を担いでいたのですか?
A: はい、特に大店の商人は非常に縁起を重視しました。商売の成否が縁起に左右されると信じられており、店の名前、暖簾の色、開店日など、あらゆることに縁起の良し悪しが関わっていました。この噺はその習慣を誇張して笑いに変えています。
Q: 宝船の絵は実際に売られていたのですか?
A: はい、江戸時代から明治時代にかけて正月の縁起物として広く売られていました。「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな」という回文歌と共に描かれることが多く、枕の下に敷いて初夢を見る習慣がありました。
Q: 「恵比寿・弁天・呉服(五福)で七福神」というオチの意味は?
A: これは数の言葉遊びです。恵比寿(1)+ 弁天(1)+ 五福(5)= 7 で七福神が揃うという計算です。「呉服(ごふく)」と「五福(ごふく)」の同音を利用した江戸っ子らしい洒落たオチで、縁起担ぎの極致とも言える完璧な締めくくりです。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、縁起担ぎという普遍的なテーマと巧妙な言葉遊びにより、現在も多くの落語家が演じています。YouTube等で「かつぎや 落語」で検索すると実際の高座を視聴できます。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の落語界を代表する名人。縁起担ぎの旦那の滑稽さと、番頭や船屋との掛け合いを絶妙な間とテンポで演じました。
- 柳家小さん(五代目) – 江戸落語の正統を守る名人。言葉遊びの妙を活かした語り口で、この噺の面白さを存分に表現しました。
- 立川談志 – 独自の解釈で知られる名人。縁起担ぎという迷信への皮肉を効かせながら、江戸の商人文化を生き生きと描きました。
- 柳家喬太郎 – 現代の人気落語家。古典の味わいを残しながらも、現代人にも分かりやすい演出で若い世代にも人気があります。
関連する落語演目
同じく「縁起担ぎ」をテーマにした落語


言葉遊びが秀逸な古典落語



商人の生活を描いた落語

正月を題材にした落語


この噺の魅力と現代への示唆
「かつぎや」の魅力は、縁起担ぎという普遍的なテーマを扱いながら、言葉遊びの妙技を存分に楽しめる点にあります。「四文(しもん)」を「死門」と聞き、「よもん」と言い換えれば縁起が良くなるという発想は、言葉が持つ音の力と人間の心理を巧みに突いています。
特に興味深いのは、縁起担ぎの過剰さを笑いながらも、完全には否定していない点です。最後のオチ「恵比寿・弁天・呉服(五福)で七福神」は、縁起担ぎの極致とも言える完璧な言葉遊びで、聞く者を納得させる説得力があります。落語は迷信を笑いながらも、それを楽しむ余裕を持っているのです。
現代でも「四」や「九」を避けたり、験を担いだりする習慣は残っています。マンションの部屋番号や病院の病室番号で「4」や「9」が飛ばされることがありますし、受験生が「滑る」「落ちる」という言葉を避けるのも同じ心理です。この噺は、そうした人間の本質的な心理を江戸の商人文化を通して描いた作品と言えるでしょう。
また、番頭や船屋が旦那の気質を理解して対応を変える様子は、現代のビジネスにも通じる「顧客理解」の重要性を示しています。最初の船屋は縁起の悪い言い方をして失敗し、二番目の船屋は縁起の良い言い方で大成功する―この対比は、コミュニケーションの工夫次第で結果が大きく変わることを教えてくれます。
実際の高座では、旦那の激昂ぶりや船屋の阿諛追従ぶりが演者の腕の見せ所となります。ぜひ複数の落語家の口演を聴き比べて、それぞれの解釈の違いを楽しんでみてください。


