カラオケ大会
本日も落語をお届けします。今度はカラオケ大会のお話です。最近はカラオケボックスで一人で歌う「ヒトカラ」も流行ってますが、やはり人前で歌うとなると緊張しますよね。特に音痴の人には試練の時間です。私も人前で歌うのは苦手で、この落語も音程が外れ気味かもしれません。でも、下手は下手なりに一生懸命やれば、それなりに愛嬌があるものです。
まくら
江戸時代にも「端唄」や「小唄」を披露する場があり、今で言うカラオケ大会のようなものがあったのです。
あらすじ
「おい、銀次。今度の町内会のカラオケ大会、出場するのかい?」
「当たり前だろう、政さん。今年こそは優勝してやるつもりだ」
「銀さんが?あんた、この前の宴会で歌った『津軽海峡冬景色』、ひどかったじゃないか」
「何言ってやがる!あれは感情を込めすぎただけだ。今度は違うぞ」
「へえ、今度は何を歌うんだい?」
「『津軽海峡春景色』だ」
「そんな歌あるのかよ…」
特訓の日々
銀次は家で毎日練習を始めた。
「♪ 上野駅の〜改札で〜」
「あんた、いい加減にしておくれよ。猫も逃げ出すじゃないか」とお上さん。
「何だと!俺の歌声は情感豊かなんだ」
「情感豊かって言うより情緒不安定よ」
「うるせえ!今度こそ優勝してやるんだ」
隣の家からも苦情が来た。
「銀さん、すみませんが、もう少し音量を抑えてもらえませんか?」
「音量?これでも抑えてるんですがねえ」
「抑えてそれですか…」
大会前日の準備
大会前日、銀次は衣装にもこだわった。
「見ろよ政さん、この金色のジャケット!」
「おお、派手だねえ。どこで買ったんだい?」
「浅草の古着屋だ。昔の歌手みたいだろう?」
「確かに…どこかで見たような」
「だろう?これを着れば気分も上がるってもんだ」
靴も金色でピカピカに光っている。
「足元まで抜かりねえな」
「トータルコーディネートってやつだ」
マイクのテスト
会場で音響テストが始まった。
「テス、テス。マイクのテスト中です」
「おお、いい音だねえ」
銀次も試させてもらった。
「♪ ふるさとは〜」
「ちょっと待って!音量を下げて!」と音響係。
「え?これでも控えめなんですが」
「控えめでそれですか…近所迷惑になりますよ」
「そんなことないだろう?伸びやかな声じゃないか」
大会当日
いよいよカラオケ大会の日。会場には町内の人々が集まっている。
「皆さん、第 3 回町内会カラオケ大会を開催します!」
「お〜!」
最初の出場者は、お花屋のおかみさん。美しい声で「津軽海峡冬景色」を歌い上げた。
「うまいねえ〜」
「さすがだ」
銀次は焦り始めた。
「まずい、同じ歌を歌われちまった」
「どうするんだい?」
「大丈夫、俺には秘密兵器がある」
銀次の出番
ついに銀次の出番がやってきた。金色のジャケットで颯爽と登場。
「皆さん、お聞きください。『津軽海峡春景色』!」
「春景色って何だよ…」という声がちらほら。
音楽が流れ始めたが、銀次の選んだ曲は「津軽海峡冬景色」のカラオケだった。
「♪ 上野駅の〜改札で〜、桜が〜咲いて〜」
「歌詞が違うぞ!」
「桜って、春だから桜なんだよ!」
さらに音程も完全に外れている。
「♪ 本州と〜別れて〜、花見に〜向かう〜」
「もう滅茶苦茶だ…」
予想外の展開
ところが、あまりにも個性的な歌詞と歌声に、会場は大爆笑。
「面白い!」
「これは新しい!」
「オリジナルじゃないか!」
銀次は調子に乗って、さらにアドリブを加えた。
「♪ 青森の〜りんごを〜、東京で〜食べる〜」
「りんご出てきた!」
「何でもありだな!」
思わぬ結末
審査の結果発表。
「第 3 位は…町内会長の『演歌メドレー』!」
「第 2 位は…お花屋のおかみさんの『津軽海峡冬景色』!」
「そして第 1 位は…」
銀次はドキドキして待った。
「銀次さんの『津軽海峡春景色』!オリジナリティ賞として!」
「やった〜!優勝だ!」
表彰台で銀次が挨拶。
「皆さん、ありがとうございます!これからも新しい音楽を追求していきます!」
「新しいって言うか…存在しない音楽だけどな」と政さん。
後日、政さんが銀次に聞いた。
「ところで銀さん、本当は津軽海峡冬景色を歌うつもりだったんだろう?」
「ばれたか。でも結果オーライだろう?」
「確かにな。でも次はどうするんだい?」
「次は『津軽海峡夏祭り』だ」
まとめ
今回はカラオケ大会での珍騒動を描いてみました。音痴でも個性と捉えてもらえれば、それはそれで価値があるのかもしれません。私のこの落語も、下手は下手なりに個性だと思って書いております。上手い下手よりも、楽しんでやることが一番大切ですよね。
それにしても、間違いから生まれる新しいものって、意外と面白いものです。銀次さんの「存在しない歌を堂々と歌う」勇気は、見習いたいものです。計画通りにいかないことの方が、案外印象に残るのかもしれませんね。


