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【古典落語】掛取り あらすじ・オチ・解説 | 音楽用語で債権者撃退の大晦日コメディ

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話芸の殿堂-古典落語-掛取り
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掛取り

3行でわかるあらすじ

大晦日に借金取りが押し寄せ、熊さんは金を工面できずお咲と相談して各債権者の趣味に合わせた撃退作戦を実行する。
音楽好きの洋服屋には作曲家名を使った音楽用語で、喧嘩好きの酒屋には喧嘩腰で、芝居好きの醤油屋には近江八景の歌を織り込んだ芝居で対応する。
3人とも見事に撃退して「かけとり」という言葉遊びで年越しを迎える。

10行でわかるあらすじとオチ

大晦日に借金取りが押し寄せるが、熊さんは金を工面できず町内を回っても貸してくれる家がない。
去年は熊さんが死んだふりをして凌いだが、家主に本気にされ香典をもらう騒動になった。
今年は各債権者の趣味に合わせて撃退する作戦をお咲と立てる。
まずクラシック音楽好きの洋服屋には「アレグロの金」「ショパンの事情」など作曲家名を使った音楽用語で言い訳する。
洋服屋も「バッハなこと」「フェルマータ」と音楽用語で応戦するが、結局「また来マスカーニ」と退散する。
次に喧嘩好きの酒屋には割り木を持って「無い袖は振れん」と喧嘩腰で立ち向かい、見事に追い払う。
最後の芝居好き醤油屋には芝居がかって出迎え、相手も芝居に乗って来る。
熊さんは近江八景の歌に支払い時期を織り込んで「雪晴るる比良の高嶺」から始まる謎かけで応答する。
醤油屋は「石山の秋の月」「三井寺の鐘」を合図に九月半ばまで待つと約束して六方を踏んで帰る。
「ワァワァ言いながら年が明けます『かけとり』というお笑いで失礼をいたします」で締める。

解説

「掛取り」は古典落語の代表的な演目で、正式には「掛取万歳」(かけとりまんざい)と呼ばれます。上方落語では「天下一浮かれの掛け取り」「大晦日浮かれの掛取り」の題でも演じられ、現在は東西とも省略形の「掛け取り」として親しまれています。

この演目の起源は初代林家蘭玉の作とされ、その後2代目桂蘭玉が大きくアレンジして現在の形になったとされています。江戸時代の庶民生活を反映した年末の風物詩として、大晦日の掛け取り(ツケの回収)という切実な問題を滑稽に描いた傑作です。

最大の見どころは、債権者それぞれの趣味や性格に合わせて異なる撃退方法を用いる機転の良さです。クラシック音楽好きの洋服屋にはモーツァルト、ショパン、チャイコフスキーなどの作曲家名を巧妙に織り込んだ言葉遊びで応戦し、喧嘩好きの酒屋には力で、芝居好きの醤油屋には近江八景の歌を使った謎かけで対応するという、相手の特性を逆手に取った知恵が光ります。

特に音楽用語を駆使した洋服屋との攻防は、「アレグロの金」「ショパンの事情」「チャイコフスキー」「カラヤン」「フェルマータ」など、クラシック音楽の知識を前提とした高度な言葉遊びが展開され、落語の教養性と庶民性を見事に融合させています。また、近江八景を織り込んだ芝居の場面では、古典的な和歌の素養も要求される文化的な深みもあります。

この演目は江戸時代の商取引システム(掛け売り・掛け買い)を背景とした社会風刺でもあり、年末の金策に追われる庶民の知恵と機転を描いた人情噺の側面も持っています。最後の「かけとり」という言葉遊びのオチも、シンプルながら効果的で、古典落語の技法が凝縮された名作として高く評価されています。

あらすじ

掛取りが大勢押し寄せる大晦日、熊さんは金を工面しようと町内を回るがどこも火の車、金を貸してくれる家など皆無だ。

家に戻った熊さんは女房のお咲と相談する。
去年は熊さんが死んだことにして借金取りをあきらめさせようとしたが、お咲の番茶の偽涙を見破った呉服屋は笑って帰ってくれたが、、家主は本気にして泣きだし、屋賃を棒引き香典までくれようとした。
お咲が香典までは厚かましいと遠慮したら熊さんがむっくり起き上がって、「もらっておけ」で、家主は腰を抜かし未だに病院通いだ。

今年はその手は使えず、熊さんは借金取りの好きな物で、撃退しようという。
お咲さんは上手くいくか半信半疑だが、路地からクラシック音楽好きな自称、モーツァルトの生まれ変わりという洋服屋が入って来た。
早速、「フィガロの結婚」の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」)の替え歌で出迎える。

洋服屋 「今日は大晦日やきっちりと払ろてもらいまひょ」

熊さん 「アレグロの金は大したことない・・・、ショパンの事情が重なって、あっチャイコフスキー、こっチャイコフスキーしてるうちに、今日でクレッシェ ンド。 財布の中はカラヤン・・・・」

洋服屋 「バッハなことを言うな、このリストを見てみぃ、おまはんの借金が一番フェルマータ になった・・・・今日はバルトークなはれや」

熊さん 「来年になったらハイドンどんと働いて、耳を揃えてまとめてドビッシーと返しますんで、今日のところは帰ってクレメンティ」

洋服屋 「まあ、今日のところはサリエリとしましょ。また来マスカーニ~」

熊さん 「ご機嫌よろシューマン、ご機嫌よろシューマ~ン・・・・」と大成功だ。

次に来たのが喧嘩好きな酒屋、これは容易い。
割り木を持って立ち向かい、「無い袖は振れん、石川五右衛門でも無いもんは取れんのだ」と喧嘩腰に出ると、酒屋はたじたじ。
もうひと押し、「やる気かおい。わずかばかりの目腐れ銭、それぐらい欲しぃんか」と追い打ちをかけると、「要らんわい!」と退散して外でくやし涙にくれている酒屋。

続いては芝居好きの醤油屋だ。 「よぉよぉ、よぉ~、待ってました、お掛け取り様のお入 りぃ~」 と芝居がかりで出迎える。
魂胆を見抜いた醤油屋だが、この芝居に乗らないと、「芝居心がない奴ちゃ」と言い振らされても癪なので、芝居がかって「月々溜まる味噌・醤油の代金、積もり積もって二十三円六十と五銭。
再三、丁稚定吉を使わし催促いたせど、いっかな払わぬ。今日こそは大晦日、きっと算用いたしてよかろぉぞ」とまんまと計略に乗っかって来た。

(芝居調で)
熊さん 「恐れ入ったるご催促。が、その言い訳はこれなる扇面(せんめん)」

醤油屋 「何、扇なもって言い訳とな?」

熊さん 「雪晴るる比良の高嶺の夕間暮れ花の盛りを過ぎし頃かな・・・・」

醤油屋 「こりゃこれ、近江八景の歌。この歌もって言ぃ訳とは?」

熊さん 「こころ矢橋にはやれども、頼む方さへ堅田より、この身に重き雁金の、明日日(あすび)に迫る痩せ瀬田い、元手の代(しろ)は尽き果てて膳所はなし。 貴殿に顔を粟津なら、今しばらくは唐崎の・・・・」

醤油屋 「んッ”松”てくれい、という謎か?」

熊さん 「今年も過ぎて来年の、花の盛りを過ぎてのち、あの石山の秋の月・・・・」

醤油屋 「九月半ばか?」

熊さん 「三井寺の鐘を合図にきっと・・・・」

醤油屋 「うん、必ず算用いたすであろうな?」

熊さん 「まずそれまではお掛け取り様」

醤油屋 「この家(や)の主(あるじ)。明春お目にかかるでござろぉ~・・・・」と、六方を踏んで帰って行った。

ワァワァ言いながら年が明けます「かけとり」というお笑いで失礼をいた します。


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 掛取り(かけとり) – 掛け売り(ツケ払い)の代金を回収すること。江戸時代は現金取引だけでなく、信用取引である掛け売りが広く行われており、大晦日に一年分のツケを清算する習慣がありました。
  • 掛け売り(かけうり) – 商品を先に渡して代金を後払いにする販売方法。現代のクレジット払いに相当します。
  • 大晦日(おおみそか) – 12月31日。江戸時代は年内に借金を清算する習慣があり、掛取りが一斉に押し寄せる日でした。
  • 六方(ろっぽう) – 歌舞伎の演技法の一つ。手足を大きく振って勇壮に歩く演技で、見得を切りながら退場する際に用いられます。
  • 近江八景(おうみはっけい) – 琵琶湖周辺の八つの名勝を詠んだ和歌。「石山の秋の月」「唐崎の夜雨」「粟津の晴嵐」「瀬田の夕照」「矢橋の帰帆」「三井寺の晩鐘」「比良の暮雪」「堅田の落雁」を指します。
  • 扇面(せんめん) – 扇子。芝居の小道具として重要な役割を果たし、様々なものを象徴的に表現します。
  • 丁稚(でっち) – 商家に住み込みで働く少年の奉公人。掛取りの使いとしても働きました。

よくある質問(FAQ)

Q: 掛取りは本当に大晦日に一斉に来たのですか?
A: はい、江戸時代は実際に大晦日に一年分のツケを清算する習慣がありました。商人たちは丁稚を総動員して、この日に掛取りに回ったのです。年を越せないと商売の信用に関わるため、債権者も債務者も必死でした。

Q: 音楽用語の部分で出てくる作曲家は実在の人物ですか?
A: はい、モーツァルト、ショパン、チャイコフスキー、バッハ、ハイドン、シューマンなど、すべて実在のクラシック音楽の作曲家です。これらの名前を巧みに日本語の言葉にかけた言葉遊びが、この噺の最大の見どころです。

Q: 近江八景の歌に支払い時期を織り込むとは、どういう意味ですか?
A: 熊さんは「石山の秋の月」から「秋(9月)」、「三井寺の鐘」から「晩(夜=遅い)」を引き出して、「9月半ば」まで待ってほしいという意味を謎かけ風に伝えているのです。これも高度な言葉遊びです。

Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 両方で演じられています。初代林家蘭玉の作とされ、上方落語の演目として発展しましたが、江戸落語でも広く演じられるようになりました。演者によって音楽用語の選び方や芝居の演出が異なるのも楽しみの一つです。

Q: 去年の「死んだふり作戦」の顛末が面白いですが、これも実際に演じられますか?
A: はい、多くの演者が前年の失敗談として語ります。家主が香典まで持ってきたのに、熊さんが「もらっておけ」と起き上がって家主が腰を抜かすという展開は、この噺の笑いどころの一つです。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 三代目桂米朝 – 上方落語の人間国宝。音楽用語の言葉遊びを品格ある語り口で演じ、芝居の場面では歌舞伎の心得を活かした格調高い演技を見せました。
  • 五代目柳家小さん – 江戸落語の重鎮。軽妙なテンポで音楽用語を繰り出し、熊さんの機転の良さを巧みに表現しました。
  • 十代目柳家小三治 – 現代の名人として知られ、音楽用語の部分で独特の間を使い、聴衆を引き込む演技が評価されています。
  • 六代目桂文枝 – 上方落語協会会長。近江八景の場面での芝居がかった演技が秀逸で、現代でも人気の高い演目として演じています。

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この噺の魅力と現代への示唆

「掛取り」のオチ「かけとり」という言葉遊びは、シンプルながら効果的です。一年の最後の日に借金取りが「駆け」回り、債務者も知恵を「掛け」て撃退するという、「掛け」という言葉の多義性を活かした締めくくりが見事です。

現代でもクレジットカードの支払いや年末のボーナス払いなど、形を変えながら「掛け売り」の文化は続いています。支払いに追われる切実さと、それを機転で乗り切ろうとする庶民の知恵は、時代を超えて共感を呼ぶテーマです。

特に音楽用語を使った言葉遊びは、クラシック音楽の知識がある現代の聴衆にとっても新鮮な笑いを提供します。「アレグロの金」「ショパンの事情」「財布の中はカラヤン」など、作曲家の名前を巧みに日本語の表現に織り込む言葉のセンスは、落語という芸能の教養性と庶民性を見事に融合させています。

また、近江八景の和歌を使った謎かけは、古典文学の素養を活かした高度な言葉遊びであり、江戸時代の庶民の文化レベルの高さを示すものでもあります。現代の私たちにとっては少し難解に感じられるかもしれませんが、だからこそ落語を通じて古典文化に触れる良い機会になります。

実際の高座では、演者によって音楽用語のバリエーションが異なり、時代に合わせて新しい作曲家の名前が追加されることもあります。機会があれば、ぜひ複数の演者の高座を聴き比べて、それぞれの個性を楽しんでください。


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