加賀の千代 落語|あらすじ・オチ完全解説
加賀の千代(かがのちよ) は、年末で金に困った甚兵衛が女房の知恵で隠居から金を借りる古典落語。「加賀の千代」と「嫁(かか)の知恵」のダジャレオチが絶妙な夫婦愛の名作です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 加賀の千代(かがのちよ) |
| ジャンル | 人情噺・滑稽噺 |
| オチ | 「加賀の千代」=「かかの知恵」 |
| 主要人物 | 甚兵衛、女房、隠居 |
| テーマ | 夫婦愛・俳句・知恵 |
3行でわかるあらすじ
年末で金に困った甚兵衛夫婦、女房が隠居から金を借りる知恵を授ける。
女房は加賀の千代の俳句の話をして、甚兵衛に心構えを教える。
甚兵衛は隠居から無事お金を借り、「俺は朝顔だ」「かかの知恵だ」とダジャレで締める。
10行でわかるあらすじとオチ
年末で金に困った甚兵衛夫婦、女房が隠居からお金を借りるよう提案する。
女房は加賀の千代の俳句「朝顔につるべ取られてもらい水」の話をする。
植物も可愛がる人がいると甚兵衛に説き、隠居もお前を可愛がってくれると言う。
女房は20円と言って半分の10円にしてもらう作戦を授ける。
甚兵衛は饅頭を手土産に隠居の家を訪れる。
隠居は甚兵衛を歓迎し、お金を借りに来たことを察する。
甚兵衛が大げさに言うと隠居は100円、200円と勘違いする。
実は8円50銭だと打ち明けると隠居は10円貸してくれる。
甚兵衛「ありがと、やっぱり俺は朝顔だ」隠居「朝顔とは?」
甚兵衛「朝顔につるべ取られてもらい水だ」「かか(嬶)の知恵だ」
解説
「加賀の千代」は昭和20年代に上方の噺家・橘ノ圓都が古い俄のネタを元に創作した新作落語で、のちに三代目桂三木助によって東京でも演じられるようになりました。江戸時代の庶民の生活様式(掛け売り・掛け買い)を背景に、年末の金策をテーマにした人情噺です。
この演目の最大の特徴は、歴史上の俳人「加賀千代女」の逸話を巧妙に活用していることです。千代女の代表作「朝顔に つるべ取られて もらい水」という俳句が物語の重要な要素として組み込まれ、教養ある俳句の世界と庶民の生活を見事に融合させています。
オチは「加賀の千代」と「かか(嬶)の知恵」をかけた語呂合わせで、夫婦漫才の要素も含んだ秀逸な言葉遊びです。気の強い女房の知恵が間抜けな亭主を救うという構造は、古典的な夫婦物の定番パターンでもあります。文化的な背景知識も楽しめる、教養と庶民性を両立させた名作として親しまれています。
あらすじ
年も押し詰まって来たが、どうにもやりくり算段がつかない甚兵衛夫婦。
女房 「どうするんだよ年が越せないじゃないか。ご隠居さんのところへ行ってお金借りて来ておくれよ」
甚兵衛 「この間借りたばかりじゃねえか。また貸してくれるだろうか?」
女房 「大丈夫だよ。隠居さんはお前を可愛がっているんだよ」
甚兵衛 「子どもでも女房でもないのにか」
女房 「女房、子どもばかりでなく犬や猫、生き物だけじゃなく朝顔のような植物も可愛がる人もいるよ。
昔、加賀の千代という俳句の上手い女(ひと)が加賀の殿さまに招かれて、俳句を詠んで見ろと言われ即座に、殿さまの着物の家紋を見て、「見あぐれば匂いも高き梅の花」と詠んで、たいそうに褒められたそうだよ」
甚兵衛 「朝顔は出て来ないよ」
女房 「ある朝、千代さんが井戸に水を汲みに行くと、朝顔が釣瓶(つるべ)に巻きついて花を咲かせているので、近所で水を汲ませてもらって、”朝顔につるべ取られてもらい水”と詠んで朝顔を可愛がったというんだよ」
甚兵衛 「で、その朝顔はどうなったか知ってるか」
女房 「そんなこと知るもんかね」
甚兵衛 「次に水くみに来た人がこんな物、邪魔くさいってみんなむしり取っちまったよ」
女房 「つまらないこと言ってないで早く借りてお出でよ」
甚兵衛 「いくら借りればいいんだ」
女房 「二十円とお言いなよ。
本当は八円五十銭くらいでいいんだけど、二十円と言って、”そんなには貸せない半分の十円にしろ”なら、何とかなるじゃないか。
はなから十円と行ったんじゃ五円しか貸してくれやしないよ。
そうなりゃ”帯に短したすきに長し”になっちまうよ。饅頭を手土産に持ってお行きな、そうすりゃご隠居、お前を手ぶらでは帰さないだろうよ」、さすがは女房、上手い事考えると納得、饅頭を買って隠居の家に行くと、
隠居 「おお、甚兵衛さん、どうしたんだよ、しばらく顔を見せなかったじゃないか。あたしゃ心配で婆さんに様子を見に行かせようとしていたんだよ」と大歓迎。
甚兵衛さんが手土産の饅頭を差し出すと、
隠居 「おや、珍しいね土産とは。ははぁ、暮れで行き詰ってお金でも借りに来たな」
甚兵衛 「当たり~!」
隠居 「いくら貸して欲しいんだ?」
甚兵衛 「びっくりしてションベンちびるな」
隠居 「そんなにか。百円か?」
甚兵衛 「そんな話の分からないこと・・・」
隠居 「二百円か?」
甚兵衛 「いい加減怒りますよ」
隠居 「そんな大金か。
おい婆さんちょっと本家へ使いに行っておくれ・・・、で、本当はいくらいるんだ。遠慮しないではっきり言いなさい」
甚兵衛 「本当は八円五十銭だ」
隠居 「お~い、婆さん、本家へ行かなくともいいよ。馬鹿野郎、なぜはなから八円五十銭と言わなんだ」
甚兵衛 「それは素人のやること。
最初から八円五十銭と言ったしにゃ、五円に値切られてしまうよ。そうなったら”指に短しタヌキに長し”だ」
隠居 「何をわけの分からないこと言ってるんだ。
十円でいいんだな。では十円と・・・」、十円受け取って、
甚兵衛 「ありがと、やっぱり俺は朝顔だ」
隠居 「その朝顔てえのは何のことかな」
甚兵衛 「”朝顔につるべ取られてもらい水”だ」
隠居 「朝顔につるべ・・・、あぁ、加賀の千代か」
甚兵衛 「かか(嬶)の知恵だ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 加賀千代女(かがのちよじょ) – 江戸時代中期の俳人(1703-1775年)。石川県(加賀国)出身で、女性俳人として高く評価されました。代表作は「朝顔に つるべ取られて もらい水」で、この句が落語のモチーフになっています。
- 釣瓶(つるべ) – 井戸から水を汲み上げるための桶。縄や竿につけて井戸に降ろし、水を汲み上げる道具です。江戸時代の生活必需品でした。
- 掛け売り・掛け買い – 商品を後払いで売買すること。江戸時代は現金取引よりも信用取引が一般的で、盆と年末に清算する習慣がありました。
- 年末の金策 – 年の瀬には掛け売りの清算が集中するため、庶民は金策に苦労しました。落語では年末の借金取りや金策が定番のテーマです。
- 嫁(かか) – 妻、女房のこと。江戸っ子の言葉で、親しみを込めた呼び方です。この噺のオチ「かかの知恵」は「嫁の知恵」という意味です。
- 帯に短したすきに長し – どちらの用途にも中途半端で役に立たないこと。甚兵衛が間違えて「指に短しタヌキに長し」と言うのが笑いどころです。
- 隠居(いんきょ) – 家督を子に譲って隠居した老人。江戸時代は隠居すると時間と蓄えに余裕があり、長屋の相談役として尊敬される存在でした。
よくある質問(FAQ)
Q: 加賀千代女は実在の人物ですか?「朝顔につるべ取られてもらい水」は実際の俳句ですか?
A: はい、両方とも実在します。加賀千代女(1703-1775年)は江戸時代中期の女性俳人で、「朝顔に つるべ取られて もらい水」は彼女の代表作です。この句は朝顔を愛でる優しい心を詠んだものとして有名です。
Q: この噺は古典落語ですか?新作落語ですか?
A: 昭和20年代に上方の橘ノ圓都が創作した新作落語で、後に三代目桂三木助が江戸落語として演じて広まりました。比較的新しい演目ですが、現在では古典的な演目として親しまれています。
Q: オチの「かかの知恵」とはどういう意味ですか?
A: 「加賀の千代」と「かか(嫁・女房)の知恵」を掛けた言葉遊びです。女房が授けた知恵のおかげで金を借りられたという意味と、加賀の千代女の俳句を引用したことを掛けた二重の意味があります。
Q: なぜ甚兵衛は20円と言って半分の10円にしてもらう作戦を使ったのですか?
A: 江戸時代の交渉術の一つです。最初に高い金額を言うことで、実際に必要な金額を相対的に少なく感じさせる効果があります。これは現代の交渉術でも「アンカリング効果」として知られています。
Q: この噺から学べる教訓は何ですか?
A: 夫婦の絆と女房の知恵の大切さを描いています。また、人から物を借りるときの心構えや作法、教養(俳句の知識)が実生活でも役立つという教えも込められています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目桂三木助 – この噺を江戸落語として確立した第一人者。緻密な人物描写と絶妙な間で、夫婦の掛け合いを見事に表現しました。
- 五代目古今亭志ん生 – 庶民的な語り口で、甚兵衛夫婦の生活感あふれる姿を生き生きと描きました。
- 十代目柳家小三治 – 現代の名人として、この噺の持つ夫婦愛と言葉遊びの妙を丁寧に表現しています。
関連する落語演目
同じく「夫婦もの」の古典落語
「年末の金策」を題材にした古典落語
「言葉遊び」が秀逸な古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「加賀の千代」は、夫婦の絆と女房の知恵を描いた心温まる作品です。年末の金策という庶民的なテーマに、加賀千代女の俳句という文化的要素を組み合わせた構成が見事で、笑いと教養を両立させた名作と言えるでしょう。
この噺の最大の魅力は、女房の知恵と夫への愛情が表現されている点です。単にお金を借りる方法を教えるだけでなく、俳句の逸話を通じて甚兵衛に自信を持たせ、隠居への接し方まで丁寧に指導する女房の姿は、江戸時代の賢い妻の典型として描かれています。
現代的に見れば、この噺は交渉術の基本を教えてくれます。「最初に高い金額を提示して、実際に必要な金額を相対的に安く見せる」という戦略は、現代のビジネス交渉でも使われる「アンカリング効果」そのものです。また、手土産を持参するという気遣いも、人間関係を円滑にする知恵として今も有効です。
オチの「加賀の千代」と「かかの知恵」の掛け言葉は、単なるダジャレではなく、女房への感謝と敬意を表現した愛情表現でもあります。現代でも、パートナーの知恵や支えに感謝することの大切さは変わりません。
また、教養(俳句の知識)が実生活でも役立つという点も興味深いところです。文化的な知識は単なる飾りではなく、人とのコミュニケーションや信頼関係構築に役立つという教えは、現代にも通じます。
実際の高座では、女房が俳句の話をする場面の語り方、甚兵衛と隠居の掛け合い、そして最後のオチの落とし方で、演者の個性が光ります。特に「かかの知恵だ」と落とす瞬間の間の取り方が、この噺の面白さを左右します。
機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。夫婦の温かい関係性と巧妙な言葉遊びが、心に残る作品です。










