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【古典落語】囃子長屋 あらすじ・オチ・解説 | 夫婦喧嘩が囃子の音になる音楽長屋大騒動

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話芸の殿堂-古典落語-囃子長屋
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囃子長屋

3行でわかるあらすじ

本所の囃子長屋で囃子好きの大工八五郎が仕事をせずに囃子ばかりやっているので、女房が怒って口論になった。
夫婦の喧嘩の言葉が「ドンツクめ」「テンツクめ」と囃子の音になってしまい、子どもも「チャンシチリン」と参加した。
止めに入った大家も思わず笛の調子になって「まあ、いいやったら、まあ、いいや、イイーヤッー」と囃子調になってしまった。

あらすじ

本所の林町の囃子長屋の大家は大の囃子好きで、囃子が好きな者でないと店(たな)を貸さない。

店子の大工の八五郎は囃子に凝り固まって、仕事もしないで朝から晩まで囃子、囃子で、寝言までも囃子だ。
今日も囃子の稽古から帰って来ながら、「・・・テンテン、テケテン、テンツクツ、・・・テレツクツ、テンテンテレツク・・・、どうでえ、いいなあ、やっぱり江戸っ子は囃子は葛西、佃より神田だね・・・テンテンテレツク・・・」

女房 「なにがテンテンテレツクだよ。そんなものばかりに凝って稼いでくれないのなら、あたしを離縁しておくれ」

八五郎 「なにを馬鹿なこと言ってやがるんだ。
これからが囃子の季節なんだ。
神田、山王、深川の祭りよ。囃子はみんな俺が請け合って大儲けよ」

女房 「お前一人でそんなにできやしないよ」

八五郎 「できなくたって囃子のために死ねりゃあ江戸っ子の本望というものよ」

女房 「呆れた馬鹿だよ、お前は」

八五郎 「なにが馬鹿だ、俺が馬鹿ならおめえはおかめじゃねえか」

女房 「どうせあたしはおかめだよ。このひょっとこ野郎」

八五郎 「ひょっとことはなんだ。この般若めが」

女房 「誰が般若にしたんだい、外道め」

八五郎 「外道だと、ふざけるなドンツクめ」

女房 「なにがドンツクだ。テンテンテレツク、テンツクめ」

八五郎 「ドンドロツク、ドンツクめ」、「テンツクめ」、「ドンツクめ、ドンドンドロツク、ドンツクめ」、・・・そばで子どもが心配して、「おい、ちゃん、喧嘩しちゃあいけないよ」、二人はおかまいなしに、「ドンツクめ」、「テンツクめ」・・・と、喧嘩じゃなくて掛け合いを楽しんでいるようだ。

子ども 「ああ、あぶねえ、七輪がひっくり返えっちゃった。ちゃん、七輪、チャンシチリン、チャンシチリン、チャンチャン、シチリン、チャン、シチリン」、「テンツクめ」、「ドンツクめ」、「チャン、シチリン、チャン、シチリン・・・」、そこへ通りかかった、

大家 「おやおや、夜になっても八公のとこでは囃子の稽古とは感心だ。
ほぉ、子どもも一緒か仲がいいねえ。芸事は何でもこれぐらい熱心でないと・・・」、「ドンツクめ」、「テンツクめ」、・・・

大家 「なんだい、こりゃあ、夫婦喧嘩じゃないか。囃子で喧嘩とは感心だが、褒めてばかりはいられない・・・ひとつ止めてやるか」、「ドンツクめ」、「テンツクめ、テンテンテレツク、テンツクめ」、「ドンドンドロツク、ドンツクめ」、「チャン、シチリン、チャン、シチリン」、

止めに入った大家も思わず笛の調子になって、
「まあ、いいやったら、まあ、いいや。まあいい、まあいい、まあ、イイーヤッー・・・」

10行でわかるあらすじとオチ

本所の林町にある囃子長屋の大家は大の囃子好きで、囃子が好きな者でないと部屋を貸さない。
店子の大工八五郎は囃子に凝り固まって、仕事もしないで朝から晩まで囃子ばかりやっている。
女房が「そんなものばかりに凝って稼いでくれないなら離縁しておくれ」と怒ると、八五郎は囃子の季節だから大儲けできると言い返した。
「お前一人でそんなにできやしない」と女房が言うと、八五郎は「囃子のために死ねりゃあ江戸っ子の本望」と答えた。
「呆れた馬鹿だよ」「なにが馬鹿だ、俺が馬鹿ならおめえはおかめじゃねえか」と夫婦喧嘩が始まった。
「ひょっとこ野郎」「般若めが」「外道め」「ドンツクめ」「テンツクめ」と口論が囃子の音になってしまった。
子どもが「七輪がひっくり返った」と言うと「チャンシチリン、チャンシチリン」と七輪も囃子の音になった。
通りかかった大家は最初「囃子の稽古とは感心だ」と褒めたが、夫婦喧嘩だと気づいて止めに入った。
しかし「ドンツクめ」「テンツクめ」「チャンシチリン」という音に囲まれた大家も思わず笛の調子になった。
「まあ、いいやったら、まあ、いいや。まあいい、まあいい、まあ、イイーヤッー」と、止めに入ったはずの大家も囃子調になってしまった。

解説

「囃子長屋」は、音楽的要素を前面に押し出した古典落語の名作です。本所の林町という実在の地名を舞台に、囃子好きの大家が同好の士ばかりを集めた長屋を描いており、江戸の庶民文化における祭り囃子の重要性を表現しています。

この作品の最大の特徴は「トントンオチ」と呼ばれる拍子オチの手法が使われていることです。夫婦喧嘩の言葉が「ドンツクめ」「テンツクめ」と囃子の音に変化し、子どもの「チャンシチリン」、大家の「まあ、イイーヤッー」と、登場人物全員の会話が音楽的なリズムになっていく構成が秀逸です。

見どころは、日常の出来事が自然に音楽に昇華されていく展開にあります。最初は普通の夫婦喧嘩として始まりながら、囃子に夢中な八五郎の性格設定により、口論の言葉が次第に囃子の音になっていく過程が絶妙に描かれています。

五代目今朝亭錦養の得意演目としても知られており、囃子の音を口三味線で表現する落語家の技量が問われる演目でもあります。江戸時代の長屋の共同体意識と、祭り文化への情熱を描いた、音楽的で賑やかな古典落語の傑作です。

さらに詳しく知りたい方へ

落語用語解説

囃子(はやし)
日本の伝統音楽で、祭りや歌舞伎で演奏される打楽器や笛による音楽。江戸時代には神田祭、山王祭、深川祭などの祭礼で囃子が重要な役割を果たし、町民たちが熱心に稽古をしていました。

本所林町(ほんじょはやしまち)
現在の東京都墨田区付近にあった町名。本所は隅田川の東側に位置し、江戸時代には庶民の住む地域として知られていました。「林町」という地名と「囃子」をかけた設定になっています。

トントンオチ(拍子オチ)
言葉のリズムや音で笑いを取る落語のオチの手法。この噺では夫婦喧嘩の言葉が「ドンツクめ」「テンツクめ」と囃子の音になり、最後まで音楽的なリズムで締めくくられます。

神田祭・山王祭・深川祭
江戸三大祭と呼ばれる重要な祭礼。神田明神の神田祭、日枝神社の山王祭、富岡八幡宮の深川祭で、囃子は祭りの華として欠かせない要素でした。八五郎がこれらの祭りで大儲けできると豪語しています。

おかめとひょっとこ
日本の伝統的な仮面やお面のキャラクター。おかめは福々しい女性の顔、ひょっとこはとぼけた男性の顔を表します。夫婦喧嘩で互いを罵る言葉として使われています。

般若(はんにゃ)
能面の一種で、嫉妬や怒りに狂った女性の鬼面。転じて怒った女性を指す言葉として使われます。八五郎が女房を「般若め」と罵る場面で登場します。

七輪(しちりん)
炭火を使う小型の調理用コンロ。江戸時代の庶民の必需品でした。この噺では子どもが「七輪(しちりん)」を「チャンシチリン」と囃子の音に変えてしまう言葉遊びが使われています。

よくある質問(FAQ)

Q: なぜ大家は囃子好きしか住まわせないのですか?
A: 大家自身が大の囃子好きだからです。江戸時代には同じ趣味や職業の人々が集まって住む長屋も珍しくなく、共通の趣味を持つコミュニティを形成していました。囃子好きばかりが住む長屋という設定は、江戸の長屋文化を象徴しています。

Q: なぜ夫婦喧嘩が囃子の音になったのですか?
A: 八五郎が囃子に凝り固まっているため、口論の言葉まで囃子の音に聞こえるという設定です。「ドンツクめ」「テンツクめ」という罵り言葉が、囃子の「ドンツク」「テンツク」というリズムと重なり、喧嘩が音楽的な掛け合いになってしまいます。

Q: 子どもの「チャンシチリン」とはどういう意味ですか?
A: 子どもが「七輪(しちりん)がひっくり返った」と言おうとして、「チャン、シチリン」と囃子の音のように言ってしまったのです。「チャン」は鉦の音、「シチリン」は七輪と囃子の音を掛けた言葉遊びです。

Q: 大家の「まあ、イイーヤッー」とは何ですか?
A: 夫婦喧嘩を止めに入った大家が、「ドンツクめ」「テンツクめ」「チャンシチリン」という囃子の音に囲まれて、思わず笛の調子になってしまったオチです。「まあいいや」という制止の言葉が、囃子の笛の音「イイーヤッー」になってしまいました。

名演者による口演

五代目 古今亭志ん生
口三味線を得意とした志ん生は、囃子の音を見事に表現しました。「ドンツクめ」「テンツクめ」のリズム感が抜群で、夫婦喧嘩が次第に音楽になっていく過程を自然に演じました。

三代目 桂米朝
上方落語の人間国宝として、江戸の祭り文化と囃子の歴史的背景を丁寧に説明しながら演じました。長屋の共同体意識と、庶民の祭りへの情熱を温かく描き出しました。

五代目 今朝亭錦養
この噺を得意演目とし、囃子の音を口三味線で精密に表現する技術が見事でした。音楽的要素を最大限に活かし、聴衆を囃子の世界に引き込む演出が特徴でした。

柳家小三治
間の取り方とリズム感が絶妙で、「ドンツクめ」「テンツクめ」から「チャンシチリン」、そして大家の「イイーヤッー」へと自然に流れる音楽的構成を見事に表現しました。

関連する落語演目

粗忽長屋
長屋を舞台にした噺として共通点があります。「囃子長屋」では音楽的な長屋、「粗忽長屋」では粗忽者ばかりの長屋が描かれ、どちらも江戸の長屋文化を感じさせます。

時そば
リズムと音が重要な役割を果たす噺です。「囃子長屋」では囃子のリズムが、「時そば」では時刻を数える声のリズムが笑いを生みます。

初天神
江戸の祭りや縁日を舞台にした噺として関連があります。「囃子長屋」では祭りの囃子が、「初天神」では天神様の縁日が描かれ、どちらも江戸の年中行事を感じさせます。

転失気
言葉遊びとリズムを使った噺として共通点があります。「囃子長屋」では囃子の音、「転失気」では漢語の響きが笑いを生む点で似ています。

寿限無
リズミカルな言葉の繰り返しが特徴の噺です。「囃子長屋」の「ドンツクめ」「テンツクめ」と、「寿限無」の長い名前の繰り返しは、どちらもリズムの面白さを活かしています。

この噺の魅力と現代への示唆

「囃子長屋」の最大の魅力は、日常会話が音楽に変化していく音楽的な構成にあります。夫婦喧嘩という平凡な出来事が、囃子のリズムによって芸術的な掛け合いに昇華される過程は、落語の言葉遊びと音楽性の融合を示す好例です。

八五郎の「囃子のために死ねりゃあ江戸っ子の本望」という言葉は、趣味や芸事に命を懸ける江戸っ子気質を表現しています。現代で言えば、仕事よりも趣味を優先する「オタク文化」や「推し活」に通じる情熱です。生活を犠牲にしても好きなことに打ち込む姿勢は、古今東西に共通する人間の性質です。

長屋の共同体意識も重要なテーマです。囃子好きばかりが集まる長屋という設定は、同じ価値観を持つ人々が集まるコミュニティの形成を示しています。現代のシェアハウスやコワーキングスペース、オンラインコミュニティなど、共通の趣味や価値観で繋がる場所の原型とも言えます。

「トントンオチ」という音楽的な落としは、落語の技術的な面白さを示しています。言葉のリズムだけで笑いを生み出す手法は、ラップやビートボックスなど現代の音楽表現にも通じます。口三味線や擬音語の使い方は、日本語の音楽性と表現力の豊かさを示す好例です。

子どもの「チャンシチリン」は、子どもが親の影響を受けて育つという教育心理学的な真実を示しています。八五郎が囃子に夢中なため、子どもも自然に囃子の言葉で話すようになるという設定は、「子どもは環境によって育つ」という普遍的なテーマを扱っています。

大家が止めに入ったのに囃子調になってしまうオチは、環境や雰囲気に飲み込まれる人間の性質を示しています。冷静に仲裁しようとしても、周囲のリズムに巻き込まれてしまうという展開は、現代の「空気を読む」文化や、集団心理の影響力を象徴しています。

「囃子長屋」は、江戸の祭り文化、長屋の共同体、音楽への情熱、そして言葉遊びの技術を一つの物語に凝縮した、古典落語の傑作と言えるでしょう。音楽的なリズムと笑いを通じて、人間の情熱と共同体の絆を描いた名作です。

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