初音の鼓②
3行でわかるあらすじ
古道具屋金兵衛が偽物の「初音の鼓」を百両で殿様に売りつけようと、三太夫と共謀して狐憑きの演技を企む。
三太夫が鼓の音に合わせてコンコン鳴く実演で殿様を騙し、百両で売れることになるが安心は束の間。
殿様が金兵衛一人で鼓を打たせると今度は殿様がコンコン鳴き、「鳴き賃を差し引いた」として3両しかもらえない。
10行でわかるあらすじとオチ
骨董好きの殿様の屋敷に古道具屋の金兵衛が偽物の「初音の鼓」を持参し、百両で売りつけようと企む。
金兵衛は三太夫に「鼓を打つと狐が憑く」という設定で、コンと鳴くたびに1両払うと持ちかける。
殿様の前で金兵衛が鼓をポンと打つと三太夫がコンと鳴き、殿様は狐憑きの効果に驚嘆する。
殿様がポンポンと打つたびに三太夫がコンコンと鳴いて何十両分も稼ぎ、百両で買い取ることになる。
金兵衛と三太夫は五十両ずつの折半で大儲けと喜ぶが、殿様が金兵衛一人で鼓を打てと命じる。
三太夫がいない状況で金兵衛が鼓をポンと打つと、今度は殿様がコンと鳴いてしまう。
金兵衛が「いかがいたしました」と聞くと、殿様は「前後忘却してとんと覚えがない」とおとぼけする。
金兵衛がポンポンと打つと殿様もコンコンと鳴き続け、初音の鼓は本物だと太鼓判を押す。
いよいよ代金を受け取ろうとすると、置かれた金はたったの3両だけだった。
金兵衛が「百両では」と言うと、殿様は「三太夫と余の鳴き賃をさし引いてある」と答えて騙し返される。
解説
「初音の鼓②」は詐欺師が逆に騙されるという痛快な逆転劇を描いた古典落語です。前半では金兵衛と三太夫の共謀による詐欺が成功するかに見えますが、後半で殿様の機転により立場が逆転する構成が見事です。
この噺の面白さは、騙そうとした者が騙されるという「因果応報」の教訓的な側面と、殿様の賢さを際立たせる点にあります。殿様は最初から詐欺を見抜いており、わざと騙されたふりをして最後に仕返しをするという高等戦術を使っています。
「鳴き賃を差し引く」というオチは「勘定オチ」の典型で、金銭の計算で笑いを取る落語の定番手法です。百両という大金が3両に激減する落差の大きさと、詐欺師の期待が裏切られる様子が聞き手の爽快感を誘います。また、江戸時代の武士と商人の関係性、骨董品への関心なども反映された時代性豊かな作品です。
あらすじ
骨董好きの殿さまの屋敷に古道具屋の金兵衛が一儲けしようとやって来る。
三太夫が今日は何を持って来たのか聞くと、義経が静御前に賜ったという「初音の鼓」だ。
三太夫「これは珍しい、本物か」、金兵衛「まごうかたなき真っ赤な偽物で」と、平然としている。
金兵衛は、「この鼓を打つ時は、そばにいる者に狐が乗り移る」と言って、百両でこの鼓を殿さまに売りつけようと言う魂胆だ。
殿さまが高い金で買えば家宝といって蔵にしまったままになり、偽物だとバレる心配はないという計算だ。
金兵衛は本物と信じさせるために、殿さまに鼓をポンポンと打ってもらい、三太夫にコンコンと鳴いてもらい、「コン」一声につき一両を払うという儲け話を三太夫に持ち掛ける。
三太夫は「武士に狐の鳴きまねをせよと言うのか」と怒りかけたが、金に目がくらみ喜んで金兵衛の企みに乗って、金兵衛を伴って殿さまの御前に出る。
金兵衛は世にも珍しき初音の鼓と差し出し、殿さまにお調べ下さいと申し出る。
殿さまが珍しがって鼓をポンと打つと、そばの三太夫がコンと鳴いた。
殿さま 「いかがいたした三太夫」
三太夫 「前後忘却しており、何があったか一向に存じません」とおとぼけ上手だ。
殿さまがポンポンで、コンコン、ポンポンポン・・・・で、コンコンコン・・・・と調子を合わせて何十両分も鳴いて三太夫爺さんは大儲けだ。
殿さまは金兵衛の望み通りに百両で買い取ると言い、次の間で控えよと申し渡す。
計算高い三太夫だが幾つ鳴いたか数えることができなかったと言うと、金兵衛は五十両づつの折半でと気前がいい。
しばらくして殿さまは金子を取らすからと金兵衛を呼び、鼓を打って見ろと言い出した。
そばに三太夫がおらずに困った金兵衛だが殿さまの命令にはそむけず鼓をポンと打った。
すると殿さまがコンと鳴いた。
金兵衛 「殿さま、いかがいたしました」
殿さま 「何であるか、前後忘却してとんと覚えがない」、金兵衛が「ポンポンポン、スコポンポン」と打つと、
殿さま 「コンコンコン、スココンコン」、金兵衛が「ポンポン・・・・・」と打って、
殿さま 「コンコン・・・・・ああ、もうよいぞ。
本物の初音の鼓に相違ない。金子をとらすぞ」
金兵衛 「へい、ありがとうさまで」、と前に置かれた金を見るとたったの三両だけ。
金兵衛 「お代は百両でございますが」
殿さま 「三太夫と余の鳴き賃をさし引いてある」
さらに詳しく知りたい方へ
落語用語解説
初音の鼓(はつねのつづみ)
歌舞伎「義経千本桜」に登場する伝説の鼓。源義経が静御前に与えたとされ、源九郎狐の両親の皮で作られているという設定です。この鼓を打つと狐が現れるとされ、骨董品として非常に高い価値があるとされています。
コンコン(狐の鳴き声)
日本では狐の鳴き声を「コンコン」と表現します。実際の狐の鳴き声は違いますが、この噺では狐が憑いた証拠として「コン」と鳴く設定になっています。鼓の「ポン」という音に対応する形で「コン」と鳴くのが詐欺の仕掛けです。
百両(ひゃくりょう)
江戸時代の高額貨幣単位。現代の価値で約1000万円〜1500万円に相当します。金兵衛が殿様から騙し取ろうとした金額で、最終的に3両(約30万円〜45万円)しかもらえないという落差が笑いを生みます。
鳴き賃(なきちん)
狐の鳴き声を出したことへの報酬という意味。この噺では三太夫が「コン」と鳴くたびに1両もらえる約束でしたが、最後に殿様が「自分と三太夫の鳴き賃を差し引く」というオチで詐欺師を逆に騙します。
前後忘却(ぜんごぼうきゃく)
前後の記憶がなくなること。狐憑きの演技として、三太夫と殿様が「何があったか覚えていない」と言う場面で使われます。詐欺の演出として重要なセリフです。
次の間(つぎのま)
主室に隣接した控えの部屋。武家屋敷では家臣や訪問者が待機する場所です。この噺では金兵衛と三太夫が百両の折半を喜ぶ場面で使われ、その後の逆転への伏線となっています。
勘定オチ(かんじょうおち)
金銭の計算や支払いで笑いを取る落語の典型的なオチの手法。「初音の鼓②」では百両が鳴き賃差し引きで3両になるという計算が痛快なオチとなっています。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ殿様は最初から詐欺を見抜いていたのですか?
A: 殿様は骨董好きで目利きであるため、偽物であることを見抜いていたと考えられます。また、金兵衛が「真っ赤な偽物」と正直に言っているのを聞いていた可能性もあります。わざと騙されたふりをして詐欺師を懲らしめるという高等戦術を使ったのです。
Q: 三太夫はなぜ詐欺に加担したのですか?
A: 金兵衛が「コン一声につき一両」という儲け話を持ちかけたからです。武士としての誇りを持ちながらも金に目がくらみ、狐の鳴きまねという恥ずかしい行為をしてしまいます。これは江戸時代の武士の貧困を風刺している面もあります。
Q: 殿様が鳴いたのは本当に狐憑きだったのですか?
A: いいえ、殿様は三太夫と同じように意図的に鳴いただけです。金兵衛の詐欺の手口をそのまま真似して、「前後忘却して覚えがない」と同じセリフで逆襲しました。詐欺師を同じ手口で騙し返すという痛快な仕返しです。
Q: なぜ3両だけだったのですか?
A: 百両から三太夫と殿様の鳴き賃を差し引いた結果です。三太夫は何十回も鳴いて数十両分、殿様も同じくらい鳴いたため、合計で97両分の鳴き賃が差し引かれ、残りが3両になったという計算です。詐欺師が自分の手口で損をするという皮肉なオチです。
名演者による口演
五代目 古今亭志ん生
自由奔放なスタイルで知られる志ん生は、金兵衛の狡猾さと殿様の賢さを見事に演じ分けました。特に「ポンポンポン、スコポンポン」と「コンコンコン、スココンコン」のリズミカルなやり取りが絶妙で、聴衆を笑いの渦に巻き込みました。
三代目 桂米朝
上方落語の人間国宝として、この噺を丁寧に演じました。三太夫が武士の誇りと金欲の間で葛藤する場面を細やかに表現し、最後の逆転オチへの伏線を巧みに張りました。教養と笑いを両立させる演出が特徴です。
六代目 三遊亭圓生
格調高い語り口で、殿様の品格と知恵を際立たせました。詐欺師が騙される瞬間の表情の変化を声だけで表現する技術が見事で、「たったの三両」という落差を効果的に演出しました。
柳家小三治
間の取り方が絶妙で、特に金兵衛が三両を見て驚く場面の沈黙が印象的です。詐欺師の期待と失望のコントラストを静かな語り口の中で表現し、最後のオチへの持っていき方が自然で説得力がありました。
関連する落語演目
初音の鼓①
この噺の前編にあたる演目です。①では百姓が「忠信」と間違われて「次の夫(継信)に聞いてくれ」と答えるダジャレオチですが、②では詐欺師が逆に騙される勘定オチになっています。
はてなの茶碗
骨董品詐欺を題材にした噺として共通点があります。「はてなの茶碗」では偶然により詐欺が成功しますが、「初音の鼓②」では詐欺師が失敗するという対照的な結末です。
井戸の茶碗
骨董品の価値と人間の心を描いた人情噺です。「初音の鼓②」が詐欺をテーマにしているのに対し、「井戸の茶碗」は正直者が報われる物語で、骨董品噺の両極端を示しています。
時そば
騙す者と真似をして失敗する者を描いた噺です。「初音の鼓②」では詐欺師が殿様に逆襲され、「時そば」では真似した男が失敗するという、知恵の使い方で明暗が分かれる構造が似ています。
粗忽長屋
勘違いと混乱から生まれる笑いという点で共通しています。「初音の鼓②」では狐憑きの演技が真実のように見える混乱を描き、「粗忽長屋」では死体の取り違えという混乱が笑いを生みます。
この噺の魅力と現代への示唆
「初音の鼓②」の最大の魅力は、「騙そうとした者が騙される」という痛快な逆転劇にあります。詐欺師の金兵衛と共犯の三太夫が百両を騙し取ろうと企むものの、殿様の機転により自分たちの手口で逆襲されるという構造は、因果応報の教訓を笑いに変えた見事な作品です。
現代社会においても、この噺のテーマは極めて示唆的です。詐欺の手口をそのまま使って詐欺師を懲らしめるという殿様の戦術は、現代の「おとり捜査」や「逆探知」といった犯罪対策の原型とも言えます。悪人を同じ手口で制圧するという発想は、古今東西に共通する正義の形です。
三太夫が金に目がくらんで武士の誇りを捨てる場面は、江戸時代の武士階級の貧困問題を風刺しています。建前では武士道を重んじながら、実際には金銭に困窮していた江戸の武士たちの実情が、笑いを交えて描かれています。現代でも、立場や肩書きと実際の経済状況のギャップは多くの人が抱える問題です。
「前後忘却して覚えがない」というセリフは、責任逃れの常套句として使われています。三太夫が詐欺の演技で使ったこのセリフを、殿様がそのまま真似して逆襲する場面は、言葉の力と皮肉の効いた使い方を示しています。現代の政治やビジネスでも、相手の言葉をそのまま返すという修辞技法は有効な手段です。
「鳴き賃を差し引く」という勘定オチは、契約の解釈の問題を示唆しています。金兵衛は「百両で買い取る」という約束だけを信じていましたが、殿様は「鳴き賃」という新たな概念を導入して支払額を減らしました。これは契約の抜け穴や解釈の違いが問題となる現代のビジネス取引にも通じる教訓です。
百両が3両に減るという極端な落差は、期待と現実のギャップを象徴しています。詐欺師が大儲けを夢見ていたのに、実際には大損をするという結末は、投機や詐欺の危険性を示す警鐘でもあります。「うまい話には裏がある」という教訓を、笑いを通じて伝えているのです。
「初音の鼓②」は、詐欺の構造、権力者の知恵、因果応報の痛快さ、そして勘定オチの面白さを一つの物語に凝縮した、古典落語の傑作と言えるでしょう。悪人が報いを受けるという爽快感と、笑いを通じた社会風刺を見事に融合させた名作です。


