花見小僧
3行でわかるあらすじ
大店の旦那が一人娘おせつと店の徳三郎の恋仲を疑い、花見のお供をした小僧定吉を尋問する。
定吉は最初隠すが、お灸や小遣いの話に釣られて段々と花見での出来事を詳しく話してしまう。
最終的に奥の座敷で二人の親密な会話を聞いたことを暴露し、旦那は徳三郎に暇を出す。
10行でわかるあらすじとオチ
大店の一人娘おせつは見合いを重ねるが、どの男性も気に入らず結婚話がまとまらない。
旦那は店の徳三郎とおせつの恋仲を疑い、花見のお供をした小僧定吉を尋問する。
定吉は最初隠そうとするが、お灸を据えるぞと脅されて段々と話し始める。
向島への花見で柳橋から舟に乗り、徳三郎が他の芸者を見てお嬢様が涙を流したと語る。
茶店で大福や煎餅を食べ、徳三郎が半分にしたゆで玉子をおせつが嬉しそうに食べたと話す。
料理屋植半では鯛の塩焼きなどの豪華な料理を食べ、定吉はくわいのきんとんを喉に詰まらせる。
長命寺で桜餅を買いに行く間、定吉は外で遊ぶよう言われて席を外す。
戻ると二人は奥の座敷におり、婆やは「お嬢様の癪を徳さんが看病している」と説明する。
定吉が聞き耳を立てると「お嬢さんではなくせつやと呼んで」という親密な会話を聞く。
旦那は事情を理解して徳三郎に暇を出すが、定吉は約束の休みと小遣いを要求してオチとなる。
解説
「花見小僧」は人情噺と店噺の要素を併せ持つ古典落語の秀作です。大店を舞台に、主人と奉公人たちの人間関係、そして若い男女の恋愛を描いた作品で、江戸時代の商家の様子や花見の風俗が詳細に描かれています。
この演目の最大の見どころは、旦那と小僧定吉のやり取りにあります。旦那が真相を探ろうと尋問し、定吉が最初は隠そうとするものの、お灸を据えるという脅しや休みと小遣いという餌に釣られて段々と本音を話してしまう過程が巧妙に描かれています。定吉の子どもらしい単純さと食い意地の張った性格が愛らしく表現されています。
作中には江戸時代の花見の風俗が細かく描写されており、柳橋からの舟遊び、向島の茶店、料理屋植半での食事、長命寺の桜餅など、当時の娯楽文化を知ることができます。特に旦那が長命寺について語る場面では、十返舎一九や芭蕉の句碑に言及するなど、文学的な教養も盛り込まれています。
オチは定吉が約束された休みと小遣いを要求する場面で、真相を暴露した後に「約束が違う」と主人に食ってかかる図々しさが笑いを誘います。主人と奉公人という身分関係を軽やかに描きながらも、最終的には徳三郎が暇を出されるという現実的な結末で、江戸時代の商家の厳格さも表現されている名作です。
あらすじ
ある大店の一人娘のおせつ、年頃で旦那は婿を迎えようと見合いさせるが、男嫌いではないようだが、色白も色黒の男はダメ、背の高いのも低いのも、痩せているのも、太っているのも嫌だと言って、いっこうに話がまとまらない。
つい先日、旦那は店の徳三郎とおせつができているという噂を聞く。
番頭を呼んで噂のことを聞くが、「まったく、存じません」と言う。
旦那は向島の花見におせつのお供を婆やとした小僧の定吉を呼ぶ。
旦那 「ああ、定吉か。
主人の前で突っ立っているやつがありますか。座んなさい」
定吉 「急ぎの用事ならば、この方がすぐに駆け出せるじゃありませんか。
でも座れと言われれば座ります。さあ、殺さば殺せ」
旦那 「おまえは主人にものを隠しているだろう」、定吉は何も隠し事などないと言いながら、帳場で拾った小銭をくすねたこと。
風呂屋で番台が居眠りをしていたのでタダで入ったこと。
伊勢屋の猫を天水桶に放り込んで棒でつついたこと、などをべらべらと喋ってしゃあしゃあとしている。
旦那 「おせつのお供をして向島に花見に行った時の話をしなさい」
定吉 「あの時は面白うございました。でももう忘れました」
旦那 「忘れたなら思い出しなさい」
定吉 「どうしても思い出せません」
旦那 「子どもが物忘れをするのは若もうろくだ。それにはお灸が一番、脳天から爪先までごっそりとすえてやるから、足を出しなさい」
定吉 「ごめんくださいまし。そんなにすえられたら足に穴が開いてしまいます」
旦那 「言わなければ薮入りの休みはやらないし、言えば薮入りのほかにも休みをやるし、店の者に内緒で小遣いもあげる」
定吉 「じゃあ、少し思い出しました。四人で店を出ましたらお嬢さんが、”お舟で行きたいわ”」と言うので柳橋の舟宿から舟に乗りました」
旦那 「それからどうした?」
定吉 「徳どんが向こうの舟の中の芸者を見ているので、お嬢様が悔しくて涙をポロポロ、その涙で隅田川の水が急に増えました」
旦那 「なにを馬鹿な事を言ってるんだ。それからどうした」
定吉 「舟が向島の四囲(めぐり)の土手に着きました。
一めぐりはおまけです。
それからお花見をして帰って来ました。それだけでほかは忘れてしまいました」
旦那 「忘れたのなら足を出しなさい、灸をすえてやるから」
定吉 「それじゃあ、もう少し思い出します。
茶店に入りました。
お嬢さんが”なんでも好きな物をお上がり”と言うので、大福を十八、ゆで玉子を十三、お煎餅を二十八枚。
徳どんはゆで玉子を半分に割って、それをお嬢さんが大事そうに、嬉しそうに、美味しそうに食べていました。それでお終い」、旦那がまたお灸と言うと、
定吉 「それから午の御前さまにお参りしました」
旦那 「向島のは牛の御前だ。おまえなんぞ嘘ばかり言うから牛の御前の罰が当たって牛になるぞ」
定吉 「わたしは牛になったほうがいいんで・・・寝ていてご飯が食べられますもの」
旦那 「それからどうした?」
定吉 「植半という料理屋へ行きました」
旦那 「よく食べるな。植半ならなじみの店だ」
定吉 「女中さんは徳どんのことを若旦那さまと呼んでました。
わたしをお坊ちゃまと呼ぶかと思ったら、”まあ、小僧さんもご一緒で・・・”で、がっくり。もう帰ろうかと思いました」
旦那 「そんなきたないお坊ちゃまがあるもんか。それから?」
定吉 「すぐにお膳が出て、お吸い物に鯛の塩焼き、お刺身、酢の物、うま煮、くわいのきんとん・・・旦那、勘定は安くないでしょうね」
旦那 「そんなことはおまえが心配しなくてもいい」
定吉 「お嬢さんと徳どんがくわいのきんとんをくれました。それをのどに詰まらせ、苦しくて目を白黒させていたら婆やが背中を叩いてくれて、くわいが飛び出て来ました」
旦那 「きたないやつだな。それからどうした」
定吉 「お嬢さんが婆やに”長命寺丸へ行って桜餅買っておいで”と言いました」
旦那 「長命寺丸は薬だ。
あれは長命寺だ。
門番が桜の葉を拾って、その葉へ包んだのが桜餅のはじめだ。
門を入ると桜の木がある。
その下に十返舎一九の碑がある。”ないそんか 腎虚を我は願うなり そは百年も生き延びしうえ”とあるな。その奥に芭蕉の句碑がある。”いざさらば雪見に転ぶところまで”、よく覚えておけ」
定吉 「へえ、それから」
旦那 「それでお終いだ」
定吉 「お終い?足を出せ灸をすえるぞ」
旦那 「それじゃ、あべこべだ。それからどうした?」
定吉 「お嬢さんがあたしに外で遊んで来るようにと言いました。
しばらく外で遊んでいましたがつまらないので戻ると、お嬢さんと徳どんがいません。
婆やが”お嬢様は癪(しゃく)が起こって、奥の座敷で徳どんが看病していますよ”、その時、わたしは”はああ、なるほど”と思いました。奥の座敷の襖で聞き耳を立てていると、”これからはわたしのことをお嬢さんと呼ばないで、せつやと言ってくれなきゃいやあ・・・”なんて、ふふふふ・・・いいところだ」
旦那 「変な声を出すな、もう分かった」
定吉 「それから、旦那・・・」
旦那 「もういい、他所(よそ)で今のようにぺらぺらと喋ると承知しないぞ。あっちへ行け」
定吉 「旦那、薮入りのほかのお休みと、お小遣いのほうはよろしくお願いします」
旦那 「そんなこと言った覚えはない」
定吉 「それじゃあ、約束が違うじゃありませんか旦那、おい!」
旦那 「主人に向かっておいとは何だ」
旦那は番頭と相談し徳三郎に暇を出す。
徳三郎はおじの所へ引き取られて行った。
さらに詳しく知りたい方へ
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 薮入り(やぶいり) – 奉公人が年に二回(正月と盆)、実家に帰ることが許された休日。江戸時代の奉公人にとって楽しみな日でした。
- 柳橋(やなぎばし) – 神田川と隅田川の合流点にあった橋。屋形船の発着場として知られ、花見舟の起点となっていました。
- 向島(むこうじま) – 隅田川東岸一帯の地域。桜の名所として知られ、江戸の花見のメッカでした。
- 癪(しゃく) – 腹部の激しい痛みを指す言葉。女性が気分が悪くなることを表す言い訳としても使われました。
- 暇を出す(ひまをだす) – 奉公人を解雇すること。商家では主人の判断で奉公人を辞めさせることができました。
- 長命寺(ちょうめいじ) – 向島にある寺。桜餅発祥の地として有名で、門番が桜の葉で餅を包んだのが始まりとされます。
- 植半(うえはん) – 向島にあった実在の料理屋。高級な料理屋として江戸の人々に親しまれていました。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜおせつはどの見合いも断っていたのですか?
A: 実は徳三郎と恋仲だったからです。様々な理由をつけて見合いを断っていたのは、徳三郎以外の男性と結婚したくなかったためです。
Q: 定吉はなぜ最初隠そうとしたのですか?
A: お嬢様と徳三郎の仲を知っていたので、話すとまずいことになると分かっていました。しかし子どもらしい単純さと欲に釣られて、段々と本当のことを話してしまいます。
Q: なぜ徳三郎は暇を出されたのですか?
A: 江戸時代の商家では、主人の娘と奉公人の恋愛は身分違いとして許されませんでした。徳三郎がどんなに優秀でも、この関係が明らかになった以上、店に置いておくことはできなかったのです。
Q: この噺は江戸落語ですか?上方落語ですか?
A: 「花見小僧」は江戸落語の演目です。向島や柳橋など江戸の地名が登場し、江戸の商家文化を反映しています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 旦那と定吉のやり取りを軽妙に演じ、人情味あふれる語り口で知られます。
- 柳家小三治 – じっくりとした語り口で、定吉の子どもらしさと旦那の複雑な心情を丁寧に描き出す演出が特徴です。
- 春風亭一朝 – テンポの良い語り口で、定吉の愛らしさを引き立てる演出が人気です。
- 柳家喬太郎 – 現代的な感覚を加えながらも、古典の良さを残した演出で若い世代にも親しまれています。
関連する落語演目
同じく「店噺」の古典落語
「人情噺」がテーマの古典落語
「小僧」が活躍する古典落語
江戸落語の他の名作
この噺の魅力と現代への示唆
「花見小僧」の最大の魅力は、旦那と定吉のやり取りの巧妙さです。旦那は娘の恋仲を疑いながらも、直接的には問い詰めず、小僧を通して真相を探ろうとします。定吉は最初隠そうとしますが、お灸という脅しと休みと小遣いという餌に釣られて、段々と本当のことを話してしまう。この心理戦が見事に描かれています。
定吉の子どもらしい単純さと食い意地の張った性格が愛らしく表現されています。大福十八個、ゆで玉子十三個、煎餅二十八枚という誇張された数字は、子どもの食欲を面白おかしく描いています。また、くわいのきんとんを喉に詰まらせる場面など、小僧らしい失敗談も笑いを誘います。
江戸時代の花見の風俗が詳細に描かれている点も見どころです。柳橋からの舟遊び、向島の茶店、料理屋での食事、長命寺の桜餅など、当時の娯楽文化が生き生きと描かれています。旦那が長命寺の歴史や十返舎一九、芭蕉の句碑について語る場面は、江戸の教養人の知識の深さを示しています。
おせつと徳三郎の恋は、身分違いの恋として描かれています。商家の娘と奉公人という関係は、江戸時代には許されないものでした。しかし二人の親密な会話「お嬢さんではなくせつやと呼んで」という台詞は、若い二人の純粋な愛情を感じさせます。
最後に定吉が約束の休みと小遣いを要求する場面は、子どもの正直さと図々しさを表現した秀逸なオチです。真相を暴露した後でも、自分の権利を主張する定吉の姿は、江戸の庶民の逞しさを感じさせます。
実際の高座では、定吉が段々と本音を話していく過程や、旦那の複雑な心情など、演者の表現力が試される場面が多数あります。ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。







