五人廻し 落語|あらすじ・オチ「お前さんも帰っておくれ」意味を完全解説
五人廻し(ごにんまわし) は、花魁喜瀬川が五人の客を取りながら大尽の部屋から出てこない騒動を描いた廓噺の傑作。四人の客の個性的な苦情と、最後に「お前さんも帰っておくれ」と全員追い出す痛快なオチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 五人廻し(ごにんまわし) |
| ジャンル | 古典落語・廓噺 |
| 主人公 | 花魁・喜瀬川 |
| 舞台 | 吉原遊郭 |
| オチ | 「お前さんも、これを持って帰っておくれよ」 |
| 見どころ | 四人の客の演じ分け、痛快な結末 |
3行でわかるあらすじ
花魁の喜瀬川が五人の客を取ったが、杢兵衛大尽の部屋から出てこない。
待たされた他の四人の客が次々と怒り出し、若い衆が苦情処理に奔走する。
最後に杢兵衛が全員分の玉代を払うが、喜瀬川の一言で杢兵衛も追い出される。
10行でわかるあらすじとオチ
吉原で花魁喜瀬川が五人の客を取ったが、杢兵衛大尽の部屋に入ったきり出てこない。
最初の客は吉原の歴史を講釈し始め、玉代返還を要求して怒り出す。
二番目の客は説教じみた話をした後、ダイナマイトで脅すと言い出す始末。
三番目の客はサド趣味を露わにし、背中に東京市の刻印を押すと脅迫する。
四番目の客は買った女がいなくなったと畳まで上げて探し回る有様。
若い衆は四人の客の苦情処理に疲れ果て、喜瀬川の元へ相談に行く。
杢兵衛は事情を聞いて「田舎もんが」と呆れ、四人分の玉代四円を払う。
喜瀬川は安心してもう一円欲しいと言い、杢兵衛から受け取る。
しかし次の瞬間、その一円を杢兵衛に返して言う。
「お前さんも、これを持って帰っておくれよ」と、結局全員追い出してしまう。
解説
「五人廻し」は廓噺(くるわばなし)の代表的な演目で、明治末期から大正時代にかけて初代柳家小せんによって今日の演出が完成されました。一人の花魁が一夜に五人の客を取ることからこの題名が付けられています。
この噺の最大の見どころは、待たされた四人の客それぞれの個性的な反応と、演者による巧みな人物の演じ分けです。吉原通を自称する知識自慢の客、説教好きな客、変態的嗜好の客、江戸っ子気質の客など、各々の特徴を際立たせることで笑いを生み出します。
「まわし部屋」という吉原の実際のシステムを背景に、連夜の接客に疲れた花魁の本音を描いた作品でもあります。最後のオチでは、杢兵衛が他の客のために支払いをしたにも関わらず、喜瀬川によって結局全員が追い出されてしまうという痛快な結末が待っています。
演者にとっては登場人物が多く、風俗描写や各人物の性格付けに高度な技術を要する挑戦的な演目として知られています。戦時中の1940年には卑俗的であるとして上演禁止となった歴史もあり、江戸の遊廓文化を今に伝える貴重な文化遺産でもあります。
あらすじ
川柳に、「人は客我が身は間夫(まぶ)と思う客」、「女郎買いふられて帰る果報者」
五人の客を取った喜瀬川花魁(おいらん)、杢兵衛(もくべえ)大尽の部屋へ入ったきりで、他の客の廻し部屋には廻って行かない。
こうなると苦情処理係の若い衆(し)は忙しい。
初めの客は料理だけ食って出て行ったきり、待てど暮らせど姿を見せない三日月女郎、いや今宵は皆既月食か、喜瀬川を寝たふりをして待っている男の部屋。
若い衆「・・・もうじきお見えになります。しばらくご辛抱を・・・吉原には吉原の法、廓の法がございます・・・」、でカチンときた男、「・・・廓法だと・・・こちとら三つの時から大門をまたいでいるんだ。そもそも吉原というものは、元和三年の三月に・・・」、と長々と吉原の成り立ちやら仕組みやらをべらべらと講釈しだして、挙句の果ては玉代を返せときた。
こんな奴に長々と関わりあっちゃいられない、「・・・ごめんなさいまし、ただいまじきに喜瀬川おいらんが伺いましから」と、若い衆は逃げ出した。
すると、「おい、こらぁ、待てぇ、小使い、給仕・・・」と声が掛かった。
若い衆「・・・あたしのことで、へい、今晩は・・・・」と入ると、客は「貴様、何歳に相なる?」、「四十六歳になります」、「男子ともあろう者が、四十六にもなって、客と娼妓と同衾するを媒介して何が面白いか?・・・怠惰薄弱心からして、かかる巷の賤業夫に身をやつし、耳に淫声を喜々、目に醜態を見る。今日を無念夢想、空空寂寂と暮らしていて両親に申し分けが立つか」と、さんざん意見をした後、「ここに枕が二つ並べてあるが、一つはむろんわが輩が使用するとは分かっちゃおるが、さてもう一つは猫でもが使うのか?」なんて、しらじらしいことを言っている。
さらに「男子たるべき者が登楼する目的とは奈辺にあるか、女郎買いの本分たるや・・・・ただちに玉代を返せ!まごまごするとダイナマイトを仕掛けるぞ!」なんて、すっかり切れてしまって穏やかでない。
若い衆「今しばらくお待ちを、すぐに喜瀬川おいらんが伺いますので」と言って引き下がるしかない。
今度は、「廊下をかれこれとご通行になる君、ここへもお立ち寄りを」ときた。
若い衆が部屋へ入ると、「・・・いざお引け、閨中の場合となってから、そばに姫が侍っている方が愉快とおぼしめすか?はたまたご覧ぜられるごとく何人もおらん方が愉快とおぼしめすか、尊公のお胸に聞いてみたいねえ、おほほ・・・」だと。
若い衆「もうほどなくお見えになります。しばらくご辛抱を」、まではよかったが「・・・ちと尊公の背中を拝借したい。この焼け火ばしを尊公の背中へジューと当てがって、東京市の紋を書いてみたい・・・玉代を返せ!」と、サド趣味丸出しとなった。
東京産の牛肉じゃあるまいし、生身の身体に東京市の刻印なんか押されたらたまったもんじゃないと、若い衆は部屋を飛び出した。
またもや「ちょいと来てくんな、切り出し君・・・」、若い衆「・・・切り出し君というのは手前のことで・・・」、「そうだてめえだ。
てめえなんざあ、まだ妓夫(牛)の資格はねえや。牛のくずだから切り出し(小間切れ)でたくさんだ」と、まだ牛を引きずっている。
客「無くなりもんがあるんだ。
どうしても見っからねえ。ちょっと探して見てくれ」、「・・・畳の間に銀貨でもお落しで・・・」、
客「おれが買った女がいなくなっちまったんだ。畳を上げても出て来ない・・・玉代を返せ・・・」、畳まで上げるとはもう放っておけない、待ちぼうけを食わされている客たちは今や暴発寸前だ。
若い衆は急いで喜瀬川がいる杢兵衛大尽の部屋へ。
若い衆 「おいらん少しはほかも廻ってやってくださいよ」
喜瀬川 「あたしゃ、この人のそばを離れるのがいやなんだよ」
杢兵衛大尽 「おらぁと喜瀬川は年期(ねん)が明けたら夫婦(ひいふう)になる身だ。そしたらいつでもくっついていられるから、ちょっとほかも廻ってやれと言っただが・・・それで、ほかの客はなんちゅう言ってるかえ」
若い衆 「へえ、玉代を返せってんで」
杢兵衛大尽 「ふーん、田舎もんが、そんなざまだから女(あま)っ子にもてねえんだよ。花魁どうするべべえ」
喜瀬川 「玉代返して帰っておしまいよ」
杢兵衛大尽 「そうけえ、われがそう言うなら、玉はおらが出してやるべえ、・・・いくらだ?」
若い衆 「一人一円、四人(よったり)で四円で」、四円払って
杢兵衛大尽 「さあ、これでわれも安心してここにいられるぞ」
喜瀬川 「だけどもねえ、もう一円はずんであたしにくださいな」
杢兵衛大尽 「そうか、われがそう言うなら、さあ、一円やるべ。もらってどうするべ?」、一円受け取った
喜瀬川 「それじゃ、この一円あらためてお前にあげる」
杢兵衛大尽 「おらがもらってどうする?」
喜瀬川 「お前さんも、これを持って帰っておくれよ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 花魁(おいらん) – 吉原遊郭の最高位の遊女。位の高い花魁は客を選ぶ権利があり、この噺の喜瀬川もその一人です。
- 大尽(だいじん) – 金持ちの客のこと。遊郭で大金を使う太客を指し、杢兵衛はその典型です。
- 廻し部屋 – 一人の花魁が複数の客を次々と相手にするシステム。客は部屋で待ち、花魁が順番に訪れる仕組みです。
- 玉代(ぎょくだい) – 遊郭での遊興費のこと。花魁の場合は一晩で一円程度が相場でした。
- 若い衆(わかいし) – 遊郭で客の世話や雑用をする男性従業員。この噺では苦情処理に奔走します。
- 妓夫(牛) – 遊郭で客を案内したり荷物を運んだりする男性従業員。若い衆より下の立場です。
- 登楼(とうろう) – 遊郭に上がること。客として遊郭を訪れることを指します。
- 年季明け – 遊女の契約期間が終わること。この噺では杢兵衛が喜瀬川の年季が明けたら夫婦になると言っています。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ喜瀬川は杢兵衛の部屋から出なかったのですか?
A: 喜瀬川は杢兵衛を本当に愛していて、他の客に会いたくなかったからです。最後のオチで杢兵衛も追い出すのは、実は客全員と会いたくなかった、つまり休みたかったという本音が表れています。
Q: 一晩で五人の客を取るのは普通だったのですか?
A: 人気の花魁は一晩に複数の客を取ることがありました。これを「廻し」といい、客は花魁が来るまで部屋で待つシステムでした。ただし五人は多い方で、花魁の負担も大きかったでしょう。
Q: 玉代一円とはどのくらいの価値ですか?
A: 明治末期から大正時代の一円は、現代の価値で約2万円程度です。四人分で約8万円を杢兵衛が払ったことになります。
Q: なぜ戦時中に上演禁止になったのですか?
A: 1940年に「卑俗的」という理由で禁演落語に指定されました。遊郭を舞台にした内容や、客の変態的な発言などが問題視されたと考えられます。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 柳家小せん(初代) – 明治末期から大正時代にかけて活躍し、この噺の現在の演出を完成させた名人です。
- 古今亭志ん生(五代目) – 廓噺を得意とした昭和の大名人。四人の客の演じ分けが見事でした。
- 三遊亭圓生(六代目) – 各登場人物の性格付けと、吉原の雰囲気を見事に表現しました。
関連する落語演目
複数の登場人物を演じ分ける古典落語
花魁が登場する古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「五人廻し」は、江戸時代の遊郭文化を背景に、人間の欲望と感情の複雑さを描いた作品として、現代にも通じるテーマを持っています。
最大の魅力は、待たされた四人の客それぞれの反応の違いです。知識をひけらかす客、説教する客、変態的な客、江戸っ子気質の客。同じ状況でも人によって反応が全く異なる。これは現代のクレーマー対応にも通じます。サービス業で働く人なら、客の多様な反応に共感できるでしょう。
興味深いのは、若い衆の苦労です。彼は四人の客を相手に必死に言い訳し、なだめようとします。これは現代のカスタマーサポートやクレーム対応の仕事そのものです。理不尽な要求にも笑顔で対応しなければならない苦労は、今も昔も変わりません。
喜瀬川の立場も見逃せません。一晩に五人の客を相手にするという過酷な労働環境。しかし杢兵衛を本当に愛していて、他の客に会いたくない。最後に杢兵衛まで追い出すのは、実は誰にも会いたくなかった、つまり疲れ果てていたという本音の表れです。これは現代の過労やバーンアウトにも通じます。
杢兵衛の存在も重要です。他の客の玉代まで払う太っ腹な行動は、金で解決しようとする姿勢の表れです。しかし最後には喜瀬川に追い出される。金があっても全てが解決するわけではない、という教訓が含まれています。
現代への示唆として特に重要なのは、「待つことの苦痛」です。四人の客は待たされることに耐えられず、次々と暴発します。現代でも、待たされることへの不満は大きなストレス源です。レストランでの待ち時間、インターネットの読み込み時間、配送の遅延。人々の忍耐力は昔より低下しているかもしれません。
また、この噺は「期待と現実のギャップ」も描いています。客は花魁との時間を期待して来たのに、待たされて裏切られる。現代のサービス業でも、期待値管理は重要な課題です。
最後のオチは痛快です。杢兵衛が他の客のために支払いをして、ようやく喜瀬川と二人きりになれると思ったのに、結局追い出される。これは「思い通りにならない人生」の象徴です。金や権力があっても、相手の気持ちまではコントロールできない。この真実は、現代にも当てはまります。
実際の高座では、四人の客の演じ分けと、若い衆の奔走ぶりが見どころです。ぜひ実際の高座や動画でお楽しみください。





