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【古典落語】後家馬子 あらすじ・オチ・解説 | 母親の恋で娘投身の衝撃悲劇

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話芸の殿堂-古典落語-後家馬子
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後家馬子

3行でわかるあらすじ

後家のお竜が馬子(馬丁)の八蔵といい仲になり、親孝な娘のお櫛と対立してしまう。
母娘喧嘩がエスカレートしてお櫛が家を出て、八蔵に追いかけられ天満橋から川に身を投げる。
お櫛の叔父が漁で遺体を発見してお竜を責めるが、お竜は「馬子(孫)やもの」と駄洒落で答える。

10行でわかるあらすじとオチ

玉造の裏長屋で近所の女房たちが、後家のお竜が若い馬子といい仲になっていると噂している。
お竜が帰ってくると近所の女房たちと口喧嘩になり、家主が仲裁して事態を収める。
家に帰ったお竜が、親孝な娘のお櫛に馬子の八蔵が来るから酒を買ってくるように頼む。
お櫛が八蔵を「お父つあん」と呼ぶことを拒むと、お竜が怒って煮えた鉄瓶を投げつける。
お櫛が家を飛び出し、遅れて酔った八蔵がやってきてお櫛を追いかける。
お櫛は天満橋まで逃げるが男の足にはかなわず、最後は橋から川に身を投げて死んでしまう。
八蔵は助けられず、罪悪感からお竜の家を去ろうとするが、お竜に引き止められる。
そこへお竜の義弟(死んだ夫の弟)の義助がやってきて、漁でお櫛の遺体を上げたと告げる。
義助がお竜を責めると、お竜は「可愛いのうてか、馬子(孫)やもの」と答える。
「馬子(ばこ)」と「孫(まご)」を掛けた駄洒落オチで悲劇が終わる。

解説

「後家馬子」は古典落語の中でも特に重いテーマを扱った作品で、母親の恋愛と娘の親孝心が対立した末に起こる悲劇を描いています。

特に上方落語で演じられることが多く、関西弁の情趣を生かした作品です。
親孝な娘お櫛が、母親お竜の恋人である馬子(馬丁)の八蔵を父親と認めることを断固として拒み、最終的には投身という極端な選択をする様子が描かれています。

しかし最後のオチでは、お竜が「可愛いのうてか、馬子(孫)やもの」と答えることで、「馬子(ばこ)」と「孫(まご)」の音の類似を利用した駄洒落落ちとなっています。

この突然の駄洒落によって重い雰囲気が一転し、落語らしい結末を迎える構成になっています。

この作品は家族問題や社会的モラルを扱った重厚なテーマの落語として知られています。

あらすじ

玉造のお稲荷さんの近くの裏長屋。
井戸端で近所のかみさんたちが集まって喋っている。
お松 「・・・いまに子どもが大きくなってみなはれ、年取ってから楽ができるやないか。奥のお竜はん、娘のお櫛さんが親孝行やさかい、ほんまに結構やし・・・」

お竹 「ほんに、そやなあ、お櫛さんこのごろ髪結いの弟子になったんや。
正直で親孝行な子やで。
それに引きかえ、お竜はん。この頃、若い博労やとか、馬方はんとできてるのやそうな・・・」、そこへ風呂上がりのお竜さんが帰って来た。

お竹 「まあ、お竜はん。きれいに髪結うて、ええ絣着てなはるなあ」

お竜 「お櫛がちょっと結うて、この絣もお櫛が買うてくれましたんや」、羨みとやっかみ半分で、

お松 「あんた、この頃、若い男の人がでけてるそうやな。聞けば馬方はんやとか・・・」

お竜 「わての男が馬方だろうと、博労だろうとほっときなはれ。べつにあんたの世話にはなりしまへんで」、だんだんと口喧嘩がエスカレートして、取っ組み合いの喧嘩にまで発展する勢いだ。
ちょうど通り掛かった家主が二人の間に入ってなんとかその場はおさまってお竜は家に帰った。

お櫛 「お母(か)はん、ただいま」

お竜 「遅かったじゃないか。
酒が足らんのや。
あの人が来るんや。買うてきておくれ」

お櫛 「あの人て、あの馬方はんだっか」

お竜 「馬方やなんて、今はあんたのお父っつあんやないか」

お櫛 「わてのお父っつあんは仏壇の位牌のお父っつあんしかおまへん」

お竜 「まあ、この子までわてを馬鹿にして・・・」、煮えくりかえった鉄瓶をお櫛めがけて投げつけた。
寸前でよけたお櫛は家を飛び出して行った。

すれ違いに入って来たのが馬方の八蔵で、酔って足がふらついている。
お竜 「あ、八っつあん、ええとこへ来てくれはった。早う、お櫛をつかまえて・・・」、八蔵に追われたお櫛は城の馬場から天満橋まで来たが、何せ男の足にはかなわない。
もうここまでと、橋の真ん中から川の中へドブーンと身を投げてしまった。

八蔵 「お櫛!・・・わしは、何でまたこんなとこまで追うて来たんやろ・・・雨で水かさが増えてとうてい助かるまい。・・・迷わず成仏してくれよ」と、手を合わせるばかり。
お竜の家に戻ると、

お竜 「おお、お櫛はどうしました?」

八蔵 「・・・見失のうてしもた。・・・もうこの家には来んわ。
どうせ、今日の親子喧嘩もおれのせいで起こったのやろ。このままお櫛が帰らんようなら世間に顔向けでけんやないか」

お竜 「お櫛がいのうても、あんたの一人ぐらいはわてが養うてみせるわ」

八蔵 「そんなら、我が子が死んでもおれを思うてくれるか」

お竜 「もちろんやがな。さあ、機嫌なおして、いっぱい飲んでくれなはれ」、二人が差し向かいでしんみりと飲んでいると、お竜の死んだ亭主の弟、、お櫛の実父の弟の儀助がやって来た。
お竜は八蔵を押し入れに隠して戸を開けた。

儀助 「えらいご無沙汰してます。・・・わたい漁が好きなもんで天満橋の下で網を打ってますと、何かどっしりとしたもんがかかりました。
引き上げてみるとこれが若い女。
まだぬくみがあるので水を吐かせてみると、これがお櫛やおまへんか。
わけを聞いてびっくり、近所で聞いてもお櫛と同じこと。
近頃、姉貴、えらいお楽しみができたそうな。兄貴が生きている時分には、蝶よ花よと育て上げたお櫛が、あんなことになったら、世間にも済むまいと、・・・そないに、博労とか馬方とかが可愛いか、姉貴」

お竜 「可愛いのうてか、馬子(孫)やもの」


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 後家(ごけ) – 夫に先立たれた女性のこと。江戸時代は後家の再婚は珍しくありませんでしたが、娘との関係が問題になることもありました。
  • 馬子(ばこ) – 馬の世話をする人、馬丁のこと。江戸時代は身分の低い職業とされていました。オチでは「孫(まご)」と掛けられます。
  • 馬方(うまかた) – 馬を使って荷物を運ぶ仕事をする人。馬子と同じような意味で使われます。
  • 博労(ばくろう) – 牛馬の売買を仲介する商人。この噺では馬関係の職業として登場します。
  • 玉造稲荷 – 大阪市中央区にある神社。この噺の舞台となる裏長屋の近くという設定です。
  • 髪結いの弟子 – 髪を結う職人の見習い。お櫛は親孝行のため髪結いの弟子として働いています。
  • 天満橋 – 大阪市中央区にある橋。大川(旧淀川)に架かる橋で、お櫛が身を投げる場所です。
  • 絣(かすり) – 織物の一種。この噺ではお櫛が母親のために買った着物として登場します。

よくある質問(FAQ)

Q: なぜお櫛は八蔵を父親と認めなかったのですか?
A: 亡くなった実父への敬意と孝心からです。江戸時代の親孝行の美徳として、亡き父の位牌を大切にし、母親の再婚相手を簡単には受け入れられない娘の心情が描かれています。

Q: なぜお竜は鉄瓶を投げたのですか?
A: 娘からも近所からも非難され、追い詰められた母親の感情の爆発です。恋愛感情と母親としての立場の間で葛藤していたお竜の苦しみが表れています。

Q: 最後の駄洒落オチは不謹慎ではないですか?
A: これは落語特有の「重い話を軽く落とす」技法です。娘の死という悲劇を、駄洒落で締めくくることで、聴衆に考えさせる余韻を残す効果があります。お竜の心情の複雑さを表現しているとも解釈できます。

Q: この噺は実話に基づいていますか?
A: 直接的な実話ではありませんが、江戸時代の後家と子供の関係、親の再婚に対する子の葛藤は実際にあった社会問題でした。落語はそうした現実を反映しています。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 桂米朝(三代目) – 上方落語の人間国宝。お竜とお櫛の母娘の葛藤を丁寧に描き、重いテーマを見事に演じました。
  • 桂春団治(二代目) – 上方落語の名人。お櫛の親孝心とお竜の恋心の対比を鮮やかに表現しました。
  • 桂枝雀(二代目) – 独特の表現力で、悲劇とユーモアのバランスを絶妙に演じ分けました。

関連する落語演目

同じく「親子の葛藤」を描いた古典落語

重いテーマを扱った古典落語

この噺の魅力と現代への示唆

「後家馬子」は、親の恋愛と子の親孝心の対立という普遍的なテーマを扱った作品として、現代にも通じる深いメッセージを持っています。

最大の魅力は、誰が悪いとは言えない複雑な人間関係です。お竜は夫を亡くして寂しかっただけ、お櫛は亡き父への孝心と母親を思う気持ちからの行動、八蔵も好きな女性を追いかけただけ。それぞれに正当な理由があり、誰も完全に悪いわけではない。この複雑さが、現代の家族問題にも通じます。

特に現代的なのは、親の再婚と子供の葛藤というテーマです。離婚や再婚が増えた現代社会では、連れ子と継親の関係は大きな社会問題です。お櫛の「位牌のお父っつあんしかおまへん」という言葉は、継父を受け入れられない子供の心情を代弁しています。

お竜の立場も見逃せません。夫を亡くして寂しい、しかし娘のために我慢すべきか。母親である前に一人の女性でもある。この葛藤は、現代のシングルマザーにも共通する悩みです。子供のために恋愛を諦めるべきか、自分の幸せも追求していいのか。

興味深いのは、近所の女房たちの噂話です。他人の恋愛を面白おかしく噂し、当事者を追い詰める。現代のSNSでの誹謗中傷や、ワイドショーの過剰な報道に通じる構造です。社会の目が人を追い詰める怖さを描いています。

お櫛の投身という極端な選択は、逃げ場のない若者の心情を表現しています。母親と八蔵の板挟みになり、近所の目もあり、どこにも居場所がない。現代の若者の自殺問題にも通じる深刻なテーマです。

最後の駄洒落オチは、一見不謹慎に見えますが、実は深い意味があります。お竜は娘を失っても八蔵を選ぶのか、それとも駄洒落で誤魔化すしかない複雑な心境なのか。この曖昧さが、人間の心の複雑さを表現しています。

また、この噺は「親孝行の過剰さ」も問題提起しています。お櫛は親孝行のために働き、母親のために着物を買う。しかし母親の幸せまでは考えていない。「親孝行とは何か」を考えさせられます。

現代への最大の示唆は、「誰も悪くないのに悲劇が起こる」という構造です。それぞれが自分の立場で正しいと信じて行動した結果、取り返しのつかない事態になる。これは現代の家族問題、職場の問題、国際問題にも通じる普遍的なテーマです。

実際の高座では、お竜の複雑な心情、お櫛の純粋な親孝心、そして最後の駄洒落の間が見どころです。ぜひ実際の高座や動画でお楽しみください。

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