月宮殿星の都
3行でわかるあらすじ
鰻屋の主人が鰻を捕えようとして屋根に上がるが、鰻が竜に変身して天界に連れて行かれる。
雷の五郎蔵に出会い、天界の遊郭や月宮殿を見物しながら、五郎蔵のへその佃煮を盗む。
久米仙人の穴から地上に落ちて帰った主人を、女房が柄杓で打つオチで終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
素人鰻屋の主人が鰻を捕えようとして悪戦苦闘し、梯子で屋根まで追いかける。
突然の雷雨で虚空蔵菩薩のお使い姫の鰻が竜に変身し、鰻屋をぶら下げたまま天界に舞い上がる。
気がつくと天界で、雷の五郎蔵が珍しい人間を歓迎して家に招く。
五郎蔵の案内で天界を巡り、乙女座やさそり座など星座の名前がついた遊郭を見物する。
月宮殿ではほうき星たちが掃除しており、地下室には五郎蔵が集めた人間のへそを佃煮にした物が保存されている。
鰻屋はその香りに誘われてひとつまみ食いすると、あまりの美味しさに鰻より商売になると考える。
五郎蔵が上に報告に行った隙に葛籠を背負って逃走を図るが、追いかけられる。
芝居好きの鰻屋が「五右衛門が葛籠負うたがおかしいか」と台詞を吐きながら逃げ回る。
最後は久米仙人の穴にはまって地上に落下し、女房に柄杓で打たれる。
「へそ(江戸)の敵を長杓(長崎)で打った」という駄洒落オチ。
解説
「月宮殿星の都」は幻想的な天界を舞台とした大型の古典落語で、特に上方落語で演じられることが多い作品です。
天文学的な知識を駆使して、星座の名前を遊郭の店名にしたり(乙女座、さそり座)、「正座(星座)」と「正座」を掛けた言葉遊びなど、高度なユーモアが盛り込まれています。
また、鰻屋が芝居好きという設定で、逃げる時に歌舞伎の名作「楽屋」の五右衛門の台詞を吐く場面は、落語の中に芝居の要素を組み込んだ巧みな演出です。
最後の「へそ(江戸)の敵を長杓(長崎)で打った」というオチは、地名を使った駄洒落で、長い天界の冒険を締めくくるユーモラスな結末となっています。
この作品は落語の中でも特にスケールの大きな奇想天外物として知られています。
あらすじ
素人鰻の主人が今日も鰻をつかまえようとして悪戦苦闘だ。
手の間からするすると上に逃げて行く鰻を追って行くうちに、梯子を掛けて屋根まで上ってしまった。
すると突然の雷雨となって虚空蔵菩薩のお使い姫の鰻は竜のように変身して、鰻屋をぶら下げたまま大空高く舞い昇ってしまった。
「おい、しっかりしろ」の声で気が付くと、虎皮の褌(ふんどし)で赤裸、背中にいくつも太鼓を背負っている男が立っている。
鰻屋 「ココハドコ、アナタハダレ?」
五郎蔵 「ここは中天だ。
俺は雷の五郎蔵だ。
人間が上がって来るとは珍しい。下界の話も聞きたいから家に来いや」、ということで五郎蔵の家へ、
鰻屋 「立派な門ですね」、「雷門だ」、五郎蔵の家で一杯飲みながら下界のことをいろいろと話してやると、
五郎蔵 「よし、今度は俺が天界を案内してやろう。ついて来い」、しばらく行くと周りを柵で囲ったところがある。
五郎蔵 「気をつけろ、ここが久米仙人が地上へ落ちた穴だ」、カタカタカタカタと音が聞こえて来る。
五郎蔵 「織物工場で機織り姫の部下の星たちが虹を織っている音だ」、しばらく行くと格子の中に綺麗な女たちが座っている。
五郎蔵 「ここは遊郭で、この店は乙女座だ」
鰻屋 「へぇ、さすが天界ですな。
吉原なんぞと違ってみんなお行儀よく正座(星座)していますな。あそこの店はみんなオネエさんみたいですな」
五郎蔵 「あぁ、あれは蠍(さそり)座の女たちだ」、立派な月宮殿が見えてきた。
前を大勢が箒(ほうき)で掃除している。
五郎蔵 「ほうき星たちが掃除しているんだ」、月宮殿の中はきらびやかでまるで竜宮城のようだ。
あちこち回って、
五郎蔵 「ちょっと仕事で地下室まで行くから一緒に来な」、薄暗い地下の一室の前に来るといい匂いが漂ってくる。
五郎蔵 「俺が集めた人間の臍(へそ)を佃煮にして保存してあるんだ。もうじき月宮殿の節分でばらまくから出来具合を見てみる」と、葛籠の蓋を開けて佃煮を試食している。
五郎蔵 「よっしゃ、ちょっと上に行って報告して来るからここで待っててくれ」と行ってしまった。
鰻屋はあまりのいい香りについへその佃煮を一粒つまんで食べてみるとその美味い事、頬っぺたが落ちそうだ。
これは鰻より商売になると葛籠を背負って逃走を図る。
あちこち下に降りるところを探しているうちに、葛籠が盗まれたのを発見した五郎蔵が部下たちと追って来た。
五郎蔵 「太え野郎だ。
せっかく助けてやった恩も忘れやがって。おとなしく葛籠を置いてお縄につきやがれ!」
芝居好きな鰻屋 「五右衛門が葛籠負うたがおかしいか」、なおも逃げ回っているうちに久米仙人の穴にスポッとはまってしまった。
風に吹かれながらどさっと落ちたのが、ちょうど鰻屋の裏口。
かみさんが日和がいいのに空から変なもんが落っこちてきたと、長い柄杓で頭をめった打ち、よく見るとこれが亭主でびっくり。
かみさん 「鰻とどこで遊んで来たんだよ」
鰻屋 「雷のとこから土産にへその佃煮盗んで来た。なんでおれを杓で打ったんだ」
かみさん 「へそ(江戸)の敵(かたき)を長杓(長崎)で打(討)ったんだよ」
さらに詳しく知りたい方へ
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 中天(ちゅうてん) – 天の真ん中、天界のこと。仏教用語では極楽浄土や天上界を指します。
- 雷門(かみなりもん) – 雷の五郎蔵の家の門。浅草の雷門にかけた言葉遊びです。
- 久米仙人(くめせんにん) – 天界に住んでいた仙人が、洗濯する女性の白い脛を見て欲情し、神通力を失って地上に落ちたという伝説の人物。
- 虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ) – 仏教の菩薩の一つで、知恵と記憶を司る仏様。鰻は虚空蔵菩薩の使いとされています。
- 星座(せいざ) – 天体の星の配列。この噺では「正座」とかけて言葉遊びになっています。
- 葛籠(つづら) – 竹や葛の蔓で編んだ衣類や物を入れる籠。背負って運べる大きさのものです。
- へその佃煮 – この噺の架空の食べ物。雷様が人間のへそを集めて作った佃煮という設定です。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ雷様はへそを集めるのですか?
A: 「雷様はへそを取る」という民間伝承があります。雷雨の時に子供がへそを出して寝ていると雷様に取られるという言い伝えで、これは子供が腹を冷やさないための教えでした。
Q: 「五右衛門が葛籠負うたがおかしいか」はどういう意味ですか?
A: 歌舞伎「楼門五三桐」の名台詞「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」を吐く石川五右衛門の場面を模した言葉です。芝居好きの鰻屋が盗人になりきって演じています。
Q: 「へその敵を長杓で打った」のオチの意味は?
A: 「江戸の敵を長崎で討つ」という慣用句(別の場所で仕返しをする意味)と、「へそ」と「江戸」、「長杓(柄の長い柄杓)」と「長崎」をかけた駄洒落です。
Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 主に上方落語の演目として知られています。幻想的なストーリーと壮大なスケール感が上方落語らしい作品です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目桂米朝 – 上方落語の大家として、この噺の幻想的な世界観を見事に表現しました。人間国宝。
- 六代目笑福亭松鶴 – 上方落語の重鎮として、雷の五郎蔵のキャラクター造形に定評がありました。
- 桂枝雀 – 独特のテンポと表現力で、天界の冒険を躍動感あふれる語り口で演じました。
- 桂文珍 – 現代的な演出を加えながら、この噺の奇想天外な面白さを引き出しています。
関連する落語演目
同じく「奇想天外」な古典落語
「天界・異世界」が舞台の古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「月宮殿星の都」は、落語の中でも特に想像力を刺激する壮大な作品です。
鰻屋という庶民が天界に上がり、星座が遊郭の名前になっていたり、ほうき星が実際に箒で掃除していたりと、天文学的な知識をユーモアに変えた発想の豊かさが光ります。江戸時代の人々も星空を見上げて想像を膨らませていたことが伝わってきます。
現代では宇宙開発や天体観測が進み、科学的な知識が増えましたが、この噺のような自由な想像力は失われつつあるかもしれません。しかし、ファンタジーやSF作品が人気なのは、やはり人間には日常を離れた別世界への憧れがあるからでしょう。
また、恩人から盗みを働いてしまう鰻屋の人間臭さも面白い点です。天界での冒険という非日常から、女房の柄杓で打たれる日常への落差も、落語らしい庶民的な結末です。
実際の高座では、雷の五郎蔵の豪快さ、天界の描写の豊かさ、鰻屋の芝居がかった台詞など、演者の個性が光る大ネタです。






