ふぐ鍋
3行でわかるあらすじ
大橋が旦那の家でふぐ鍋をごちそうになるが、二人ともふぐの毒を恐れている。
旦那がお菰さん(ホームレス)に毒のありそうな部分をあげて、様子を見に行かせる。
お菰さんが大丈夫だったので二人でふぐを完食したが、最後にお菰さんが戻ってくる。
10行でわかるあらすじとオチ
温泉巡りから帰った大橋が土産を持って旦那の家を訪問する。
旦那はちょうどふぐ鍋を始めようとしており、大橋を誘う。
しかし二人ともふぐの毒を恐れており、誰かに毒見させてから食べたいと考えている。
そこへお菰さん(ホームレス)がやってきたので、旦那が毒のありそうな部分を選んで分けてやる。
大橋がお菰さんの後をつけて様子を見に行くと、お堂の前で居眠りしている。
大橋が「しびれる〜、しびれる〜」と寒言を言っていたと冗談を言って旦那を驚かす。
しかし実際は大丈夫だったので、二人でふぐを美味しく完食してしまう。
するとお菰さんが再びやってきて旦那に会いたいと言う。
旦那が「もう全部食べてしまった」と答えると、お菰さんは「ほな、わたいもゆっくり頂戴いたします」と言うオチ。
解説
「ふぐ鍋」は江戸時代から続く古典落語の一つで、ふぐの毒を恐れる人間のコッケイな性格と、社会の弱者への残酷な扱いを描いた作品です。
特に旦那がお菰さん(ホームレス)に意図的に毒のありそうな部分を分けて毒見させるという行為は、現代の観点から見ると非常に問題のある内容です。
しかし最後のオチでは、お菰さんが再び戻ってきて「わたいもゆっくり頂戴いたします」と言うことで、実は毒見された側が一番見識があったという皆肉を効かせており、古典落語特有の毒のある笑いを生み出しています。
この作品は関西弁で演じられることが多く、上方落語の代表作の一つとして親しまれています。
あらすじ
あちこちの温泉を巡って来た大橋さんが、土産を持って世話になっている旦那の所を訪れた。
ちょうど、鍋料理で酒を飲み始めようとしていた旦那、「あんたちょっと付き合はへんかい」
大橋さん 「へえ、それではお言葉に甘えまして」と、早速、一杯飲んだ大橋さん、「こらぁ、結構なお酒で、銘柄は何ちゅうまんのや」
旦那 「犬乃盛や。
猫乃盛の兄弟酒や。あんた鍋食べなはれ」
大橋さん 「鍋にはちょっと歯が立ちませんで・・・あぁ、さよか、この鍋料理で、・・・中身は何が入って・・・白菜、椎茸、豆腐・・・この間からのぞいているのは何でおます?」
旦那 「テツやがな」、「八幡製鉄所の?」
旦那 「これは・・ぐや、・・んぐ」、「何ですねん」
旦那「ふぐや、ふぐや、てっちりや」
大橋さん 「ちょっと用事を思い出しましたので、失礼を・・・」
旦那 「何や、ふぐが怖いのんか」
大橋さん 「昔から、”あたらぬがある故 河豚(ふぐ)のこわさかな”、とも”おつですと言えどふぐには手を出さず”、とも言いまっしゃろ。孫の顔、二、三人見た暁には、なんの心残りもなく頂戴いたします」、ふぐが怖いのは旦那も一緒。
誰かに毒味させてから食べようという魂胆だが、あてがはずれて困っていると、
奥さん 「いつものお菰さんが台所へ・・・」、しめたこれだと思った旦那はふぐの毒のありそうな所を選んでお菰さんに分けてやった。
旦那は大橋さんに、「あんた、お菰さんの後つけて様子見て来てくれなはれ」、「ほい、がってん」と、表へ行った大橋さん。
しばらくすると戻って来て、「大丈夫でんがな。お菰さんはお堂の前で座ったので、町内を一回りして来たらお菰さん、コックリ、コックリと居眠りしてますねん」
旦那 「えっ、そのまま眠り続けたままちゅうことはないやろな」
大橋さん 「いびきかいて、寝言言うとりました。”しびれる~、しびれる~”ちゅうて・・・はっは、嘘です、冗談です」
旦那 「あっそう、じゃあこれ大丈夫やな。ほなら早よ食べよ」、「へぇ、食べまひょ」だが、まだ、「どうぞ、あんたから」、「そういう旦さんから」と、煮え切らず押し付け合っている。「それじゃ、一、二の三で」と、まるで子どもみたいなことを言って、やっと二人はふぐを口の中に入れた。
その美味いこと。
あとは夢中に、我れ先にとふぐをめがけて箸の先陣争いだ。
すぐに無くなってあとは雑炊にして満腹、満腹。
すると奥さんが、「またさっきのお菰さんが来ましたんねん。今度は旦さんに会いたい言うて」
旦那 「ふぐの味しめよってまた来とるんや。追い返してしまいなはれ」、すると庭に回って来たお菰さん「もう、みなお召し上がりなりましたかいのう?」
旦那 「ああ、このとおりすっくり食べてしもうたがな」
お菰さん 「ほな、わたいもゆっくり頂戴いたします」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 河豚鍋(ふぐなべ) – フグを使った鍋料理。江戸時代は毒があるため禁止されていましたが、隠れて食べる者がいました。
- 当たる – フグの毒に中毒すること。命に関わる危険がありました。
- 船場(せんば) – 大阪の商業地区。豪商が多く住んでいた地域です。
- 按摩(あんま) – マッサージ師。江戸時代は盲目の人が多く従事していました。
- お菰さん(おこもさん) – 按摩の女性の愛称。「菰」は藁むしろを意味し、按摩が座る敷物から来ています。
- 旦那(だんな) – 商家の主人。裕福な商人を指す敬称でもありました。
- 女中(じょちゅう) – 商家で働く女性使用人。家事全般を担当しました。
よくある質問(FAQ)
Q: 江戸時代にフグは食べられたのですか?
A: 禁止されていましたが、隠れて食べる人がいました。特に上方(関西)では密かに珍味として楽しまれていました。
Q: なぜお菰さんは旦那の死を信じなかったのですか?
A: フグ鍋を食べたいという欲望が強すぎて、死んだという嘘を見抜いたからです。または、日頃から旦那の性格を知っていたとも解釈できます。
Q: オチの意味を教えてください
A: 旦那が死んだふりをしてもお菰さんは騙されず、「もう食べ終わったなら私がゆっくり食べます」と言い返すという、欲望の強さを表すオチです。
Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 上方落語の演目です。船場など大阪の地名が登場し、関西弁で演じられます。
Q: フグの毒で本当に死ぬことはありますか?
A: はい、フグ毒(テトロドトキシン)は非常に強力で、適切な処理をしないと死に至ります。江戸時代も現代も変わらず危険です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 桂米朝(三代目) – 上方落語の人間国宝。旦那とお菰さんの駆け引きを絶妙に表現しました。
- 桂枝雀(二代目) – エネルギッシュな語り口で、フグを巡る欲望の戦いを面白おかしく演じました。
- 桂文枝(六代目) – 現代的な感覚を加えながら、古典の味わいを残した演出が特徴です。
- 桂南光(三代目) – 軽妙な語り口で、旦那の困惑とお菰さんのしたたかさを描きます。
関連する落語演目
同じく「食べ物」がテーマの古典落語
「商人・旦那」が登場する古典落語
「上方落語」の他の名作
この噺の魅力と現代への示唆
「河豚鍋」のオチは、旦那が死んだふりをしてもお菰さんは全く騙されず、逆に「ゆっくり食べます」と言い返すという、欲望の強さを描いた秀逸な結末です。フグを食べたいという欲望が、死の恐怖すら上回る人間の本性を示しています。
この噺の魅力は、禁断の美味を巡る人間の欲望と駆け引きを描いている点です。江戸時代は幕府がフグ食を禁止していましたが、それでも隠れて食べる人がいたという歴史的事実を反映しています。禁止されているからこそ余計に食べたくなるという人間心理が見事に表現されています。
現代的な視点で見ると、この噺は「欲望のコントロール」という普遍的なテーマを扱っています。旦那は按摩を独り占めしようとして嘘をつきますが、お菰さんの方が一枚上手です。小さな嘘はすぐにバレるという教訓も込められています。
また、按摩という職業の人々の生活や、商家の風俗を知ることができる貴重な作品でもあります。お菰さんの「ゆっくり頂戴いたします」という台詞には、したたかさと図太さが表れており、江戸時代の庶民の逞しさを感じさせます。
実際の高座では、旦那の困惑、女中の慌てぶり、お菰さんのしたたかさを演じ分ける演者の技量が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。










