銭湯覗き騒ぎ
江戸時代の銭湯は、男女が同じ建物で入浴する混浴が一般的でしたが、のれんや簾で仕切られていました。
とはいえ、男というのは昔からスケベなもので、ちらりと女湯を覗こうとする不届き者もいたわけです。
今回は、そんな江戸の銭湯で起こった覗き騒動を新作落語にしてみました。
男の性と江戸っ子の粋、そして見栄が複雑に絡み合うドタバタ劇をお楽しみください。
まくら
江戸の銭湯は庶民の憩いの場でしたが、同時に男女の駆け引きの場でもありました。
特に若い男性にとっては、女性の裸体を一目見ようと、あの手この手で工夫を凝らすものでした。
もちろん、そんな不埒な企みはたいてい失敗に終わるのですが、その過程で起こる騒動がまた面白いのです。
あらすじ
江戸の下町にある「梅の湯」。
常連の職人・熊吉は、最近通い始めた美しい女性客のお花が気になって仕方がない。
ある日、親友の八っつぁんと一緒に、女湯を覗く計画を立てるが…
湯上がりの夕方、熊吉は番台の主人・源さんに湯銭を払いながら、そわそわと落ち着かない様子だった。
【計画の相談】
熊吉が銭湯の外で八っつぁんを待っていると、向こうから慌てたような足取りでやってくる。
八っつぁん「よう熊、待たせたな」
熊吉「遅えじゃねえか。もう日が暮れちまう」
八っつぁん「悪い悪い。で、例の話だが…」
熊吉は辺りをきょろきょろと見回し、八っつぁんの袖を引っ張って路地の陰に引きずり込んだ。
熊吉「声が大きいよ。誰かに聞かれたらどうすんだ」
八っつぁん「そんなに慌てるなって。で、本当にやるのかい?」
熊吉「やるって…そりゃあ…」
熊吉は顔を赤くしながら、手をもじもじと擦り合わせている。
【美女への憧れ】
八っつぁん「お花って女は、そんなに美人なのかい?」
熊吉「美人なんてもんじゃねえ。まるで浮世絵から抜け出てきたみてえだ」
熊吉は両手を宙に描くように動かしながら、うっとりとした表情を浮かべる。
熊吉「色白で、髪は艶々、おまけにスタイルときたら…」
八っつぁん「スタイルって、どんな?」
熊吉「それを確かめてえんだよ!」
熊吉は拳を握りしめ、興奮のあまり小刻みに震えている。
【作戦会議】
八っつぁん「でも、どうやって覗くんだい?番台の源さんに見つかったら大変だぜ」
熊吉「それなんだが…屋根裏から覗く方法を考えたんだ」
熊吉は地面に棒切れで建物の図を描き始める。手が震えているため、線がふらふらと曲がっている。
熊吉「ここが女湯の天井だろ?この辺りに穴を開けて…」
八っつぁん「穴って、どうやって?」
熊吉「小刀で少しずつ削るんだ」
八っつぁんは呆れたような顔で腰に手を当て、首を振っている。
【実行の夜】
その夜、二人は銭湯の屋根によじ登った。熊吉は腰に小刀を差し、八っつぁんは見張り役として辺りをうかがっている。
屋根瓦の上で這うように移動する熊吉。汗びっしょりになりながら、目的の場所を探している。
熊吉「ここら辺が女湯の上だと思うんだが…」
八っつぁん「本当に大丈夫かよ。落ちたらどうするんだ」
熊吉は小刀を取り出し、震える手で天井板に当てがう。しかし、緊張のあまり手に力が入らない。
熊吉「うまく切れねえ…」
八っつぁん「そりゃそうだろ、手が震えてるじゃねえか」
【予期せぬ展開】
そのとき、熊吉が体重をかけすぎた天井板が、ミシミシと音を立て始める。
熊吉「やべえ!」
ドサッ!
熊吉は女湯の真ん中に落下してしまった。湯気の中から突然現れた男に、女性たちは大騒ぎ。
お花「きゃー!覗き!」
他の女性客「変態よ!」
熊吉は湯船の中でバシャバシャと暴れながら、必死に立ち上がろうとするが、石鹸で滑って何度も転ぶ。
【番台の主人登場】
源さん「何事だ!」
番台から飛び出してきた源さんが、手ぬぐいを腰に巻いただけの熊吉を見つけて仁王立ちになる。
源さん「熊吉、てめえ何してやがる!」
熊吉「これは…あの…天井の修理を…」
源さん「修理だと?ふざけるな!」
源さんは手に持った柄杓で、熊吉の頭を思い切り叩く。ゴン!
【言い訳の連発】
熊吉「痛てえ!源さん、話を聞いてくれよ」
源さん「聞くもクソもあるか!女湯に落ちといて何が修理だ」
熊吉は両手を合わせて謝りながら、ちらりとお花の方を見る。すると、お花が手で胸を隠しながら、なぜかくすくすと笑っているのに気づく。
お花「あら、熊吉さん。そんなに私が見たかったの?」
熊吉は顔を真っ赤にして、慌てて目を逸らす。
【意外な真実】
源さん「お花、てめえこの馬鹿を知ってるのか?」
お花「ええ。いつも私のことを見てるの、気づいてたわよ」
お花は湯船に座ったまま、妙にリラックスした様子で話している。
熊吉「気づいてた?」
お花「当然よ。女は勘が鋭いのよ」
お花は手で髪をかき上げる仕草を見せる。その色っぽい動作に、熊吉はまた見とれてしまう。
【衝撃の告白】
お花「実を言うと、私も熊吉さんのことが気になってたの」
熊吉「本当か?」
お花「ええ。でも、こんな覗きなんてしなくても良かったのに」
お花は立ち上がって、タオルを体に巻きながら熊吉に近づいてくる。
お花「だって、お風呂上がりにお茶でもしませんかって声をかけてくれれば良かったじゃない」
熊吉「そ、そんな簡単な方法があったのか…」
源さんも呆れ果てて、頭を抱えている。
【最後の一撃】
お花「でも、これで熊吉さんの本性が分かったわ」
熊吉「本性って…」
お花「覗きをするような男性とは、お付き合いできません」
熊吉「えー!それじゃあ何のために屋根から落ちたんだ!」
まとめ
江戸の銭湯で繰り広げられた覗き騒動、いかがでしたでしょうか。
熊吉さんの不器用すぎる恋愛作戦は、見事に裏目に出てしまいましたね。
お花さんも最初は好意を持っていたのに、覗きという手段を選んだことで台無しになってしまいました。
男の性と恋愛における不器用さを、江戸の風情と共に描いた作品になったかと思います。
「何のために屋根から落ちたんだ」という最後のオチで、熊吉さんの哀愁を表現してみました。
自己採点は 85 点。状況描写と江戸の雰囲気をうまく織り込めたかなと思います。


