洗濯機の粗忽
昭和四十年代、全自動洗濯機なるものが登場しました。スイッチ一つで洗いから脱水まで、まるで魔法のような機械。しかし使い方を間違えると、とんでもないことに。今日は全自動洗濯機で起きた、粗忽者の珍騒動でございます。
まくら
えー、昔は洗濯ってぇのは大変な仕事でしてね。たらいに洗濯板、手がかじかんで、腰も痛くなる。それが全自動ってんですから、そりゃあもう革命です。ただね、新しい機械ってのは、説明書を読まねぇ粗忽者には鬼門でして。
本編
権助「おい、ついに買ったぞ! 全自動洗濯機!」
おかみ「まあ、本当? これで洗濯が楽になるわ」
権助「全自動だぜ。何もしなくていいんだ」
おかみ「でも、どうやって使うの?」
権助「簡単さ。洗濯物入れて、スイッチ押すだけだ」
おかみ「洗剤は?」
権助「洗剤? 全自動だから要らねぇだろ」
おかみ「そんなわけないでしょ」
権助「じゃあ、どこに入れるんだ?」
説明書を見る。
権助「なになに…『洗剤投入口に適量を』…投入口?」
おかみ「この穴じゃない?」
権助「ああ、これか。適量ってどのくらいだ?」
おかみ「さあ…」
権助「まあ、適当でいいだろ」
洗濯物を入れて、スイッチオン。
ガタガタガタ…
おかみ「すごい音ね」
権助「洗ってる証拠だ」
三十分後。
ピーピーピー
権助「おお、終わったぞ」
蓋を開ける。
おかみ「あら? 泡だらけじゃない」
権助「洗剤入れすぎたか」
おかみ「でも、まだ洗剤入れてないわよ」
権助「え? じゃあ何で泡が…」
よく見ると、昨日の味噌汁が洗濯機の中に。
おかみ「あなた! 味噌汁入れたの?」
権助「味噌汁? まさか…」
思い出す権助。
権助「あ! 昨日の残りを捨てようと思って…」
おかみ「洗濯機に捨てたの?」
権助「だって、穴があったから…」
おかみ「それは洗剤投入口よ!」
権助「そうだったのか…」
洗濯物を見ると、全部味噌の香りが。
おかみ「どうするのよ、これ」
権助「も、もう一回洗えば…」
再度スイッチオン。今度は水だけで。
ガタガタガタ…
隣の家から長吉がやってくる。
長吉「なんだい、いい匂いがするじゃねぇか」
権助「え? ああ…」
長吉「味噌汁か?」
おかみ「違うわよ」
権助「洗濯してるんだ」
長吉「洗濯で味噌の匂い?」
権助「いや、その…」
ピーピーピー
終了音。蓋を開けると、まだ味噌の香りが。
長吉「おお、本当に味噌の匂いだ」
権助「実はな…間違えて味噌汁入れちまって」
長吉「味噌汁? 洗濯機に?」
おかみ「そうなのよ。困ったわ」
長吉「でも、いい匂いじゃねぇか」
権助「そうか?」
長吉「新しい洗剤かと思ったぜ」
権助「洗剤…そうだ! 味噌洗剤!」
おかみ「何言ってるの」
権助「いや、考えてみりゃ味噌も洗剤も似たようなもんだ」
長吉「そうかぁ?」
権助「だって、汚れを落とすだろ?」
おかみ「味噌で汚れは落ちないわよ」
でも洗濯物を見ると、意外にきれいに。
権助「ほら見ろ! きれいになってる」
長吉「本当だ」
権助「これは大発見だぞ」
その日から権助は近所中に言いふらす。
権助「うちの洗濯機は味噌汁で洗濯ができるんだ」
近所の人「まさか」
権助「本当だって。全自動味噌汁洗濯機だ」
数日後、権助の家に人だかりが。
主婦A「本当に味噌汁で洗えるの?」
権助「もちろん! 実演してやる」
また味噌汁を入れる権助。
ガタガタガタ…
主婦B「すごい! 本当に回ってる」
権助「だろ? これが最新技術だ」
主婦C「でも、服に味噌の匂いが…」
権助「それがいいんだ。自然の香りだ」
おかみ「あなた、もうやめて」
権助「何言ってんだ。これは革命だぞ」
そこへ電器屋の主人が。
電器屋「権助さん、洗濯機の調子はどうです?」
権助「最高だよ! 味噌汁で洗濯ができる」
電器屋「は? 味噌汁?」
権助「そうだ。この投入口に味噌汁を入れるんだ」
電器屋「それは洗剤投入口ですよ!」
権助「洗剤? いや、味噌汁投入口だろ」
電器屋「違います! 説明書読みました?」
権助「説明書? そんなもん要らねぇ。俺が新しい使い方を発見したんだ」
電器屋「まったく…」
その夜、権助は考えた。
権助「味噌汁で洗濯ができるなら、洗濯機で味噌汁も作れるんじゃねぇか?」


