動物小咄六題
動物小咄六題(どうぶつこばなしろくだい) は、動物を題材にした6つの独立した短編落語を集めた演目で、言葉遊び・勘違い・ダジャレなど多彩なオチの技法が楽しめる傑作集。「あぶらやのう(危ないのう)」というダジャレで締めるオチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 動物小咄六題(どうぶつこばなしろくだい) |
| ジャンル | 古典落語・滑稽噺(小咄集) |
| 主人公 | 各話の動物と人間たち |
| 舞台 | 商家・大阪・明石の浜ほか |
| オチ | 「あぶらやのう」(油屋と危ないの掛け詞) |
| 見どころ | 6つの独立した短編に込められた多彩な笑いの技法 |
3行でわかるあらすじ
動物を題材にした6つの短い小咄を集めた演目で、それぞれに独立したオチがある。
牡丹餅が蛙になる話、蚊から逃げる田舎者、蛸と猫の知恵比べ、猫の名前決め、蚊と戦う剣術好き、化け猫騒動が登場。
各話とも動物と人間の滑稽な関わりを描き、言葉遊びや勘違いで笑いを誘う。
10行でわかるあらすじとオチ
第一話:定吉が牡丹餅を桶の下に隠して「人が見たら蛙になれ」と言ったら、番頭が本物の蛙と入れ替え、定吉は蛙を牡丹餅と勘違い。
第二話:蚊から逃げて川に入った田舎者が、蛍を見て「蛍の探偵が提灯で捜しに来た」と勘違い。
第三話:猫に手を七本食われた蛸が残り一本で仕返しを狙うが、猫は「その手は食わん」と返す。
第四話:猫の名前を強いものから順に決めていくと、最後は猫より強いものがないので「ネコ」に。
第五話:剣術好きの久七が蚊を敵軍に見立てて戦うも、多勢に無勢で降参。
第六話:油屋に出る化け猫が石を避けて「あぶらやのう(危ないのう)」とダジャレで締める。
それぞれが独立した話ながら、動物と人間の関わりを通じて笑いを生む構成。
言葉遊びや勘違い、ダジャレなど様々なオチの技法を楽しめる。
短編集形式で飽きずに楽しめる古典落語の傑作。
一つ一つは短いが、それぞれに完成度の高いオチが用意されている。
解説
「動物小咄六題」は、動物を題材にした6つの独立した短編落語を集めた演目です。小咄(こばなし)とは短い滑稽話のことで、通常の落語より短く、すぐにオチがつくのが特徴です。この演目は、各話が独立しているため、演者によって選択的に演じられることも多く、また順番を入れ替えて演じられることもあります。
各話のオチの仕組みは多彩で、第一話は「言葉通りに受け取る」純朴さの笑い、第二話は「勘違い」による滑稽さ、第三話は「その手は食わん」という慣用句を文字通りに使う言葉遊び、第四話は論理の循環による意外性、第五話は真面目すぎる性格が生む滑稽さ、第六話は「油屋」と「危ない」を掛けたダジャレと、それぞれ異なる笑いの技法が使われています。
上方(関西)落語の演目として知られ、大阪の商家や町人の生活が背景になっています。動物と人間の関わりを通じて、人間の愚かさや可愛らしさを描き出す、落語の基本的な構造を学ぶのに適した演目とも言えるでしょう。
成り立ちと歴史
「小咄」という形式は、江戸時代前期の笑話本にその原型が見られます。特に明和・安永年間(1764-1781)に多くの笑話本が出版され、その中に動物を題材にしたものが数多く収録されていました。「動物小咄六題」として現在の形にまとめられたのは上方落語の中で、寄席の前座噺や幕間のつなぎとして演じられたことがきっかけとされています。
第三話の「蛸と猫」は、明石や堺など海沿いの町で生まれた話とされ、蛸漁が盛んだった上方ならではの題材です。第四話の「猫の名前」は中国の故事「天下で最も強いもの」を翻案したもので、アジア各地に類話があることから、国際的な笑話の伝統に連なるものでもあります。
小咄形式の演目は、一席の時間が限られた場面や、本題の前のまくら代わりとしても重宝されました。短い中にオチをきちんと用意する技術は、落語家の基本的な話芸の修練にもなっており、前座の稽古用として長く親しまれてきました。
あらすじ
小僧の定吉がお駄賃に牡丹餅をもらった。
店が終わってからゆっくり食べようと、桶の下に隠し、「人が見たら蛙になれよ」と言って店に戻った。
これを聞いた番頭がからかってやろうと、蛙を捕まえて来て牡丹餅と入れ替えた。
やっと店が終わって今日の楽しみの牡丹餅を食べようと定吉が桶を上げると、蛙がぴょんぴょん飛び出して来た。
定吉 「おい、おい、おれだ。そんなに跳ねるとアンコが落ちてしまうよ」
夏の盛りに田舎から大阪見物に来た二人連れ。
道頓堀近くに宿を取ったが、風がばったりやんで蒸し暑くて眠れない。
そのうちに蚊帳の中に蚊が入って来て寝苦しいどころではなくなった。
茂作 「どうしたら、この蚊から逃げられるだべか?」
与平 「川へ飛び込んだらどうだべ。蚊にも攻められんし、水の中は冷えて気持ちがええし、川の上には風も流れてるしな」と、二人で宿を抜け出し川の中にどっぷりとつかってご満悦。
するとフワリ、フワリと蛍が飛んで来た。
茂作 「こりゃあかん。蛍の探偵が提灯ともして捜しに来よった」
明石の浜で蛸がぐっすりと昼寝をしていると、猫が蛸の手を七本も食ってしまった。
やっと気づいた蛸、「ようし、今度近寄って来たら、一本の手で猫を巻き込んで、海へ引きずり込んでやろう」と、狸寝入りをして待っているが猫はなかなか近寄って来ない。
しびれをきらした蛸 「早う、残りの一本も食うてしまえ」
猫 「その手は食わん」
ある商家の旦那がお得意先から可愛い子猫をもらって来た。
旦那 「番頭さん、この猫に名前をつけてやっとくれ」
番頭 「強そうな名前で弁慶はどうでしょう」
旦那 「そうか、じゃあ弁慶としよう」
定吉 「弁慶よりもっと強いものがあります。牛若丸の方が強いです」」
旦那 「じゃあ、牛若丸といしよう」
亀吉 「牛若丸より鞍馬の天狗の方が強いです」
旦那 「なるほど、じゃあ天狗だ」
お清 「天狗さんが羽を休める杉の木の方が強うございます」
旦那 「うん、杉にしよう」
松吉 「杉よりもそれをなぎ倒す風の方が強いです」
旦那 「そうだな、風か」
亀吉 「風は塀が止めます」
旦那 「それじゃ、塀だ」
お茂 「塀よりもそれに穴を開ける鼠に方が強うございます」
旦那 「そうか、この猫の名前は鼠か」
奥さん 「鼠より猫の方が強いです」
旦那 「そんなら、やっぱりこの猫の名はネコじゃ」
八百屋の久七は剣術に凝って、商売を怠けて道場に稽古通いで夏になっても蚊帳は質に置いたまま。
女房 「お前さん、毎晩、子どもが蚊に食われて可哀想だから、商売して蚊帳を請け出ておくれよ」、仕方なく久七は道場の先生にしばらく稽古を休むと申し出る。
先生 「左様か、しかし蚊が出なくなれば稽古が出来ると言うならば、一国一城の主となったつもりで蚊と一戦を交えなさい」、その夜はかみさんと力を合わせ蚊を城内から追い出してひと安心。
さあ、寝ようとすると、ブゥーンと敵の襲来。
久七 「おのれ落ち武者の分際で・・・あれ、また来やがった。・・・こう敵に侵入されては多勢に無勢・・・もうかなわん。北の方、城を開け渡そう」
油屋に毎晩、化け猫が出ると言う噂が立ち、油がだんだん売れなくなってきた。
油屋の主人が怒って、夜起きて待ち構えていると、ほんまの化け猫のようなやつが出て来よった。
主人 「こら、おのれのために悪い噂が立つんや!」と、石を投げつけると、ひょいと体をかわして、
猫 「あぶらやのう」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 小咄(こばなし) – 通常の落語より短い滑稽話。数分で終わる短編で、すぐにオチがつくのが特徴です。
- 小僧(こぞう) – 商家で働く見習いの少年。商売を学びながら雑用をこなす立場で、落語によく登場します。
- 番頭(ばんとう) – 商家の最高責任者。主人に次ぐ地位で、店の経営を任される重要な役職です。
- お駄賃(おだちん) – 仕事や使いの報酬として渡す小銭や食べ物。小僧にとっては貴重な楽しみでした。
- 牡丹餅(ぼたもち) – もち米とうるち米を蒸して搗き、餡で包んだ和菓子。春の彼岸に食べる習慣がありました。
- 蚊帳(かや) – 蚊を防ぐため寝床の上に吊る網状の布。江戸時代は夏の必需品でしたが、貧しい家では質に入れることも。
- 道頓堀(どうとんぼり) – 大阪の繁華街。芝居小屋や茶屋が立ち並び、江戸時代から賑わっていました。
- 一国一城の主 – 独立した領主のこと。ここでは家を城に見立てた比喩として使われています。
- 化け猫 – 超常的な力を持つとされる猫の妖怪。尻尾が二股に分かれた「猫又」が変化したものとされます。
よくある質問(FAQ)
Q: 「動物小咄六題」は必ず6つ全部を演じるのですか?
A: いいえ、演者によって選択的に演じられることが多いです。時間や客層に合わせて2〜3話だけ演じたり、順番を入れ替えたりすることもあります。
Q: 第一話の「蛙になれよ」は本当に蛙になると思ったのですか?
A: これは江戸時代の庶民の素朴な信仰心を反映しています。言霊(ことだま)信仰として、言葉には力があると信じられていたため、定吉の純朴さが笑いを生む仕掛けになっています。
Q: 第三話の「その手は食わん」はどういう意味ですか?
A: 「その手は食わん」は「その策略には引っかからない」という慣用句です。ここでは蛸の「手(足)」を文字通り「食う(食べる)」という意味と掛けた言葉遊びになっています。
Q: 上方落語と江戸落語で違いはありますか?
A: 「動物小咄六題」は上方落語の演目で、大阪の商家や町人の生活が背景になっています。江戸落語にも似たような小咄はありますが、この形式の6話構成は上方独特です。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、現在も多くの落語家が高座にかけています。特に初心者向けの落語会や子ども向けの寄席では、短くて分かりやすいため人気があります。YouTube等で「動物小咄 落語」で検索すると実際の高座を視聴できます。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 桂米朝(三代目) – 上方落語四天王の一人。人間国宝として上方落語の復興に尽力し、小咄も品格ある語り口で演じました。
- 桂枝雀(二代目) – 独特の演出とエネルギッシュな語り口で知られ、この小咄でも動物の動きを大げさに表現して笑いを誘いました。
- 笑福亭鶴瓶 – テレビでもおなじみの名人。軽妙な語り口で小咄を現代風にアレンジし、若い世代にも人気です。
- 桂文枝(六代目) – 創作落語でも知られますが、古典の小咄も得意とし、テンポの良い演出で観客を楽しませます。
関連する落語演目
同じく「小咄」形式の古典落語
「商家の小僧」が登場する古典落語
「動物」が活躍する古典落語
「言葉遊び」のオチが秀逸な古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「動物小咄六題」の最大の魅力は、短い中に様々な笑いの技法が詰まっている点です。言葉遊び、勘違い、ダジャレ、論理の循環など、落語の基本的な笑いの仕組みを一度に楽しめる贅沢な演目と言えるでしょう。
特に第一話の「蛙になれよ」は、純朴な少年の素直さが生む笑いで、現代の子どもたちにも共感しやすい内容です。また第三話の「その手は食わん」のような慣用句を文字通りに使う言葉遊びは、日本語の面白さを再発見させてくれます。
第五話の剣術好きの久七が蚊と真剣に戦う姿は、何事にも真面目すぎる現代人の姿とも重なります。物事を深刻に考えすぎず、時にはユーモアを持って対処する余裕の大切さを教えてくれるようです。
実際の高座では、演者によって選ぶ話や順番が異なるため、同じ演目でも違った楽しみ方ができます。動物の動きや声の表現も演者の個性が光る部分です。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。












