長短
3行でわかるあらすじ
気が長い長さんと気が短い短七は正反対の性格だが子供の頃からの親友で、長さんが短七の家を訪問する。
短七が長さんののんびりした行動にイライラして煙草の吸い方を教えているうちに、火玉が袖に入って服が燃える。
長さんが恐る恐る「怒らないか」と確認して指摘すると、短七は「怒らない」と言ったのに結局怒り出すオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
気が長い長さんと気が短い短七は正反対の性格だが子供の頃からの親友である。
ある日、長さんが短七の家を訪問し、戸の前でウロウロしているのを短七が見つけて引っ張り込む。
短七が饅頭を勧めると、長さんはのろのろと牛のように噛んでいるのを見て短七はイライラし、一口で丸飲みして見本を示す。
次に長さんが煙草に火をつけようとするが、なかなか火がつかず悠長に吸っているのを見て短七は我慢できなくなる。
短七は「煙草はこうやって吸ってこうやってはたくんだ」と威勢よく見本を見せ始める。
調子に乗った短七が何度も煙草をはたくうちに、火玉が袖口に入って服が燃え始める。
長さんは短七の服が燃えているのに気づくが、短七は教えてもらうのが嫌いだと知っているので恐る恐る声をかける。
短七は「子供の頃からの友達だから悪いところがあったら教えてくれ、怒らない」と答える。
長さんがゆっくりと袖が燃えている状況を説明すると、短七は「何で早く教えないんだ」と怒り出す。
長さんが「ほら見ろ、そんなに怒るじゃないか、だから教えない方がよかった」と皮肉を言ってオチとなる。
解説
「長短」は古典落語の中でも人間の性格の対比を巧妙に描いた代表的な作品です。気が長い「長さん」と気が短い「短七」という正反対の性格の二人を主人公にして、それぞれの特徴を極端に誇張して笑いを生み出しています。
この演目の面白さは、短七の性格的な矛盾を突いた点にあります。普段は人から教えられることを嫌がる短七が、親友の長さんには「怒らないから教えてくれ」と言いながら、実際に教えられると結局怒ってしまうという人間の本質的な矛盾を描いています。
また、長さんの最後の皮肉「だから教えない方がよかった」は、気の長い人ならではの冷静な観察力を示しており、二人の性格差が最後まで一貫して描かれています。饅頭を食べる場面や煙草を吸う場面での対照的な行動描写も、視覚的に分かりやすく二人の性格を表現する巧妙な構成になっています。この作品は友情と性格の違いを笑いに昇華させた古典落語の傑作です。
あらすじ
気が長い長さんと気短な短七は、気性は真逆だがなぜか気の合う、子ども頃からの遊び友達だ。
ある日、長さんが短七の家へ遊びに来る。
戸の前でウロウロ、中を覗いたりしている長さんに気がついた短七さんは、じっれたくてしょうがない。
戸を開けて長さんを引っ張り込んで、饅頭を食えと勧める。
饅頭を食べ始めた長さんはいつまでも、口の中で牛みたいにくちゃくちゃやっている。
見かねた短七さんは、こうやって食うんだと一つを丸飲みして、目を白黒させている。
今度は長さん、煙草に火をつけようとしたが、なかなかつかない。
短七は見ているだけで、まどろっこしくてイライラしてくる。
やっと火がついて吸い出したが、その悠長な吸い方に我慢が出来ない。
見本を示そうと、「煙草なんてものは、こうやって吸って、こうやってはたくんだ」とその動作の早いこと。
目を丸くして見ている長さんの前で、何度もくり返すうちに調子に乗り過ぎて火玉が袖口からすぽっと中に入ってしまった。
一向に気がつかない短七に長さんは恐る恐る、「これで短七つぁんは、気が短いから、人に物を教わったりするのは嫌えだろうね」
短七 「ああ、でぇ嫌えだ」
長さん 「俺が、教(おせ)えても、怒るかい?」
短七 「おめえと俺とは子供のころからの友達だ。
悪いとこがあったら教えてくれ。怒らねえから」
長さん 「・・・・ほんとに、怒らないかい? そんなら、言うけどね、さっき、短七つぁんが何度も煙草を威勢よくポンとはたいたろう。
その一つが煙草盆の中に入らないで、左の袖口にすぽっと入っちまいやがって、・・・・煙(けむ)がモクモク出て来て、だいぶ燃え出したようだよ。ことによったら、そりゃあ、消したほうが・・・」
短七 「あぁ~、ことによらなくたっていいんだよ。
何だって早く教えねえんだ。見ろ、こんなに焼けっ焦がしが出来たじゃねえか、馬鹿野郎!」
長さん 「ほおら見ねえ、そんなに怒るじゃあねえか、だから教えねえほうがよかった」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 煙草盆(たばこぼん) – 喫煙用具一式を置く道具。灰皿、火鉢、煙管(きせる)などをまとめて置く。
- 煙管(きせる) – 江戸時代の喫煙具。雁首(がんくび)に刻み煙草を詰めて吸う。
- 火玉(ひだま) – 煙草の火種。煙管から落ちた燃えている煙草の粒。
- 饅頭(まんじゅう) – 江戸時代から親しまれた菓子。客へのもてなしの定番。
- 袖口(そでぐち) – 着物の袖の開口部。火が入ると燃えやすく危険。
- 子供の頃からの友達 – 幼馴染みのこと。江戸時代は地域コミュニティが強く、幼少期からの友人関係が一生続くことが多かった。
- はたく – 煙管を叩いて灰を落とすこと。煙草盆の縁に当てて灰を払う。
- 威勢(いせい)よく – 勢いよく、元気よくの意。江戸っ子の気質を表す言葉。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ短七は人から教えられるのが嫌いなのですか?
A: 気が短い人は自分のペースを乱されることを嫌い、プライドが高い傾向があります。短七はこの典型で、自分のやり方に口出しされることを極端に嫌います。
Q: 長さんと短七はなぜ正反対の性格なのに親友なのですか?
A: 江戸時代は地域コミュニティが密接で、幼少期からの友人関係が一生続くことが多かったのです。また、正反対の性格が互いを補い合う関係として描かれています。
Q: 煙草をはたくとはどういう意味ですか?
A: 煙管(きせる)で煙草を吸った後、灰を落とすために煙草盆の縁に煙管を叩きつける動作のことです。勢いよくやりすぎると火玉が飛び散ることがありました。
Q: この噺のオチの面白さはどこにありますか?
A: 「怒らないから教えてくれ」と言った短七が、実際に教えられると結局怒ってしまうという人間の矛盾を描いています。さらに長さんの冷静な皮肉が効いています。
Q: 現代でもこの噺は演じられていますか?
A: はい、性格の対比という普遍的なテーマで、現在も多くの落語家が高座にかけています。煙草の場面は時代に合わせてアレンジされることもあります。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん生(五代目) – 長さんののんびりした雰囲気と短七のせっかちさの対比を絶妙に演じ分けた名演。
- 三遊亭圓生(六代目) – 端正な語り口で、二人の性格の違いを丁寧に描写。特に最後の皮肉が効いている。
- 柳家小三治(十代目) – 間の取り方が秀逸で、長さんの悠長さと短七のイライラを見事に表現。
- 立川談志(五代目) – 独特の解釈で、人間の矛盾と友情の本質を鋭く描いた。
- 春風亭一朝(初代) – 江戸前の粋な語り口で、テンポよく二人の掛け合いを演じる。
関連する落語演目
煙草が登場する古典落語
友情・人間関係を描いた古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「長短」は、単なる性格の対比を描いた笑い話ではなく、人間関係の本質を鋭く突いた作品です。
現代社会でも、マイペースな人とせっかちな人の組み合わせはよく見られます。職場でも、仕事が速い人と丁寧だが遅い人の衝突は日常茶飯事です。この噺は、そんな性格の違いを受け入れ合う友情の大切さを教えてくれます。
短七の「怒らないから教えてくれ」と言いながら結局怒ってしまう場面は、現代のSNSでも「批判歓迎」と言いながら実際に批判されると感情的になる人々を思い起こさせます。人間は理性では「教えてもらいたい」と思っても、感情では受け入れがたいという矛盾を抱えています。
また、長さんの最後の皮肉「だから教えねえほうがよかった」は、相手の性格を理解した上での優しさとも取れます。時には真実を伝えないことが思いやりになることもあるという、コミュニケーションの複雑さを示唆しています。
実際の高座では、長さんののろのろした仕草と短七のせっかちな動作の対比、特に饅頭を食べる場面や煙草をはたく場面の演じ分けが見どころです。演者によって二人の性格描写の程度が異なり、それぞれの解釈が楽しめます。






