縮みあがり
3行でわかるあらすじ
堀の内のお祖師様への参拝途中に新宿の女郎屋で見染めた女性を探す助さんが、名前も店も分からずに苦労する。
やっと見つけたお熊さんと話すが越後なまりがひどくて驚く。
お熊さんが越後の小千谷出身と聞いて『それであたしが縮みあがった』と越後縮みの言葉遊びで落とすオチで終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
堀の内のお祖師様への参拝途中の助さんが新宿の女郎屋で美女を見染める。
お参りもそこそこに女郎屋で美女を探すが名前も店も分からない。
店の若い衆に特徴を説明して女性を探してもらう。
最初に案内されたおやまは馬のように顔が長い別人でがっかり。
ふて腐れて厠に行くと廊下で目当ての美女を発見する。
店に頼んでお見立て替えしてもらい、ようやくお熊さんと会える。
助さんが情熱的に口説こうとするがお熊さんは恥ずかしがる。
お熊さんが越後なまりで『のんす』言葉で話すので驚く。
助さんがお熊さんの郷里を尋ねると越後の小千谷と答える。
『それであたしが縮みあがった』と越後縮みの言葉遊びでオチ。
解説
「縮みあがり」は、江戸時代の新宿廓を舞台にした古典落語の代表的な廓噺で、方言とその土地の特産品を組み合わせた絶妙な言葉遊びのオチが秀逸な作品です。物語の中心にあるのは、一目惚れした助さんの純情と、それが思わぬ形で裏切られる可笑しさです。
この作品の面白さは、助さんの恋心が段階的に盛り上がっていく構成にあります。美女を見染めてから探し回り、ようやく見つけたと思ったら別人で、再び探してついに本人に会えるという展開は、観客の期待を高める巧妙な仕掛けです。特に厠で偶然再会する場面は、落語特有のリアリティのある描写が光ります。
最後のオチである『それであたしが縮みあがった』は、越後の小千谷が越後縮みの産地であることを背景にした言葉遊びです。「縮みあがる」(恐縮する、びっくりする)という慣用句と「越後縮み」(織物の名前)をかけたこのオチは、江戸っ子の洒落っ気と機転を示した落語史上屈指の名オチとして評価されています。この作品は、恋愛感情と地域性を結びつけた、江戸落語の言葉遊びの精巧さを代表する名作です。
あらすじ
堀の内のお祖師様へお参りに向かう途中の助さん。
新宿の女郎屋からちらりと顔をのぞかせた女がすっかり気に入ってしまった。
お参りもそこそこに、お賽銭もけちって帰って、新宿の女郎屋でさっきの女を捜すが名前も店も分からないのでなかなか見つからない。
やっとこの店だと見当がついて、
助さん 「ちょいと見染めた女があるんだ」
若い衆 「はいはい、かしこまりました。
けれどもお名前の分からないのは困りましたねぇ。うちの妓(こ)はみんな粒よりですから・・・ちょっと色白の、面長の、三日月眉毛で目がぱっちり・・・」
助さん 「そうそう、鼻筋が通って、口元が可愛い・・・」
若い衆 「それならおやまさんでしょう・・・」ということで買った女が、さっき見た女とは似ても似つかぬ馬のように顔が長い女で助さんはがっくり。
おやま 「そんなにため息ばかりついておいでなさらないで、ご酒を召し上がれよ」
助さん 「酒なんて飲みたくねえや」、ふて腐れて厠へ行って向こうの廊下を見ると、さっきの女だ。
助さん 「やあ、見つけたぁ、見つけた!」と大騒ぎ。
店に掛け合いに行くと、
若い衆 「あぁ、あの妓ですか。
気がつきませんでしたねえ。
三日ほど前に来た新妓さんなもんですから。・・・あの妓はお熊さんというんですよ・・・そうですか、ようござんす。ちょいと話をしましてお見立て替えということにいたしましょう」で、助さんは大喜びしてわくわくしながら待っていると、廊下に草履の音がパタパタとして、部屋の前でピタッと止った。
部屋に入って斜めに座ったお熊さんに、
助さん 「・・・お熊さん、”間夫は勤めの憂さ晴らし”なんて、いやなお客の勤めも、たまにはちょっと口直しをすれば、それで幾分か気が晴れるというもの。・・・人助けと思って笑い顔のひとつもお見せになってくださいまし・・・もし、お熊さん・・・こっちを向いてくださいよ・・・」、惚れた弱みかいつになく下出に出ている。
やっと助さんのほうを向いて、
お熊 「よさねえかってば、このふと(人)は、ほんのうそれどこの事んではねえがのんす。おらぁ、こっ恥ずかしいでのんす」
助さん 「えぇ!のんすとは驚いたね・・・もしもしお熊さん、いったいお前さんの郷里(くに)はどこでのんす?」
お熊 「おらが郷里かね。越後の小千谷だがのんす」
助さん 「小千谷か、それであたしが縮みあがった」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 堀の内のお祖師様 – 杉並区堀ノ内の妙法寺。日蓮宗の寺で、厄除けで有名。江戸三大祖師の一つ。
- 女郎屋 – 遊女屋のこと。新宿は内藤新宿と呼ばれ、四宿の一つとして栄えた宿場町の遊郭。
- 見染める(みそめる) – 一目惚れすること。特に遊郭で好きな女性を見つけることを指す。
- 妓(こ) – 遊女の敬称。「おやまさん」「お熊さん」など、名前に「さん」を付けて呼ぶ。
- お見立て替え – 最初に選んだ遊女を別の遊女に変更すること。追加料金が必要な場合が多い。
- 新妓(しんこ) – 新人の遊女。まだ経験の浅い女性を指す。
- 間夫(まぶ) – 遊女の情夫。または遊女に入れあげる客のこと。
- のんす言葉 – 越後地方の方言の語尾。「~です」「~ます」にあたる丁寧語。
- 小千谷(おじや) – 新潟県小千谷市。越後縮みの産地として有名。
- 越後縮み(えちごちぢみ) – 新潟県小千谷地方で生産される高級織物。夏の着物地として珍重された。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ「縮みあがった」がオチになるのですか?
A: 「縮みあがる」は「恐縮する、びっくりする」という意味と、小千谷特産の「越後縮み」を掛けた言葉遊びです。美女だと思った相手が訛りのきつい越後出身と分かって驚いた様子を、産地名物と掛けて表現した洒落です。
Q: 新宿に遊郭があったのですか?
A: はい、内藤新宿は江戸四宿(品川・板橋・千住・新宿)の一つで、宿場町として遊郭もありました。吉原ほど格式は高くありませんでしたが、庶民的な遊び場として賑わっていました。
Q: 越後なまりはそんなに強烈だったのですか?
A: 江戸時代、越後からは多くの人が江戸に出稼ぎに来ており、その方言は江戸っ子には理解しづらく、田舎者の象徴として扱われることがありました。「のんす」言葉は特徴的で、すぐに越後出身と分かったようです。
Q: この噺の時代設定はいつ頃ですか?
A: 江戸後期から明治初期と考えられます。新宿の宿場町が栄えていた時期で、越後縮みが高級品として流通していた時代です。
Q: 現代でもこの噺は演じられていますか?
A: はい、言葉遊びのオチが秀逸なため、現在も多くの落語家が高座にかけています。ただし、方言の部分は現代風にアレンジされることもあります。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 軽妙な語り口で、助さんの純情な恋心を絶妙に表現。越後なまりの再現も秀逸。
- 三遊亭圓生(六代目) – 端正な語り口で、新宿廓の雰囲気を品よく再現。助さんの心理描写が巧み。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。飄々とした語り口で、助さんの慌てぶりを愛嬌たっぷりに演じた。
- 春風亭柳朝(五代目) – テンポの良い語りで、見染めから発見までの展開を軽快に表現。
- 柳家喬太郎 – 現代の名手。古典の味わいを残しつつ、現代的な解釈も加えて新鮮さを演出。
関連する落語演目
同じく「廓噺」の古典落語
方言・なまりが登場する古典落語
言葉遊び・地口オチの古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「縮みあがり」は、一見すると単純な恋愛噺のようですが、実は江戸時代の地域性と偏見を巧みに描いた作品でもあります。
助さんが美女に一目惚れして必死に探し回る姿は、現代のSNSで理想の相手を探す行動にも通じます。外見だけで判断して夢中になり、実際に会話してみたら想像と違ったという経験は、マッチングアプリ時代の現代人にも共感できる部分があるでしょう。
また、越後なまりを聞いて「縮みあがった」という反応は、地方出身者への偏見を含んでいますが、同時にそれを笑いに昇華することで、偏見そのものを相対化しているとも言えます。現代でも方言や出身地による先入観は存在しますが、それを乗り越える多様性の重要性を考えさせられます。
「越後縮み」という高級織物と「縮みあがる」という慣用句を掛けたオチは、江戸っ子の教養と洒落っ気を示しています。地域の特産品を知っていなければ成立しない笑いであり、当時の江戸の文化レベルの高さを物語っています。
実際の高座では、助さんの純情な恋心の描写、越後なまりの再現、最後の「縮みあがった」の間の取り方など、演者の技量が問われる場面が多く、それぞれの個性が光る演目となっています。








