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化け物使い 落語のあらすじとオチを徹底解説|狸の辞職願いと逆転の構造

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話芸の殿堂-古典落語-化け物使い
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化け物使い

化け物使い(ばけものつかい) は、人使いの荒い隠居が化物屋敷でお化けをこき使う怪談噺。「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱出来かねます」というオチが秀逸です。

項目内容
演目名化け物使い(ばけものつかい)
ジャンル古典落語・怪談噺
主人公隠居・吉田さん
舞台本所の化物屋敷
オチ「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱出来かねます」
見どころ化け物が人間にこき使われ、最後は狸が辞職願いを出すという逆転の構造

3行でわかるあらすじ

人使いの荒い隠居の吉田さんのもとで、3年間も働いた無骨な杢助さんが、化物屋敷への引っ越しで暇を取ってしまう。
隠居は一人で寂しく、毎晩一つ目小僧、大入道、のっぺらぼうの女などのお化けが現れるとこき使いまくる。
ところが最後に正体を現した狸から「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱出来かねます」と就職拒否されるオチの怪談噺。

10行でわかるあらすじとオチ

人使いの荒い隠居・吉田さんのもとで杢助さんが3年間働いていた。
隠居が化物屋敷に引っ越すことになり、化物嫌いの杢助さんは暇を取って帰ってしまう。
一人になった隠居は寂しく、化物が出てくれることを心待ちにしている。
一つ目小僧が現れると、晩飯の片付けから水汲み、布団敷きまでこき使う。
翌晩の大入道にも同じ仕事をさせ、石灯籠直しや屋根の草むしりまでやらせる。
三日目はのっぺらぼうの女が現れ、裁縫などの家事をやらせる。
隠居は化け物使いに味をしめ、無給でよく働くお化けに満足する。
次の晩、障子の向こうから大きな狸が正体を現して現れる。
狸は涙ぐんで「お暇を頂きたいのですが」と辞職願いを出す。
「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱出来かねます」と狸から就職拒否されるオチ。

解説

「化け物使い」は、人間と化け物の立場が逆転する構造が面白い古典落語の傑作です。人使いの荒い隠居が化け物屋敷に引っ越して、出現したお化けたちを次々とこき使うという発想の転換が秀逸で、最後に正体を現した狸から「化け物使いが荒くて辛抱できない」と就職拒否される落ちは、現代にも通じるブラック企業批判のような風刺性を含んでいます。

隠居の高飛車な性格と、それに振り回される一つ目小僧、大入道、のっぺらぼうの女などの描写は、江戸時代の主従関係や労働環境を皮肉ったものでもあり、狸が正体を現して「お暇をいただきたい」と丁寧に辞職願いを出す展開は、化け物の方が人間より礼儀正しいという逆説的な笑いを生んでいます。

怪談噺でありながら恐怖よりも笑いを重視した構成で、落語の持つ社会風刺の要素が色濃く表れた名作として、多くの落語家に愛演されています。

この噺の巧みな点は、毎晩異なるお化けが登場するという「日替わり」の構成にあります。一つ目小僧には力仕事、大入道にはさらに重労働、のっぺらぼうの女には家事をさせるという使い分けは、隠居が相手の特性に合わせて仕事を振り分ける「人使い」の巧みさを示しています。怖がるどころか「お前は十日に一辺でいい」「昼間から出て来い」と注文をつける隠居の図太さは、権力者の横暴さを戯画化したものであり、江戸庶民が日頃の鬱憤を笑いに昇華した噺と言えるでしょう。

のっぺらぼうの女に対して「なまじ目鼻があるために苦労している女は何人もいるんだから」「顔を書いてやろうか」と言う場面は、隠居の独特のユーモアセンスを示すとともに、恐怖対象であるはずのお化けを完全に手なずけてしまう人間の逞しさを描いています。

成り立ちと歴史

「化け物使い」は江戸時代後期に成立した演目で、原話は安永年間(1772-1781年)の笑話本に見られるとされています。化け物屋敷に住む人間がお化けを使役するという発想は、当時の庶民の間で人気があった怪談話を逆手に取った斬新なものでした。

舞台となる「本所の割下水」は実在の地名で、現在の東京都墨田区にあたります。本所は江戸時代から怪談の多い土地として知られ、「本所七不思議」と呼ばれる怪異譚が伝わっています。この噺もそうした本所の怪談文化を背景にしており、化物屋敷という設定にリアリティを持たせています。

明治期には初代三遊亭圓遊が得意としたとされ、昭和に入って五代目柳家小さんが丁寧に型を整えて現在に伝わる形にしました。夏の怪談シーズンに演じられることが多い演目ですが、怪談というよりは滑稽噺としての色合いが強く、季節を問わず演じられることもあります。上方落語にも同趣向の噺が伝わっており、東西で広く演じられてきた演目です。

あらすじ

本所の割下水に住む元御家人で一人暮らしの隠居の吉田さんは、人使いが荒く使用人が居つかない。
ここへ日本橋葭町の桂庵の千束屋(ちづかや)の紹介で、隠居の人使いの荒いのを承知で、杢助さんという無骨な男がやって来た。

隠居は、「今日はもうやる事はない。ゆっくり骨休みしてくれ」と言いながら、薪割り、炭切り、縁の下の掃除、天井の掃除、塀洗い、草むしり、どぶ掃除から向い両隣の家の前までも掃除させ、さらに手紙を品川の青物横丁まで届けさせ、ついでに千住まで回らせる。

こんな調子では三日も持たないと思いきや、杢助さんは三年間も隠居の家で働き続けている。
ところが、隠居は化物屋敷と噂される家に引っ越すことになった。
人間は恐くないが、化物は大嫌いで苦手な杢助さんは暇を取って国元へ帰ってしまった。

さて困ったのは隠居だ。
人使いが荒い上に、化物屋敷では千束屋に頼んでも使用人など来るはずがない。
急に杢助がいなくなって不便は承知だがなぜか一人はさびしく、早く化物でも出てくれないかと心待ちにしている。

夜が更けると、背中がぞくぞくっとしたと思ったら、お待ちかねのお化け、一つ目小僧の登場だ。
早速、晩飯の片づけ、台所で洗い物、水汲み、布団敷き、肩たたきと、あれこれと用事を言いつけこき使う。
こんなはずじゃなかったと泣きっ面をしている一つ目小僧に、「明日は用事がごっそりあるから昼間から出て来い。”ぞ~っ”とさせるなよ」と言ってさっさと寝てしまった。

翌晩の大入道には一つ目小僧と同じ仕事をさせ、庭の石灯籠を直させ、屋根上の草むしりの超過勤務させた。「お前は十日に一辺でいいから普段は一つ目を早い時間に来させな。来るときは”ぞ~っ”とさせるな言っとけ」と、贅沢な注文をしていると大入道は消えてしまった。

三日目はのっぺらぼうの女だ。
隠居にジロジロ見られて女はモジモジと恥ずかしそうにしている。
隠居は「恥ずかしがることなんかないよ。なまじ目鼻があるために苦労している女は何人もいるんだから」と優しい言葉をかけ、「糸を通してあげようか」と気を使って裁縫などをやらせる。

やっぱり女のお化けの方が家の中が華やいで明るくなっていいと、明日からは主にお前が出てくれとラブコールだ。
図に乗って顔を書いてやろうかなんて言い出す始末だ。
見るとのっぺらぼうの女は消えていた。

隠居はすっかり化け物使いに味をしめた。
なにせ何も食べずによく働き無給金で、毎晩日替わりメニューでお化けのオンパレードを見られるのだから言うことはない。
さて、次の晩はどんなお化けが出て来るかと心待ちにしていると、障子の向こうから大きな狸が現れた。
この狸が毎晩化けて出ていたのだ。

狸は涙ぐんで、「お暇を頂きたいのですが」

隠居 「なに、暇をくれ?」

狸 「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱出来かねます」


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 御家人(ごけにん) – 江戸幕府の直臣で、石高200石以下の武士。吉田隠居の元身分。生活は苦しく、内職をする者も多かった。
  • 桂庵(けいあん) – 江戸時代の職業紹介所。正式には「慶庵」とも書く。奉公人の斡旋を生業とした。
  • 千束屋(ちづかや) – 桂庵で働く口入れ屋(職業斡旋業者)の名前。
  • 割下水(わりげすい) – 江戸時代の下水道。本所割下水は実在の地名で、現在の墨田区付近。
  • 青物横丁(あおものよこちょう) – 品川宿の一部。野菜市場があった場所。現在も地名として残る。
  • 一つ目小僧 – 日本の妖怪。額の中央に大きな目が一つだけある子供の姿をしている。
  • 大入道(おおにゅうどう) – 巨大な僧侶の姿をした妖怪。見上げると際限なく大きくなるとされる。
  • のっぺらぼう – 顔に目鼻口がない妖怪。江戸時代には実際に目撃談が多数報告された。

よくある質問(FAQ)

Q: 化け物使いは本当に怪談噺なのですか?
A: 怪談の要素はありますが、実際は人間社会の風刺を込めた滑稽噺です。お化けが怖がられるどころか、人間にこき使われて困るという逆転の発想が笑いを生んでいます。

Q: なぜ狸が化けていたのですか?他の妖怪ではダメだったのですか?
A: 狸は日本の民話で「化ける」動物の代表格です。狐と並んで化け物の正体としてよく使われます。また、狸の愛嬌のあるイメージが、最後の「辞職願い」という人間的な行動と相性が良かったと考えられます。

Q: 杢助さんが3年も続いたのはなぜですか?
A: これは落語特有の誇張表現で、「信じられないほど我慢強い」ことを強調しています。実際、江戸時代の奉公人は3年、5年と長期契約が普通でしたが、人使いの荒い主人の元では数日で逃げ出すのが普通でした。

Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、人気の演目として多くの落語家が高座にかけています。特に夏の怪談噺の季節によく演じられます。現代風のアレンジでは「ブラック企業」に例えられることもあります。

Q: 隠居がお化けを全く怖がらないのはなぜですか?
A: 隠居は元御家人(武士)であり、肝が据わっている人物として描かれています。また、人使いが荒くて使用人が逃げてしまい一人暮らしで寂しいという状況が、化け物を怖がるどころか「使用人」として歓迎する動機になっています。怖がらないことで笑いが生まれるという、怪談の常識を逆手に取った構成です。

Q: 「人使いが荒い」と「化け物使いが荒い」のオチの対比とは?
A: この噺全体が「人使いが荒い」隠居の話として始まり、最後に「化け物使いが荒い」というオチで締まります。「人使い」が「化け物使い」に置き換わることで、隠居の性格が人間相手でも化け物相手でも変わらないという滑稽さが浮き彫りになり、タイトルの「化け物使い」がオチの伏線にもなっている巧みな構成です。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 五代目柳家小さん – 飄々とした語り口で、隠居の高飛車さとお化けの哀愁を見事に表現。小さんの「化け物使い」は、隠居を単なる意地悪爺さんではなく、どこか寂しがり屋の憎めない老人として造形した点が特徴です。一つ目小僧や大入道がこき使われる場面での間の取り方が絶妙で、聴く者は化け物に同情しつつも笑わずにはいられない名演でした。人間国宝にふさわしい、温かみのある語りが光る一席です。
  • 三代目三遊亭圓歌 – 軽妙な語りで、怪談噺でありながら明るく楽しい雰囲気を演出。特に隠居がのっぺらぼうの女に対して「顔を書いてやろうか」と言う場面での飄々とした語り口が評判を呼びました。テンポの良い展開で聴く者を飽きさせない手腕が見事です。
  • 十代目桂文治 – 丁寧な人物描写で、隠居と杢助、お化けたちの性格を巧みに演じ分ける。冒頭の杢助が3年間耐えた場面から丁寧に描くことで、化け物屋敷での展開に説得力を持たせる演出が特徴的でした。端正な口調の中にも笑いのツボを的確に押さえた正統派の口演です。

関連する落語演目

同じく怪談要素を含む古典落語

主従関係を描いた古典落語

動物が登場する古典落語

この噺の魅力と現代への示唆

「化け物使い」は、表面的には怪談噺の体裁を取りながら、実は労働問題を扱った社会風刺の効いた作品です。人使いの荒い隠居が、化け物まで使用人扱いしてこき使うという設定は、現代のブラック企業問題にも通じる普遍的なテーマを含んでいます。

特に興味深いのは、化け物たちの方が人間より礼儀正しく、最後に狸が「お暇を頂きたい」と丁寧に辞職願いを出すところです。これは、権力を持つ人間の横暴さと、それに振り回される弱者の悲哀を描いた、深い意味を持つ演出と言えるでしょう。

実際の高座では、演者によって隠居の性格付けや、お化けたちの演じ方が異なります。隠居を完全な悪役にするか、寂しがり屋の憎めない老人として描くかで、噺の印象が大きく変わります。ぜひ複数の演者で聴き比べてみてください。

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