スポンサーリンク

【古典落語】鮑のし あらすじ・オチ・解説 | おつむの弱い夫と賢い妻の珍騒動

スポンサーリンク
話芸の殿堂-古典落語-鮑のし
スポンサーリンク
スポンサーリンク

鮑のし

鮑のし(あわびのし) は、おつむの弱い甚兵衛と賢い妻お光が大家の婚礼に鮑を持参する長屋噺。「ふんどしをしていないから尻がまくれない」というオチが秀逸です。

項目内容
演目名鮑のし(あわびのし)
ジャンル古典落語・江戸落語
主人公甚兵衛・お光夫婦
舞台江戸の長屋
オチ「ここで尻をまくるんだが事情があってまくれねえ」(ふんどしをしていないから)
見どころ威勢よく啖呵を切ろうとするも、ふんどしがないという現実のギャップが笑いを生む

3行でわかるあらすじ

おつむの弱い甚兵衛と賢い妻お光の夫婦が、米がないため山田さんから50銭借りて魚を買い、大家の婚礼の祝いに持参してお返しに1円もらう算段を立てる。
ところが魚屋で鯛が買えずあわびを購入し、大家に持参するも「磯のあわびの片思い」で縁起が悪いと断られてしまう。
泣きながら帰る甚兵衛に知り合いがアドバイスし、再び大家の元へ向かうが最後は思わぬオチで締めくくられる。

10行でわかるあらすじとオチ

長屋の甚兵衛とお光夫婦が米がなくて困り、山田さんから50銭借りる。
お光は大家の婚礼の祝いに魚を持参して1円もらう算段を立てる。
甚兵衛が魚屋で鯛を買おうとするが5円もするため、50銭のあわびを購入。
婚礼の口上を教わって大家の元へ行くが「長屋から津波が来る」など支離滅裂。
大家はあわびを見て「磯のあわびの片思い」で縁起が悪いと拒否する。
泣きながら帰る甚兵衛に知り合いが「あわびは縁起物だ」とアドバイス。
「1円では安い、5円よこせと尻をまくれ」と教わる。
甚兵衛は勇気百倍で再び大家の元へ乗り込む。
教わった通り威勢よく言うが「ここで尻をまくるんだが事情があってまくれない」。
「ふんどしをしていないから」という理由がオチ。

解説

長屋に住む甚兵衛さんはちょっとおつむが弱いが、女房のお光はしっかり者。
腹を空かして甚兵衛さんが帰って来たが米がない。
お光さんは表通りの山田さんから50銭借りて来てという。
甚兵衛さんは山田さんに金を借りに行く。
山田さんは甚兵衛さんには貸せないが、お光さんの頼みなら1円でも貸そうという。

50銭持って家へ戻るとお光は今度はその金で魚屋に行き、尾頭付きの魚を買って来てという。
今夜、大家の所で若旦那の婚礼があるから、尾頭付きの魚を祝いに持って行けば、お返しに1円もらえるという算段だ。
その金で50銭を山田さんに返し、50銭で米を買えばいいという。

早速、甚兵衛さんが魚屋に行くと尾頭付きは5円の鯛しか残っていない。
魚屋はあわびを50銭で甚兵衛さんに渡す。
家に帰ると尾頭付きの魚でないのでお光さんは怒るが、仕方なく婚礼の祝いの口上を甚兵衛さん教え始める。「今日はお日がらもよく・・・、いずれ長屋からつなぎの品が届きますが、これはつなぎのほかでございます」なんて文句だが、むろん甚兵衛さんはしどろもどろだ。

あわびを持って大家の所に行った甚兵衛さん、「一円くれ」とあわびを投げ出し、口上を始めるが「・・・・いずれ長屋から津波が来る・・・」なんて調子だ。
さらにお光さんとの楽屋話までされけ出す始末だ。

あわびを見た大家、これを甚兵衛さんの一存で持って来たなら受け取るが、お光さんも承知の上なら受け取れないという。「磯のあわびの片思い」で婚礼には縁起が悪いといい、あわびを突き返し、甚兵衛さんを追い出す。

甚兵衛さん、泣きながら帰る途中で知り合いに会う。
いきさつを話すと、もう一度大家の所へ行き、「婚礼の祝い物の目出度い熨斗(のし)をいちいちはがして返すのか、あわびってものは、紀州鳥羽浦で色の黒い海女が海にもぐって採るんだ。
そのあわびを仲のいい夫婦が一晩かかって鮑のしにするんだ。
その根本のあわびだ。
一円じゃあ安い、五円よこせと尻(ケツ)をまくれという。

甚兵衛 「尻はまくれねえ、ふんどしてねえから」、甚兵衛さん勇気百倍、威勢よくまた大家の家に乗り込んで教わったセリフをたどたどしく並べる。

甚兵衛 「・・・・そのあわびを何で受け取れねえんだ、一円じゃ安い五円だ。ここで尻をまくるんだが事情があってまくれねえ」

「鮑のし」は、おつむの弱い甚兵衛と賢い妻お光による長屋の夫婦漫才的な要素と、最後のオチの巧妙さが魅力の古典落語です。あわびを「磯のあわびの片思い」として縁起が悪いと断られた後、知恵者のアドバイスで再挑戦する展開は、江戸時代の庶民の知恵と機転を感じさせます。特に最後の「ふんどしをしていないから尻がまくれない」というオチは、威勢の良い啖呵と現実のギャップが生み出す笑いの典型例として、多くの落語ファンに愛され続けています。

夫婦の愛情と信頼関係、そして江戸の長屋の人情味あふれる描写も見どころで、甚兵衛の純朴さとお光の賢さのコントラストが物語に深みを与えています。古典落語の中でも特に親しみやすく、初心者にもおすすめの演目の一つです。


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 長屋(ながや) – 江戸時代の集合住宅。壁一枚で仕切られた狭い部屋が連なる。家賃は月1両程度で、庶民の住まいの代表。
  • 尾頭付き(おかしらつき) – 頭と尾がついた魚のこと。祝い事には欠かせない縁起物。特に鯛が重宝された。
  • 熨斗(のし) – 祝儀袋につける飾り。本来は「熨斗鮑(のしあわび)」で、鮑を薄く伸ばして乾燥させたもの。
  • 磯のあわびの片思い – 鮑は二枚貝に見えて実は巻貝(一枚貝)であることから、片思いの比喩として使われた。
  • 50銭 – 明治時代の貨幣単位。1円=100銭。当時の50銭は現在の約2000円程度に相当。
  • 大家(おおや) – 長屋の家主。店子(たなこ)の面倒を見る存在で、親代わりのような役割も果たした。
  • 尻をまくる – 啖呵を切る、喧嘩腰になるという意味。実際に着物の裾をまくって威嚇する仕草から。
  • ふんどし – 男性用の下着。江戸時代は必需品だったが、貧しい者は持たないこともあった。

よくある質問(FAQ)

Q: なぜ「磯のあわびの片思い」が婚礼に縁起が悪いのですか?
A: 鮑は一見二枚貝のようですが実は巻貝(一枚貝)です。このことから「片思い」の象徴とされ、両思いであるべき婚礼には不適切とされました。しかし実際には鮑は古来より縁起物で、熨斗の原料でもあります。

Q: 甚兵衛はなぜそんなに頭が弱い設定なのですか?
A: 江戸落語では「与太郎」に代表される、おつむの弱い善良な人物が定番キャラクターです。彼らの純朴さと失敗が笑いを生み、同時に賢い妻の愛情を際立たせる効果があります。

Q: この噺の時代設定はいつ頃ですか?
A: 50銭という貨幣単位から明治時代以降と考えられます。江戸時代版では「二朱」「一分」などの単位で演じられることもあります。

Q: 実際に鮑のしを祝い物として使う風習はあったのですか?
A: はい、実在しました。鮑を薄く伸ばして乾燥させた「熨斗鮑」は、古来より最高級の祝儀品で、現在の熨斗袋の飾りの原型です。

Q: 現代でもこの噺は演じられていますか?
A: はい、夫婦の掛け合いと最後のオチが面白く、現在も多くの落語家が高座にかけています。ただし「ふんどし」の部分は現代風にアレンジされることもあります。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 古今亭志ん生(五代目) – 甚兵衛の愚直さを愛嬌たっぷりに演じ、夫婦の情愛を温かく描いた名演が残る。
  • 三遊亭圓生(六代目) – 端正な語り口で、長屋の風景と人情を丁寧に描写。特にお光の賢さの表現が絶妙。
  • 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。飄々とした語り口で、甚兵衛の純朴さを自然に演じた。
  • 春風亭柳朝(五代目) – テンポの良い語りで、夫婦の掛け合いを軽妙に表現。若い世代にも人気。
  • 柳家喬太郎 – 現代の名手。古典の味わいを残しつつ、現代的な解釈も加えて新鮮さを演出。

関連する落語演目

同じく「長屋の夫婦」が主人公の古典落語

おつむの弱い人物が登場する古典落語

祝い物・縁起物が題材の古典落語

この噺の魅力と現代への示唆

「鮑のし」は、一見すると単純な勘違い噺のようですが、実は夫婦愛と江戸の長屋文化が色濃く描かれた作品です。

おつむの弱い甚兵衛を、お光は叱りながらも見捨てずに支えています。これは現代の夫婦関係にも通じる普遍的なテーマです。完璧でない相手を受け入れ、お互いの長所短所を補い合う関係性は、時代を超えて共感を呼びます。

また、「磯のあわびの片思い」という言葉遊びから、実は鮑が縁起物であるという逆転の展開は、物事を一面的に見ることの危険性を教えてくれます。大家も最初の判断にとらわれず、甚兵衛の(借り物の)主張に耳を傾ける度量があったからこそ、この噺は成立します。

最後の「ふんどしをしていないから尻がまくれない」というオチは、威勢の良さと現実のギャップを表現した秀逸な締めくくりです。見栄を張ろうとしても、結局は自分の実力以上のことはできないという、誰もが経験する真理を笑いに昇華しています。

実際の高座では、演者によって甚兵衛の愚直さの度合いや、お光の賢さの表現、大家の人柄などが異なり、それぞれの解釈が楽しめます。特に甚兵衛が口上を間違える場面は、演者の腕の見せ所となっています。


関連記事もお読みください

タイトルとURLをコピーしました