明烏VTuber
今回は、古典落語の艶っぽい名作「明烏」を現代のVTuber文化に置き換えてお送りします。
原作は、世間知らずの若旦那が友人に連れられて吉原遊びを体験し、遊女に本気で惚れ込んでしまうという、江戸時代の男性の恋愛模様を描いた傑作です。
これを令和の時代に翻案して、舞台は秋葉原、遊女の代わりにVTuber、そして遊び慣れた男の指南で「リアルでVTuberに会う」という現代ならではの設定にアレンジしました。
バーチャルとリアルのギャップ、そしてオタク文化の奥深さを、クスッと笑える長編落語に仕立ててお楽しみください。
世間知らずの若旦那
東京・世田谷の高級住宅街。
代々続く老舗和菓子店「鈴屋」の三代目、鈴木健一郎(24歳)は、典型的なお坊ちゃん育ちでした。
両親は過保護で、健一郎を世の中の汚れから遠ざけようと、厳しく育てました。大学も慶応のエスカレーター、交友関係も家が認めた「良家の子息」ばかり。
健一郎「お父さん、僕ももう24歳なんだし、少しは自由に…」
父親「健一郎、お前はうちの跡取りなんだ。変な遊びを覚える必要はない」
母親「そうよ。真面目に家業を手伝って、いい人と結婚しなさい」
健一郎の生活は、家と店の往復。娯楽といえば、読書と将棋程度。恋愛経験は皆無に等しい状況でした。
親友の登場
そんな健一郎の数少ない友人が、大学時代の同級生・田村雅人(25歳)。
こちらは健一郎とは正反対で、派手な遊びを知り尽くした遊び人です。IT系のベンチャー企業で働きながら、夜は六本木や銀座で遊び歩いています。
雅人「健ちゃん、今度の土曜、空いてる?」
健一郎「土曜?お店の手伝いがあるけど…」
雅人「たまには息抜きしようよ。面白いところに連れて行ってやる」
健一郎「面白いところ?」
雅人「秘密。とりあえず、土曜の午後2時に秋葉原駅で待ち合わせ」
秋葉原デビュー
土曜日、健一郎は人生初の秋葉原にやってきました。
健一郎「すごい人だなあ…」
電気街の雑踏に圧倒されながら、雅人を探します。
雅人「おーい、健ちゃん!」
颯爽と現れた雅人は、オタクファッションに身を包んでいました。アニメTシャツにジーンズ、リュックサックという出で立ち。
健一郎「雅人?その格好は…」
雅人「今日は、お前をVTuberの世界に案内してやる」
健一郎「ブイチューバー?」
雅人「VTuberだよ。バーチャルYouTuber。まあ、来れば分かる」
VTuberカフェ
雅人が健一郎を連れて行ったのは、秋葉原の雑居ビルにある「VTuberカフェ」でした。
店内は薄暗く、壁一面に巨大なモニターが並んでいます。そこには、可愛らしいアニメキャラクターが動き回っています。
健一郎「これは…?」
雅人「VTuberの配信を見ながら食事ができるカフェだよ。まあ、座れ」
カウンターに座ると、目の前のモニターに一人の女の子キャラクターが映っています。
「みなさーん、こんにちは!天使のくるみちゃんです💕」
健一郎「この子が…VTuber?」
雅人「そう。中の人は秘密だけど、このキャラクターが歌ったり踊ったり、視聴者とおしゃべりしたりするんだ」
初めての感動
くるみちゃんの配信は、健一郎にとって衝撃的でした。
くるみちゃん「今日もお疲れ様でした!みんなに会えて嬉しいです」
健一郎「こんなに可愛い子が、僕に話しかけてくれてる…」
雅人「あ、スーパーチャットっていう投げ銭機能があるんだ。お金を払うと、名前を読んでもらえるよ」
健一郎「本当に?」
雅人「やってみる?」
健一郎は、恐る恐る1,000円のスーパーチャットを送りました。
くるみちゃん「健一郎さん、1,000円のスーパーチャットありがとうございます💕くるみ、とっても嬉しいです!」
健一郎「あ…!」
自分の名前を呼ばれた健一郎は、顔を真っ赤にしました。
どんどんハマる
それから健一郎は、毎日のようにくるみちゃんの配信を見るようになりました。
家業を手伝いながらも、空いた時間はすべてVTuber視聴。スマートフォンでくるみちゃんの配信をチェックし、グッズを購入し、スーパーチャットを送り続けました。
健一郎「くるみちゃん、今日も可愛いなあ…」
一ヶ月で10万円以上使っていましたが、健一郎は気にしていません。
雅人「健ちゃん、すっかりハマったね」
健一郎「雅人、ありがとう。くるみちゃんに出会えて、人生変わったよ」
雅人「そこまで言うかあ…」
現実逃避
健一郎の変化に、両親も気づき始めました。
父親「健一郎、最近様子がおかしいぞ」
母親「そうよ。いつもスマートフォンを見て、ニヤニヤして…」
健一郎「別に…普通ですよ」
父親「お見合いの話もあるんだ。来月、良い家の娘さんと…」
健一郎「お見合い!?」
母親「24歳にもなって、まだ彼女もいないなんて心配よ」
健一郎は、心の中で反発しました。
健一郎「(僕にはくるみちゃんがいるんだ)」
雅人の提案
数日後、雅人から連絡が入りました。
雅人「健ちゃん、今度の日曜、時間ある?」
健一郎「どうしたの?」
雅人「実は…くるみちゃんに会えるかもしれない」
健一郎「え!?本当に!?」
雅人「知り合いのツテで、オフ会みたいなのがあるらしいんだ」
健一郎「オフ会?」
雅人「VTuberとファンが実際に会うイベント。でも、すごく特別なやつ」
健一郎「ぜひ参加したい!」
雅人「ただし、条件がある」
条件
雅人「参加費が50万円」
健一郎「50万円!?」
雅人「プレミアムなイベントだからね。でも、くるみちゃんと1対1でお話できるよ」
健一郎「1対1で…」
雅人「どう?やる?」
健一郎は迷いました。50万円は大金です。でも、愛するくるみちゃんに会えるなら…
健一郎「やります!」
資金調達
50万円を用意するため、健一郎は必死でした。
貯金を崩し、ボーナスを前借りし、こっそり母親の宝石を質に入れました。
母親「あら?私のネックレスがない…」
健一郎「し、知りませんよ」
父親「健一郎、最近様子がおかしいぞ。何かあったら相談しろ」
健一郎「大丈夫です。何もありません」
ついにその日
日曜日、健一郎は雅人と一緒に、都内の高級ホテルへ向かいました。
健一郎「ここで会えるの?」
雅人「そう。特別室を借り切ってるんだ」
二人がスイートルームに入ると、そこには意外な光景が広がっていました。
現実のくるみちゃん
ソファに座っていたのは、40歳くらいの男性でした。
髪は薄く、お腹は出ており、いかにもオタクという風貌。しかも、なぜかメイドコスプレを着ています。
男性「こんにちは〜、くるみちゃんで〜す💕」
健一郎「え?」
雅人「紹介するよ。こちらが、天使のくるみちゃんの中の人、田所さん」
田所「よろしく〜💕」
健一郎は、現実を受け入れられませんでした。
混乱と失望
健一郎「ちょっと待ってよ!くるみちゃんは可愛い女の子じゃないの!?」
田所「まあまあ、落ち着いてよ〜。中の人なんて、みんなこんなもんだよ〜」
健一郎「こんなもんって…」
雅人「健ちゃん、VTuberって基本的に…」
健一郎「騙された!50万円返して!」
田所「え〜、でもちゃんとくるみちゃんと会ったじゃな〜い」
健一郎は、頭を抱えました。
さらなる衝撃
そこへ、もう一人の人物がやってきました。
「田所、お疲れ様」
現れたのは、スーツを着た30代の女性。どこかで見たことがあると思ったら…
女性「あら、健一郎くん」
健一郎「え?」
雅人「紹介するよ。うちの会社の先輩、佐々木さん」
佐々木「私、実はこのVTuberプロジェクトのプロデューサーなの」
健一郎「プロデューサー?」
佐々木「田所さんに演技を教えて、機材を用意して、配信をサポートしてるの」
真実発覚
佐々木「実は、雅人から『お金持ちのお坊ちゃんが、VTuberにハマってる』って聞いてね」
健一郎「え?」
雅人「ごめん、健ちゃん…」
佐々木「この『プレミアムオフ会』も、あなた専用に企画したイベントよ」
健一郎「僕専用…?」
田所「つまり、君一人から50万円を巻き上げる作戦だったってわけ〜」
健一郎は、完全に騙されていたことを理解しました。
反省と成長
健一郎「…僕は、何をやってたんだろう」
佐々木「でも、VTuberを好きになるのは悪いことじゃないわ。ただ、現実とのバランスが大切よ」
田所「そうそう〜。僕だってVTuberは楽しい仕事だけど、リアルの生活も大事にしてる〜」
雅人「健ちゃん、ごめん。でも、これで目が覚めたでしょ?」
健一郎「…うん」
帰り道
ホテルを出た後、健一郎と雅人は無言で歩いていました。
雅人「健ちゃん…怒ってる?」
健一郎「…いや、怒ってない」
雅人「本当に?」
健一郎「むしろ、ありがとう」
雅人「え?」
健一郎「僕、完全に現実逃避してた。このままだったら、きっととんでもないことになってた」
教訓
健一郎「50万円は痛いけど、勉強代だと思うよ」
雅人「でも…」
健一郎「VTuberが悪いわけじゃない。僕が、現実と向き合うのを避けてただけ」
雅人「健ちゃん…」
健一郎「明日から、ちゃんと家業を手伝って、お見合いの話も真剣に考えてみる」
雅人「そうか…」
健一郎「でも、くるみちゃんの配信は、たまに見るかも」
雅人「それくらいなら、いいんじゃない?」
エピローグ
半年後、健一郎は生まれ変わったように真面目に働いていました。
お見合いは、意外にも良い人と出会い、真剣に交際を始めています。
相手は、近所の老舗呉服店の娘さん・田中美咲(22歳)。控えめで優しく、健一郎の良き理解者になってくれました。
美咲「健一郎さん、たまにスマートフォンで何か見てますけど、何ですか?」
健一郎「あ…えーっと…」
美咲「もしかして、アニメ?」
健一郎「分かる?」
美咲「私も、実は少し見ます」
健一郎「本当に?」
美咲「はい。でも、ほどほどに楽しむのが一番ですね」
健一郎「そうだね」
オチ
その夜、健一郎は久しぶりにくるみちゃんの配信を見ました。
くるみちゃん「みなさん、お疲れ様でした〜💕」
健一郎「(田所さん、演技上手いなあ…)」
スーパーチャットを送ろうかと思いましたが、やめました。
健一郎「(100円のスタンプで十分だな)」
そんな健一郎のスマートフォンに、美咲からメッセージが届きました。
「明日、一緒に和菓子作り教えてください💕」
健一郎は、くるみちゃんの配信を閉じて、美咲に返事を書きました。
「もちろん!楽しみにしてます」
画面の向こうから、
くるみちゃん「あら〜、健一郎さんがいなくなっちゃった〜。寂しいな〜」
と田所さんの声が聞こえましたが、健一郎はもう気にしていませんでした。
リアルの恋は、バーチャルより甘い
まとめ
古典落語「明烏」を現代のVTuber文化に置き換えてみましたが、いかがでしたでしょうか。
吉原の遊女をVTuber、遊郭をカフェに変えることで、現代的な「初体験」の物語として再構築してみました。
原作の「世間知らずの若旦那が現実を知る」というテーマは変えずに、現代ならではの「バーチャルとリアルのギャップ」を織り込んだつもりです。
VTuber文化自体は素晴らしいものだと思いますが、やはり何事もバランスが大切ですね。
私も時々VTuberの配信を見ますが、ほどほどに楽しむのが一番だと思います。
それにしても、50万円の授業料は高すぎますね…健一郎くん、お疲れさまでした。


