ふたなり
3行でわかるあらすじ
猟師の亀右衛門が仲間のために借金を取りに天神の森へ向かい、首吊り自殺しようとする娘から十両をもらう約束をする。
十両欲しさに娘に首吊りの方法を懇切丁寧に教えるが、踏み台を蹴ってしまい自分が首を吊って死んでしまう。
役人が娘の書置きから性別を勘違いし「男子か女子か?」と聞くと、仲間が「いえ、猟師でございます」と職業で答える。
10行でわかるあらすじとオチ
面倒見のいい猟師・亀右衛門のところに仲間の若い猟師二人が借金返済のために十両を借りに来る。
亀右衛門が夜中にお小夜後家のところまで借りに行くことになり、天神の森を通って向かう。
森で首吊り自殺しようとする娘と出会い、娘が十両をくれると言うので方針転換して自殺を勧める。
亀右衛門が首吊りの方法を懇切丁寧に教え、「踏み台をポーンと」蹴ってしまい自分が首を吊って死ぬ。
娘は首吊りの気が失せて両親への書置きを亀右衛門の懐に入れ、十両を取り戻して逃げる。
仲間が亀右衛門の帰りを心配して迎えに行き、天神の森で死体を発見する。
役人が亀右衛門の懐から娘の書置きを見つけ、「深い仲になり因果の胤を宿し候」という内容を読む。
役人が「世にふたなりという男と女の両性を有する者もある」と言い、性別を疑問に思う。
役人が「これ亀右衛門は男子か女子か?」と尋ねる。
若い猟師が「いえ、猟師でございます」と職業で答えて、性別と職業を取り違えたボケで落とされる。
解説
「ふたなり」は怪談風の導入から始まる滑稽噺で、最後の職業ボケが秀逸な古典落語です。タイトルの「ふたなり」とは両性具有者を意味する言葉で、役人が娘の書置きから亀右衛門の性別を勘違いすることから生まれています。
この噺の面白さは、善意から始まった行動が欲得に変わり、最終的に自滅するという皮肉な展開にあります。亀右衛門は最初は娘の自殺を止めようとしますが、十両と聞いた途端に態度を変え、自殺を勧めるようになります。しかし親切に首吊りを教えているうちに自分が犠牲になってしまうという、因果応報の構造が描かれています。
オチの「いえ、猟師でございます」は「とんちオチ」の典型で、役人の「男子か女子か?」という性別を問う質問に対して職業で答えるという、質問の意図を完全に外した回答が笑いを誘います。江戸時代の庶民の素朴さと、お役人との知識格差を表現した優れた言葉遊びといえるでしょう。
あらすじ
夜更けに人がよく面倒見のいい猟師の亀右衛門さんのところに、仲間の若い猟師が二人やって来る。
どうしても明日までに十両の借金を返せねばこの村に居られなくなったと言う。
あちこちと金の工面して回ったがどうにもならず、亀右衛門さんを頼って来たという。
亀右衛門さんにも十両のまとまった金はなく、手紙を持って金貸しのお小夜後家の所へ行って借りるようにと取り計らうが、二人はこんな夜更けに狐・狸が化けて出るという天神の森を抜けて行くのは怖く、お小夜後家の所に行ったところで信用がない二人には、貸してくれないだろうと、情けないことを言っている。
亀右衛門さん「いい若い者が怖い、怖いとは情けねぇ。俺なんぞ怖いと思ったことなど一辺もない・・・」なんて豪語し、「そんなら俺が行ってやる」と、お人良し丸出しでこんな夜中に出掛けて行った。
天神の森にさしかかり、本当は怖がりの亀右衛門さん、「何でこんなことを引き受けてしまった・・・」と悔やむが引き返すわけにも行かない。
すると目の前にすーっと若い娘が現れた。
さては狐狸妖怪の類と見構えたが、正真正銘の人間のようだ。
若い娘は奉公先の番頭といい仲になり、お腹に子まで宿してしまった。
店の金を盗んで番頭と駆け落ちしてここまで来たが、番頭は逃げ出してしまった。
両親に会わせる顔もなく、ここで首を吊って死のうと思っていると明かす。
首吊りなんて早まったことはするなと止めにかかった亀右衛門さんに娘は、「ここにある十両をあげるから死なせてくれ」と言い出す。
十両と聞いた亀右衛門さん。
十両あればこの先、怖い思いをしてお小夜後家の所へ行かずとも済む。
そこで方針転換、自殺推進派となって首吊りを勧め、やり方が分からないという娘に、懇切丁寧、首吊りの方法を教え始める。「・・・こうやって縄を木の枝に掛け、・・・この桶を踏み台にして・・・こうやって首を縄の輪の中に入れ・・・踏み台をポーンと・・」蹴ってしまった。
ぶら下がった亀右衛門さんのよだれと鼻汁を垂らした無様な死にざまを見て、娘はすっかり首吊りの気は失せた。
両親に宛てた書置きを、こんな物もういらないと亀右衛門さんの懐(ふところ)に入れ、渡した十両を取り戻して、すたこらさっさと駆け出して行ってしまった。
一方、亀右衛門さんの帰りが遅いのを心配した二人は迎えに出掛ける。
まだ夜明け前の天神の森に入ると、何かにぶつかった。
よけても押してもすぐに戻って来る。
力一杯押したら、戻って来て顎にカウンターを食った。
よく見ると木の枝にぶら下がった亀右衛門さんの死体だった。
びっくり仰天して二人は役人の所へ走った。
死体をつぶさに検分した役人は亀右衛門の懐に娘が入れた書置きを見つけた。「私こと、ご両親様に申し分けなきことなれど・・・」、役人「亀右衛門はいくつだ?」、「確か今年78で・・・」、
役人は書置きを読み続ける。「”いつしかあの人と深い仲になり、ついには因果の胤(たね)を宿し候”・・・、どうもおかしいな、亀右衛門とは男の名。世にふたなりという男と女の両性を有する者もあると聞くが・・・、これ亀右衛門は男子か女子か?」
若い猟師 「いえ、猟師でございます」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- ふたなり – 両性具有者のこと。この噺では役人が死体の性別を勘違いして使う言葉です。
- 猟師(りょうし) – 狩猟を生業とする人。江戸時代は山間部や森林地帯で活動していました。
- 天神の森(てんじんのもり) – 天神様を祀る神社の森。この噺では首吊りの場所として登場します。
- お小夜後家(おさよごけ) – 未亡人の高利貸し。亀右衛門が借金を取り立てに行く相手です。
- 書置き(かきおき) – 遺書のこと。娘が両親に宛てた手紙が、亀右衛門の死体の懐から見つかります。
- 役人(やくにん) – 江戸時代の行政官。死体の検分を行う職務がありました。
- 踏み台 – 首吊りの際に使う台。蹴って落とすことで首を吊ります。
- 因果の胤(いんがのたね) – 不倫の子供のこと。娘の書置きに書かれた表現です。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ亀右衛門は娘に首吊りを教えたのですか?
A: 娘が「十両をあげるから死なせてくれ」と言ったため、十両欲しさに首吊りの方法を教えたからです。しかし自分で実演して死んでしまいました。
Q: なぜ役人は性別を勘違いしたのですか?
A: 亀右衛門の懐に入っていた娘の書置きを読んで、「私こと、ご両親様に申し分けなきことなれど」という女性の文章から、死体が女性だと思い込んだからです。
Q: オチの「猟師でございます」の意味を教えてください
A: 役人が「男子か女子か?」と性別を聞いたのに対して、若い猟師が職業である「猟師」で答えてしまうという、質問の意図を理解していないボケです。
Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 江戸落語の演目です。江戸時代の役人制度や高利貸しなど、江戸の社会背景を反映しています。
Q: タイトルの「ふたなり」の意味は?
A: 両性具有者のことで、役人が男性の死体に女性の遺書があったことから「ふたなり」ではないかと疑ったことから来ています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人で、亀右衛門の欲深さと最後のボケを絶妙に演じました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 洗練された語り口で、怪談風の雰囲気と滑稽さを見事に対比させました。
- 柳家小三治 – 人間国宝。亀右衛門の心理と娘との会話を丁寧に描きます。
- 春風亭一之輔 – 現代の若手実力派。ブラックユーモアを効果的に表現します。
関連する落語演目
同じく「死・怪談風」がテーマの古典落語
「欲と失敗」がテーマの古典落語
「役人・裁判」がテーマの古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「ふたなり」のオチは、役人が「男子か女子か?」と性別を聞いているのに、若い猟師が「猟師でございます」と職業で答えてしまうという、質問の意図を理解していないボケです。死の場面でありながら、このトンチンカンな会話が笑いを誘います。
この噺の最大の魅力は、ブラックユーモアの効いた展開です。亀右衛門は娘を助けるどころか、十両欲しさに首吊りを勧めて教えます。しかし皮肉なことに、自分で実演して踏み台を蹴ってしまい、自分が死んでしまう。欲に目がくらんだ者の末路を痛烈に描いています。
娘のキャラクターも興味深い点です。最初は死のうとしていたのに、亀右衛門の無様な死にざまを見てすっかり死ぬ気が失せる。死の恐怖を乗り越えるには、醜い死に様を見るのが効果的だという皮肉な教訓が込められています。
役人の勘違いも秀逸です。女性の遺書を持った男性の死体という矛盾から、「ふたなり」ではないかと疑う。当時の知識では説明がつかない事態に直面した役人の困惑が描かれています。
現代的な視点で見ると、この噺は「欲望の代償」というテーマを扱っています。亀右衛門は十両という大金欲しさに、他人の自殺を手助けするという非道な行為に手を染めます。しかし結果的に自分が死んでしまうという因果応報は、欲望のコントロールの重要性を示しています。
また、コミュニケーションエラーのオチも現代に通じます。「男子か女子か」という性別の質問に「猟師」という職業で答えるズレは、質問の意図を理解せずに答えてしまう現代のコミュニケーション不全にも似ています。
実際の高座では、亀右衛門の欲深さ、娘との会話、首吊りの場面、そして最後のボケを演じ分ける演者の技量が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。










