星野屋
3行でわかるあらすじ
星野屋の旦那がお花に手切れ金を出して別れを告げると、お花が一緒に死ぬと言い出し、心中に向かうが旦那だけが先に川に飛び込む。
お花が飛び込まずに帰ると、旦那の幽霊が出ると騒ぎになるが、実は心中は狂言で旦那は生きていた。
手切れ金はにせ金かと思ったら本物で、最後はお花の母親が「3枚くすねておいた」というオチで終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
星野屋の旦那がお花のところにやって来て、手切れ金を出して今日限り別れてくれと言う。
お花は他に女ができて別れるくらいなら死ぬと言い出し、旦那も店をたたんで死ぬと言う。
その夜、二人で心中に出かけ、吾妻橋まで行くと旦那が先に身を投げてしまう。
お花は「生きていれば面白い思いもできる」と言って飛び込まずに帰ってしまう。
夜遅く重吉が駆け込んできて、旦那の幽霊が枕元に出たと言い、お花を取り殺すと言っていたと報告する。
お花が髪を切って一生亭主を持たないと誓うと、重吉が旦那を呼んで入ってくる。
心中はお花の気持ちを試すための狂言で、一緒に飛び込めばすぐ助けて店を持たせる手筈だったと明かされる。
重吉が手切れ金はにせ金だと言うと、お花が金を投げ出すが、実は本物の金だった。
お花が「本物だって」と言うと、母親が現れる。
母親が「そう思ったから、3枚くすねておいたよ」と言うオチで終わる。
解説
「星野屋」は江戸時代の商家と遊女の関係を背景にした古典落語で、心中騒動を軸とした複雑な人間模様が描かれています。表面的には悲劇的な心中話に見えますが、実際は狂言であり、最後は金銭を巡る喜劇的なオチで終わるという二重構造が特徴的です。
この演目の見どころは、まずお花の心理描写です。旦那が先に川に飛び込んだ後で「生きていれば面白い思いもできる」と本音を漏らし、結局は飛び込まない現実的な選択をする場面は、人間の生への執着を率直に表現しています。
重吉というキャラクターも重要な役割を果たしています。旦那とお花の仲を取り持った仲人でありながら、旦那の狂言に加担し、幽霊騒ぎを演出して場を盛り上げる役回りです。彼の存在により、物語がスムーズに展開し、真相の暴露へと導かれます。
手切れ金を巡る騙し合いも見どころの一つです。本物の金をにせ金だと偽り、お花が投げ出すのを見て「正真正銘の天下の御通金」と種明かしをする場面は、登場人物たちの駆け引きを表現しています。
最大の見どころは最後のオチです。お花の母親が「3枚くすねておいた」という一言は、それまでの深刻な展開を一気に庶民的な笑いに変える効果的な落としです。母親という立場でありながら、娘の手切れ金を密かに取っていたという俗っぽさが、江戸時代の庶民の逞しさを表現した秀逸なオチとなっています。
あらすじ
星野屋の旦那に囲われているお花。
旦那がやって来て、今日かぎり別れてくれと手切れ金を出す。
お花は旦那に、ほかに女ができて別れるくらいなら死ぬと言い出す。
旦那は面倒なことが起きて、星野屋の暖簾をおろし店をたたんで、死ぬのだと言う。
お花はそれなら私も一緒にと言ってしまう。
その夜、旦那が来て二人で心中に出かける。
いろいろ歩いたあげく、旦那は吾妻橋から先に身を投げてしまう。
お花 「あれっ、旦那・・・困っちまったねえ。生きていれば面白い思いもできるのに・・・旦那、まことにすみませんが、あたしは、少し都合があるから、死ぬのはよしますよ」、お花は飛び込まずそのまま家へ帰ってしまう。
夜遅く雨の中をお花の家へ、二人の仲をとり持った重吉がびっしょりになって駆け込んでくる。
旦那の幽霊が枕元に出たというのだ。
旦那は毎晩、幽霊に出て、一緒に死ぬ約束を破った薄情なお花をとり殺すと言っていたという。
お花 「・・・どうかして幽霊の出なくなる工夫はないだろうかねぇ」
重吉 「頭の毛でも根元からぷっつりと切って、一生亭主を持ちませんとでも言ったら出なくなって助かるかも知れねえな」、お花は隣の部屋へ入り、髪を切って持ってくる。
それを見て重吉が呼ぶと旦那が入ってくる。
心中はお花の料簡をためす狂言で、一緒に飛び込めばすぐ助けて、店一軒でも持たせてずっと世話をする手筈だったという。
すると、お花はどうせそんなことだろうと思ったからかもじを渡したんだと言って、被っていた手ぬぐいをとる。
重吉 「昼間、旦那から三十両もらったろ。
あれは旦那が座敷でもって芸者、幇間(たいこもち)をあげて遊ぶときのにせ金なんだよ。一枚でも使ってみろ手が後ろに回るぞ」
お花 「まあおっかさんにせ金だって。
こっちへ持って来ておくれ。こんなもん持って行きゃがれ」 と金を投げ出す。
重吉 「馬鹿、これは正真正銘、天下の御通金だよ」
お花 「まあ、おっかさん、あれ本物の金だってさ」
お花の母 「ああ、そう思ったから、三枚くすねておいたよ」
落語用語解説
江戸落語(えどらくご)
江戸(東京)を中心に発展した落語のスタイル。江戸っ子の気質や言葉遣いが特徴で、テンポの良い会話と洒落た言葉遊びが魅力である。
言葉遊び(ことばあそび)
言葉の音や意味を利用した遊び。落語の重要な要素の一つで、同音異義語や掛け言葉を巧みに使って笑いを生み出す伝統的な技法である。
オチ(おち)
落語の結末部分。聴衆を笑わせたり驚かせたりする仕掛けで、地口オチ、考えオチ、仕込みオチなど様々な種類がある。
古典落語(こてんらくご)
江戸時代から伝わる伝統的な落語演目。長い歴史の中で洗練されてきた話芸として、現代でも多くの落語家によって演じ続けられている。
江戸時代(えどじだい)
1603年から1868年までの約260年間。落語が庶民の娯楽として発展した時代で、多くの古典落語がこの時代を舞台にしている。
庶民(しょみん)
一般の民衆。江戸時代の町人や農民など、武士階級ではない人々を指す。落語は庶民の生活や人情を描いた話芸として親しまれてきた。
人情噺(にんじょうばなし)
人間の情愛や優しさを描いた落語のジャンル。笑いだけでなく感動も与える演目として、古典落語の重要なカテゴリーの一つである。
よくある質問(FAQ)
この噺の見どころは何ですか?
この噺の見どころは、江戸時代の庶民生活を生き生きと描いた点にあります。登場人物たちの会話や行動から、当時の人々の暮らしぶりや価値観を知ることができます。
なぜこの噺は人気があるのですか?
この噺が人気なのは、時代を超えて共感できる人間ドラマが描かれているからです。笑いとともに人間の本質を突いた内容が、現代の観客にも響きます。
オチの意味は何ですか?
オチには言葉遊びや意外性が込められており、それまでの展開を一気に笑いに変える効果があります。江戸時代の言葉の豊かさと遊び心が表現されています。
この噺の社会風刺的な意味は何ですか?
この噺は江戸時代の社会や人間関係を風刺的に描いています。庶民の生活、身分制度、商売の知恵など、当時の社会状況を反映した内容となっています。
名演者による口演
五代目古今亭志ん生
志ん生の口演は、登場人物のキャラクターを生き生きと描き出すスタイルが特徴です。軽妙な語り口で聴衆を引き込み、笑いの中に人情味を織り込む技術が光ります。
八代目桂文楽
文楽の口演は細部まで計算された緻密な演出で知られています。一つ一つの場面を丁寧に描き、オチへの伏線を効果的に張る技術が高く評価されています。
十代目柳家小三治
小三治の口演は、登場人物の心情を深く掘り下げる演出が特徴です。単なる笑い話ではなく、人間ドラマとして立体的に表現する技術が評価されています。
三代目桂米朝
米朝の口演は、江戸時代の文化や風俗を豊かに描き出すことで知られます。当時の社会状況を詳細に説明し、聴衆に歴史的背景を伝える技術に長けています。
関連する落語演目
この噺の魅力と現代への示唆
この噺は江戸時代の庶民生活を生き生きと描いた古典落語の傑作です。登場人物たちの会話や行動から、当時の人々の暮らしぶりや価値観を知ることができます。現代でも通じる人間の本質や社会の仕組みが描かれており、時代を超えて楽しめる作品として評価されています。


