本膳
3行でわかるあらすじ
庄屋の息子の婚礼で本膳料理が振る舞われるが、村人たちは作法を知らず元侍の師匠に教えを請う。
師匠の真似をすることになるが、師匠が里芋を箸で挟み損ねて落とすと村人全員がそれを真似してしまう。
最後に師匠が隣の人を肘で突くのも連鎖して、末席の人が「この肘はどこへやるだんべ」と困り果てる。
10行でわかるあらすじとオチ
ある村の庄屋の息子の婚礼の席に村の連中が招かれ、本膳料理が振る舞われることになる。
美味い料理は有難いが、本膳の礼儀作法を知っている者はおらず村人は戦々恐々となる。
村人の一人が「手習いの師匠なら元侍だから本膳の食い方を知っている」と提案し、皆で師匠の家に向かう。
師匠は時間がないので「拙者のするとおりに真似なさい」と指示し、村人も安心する。
本膳の席で師匠を筆頭に村人一同が一列に並び、師匠の一挙手一投足を隣の者が真似していく。
初めは順調だったが、師匠が里芋を箸に挟もうとして滑らせ、里芋がお膳の上に転がってしまう。
師匠が箸で里芋を突こうとするも失敗し、里芋は畳の上にコロコロと転がってしまう。
隣の村人は「本膳とは奇妙なことをするもの」と思いながらも師匠の真似をして里芋を落とし、これが次々と連鎖する。
困った師匠が「何をやってんだ」と肘で隣の者の横っ腹を突くと、これも次々と連鎖していく。
末席にいた者が隣を突こうとするが誰もおらず、「お師匠さま、この肘はどこへやるだんべ」と困り果てて落とされる。
解説
「本膳」は江戸時代の農村社会と武士階級の関係を背景にした古典落語です。本膳料理とは室町時代から続く日本の正式な料理形式で、複雑な作法があり、庶民には縁遠いものでした。この噺は、無知な村人たちが権威に盲従することで起こる滑稽な事態を描いています。
この作品の面白さは「連鎖オチ」にあります。師匠の失敗を村人たちが盲目的に真似することで、一つの間違いが次々と拡大していく様子が描かれています。特に最後の「肘で突く」動作の連鎖は物理的な限界に達し、末席の人が困り果てる状況で笑いを誘います。
江戸時代の身分制社会における庶民の武士への憧れと畏怖、そして無知からくる滑稽さを巧みに表現した作品です。また「右へ習え」の集団心理を風刺した側面もあり、現代にも通じる社会風刺を含んでいます。村人の方言使いも親しみやすさを演出する効果的な要素となっています。
あらすじ
ある村の庄屋のせがれの婚礼の席に村の連中が招かれた。
そこでは本膳料理が振舞われるという。
美味い料理を食べられるのは有難いが、本膳の礼儀作法を知っている者などはなく。
村人は戦々恐々、仮病で欠席したらどうか、中には夜逃げでもすんべかともめている。
村人の一人が、「村はずれの手習いの師匠なら元は侍だから、本膳の食い方ぐらい知っているだんべ・・・」ということで、一同うち揃って、師匠の家に教えてもらおうと押し掛けた。
何事か、百姓一揆などに襲われる覚えはないと驚いた師匠だが、話を聞いてひと安心。
師匠「もう今晩のこと。
いちいち教えていては間に合わない。拙者も招かれておる故、何でも拙者のするとおりに真似なさい」で、村人も大安心。
身支度を整え、師匠とともに庄屋の家に向かった。
さて、本膳の席となって師匠を筆頭に村人一同が一列に並んだ。
段取りどおり、師匠の一挙手一投足を隣の者が真似、それを隣の者が真似て行く。
初めのうちはこの連携プレイが順調に進んでいたが、師匠が里芋を箸に挟もうとして、すべって里芋がお膳の上に転がった。
師匠は箸で里芋を突こうとしたが、またも失敗。
里芋は畳の上にコロコロと転がった。
それを見た隣の村人、本膳なんて奇妙なことをするもんだと思ったが、師匠のやることは絶対に真似ねばと、里芋を挟みお膳に落し、箸で突いて畳に転がした。
むろん隣の者も右へ習えで、珍風景がくり広げられる。
困った師匠が、何をやってんだと、肘で隣の者の横っ腹を突いた。
それが次々と続いて、末席にいた者が隣を突こうとするが誰もいない。
村人 「お師匠さま、この肘はどこへやるだんべ」
落語用語解説
本膳(ほんぜん)
正式な日本料理の配膳形式で、本膳料理とも呼ばれる。江戸時代の格式ある食事形式を指し、この噺では村の師匠が村人たちをもてなすために本膳料理を振る舞おうとする設定となっている。
村の師匠(むらのししょう)
村で子供たちに読み書きを教える寺子屋の先生。江戸時代の庶民教育を担った重要な存在で、この噺では村人たちから尊敬される立場として描かれている。
肘(ひじ)
人間の腕の関節部分。この噺のオチでは料理の余った部分として「肘」が登場し、実際には料理に肘など使われないという滑稽さで笑いを生み出している。
田舎噺(いなかばなし)
田舎や農村を舞台にした落語のジャンル。この噺は田舎の村人たちの純朴さと滑稽さを描いた田舎噺の代表作である。
言葉遊びオチ(ことばあそびおち)
同音異義語や掛け言葉を利用したオチの手法。この噺では「肘」という料理にありえない部位が登場する滑稽さがオチとなっている。
本膳料理(ほんぜんりょうり)
江戸時代の格式ある和食の形式。一汁三菜を基本とし、本膳・二の膳・三の膳と重ねて配膳される正式な料理形式である。
村人(むらびと)
農村に住む庶民。この噺では師匠をもてなすために集まった村人たちが、本膳料理の余りをどう処理するかで困惑する様子が描かれる。
よくある質問(FAQ)
なぜ「肘」が登場するのですか?
料理の余った部分を村人が「お師匠さま、この肘はどこへやるだんべ」と聞く場面がオチです。実際の料理に肘など使われないため、村人の勘違いや無知が滑稽さを生み出しています。
この噺の見どころは何ですか?
田舎の村人たちの純朴さと本膳料理という格式ある設定の対比が見どころです。村の師匠をもてなすために一生懸命準備する村人たちの姿が温かく描かれています。
なぜ師匠は本膳料理を振る舞ったのですか?
村の師匠が村人たちに感謝の気持ちを表すために本膳料理を振る舞いました。江戸時代の村社会における師匠と村人の関係性を反映した設定となっています。
この噺の社会風刺的な意味は何ですか?
「本膳」は江戸時代の村社会における教育と人間関係を描いた作品です。村の師匠と村人たちの温かい交流を通じて、庶民の生活と文化を風刺的に表現しています。
名演者による口演
五代目古今亭志ん生
志ん生の「本膳」は、村人たちの純朴なキャラクターを生き生きと描き出すスタイルが特徴です。本膳料理をめぐる騒動と「肘」のオチが軽妙に表現されています。
八代目桂文楽
文楽の口演は細部まで計算された緻密な演出で知られ、「本膳」でも村の師匠と村人たちの関係性が丁寧に描かれています。オチへの伏線も効果的に張られています。
十代目柳家小三治
小三治の「本膳」は、村人たちの心情を深く掘り下げる演出が特徴です。師匠への感謝の気持ちと本膳料理への戸惑いが立体的に表現されています。
三代目桂米朝
米朝の口演は、江戸時代の村社会と本膳料理の文化を豊かに描き出すことで知られます。「本膳」でも、当時の庶民生活を詳細に説明し、聴衆に伝えています。
関連する落語演目
この噺の魅力と現代への示唆
「本膳」は江戸時代の村社会における師匠と村人の温かい関係を描いた田舎噺の代表作です。本膳料理という格式ある設定と村人たちの純朴さの対比が笑いを生み出し、「肘」という料理にありえない部位が登場するオチで滑稽さを表現しています。


