八五郎坊主
3行でわかるあらすじ
八五郎がふとした思いつきで坊主になりたいと言い出し、甚兵衛さんの紹介でズク念寺へ行く。
住職から「法春(ほうしゅん)」という名前をもらい、紙に書いてもらって友達に会いに行く。
友達に名前を読んでもらうが色々間違えられ、最後に八五郎は自分の名前を「はしか」だと勘違いしてしまう。
10行でわかるあらすじとオチ
がらっ八の八五郎が突然、理由もなく坊主になりたいと甚兵衛さんに相談する。
甚兵衛さんが紹介状を書く際、糊がないので飯粒を使おうとするが八五郎が食べてしまう。
ズク念寺へ行き住職に取り次いでもらい、坊主になることを許される。
住職が八五郎の頭を剃り、法名をつけることになる。
「八法」「六法」は気に入らず、「法春(ほうしゅん)」という名前に決まる。
八五郎は「はしかも軽けりゃ、ほうしゅんも軽い」と訳の分からない洒落を言って喜ぶ。
名前を忘れそうなので紙に書いてもらい、衣姿で甚兵衛さんに報告に行く。
途中で友達に会い、もらった名前を尋ねられるが思い出せない。
友達が紙を見て「ほうばる」「ほかす」「のりかす」と色々間違えて読む。
最後に「ほうしゅん」だと分かると、八五郎は「わしの名前はね、はしか、という」と勘違いしてオチとなる。
あらすじ
がらっ八の八五郎がいつも世話になっている甚兵衛さんのところへ真剣な顔でやって来る。
どうしても、訳もなく、とにかく坊主になりたいから心安い坊さんはないかと言い出す。
それほどの覚悟ならと甚兵衛さん、知り合いの寺に手紙を書いてやるという。
封をする糊がないので、台所のおひつの飯粒を持ってくるようにいうと八五郎は暖っかい、美味そうなご飯を見て食べ始める始末だ。
甚兵衛さんからの手紙を持って大きな銀杏の木が目印の下寺町のずく念寺へやってきた八五郎、立派な門から入ると釣鐘堂から石畳を裏手に回り、ガラガラガラツと幅の広い戸を開け庫裏(くり)へ入る。
寺の伴僧が甚兵衛さんからの手紙を読み住職に取り次ぐと、住職から八五郎は坊主になることを許される。
「なまんだぶ、なまんだぶ」と唱えながら住職が八五郎の頭を丸め、名前をつけてもらうことになる。
仏法の仏と八五郎の八をとり「八法」はどうかと聞くが八五郎は気に入らない。
六法もいやだ。
それなら「法春(ほうしゅん)」はどうかというと、気に入ったらしく、「麻疹(はしか)も軽けりゃ、疱瘡(ほうそう)も軽い」、「はしかも軽けりゃ、ほうしゅん(法春)も軽い」なんて訳の分からない洒落をいってご満悦だが、すぐに名前を忘れるので紙に書いてもらう。
甚兵衛さんに坊主になった姿を見せに行くといい、衣姿に着替え、言葉使いに気をつけるようにいわれ寺を出る。
十月の乾いた風がくりくり坊主の頭を撫でてひんやりする。
衣姿は歩きにくく、袖をたくし上げ、裾をからげて歌を唄いながら大声で歩いて行く。
これを見た友達が法春坊主の八五郎を呼び止める。「愚僧でござるか」なんてきどった八五郎、ずく念寺の坊さんになったと言うと、何という名前をもらったのか聞かれるが思い出せない。
名前を書いてもらった紙を見せると、友達は「ほうばる」と読む。
違うというと、春は春日神社の「かす」だから「ほかす」か、今坊主になったばかりで放(ほか)さんでくれと八五郎。
法は御法(みのり)で「のり」とも読むから「のりかす」かと友達、いやそれも違う。
やっと「ほう」と「しゅん」で「ほうしゅん」かと友達。
これを聞いて、
八五郎 「ほうしゅん、ほうしゅん、はしかも軽けりゃ、ほうしゅんも軽い。分かった、分かった、分かった」
友達 「分かったか」
八五郎 「わしの名前はね、はしか、という」
解説
「八五郎坊主」は与太郎噺の代表的な演目の一つで、間抜けな主人公による勘違いとボケが笑いを生む古典落語です。八五郎という名前の通り、同じキャラクターが登場する一連の与太郎噺の中でも特に人気の高い作品となっています。
この演目の見どころは、八五郎の思いつきの軽さと、最後の言葉遊びによるオチにあります。何の理由もなく突然坊主になりたいと言い出す八五郎の性格描写、甚兵衛さんとのやり取り、寺での一連の場面など、テンポよく進む展開が楽しめます。
オチの仕組みは巧妙な言葉遊びです。「はしかも軽けりゃ、ほうしゅんも軽い」という八五郎の洒落から、「法春(ほうしゅん)」と「疱瘡(ほうそう)」、そして「麻疹(はしか)」が混同され、最終的に八五郎が自分の名前を「はしか」だと勘違いしてしまうという構造になっています。
友達が「ほうばる」「ほかす」「のりかす」など様々に間違えて読む場面も、日本語の読み方の複雑さを利用したユーモアで、聞き手を楽しませる要素の一つです。単純な勘違いながらも、最後まで予想がつかない展開が与太郎噺の醍醐味といえるでしょう。
さらに詳しく知りたい方へ
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- がらっ八 – 江戸の下町で使われた言葉で、軽薄で思慮が浅く、がさつな性格の人を指す。八五郎の性格を表す重要なキーワードです。
- 法名(ほうみょう) – 仏門に入った際に授けられる仏教上の名前。通常は「法」や「仏」の字を含む二文字や三文字の名前が多いです。
- 庫裏(くり) – 寺院の台所や僧侶の居住空間のこと。本堂とは別棟になっていることが多く、寺の日常的な生活空間です。
- 伴僧(ばんそう) – 住職を補佐する僧侶のこと。来客の取り次ぎや雑務を担当します。
- 六法 – 仏教用語で「眼・耳・鼻・舌・身・意」の六つの感覚器官を指しますが、ここでは単に法名の候補として使われています。
- 麻疹(はしか)・疱瘡(ほうそう) – 江戸時代に流行した病気。「軽い」という言葉と組み合わせて「軽症で済む」という意味の慣用句として使われていました。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ八五郎は突然坊主になりたいと言い出したのですか?
A: これが与太郎噺の特徴で、特に深い理由はありません。思いつきで行動する軽薄な性格を表現するための設定で、理由のなさこそが笑いのポイントです。
Q: 「ほうしゅん」を「はしか」と勘違いするオチの意味を教えてください
A: 八五郎が「はしかも軽けりゃ、ほうしゅんも軽い」という洒落を繰り返すうちに、「法春(ほうしゅん)」と「疱瘡(ほうそう)」と「麻疹(はしか)」が頭の中で混同され、最終的に自分の名前を「はしか」だと勘違いしてしまうという言葉遊びのオチです。
Q: この噺は江戸落語ですか?上方落語ですか?
A: 「八五郎坊主」は江戸落語の演目です。八五郎という江戸の典型的な与太郎キャラクターが主人公で、江戸言葉で演じられます。
Q: 実際に思いつきだけで坊主になることはできたのですか?
A: 江戸時代には現代ほど厳格な審査はなく、知り合いの紹介があれば比較的容易に得度できることもありました。ただし、これは落語的な誇張表現も含まれています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 軽快なテンポと明瞭な語り口で、八五郎の間抜けさを愛嬌たっぷりに演じました。
- 柳家小三治 – じっくりとした語り口で、八五郎と甚兵衛さんのやり取りを丁寧に描き、人間味を感じさせる演出が特徴です。
- 春風亭一朝 – 歯切れの良い江戸っ子らしい語り口で、八五郎の軽薄さを強調した演出が人気です。
- 柳家喬太郎 – 現代的な感覚を加えながらも、古典の良さを残した演出で若い世代にも親しまれています。
関連する落語演目
同じく「八五郎」が主人公の与太郎噺
「勘違い」がテーマの古典落語
「言葉遊び」が秀逸な古典落語
江戸落語の他の名作
この噺の魅力と現代への示唆
「八五郎坊主」の最大の魅力は、主人公の徹底した間抜けさと、それを温かく見守る周囲の人々の存在です。甚兵衛さんは八五郎の無茶な願いを真剣に受け止めて紹介状を書き、住職も丁寧に対応します。現代で言えば無責任な行動ですが、江戸の人情味が感じられる一面でもあります。
「はしかも軽けりゃ、ほうしゅんも軽い」という洒落から、最終的に自分の名前を完全に間違えてしまう八五郎の思考回路は、単なる馬鹿話を超えた言葉遊びの妙を示しています。一つの言葉から連想が連想を生み、最後には全く違う結論に至る。これは現代のSNSでの誤解の拡散にも似た構造を持っているかもしれません。
また、「ほうばる」「ほかす」「のりかす」と友達が様々に読み違える場面は、日本語の複雑さと面白さを表現しています。漢字の多様な読み方は外国人学習者を悩ませる要素ですが、落語ではそれが笑いの源泉となっているのです。
実際の高座では、八五郎が飯粒を食べてしまう場面や、坊主頭を撫でられてひんやりする仕草など、演者の個性が光る場面が多数あります。ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。







