碁どろ
3行でわかるあらすじ
囲碁好きの二人が煙草を吸いながら碁を打つため、畳に焼け焦げを作って妻たちに怒られる。
妻が偽の火種(カラスウリ)を煙草盆に入れたところ、二人は気づかずに火のない煙草をスパスパ吸う。
そこへ囲碁好きの泥棒が現れ、あまりの下手さに口出しを始め、正体を聞かれて「泥棒で」と答える。
10行でわかるあらすじとオチ
囲碁仇の二人はいつも煙草を吸いながら碁を打つため、畳のあちこちに焼け焦げを作ってしまう。
火事を心配した妻たちから苦情が出て、「碁は碁、煙草は煙草」と分けることを約束する。
しかし碁に夢中になると約束を忘れ、「煙草の火が来てないぞ」と催促する始末。
困った妻が一計を案じ、煙草盆に真っ赤なカラスウリを入れて持参。
二人は火がついていない煙草をスパスパやりながら、夢中で碁を打っている。
安心した妻が風呂に入った隙に、大きな風呂敷包みを抱えた泥棒が侵入。
泥棒も碁狂いで、「パチリパチリ」という碁石の音に引き寄せられてしまう。
風呂敷をかついだまま観戦していた泥棒、あまりの下手さに黙っていられず口出しを始める。
「うるさいな、一体おまえは誰だい」と聞かれた泥棒は「へい、泥棒で」と素直に答える。
「ふーん、泥棒さん、よくおいでだね」と二人は何事もなかったように碁を続ける。
解説
「碁どろ」は江戸時代の庶民生活を描いた滑稽噺の代表作で、上方では「碁打盗人」と呼ばれる。囲碁への過度な執着を描いたこの演目は、「碁仇は憎さも憎しなつかしし」「下手の考え休むに似たり」などの格言がぴったり当てはまる内容となっている。
物語の面白さは三段構成にある。まず囲碁好きの二人と火事を心配する妻たちの攻防、次に妻の機転で偽の火種を使った解決策、そして囲碁好きの泥棒の登場という展開だ。特に泥棒が正体を明かしても二人が動じない部分は、囲碁への集中力の凄まじさを表現した秀逸なオチとなっている。
この演目は3代目柳家小さんが大阪の4代目桂文吾から教わり東京に移したもので、現在は主に東京で演じられている。囲碁というテーマを通じて、江戸庶民の日常生活と人間関係をユーモラスに描いた古典落語の傑作である。
あらすじ
「碁仇は憎さも憎しなつかしし」、「下手の考え休むに似たり」、「凝っては思案に能わず」、どの格言にもピッタリの、ザル碁だが碁仇の二人、いつも煙草を吸いながら碁に夢中になるので、あちこちに焼け焦げだらけで、火の用心にも悪いとおかみさんから苦情が出る。
それなら碁を一局打った後で、別の部屋で煙草を頭がクラクラ、ケツからヤニが出るほど吸えばいいということにして対戦開始だ。
ところが碁に夢中になってくると、そんな約束事など頭から消えてしまい、「煙草の火が来てないぞ」と言い出す始末だ。
困ったおかみさんが一計を案じ、煙草盆に真っ赤なカラスウリを入れて持って来た。
二人とも碁に夢中で、火がついていない煙草をスパスパやりながら夢中で碁を打っている。
これなら火を出す心配はないと、おかみさんは風呂に入る。
その隙に入り込んだのが二人に輪を掛けた碁狂いの泥棒だ。
大きな風呂敷包みを抱えて失礼しようとすると、奥から聞こえて来た、「パチリ、パチリ」の響きのいい音。
泥棒は磁石に引かれるように碁石の音のする方へ引き寄せられてしまった。
大きな風呂敷をかついだまま、碁を観戦し始めた泥棒、二人あまりのヘボさに黙ってはいられなくなり、あれこれと口出しし始めた。
やっと誰かそばで助言がましいことを言っているのに気がついた二人は、
碁仇甲 「うるさいなあ、一体おまえは誰だい」と一手打った。
碁仇乙 「それでは私もおまえは誰だい、と」、一手打つと、
泥棒 「へい、泥棒で」
碁仇 「ふーん、泥棒、泥棒さん、よくおいでだね、と」、(また一手打った)
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 碁仇(ごがたき) – 囲碁を打つ相手。ほぼ同じ実力で、いつも対局する相手を指します。「碁仇は憎さも憎しなつかしし」という言葉があります。
- ザル碁 – 下手な囲碁のこと。ザルのように穴だらけで守りが甘いことから来ています。
- カラスウリ – 赤い実をつける植物。この噺では、火種に見せかけて煙草盆に入れられます。
- 煙草盆(たばこぼん) – 煙草を吸うための道具一式を入れる盆。火入れ、灰吹き、煙管などが置かれました。
- 焼け焦げ – 煙草の火が落ちて畳や布団に穴が開くこと。江戸時代の木造家屋では火事の原因となり重大な問題でした。
- 風呂敷包み – 泥棒が盗品を包んで運ぶ大きな布。江戸時代の泥棒の定番アイテムでした。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ二人は泥棒だと知っても動じないのですか?
A: 囲碁への集中力が凄まじく、泥棒よりも碁の方が重要だからです。これは誇張表現ですが、何かに夢中になると周りが見えなくなる人間の性質をユーモラスに描いています。
Q: カラスウリの火種は本当に効果的ですか?
A: 赤い実が火種に見えるというのは落語的な誇張ですが、二人が碁に夢中で気づかないという設定が面白さの鍵です。実際に火のない煙草を吸っても気づかないほどの集中力を表現しています。
Q: 江戸時代に囲碁は庶民の娯楽でしたか?
A: はい、囲碁は武士から町人まで広く親しまれていました。特に商家の主人や隠居などが碁仇を見つけて熱中することは珍しくありませんでした。碁会所も多数あり、庶民の娯楽として定着していました。
Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 元は上方落語の「碁打盗人」で、三代目柳家小さんが東京に移したものです。現在は主に江戸落語として演じられています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 柳家小さん(三代目) – この噺を上方から東京に移した名人。軽妙な語り口で、囲碁好きの二人と泥棒の滑稽なやり取りを見事に表現しました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の大名人。この噺でも独特の間と語り口で、囲碁への執着を面白おかしく演じました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 父・志ん生の芸を継承し、美しい語り口でこの噺の魅力を伝えました。
- 柳家小三治(十代目) – 人間国宝。丁寧な人物描写で、囲碁好きの二人と妻、そして泥棒のキャラクターを鮮やかに演じ分けます。
関連する落語演目
趣味に熱中する人を描いた古典落語
夫婦の知恵比べを描いた古典落語
滑稽な状況を描いた古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「碁どろ」は、趣味への過度な執着を描いた普遍的なテーマの作品です。現代でも、ゲームやスマートフォンに夢中になって周りが見えなくなる人は多く、この噺の二人の姿は決して過去のものではありません。
特に興味深いのは、妻のカラスウリ作戦です。火事を防ぐために偽の火種を使うという機転は、現代の「ハームリダクション」(害を減らす)の考え方に通じます。完全に趣味をやめさせるのではなく、安全な形で続けさせるという知恵は、現代の子育てや高齢者ケアにも応用できる発想です。
また、泥棒でさえ碁に引き寄せられ、正体を明かしても二人が気にしないという展開は、趣味を通じた人間関係の不思議さを表現しています。共通の趣味があれば、立場や状況を超えて繋がれるという普遍的な真理を、極端な形で描いているとも言えます。
この噺は「下手の横好き」という言葉も連想させます。上手ではないけれど、純粋に楽しむ姿勢は、現代の競争社会において忘れがちな価値観です。効率や成果ばかりを追求するのではなく、純粋に楽しむことの大切さを、この噺は教えてくれます。
実際の高座では、囲碁の打ち方の仕草、偽の火種を使って煙草を吸う演技、泥棒の登場シーンなど、演者の身体表現が見どころです。ぜひ実際の高座や動画でお楽しみください。






