道灌
3行でわかるあらすじ
太田道灌が雨宿りで山吹の枝を差し出され、古歌の意味が分からず恥をかいた故事を隠居から聞く八五郎。
早速真似をして友達に古歌を披露しようとするが、友達は雨具ではなく提灯を借りに来る。
無理やり古歌を見せると「歌道(かどう)に暗い」に対し「かど(角)が暗い」と返される。
10行でわかるあらすじとオチ
八五郎が隠居の家で太田道灌の掛け軸について説明を受ける。
道灌が狩りの最中に雨に降られ、あばら家で雨具を借りようとする。
娘が山吹の枝を差し出すが、道灌には意味が分からない。
後で家来から「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき」の歌を教わる。
「実」と「蓑」をかけて、貧しくて蓑がないことを伝えたのだと知る。
道灌はこれを機に歌道を学び、大歌人になったという。
八五郎は感心して、自分も同じように古歌で断ろうと考える。
都合よく雨が降り友達が来るが、借りに来たのは雨具ではなく提灯。
無理やり「雨具を借りに来た」と言わせて古歌を見せる。
「歌道に暗い」と言うと「かど(角)が暗いから提灯借りに来た」と返されてしまう。
解説
太田道灌(1432-1486)は江戸城を築いた武将として知られ、山吹の故事は実際に伝わる有名なエピソードである。
この落語は、その高尚な故事を庶民の八五郎が真似しようとして失敗する構図で笑いを誘う。
「歌道(かどう)」と「角(かど)」、「暗い」という言葉の多義性を巧みに利用したオチが秀逸。
教養をひけらかそうとする八五郎に対し、友達の素朴で実用的な返答が痛快な対比を生み出している。
知識や教養を振りかざすことの滑稽さを風刺しつつ、言葉遊びの面白さも楽しめる、江戸っ子らしい機知に富んだ一席。
あらすじ
八五郎が隠居の家にある太田道灌の掛け軸の絵の説明を聞く。
道灌が狩に出かけにわか雨に遭い、雨具を借りにあばらやに入ると娘が山吹の枝を捧げる。
「七重八重花は咲けども山吹の みのひとつだになきぞ悲しき」という古歌のように、実と蓑をかけて雨具のないことを断ったのだが、道灌は分からず家来から説明される。
道灌は歌道に暗いことを嘆き、のちに大歌人になったとの故事だ。
八五郎は歌を書いてもらい、雨具を借りに来たらこの歌で断ろうと家に帰る。
都合よく雨が降ってきたが、友達が雨具ではなく提灯を借りに来る。
無理やり友達に「雨具を借りに来た」と言わせ、「七重八重・・・」の歌を見せる。
友達 「なんだ、これは都々逸か?」
八五郎 「お前もやっぱり歌道に暗えなあ」
友達 「かどが暗いから提灯借りに来た。」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 太田道灌(おおたどうかん) – 室町時代の武将(1432-1486)。江戸城を築城した人物として知られ、武将でありながら優れた歌人でもありました。
- 山吹の故事(やまぶきのこじ) – 道灌が雨宿りで蓑を借りようとした際、娘が山吹の枝を差し出し、古歌で「蓑がない」ことを伝えたという有名なエピソード。
- 七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき – 後拾遺和歌集に収録された兼明親王の歌。「実」と「蓑」の掛詞になっており、山吹には実がつかないように、貧しくて蓑もないという意味。
- 歌道(かどう) – 和歌の道。和歌の作法や教養を指します。この噺では「角(かど)が暗い」との掛詞に使われています。
- 掛け軸(かけじく) – 床の間などに掛けて鑑賞する絵画や書。教養のある家庭では、季節や行事に合わせて掛け替えました。
- 都々逸(どどいつ) – 七・七・七・五の音数律を持つ俗謡。和歌より格下の娯楽的な歌として扱われました。
- 提灯(ちょうちん) – 夜道を照らすための携帯用の照明器具。紙や絹を張った枠の中にろうそくを立てて使用しました。
- 隠居(いんきょ) – 家督を譲って引退した人。教養があり、長屋の相談役的存在として描かれることが多い落語の定番キャラクターです。
よくある質問(FAQ)
Q: 太田道灌の山吹の故事は実話ですか?
A: 江戸時代から広く知られた故事ですが、史実かどうかは不明です。ただし、道灌が文武両道の教養人であったことは確かで、実際に多くの和歌を残しています。
Q: 「実の一つだになきぞ悲しき」の「だに」とはどういう意味ですか?
A: 「だに」は古語で「せめて〜さえも」という意味の副助詞です。「実が一つさえもない」という強調表現になっています。
Q: なぜ八五郎は提灯を借りに来た友達に無理やり「雨具を借りに来た」と言わせたのですか?
A: 道灌の故事を真似して格好つけたかったからです。せっかく覚えた古歌を披露したいという虚栄心から、状況を無理やり合わせようとしたのが笑いどころです。
Q: 「歌道に暗い」と「角が暗い」の掛け言葉はどういう仕掛けですか?
A: 「歌道(かどう)」と「角(かど)」、そして両方に共通する「暗い」という言葉を使った言葉遊びです。教養をひけらかす八五郎に対し、実用的な「角が暗いから提灯を借りに来た」という返しで切り返す痛快さがオチになっています。
Q: この噺は江戸落語ですか、上方落語ですか?
A: 江戸落語の演目です。太田道灌は江戸城を築いた人物であり、江戸っ子の八五郎が主人公という設定も江戸落語らしい特徴です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん生(五代目) – 江戸っ子らしい軽妙な語り口で、八五郎の見栄っ張りな性格を愛嬌たっぷりに表現。言葉遊びの面白さを引き立てました。
- 古今亭志ん朝 – 明晰な語り口で故事の部分を格調高く演じ、八五郎との対比を際立たせる演出が特徴。オチの切れ味も抜群でした。
- 柳家小三治 – 隠居と八五郎の会話を丁寧に描き、八五郎が故事に感心する過程を繊細に表現。間の取り方が絶妙です。
- 柳家喬太郎 – 現代的な感覚を取り入れながら、古典の味わいを残した演出。若い世代にも人気があります。
関連する落語演目
同じく「言葉遊び」が秀逸な古典落語
「教養のない人物」が主人公の古典落語
「見栄を張って失敗する」展開の古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「道灌」の最大の魅力は、高尚な故事と庶民の日常を結びつけた構成の妙にあります。太田道灌という歴史上の人物の教養深いエピソードを、江戸っ子の八五郎が真似しようとして失敗するという対比が、笑いと風刺を生み出しています。
この噺が示唆するのは、知識や教養を形だけ真似ても意味がないということです。八五郎は故事の表面だけを覚えて格好つけようとしますが、その本質(状況に応じた機転や教養の深さ)は理解していません。むしろ、友達の「角が暗いから提灯を借りに来た」という素朴で実用的な返答の方が、状況に即した機転という意味では優れているとも言えます。
現代でも、SNSで知識をひけらかしたり、聞きかじった専門用語を使って格好つけようとする人は少なくありません。しかし、表面的な知識より、状況を正しく理解し適切に対応する実用的な知恵の方が価値があるという教訓は、今なお通じるものがあります。
また、「歌道(かどう)」と「角(かど)が暗い」という掛け言葉の妙は、日本語の持つ豊かな表現力を楽しませてくれます。同音異義語や掛詞を使った言葉遊びは、落語の大きな魅力の一つです。
実際の高座では、隠居が故事を語る場面と八五郎が真似する場面の温度差、そしてオチでの友達の機転ある返しのタイミングが見どころです。演者によって八五郎のキャラクター描写も異なり、それぞれの解釈を楽しむことができます。









