田楽喰い(ん廻し)
3行でわかるあらすじ
酒を飲む若い衆が「ん」のつく言葉を言った数だけ田楽を食べる「ん廻し」ゲームを始める。
神泉苑の薬屋看板で一気に86本食べる者や、半鐘のジャンジャンで延々食べ続ける者が現れる。
ついに生の田楽が出てくると「火事やさかい、あんまり焼かん方がよかろう」というオチで終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
兄貴分の家で菰かぶりの一斗樽の酒を飲む若い衆のもとに、開店祝いで注文した田楽が次々と届く。
一人が「ん廻し」という「ん」のつく言葉を言った数だけ田楽を食べるゲームを提案する。
最初は「よう言わんで」で1本、「れんこん」で2本と控えめだったのが次第にエスカレート。
「天満の天神さん」で6本、「南京木綿三反半三寸」で9本と増えていく。
「産婦三人みんな安産、産婆さん安心」で10本、「千松死んだか、千年万年」で11本と続く。
ついに神泉苑前の薬屋の看板を詳細に説明して「ん」を43個数えて一気に86本を食べる者が登場。
今度は火事の半鐘を真似て「ジャンジャンジャンジャン」と延々と言い続けて食べまくる。
田楽を焼くのが間に合わなくなり、ついに生の田楽が出てきてしまう。
「おい、これなまやないか」と文句を言うと、相手が答える。
「火事やさかい、あんまり焼かん方がよかろう」という火事と焼き物の洒落でオチとなる。
解説
『田楽喰い』は言葉遊びの要素が強い古典落語で、別名『ん廻し』とも呼ばれます。単純なゲームのルールから始まり、次第にエスカレートしていく構成が見事です。特に神泉苑前の薬屋の看板を使って「ん」を43個も数える場面は、江戸時代の薬屋の様子(人体模型や各種看板)を詳細に描写しながら、言葉遊びの極致を見せています。
半鐘の「ジャンジャン」を使って無限に田楽を食べ続ける展開は、音の反復を利用した巧みな発想です。最後のオチは「火事」と「焼く」を掛けた洒落で、火事の最中にあまり焼かない方がいいという縁起担ぎと、生の田楽しか出せなくなった状況を上手く結びつけています。
この噺は演者の技量が問われる作品で、特に「ん」を数える場面での早口や、半鐘の音真似など、リズミカルな語りが求められます。酒席での遊びという日常的な設定から、言葉遊びの面白さを最大限に引き出した、江戸の庶民文化を代表する作品の一つです。
あらすじ
若い連中が兄貴分の家で菰かぶりの一斗樽の酒にありつく。
兄貴分は横丁の豆腐屋が田楽屋を始めたので開店祝いに焼け次第、どんどん持って来いと注文したと言う。
すぐに焼けた味噌田楽がどんどん届きだした。
連中の一人が味噌は「味噌をつける」とゲンが悪いから、運がつくように「ん(運)廻し」をやろうと言い出す。「ん」のつく言葉を言って、「ん」一字につき1本食えるという趣向だ。
すると誰かが「よう言わんで」で、思わず1本ゲット、「れんこん」で2本、「人参、大根」で3本、「天、天、天満の天神さん」で6本、どんどん増え「南京木綿(もんめん)、三反半三寸」で9本、「産婦三人みんな安産、産婆さん安心」で10本、「千松死んだか、千年万年、艱難辛苦、先代御殿」で11本と、焼けて来るそばから誰かが食っていく。
お次は、「先年、神泉苑の門前の薬店、玄関番人間半面半身、金看板銀看板、金看板根本万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板、灸点」で43本というやつが現れた。「なんや、それは」と聞くと、「神泉苑の前の薬屋の前に玄関番のように人体を半分断ち割って内臓を見せた人形が置いてある。金看板には根本万金丹、銀看板には根元反魂丹、瓢箪型の看板には、灸点おろしますと書いてある」と説明し、もう一度最初から繰り返した。
そしてまんまと86本とせしめてしまった。
今度は「ジャンジャンジャンジャン」と火事が大きくて半鐘が止まらないと、「ジャンジャン・・・・・」と言いながら、ジャンジャン食べる男だ。
もう焼くのが間に合わず、なまの田楽が出てくる。
男 「おい、これなまやないか」
「火事やさかい、あんまり焼かん方がよかろう」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 田楽(でんがく) – 豆腐や里芋、茄子などを串に刺して焼き、味噌を塗った料理。江戸時代の庶民の酒の肴として人気がありました。特に味噌田楽は田楽屋や屋台で手軽に食べられる庶民の味でした。
- ん廻し(んまわし) – 「ん」のつく言葉を言った数だけ飲食できるという言葉遊びのゲーム。江戸時代の酒席での遊びの一つで、「運(うん)」が付くという縁起担ぎも兼ねていました。
- 菰かぶり(こもかぶり) – 酒樽を菰(わら)で覆ったもの。一斗樽(約18リットル)は酒席で使われる大型の酒樽で、菰で覆うことで樽の保護と見栄えを兼ねました。
- 神泉苑(しんせんえん) – 京都にある寺院。平安時代から続く名所で、この噺では神泉苑前の薬屋の看板が重要な小道具として登場します。
- 根本万金丹(こんぽんまんきんたん) – 江戸時代の万能薬の一種。薬屋の看板に書かれた薬名で、「ん」が多く含まれるため言葉遊びの格好の材料となっています。
- 反魂丹(はんごんたん) – 江戸時代の胃腸薬。「魂を反す(よみがえらせる)」という意味を持つ薬で、やはり「ん」が含まれます。
- 半鐘(はんしょう) – 火事を知らせる鐘。江戸時代の消防システムで、火事が起きると半鐘を鳴らして周囲に知らせました。「ジャンジャン」という擬音が「ん」を含むため、無限に田楽を食べる口実となります。
よくある質問(FAQ)
Q: 「ん廻し」は実際に江戸時代の酒席で行われていた遊びですか?
A: はい、実際に行われていた言葉遊びの一種です。「ん」が「運」に通じることから縁起担ぎとしても好まれ、様々なバリエーションが存在しました。酒を飲みながら言葉を競い合う遊びは江戸の酒席文化の一つでした。
Q: 神泉苑の薬屋の看板で「ん」が43個というのは本当ですか?
A: これは落語の誇張表現ですが、江戸時代の薬屋には確かに多くの看板が掲げられ、薬名には「ん」を含むものが多くありました。「根本万金丹」「反魂丹」など、実在した薬名が使われています。
Q: なぜ最後に生の田楽が出てくるのですか?
A: 半鐘のジャンジャンで無限に田楽を食べ続けるため、焼くのが間に合わなくなったという設定です。これが「火事」と結びつき、最後のオチ「火事やさかい焼かん方がよかろう」につながります。
Q: このオチはどういう意味ですか?
A: 「火事だから焼かない方がいい」という二重の意味があります。一つは縁起担ぎ(火事の時にさらに物を焼くのは縁起が悪い)、もう一つは田楽を焼く時間がないという現実的な理由。言葉の洒落が効いた名オチです。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、言葉遊びの面白さと分かりやすいストーリーから、現在でも多くの落語家が演じています。特に早口で「ん」を数える場面は演者の技量が問われ、聴きどころの一つとなっています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 桂米朝(三代目) – 上方落語の人間国宝。神泉苑の薬屋の看板を詳細に語る場面での早口と、リズミカルな語り口が絶品でした。
- 桂枝雀(二代目) – 上方落語の名手。エネルギッシュな演技で、半鐘のジャンジャンを延々と続ける場面が圧巻でした。
- 桂文枝(六代目) – 上方落語の重鎮。軽妙な語り口で現代の観客にも分かりやすく演じています。
- 桂南光(三代目) – 「べかこ」の愛称で親しまれる上方の人気落語家。独特のテンポで言葉遊びの面白さを引き出します。
関連する落語演目
同じく「言葉遊び」がテーマの古典落語
酒席を舞台にした古典落語
上方落語の他の名作
この噺の魅力と現代的な楽しみ方
「田楽喰い(ん廻し)」は、言葉遊びという日本の伝統的な文化を体現した作品です。単純なルール「ん」のつく言葉を言った数だけ田楽を食べる)から始まり、次第にエスカレートしていく展開は、人間の競争心や創意工夫を巧みに描いています。
特に注目すべきは、神泉苑の薬屋の看板を詳細に描写する場面です。江戸時代の薬屋がどのような看板を掲げていたか、どんな薬を売っていたかが生き生きと語られ、当時の商業文化を知る貴重な資料にもなっています。
半鐘の「ジャンジャン」で無限に田楽を食べ続ける発想は、言葉の音を最大限に活用した見事なアイデアです。現代でいえば「無限ループ」のような概念を、江戸の庶民は言葉遊びで表現していたのです。
最後のオチ「火事やさかい、あんまり焼かん方がよかろう」は、「火事」と「焼く」という関連する言葉を使った洒落であり、同時に縁起を担ぐという江戸の文化も反映しています。このような多層的な意味を持つオチは、落語の奥深さを示しています。
実際の高座では、演者によって早口の速さや、半鐘の音真似の表現が異なります。桂枝雀のようにエネルギッシュに演じる方もいれば、桂米朝のように品良く演じる方もいます。ぜひ複数の落語家の演出を聴き比べて、それぞれの個性をお楽しみください。










