宝くじ富久
古典落語の人情噺「富久」は、貧乏な男が富くじに当たって大金持ちになるものの、心の変化と人間関係の変遷を描いた深い物語でした。
今回は、この名作を現代の宝くじに置き換えてお送りします。
江戸時代の富くじの代わりに年末ジャンボ宝くじ、舞台は現代の商店街という設定で、お金が人間に与える影響と、本当の幸せとは何かを考えさせられる物語に仕上げました。
一攫千金の夢と現実、そして人間の本質を描いた現代版「富久」をお楽しみください。
商店街の電器店
東京の下町、昔ながらの商店街。「田中電器」は、その一角にある小さな町の電器店です。
店主の田中富夫(仮)(50 歳)は、代々続く電器店の三代目。しかし、大型量販店に客を取られ、経営は苦しくなる一方でした。
富夫「今月も赤字か…」
帳簿を見ながら、深いため息をつく富夫。妻の花子(48 歳)も、パートで家計を支えていますが、追いつきません。
花子「お疲れさま。今日はどうだった?」
富夫「エアコンの修理が 1 件だけ」
花子「そう…」
夫婦の間に、重い空気が流れます。
常連客との会話
そんな田中電器の数少ない常連客の一人が、近所に住む佐藤おばあちゃん(75 歳)。古いテレビの調子が悪いと、いつも富夫を頼りにしています。
佐藤「田中さん、またテレビの音が出なくなっちゃって」
富夫「はい、すぐ見に行きます」
佐藤さんの家でテレビを修理する富夫。部品代もほとんど取らず、いつも良心的な価格でやっています。
佐藤「ありがとう。田中さんがいてくれると安心だわ」
富夫「どういたしまして」
佐藤「でも、大変でしょう?最近は電器店も厳しいって聞くし」
富夫「まあ…何とかやってます」
年末ジャンボの季節
12 月に入り、街のあちこちで年末ジャンボ宝くじの看板が目につくようになりました。
花子「今年も宝くじの季節ね」
富夫「そうだな」
花子「買ってみる?」
富夫「宝くじか…でも、そんな余裕ないよ」
花子「1 枚だけでも。夢を買うと思って」
富夫「夢…」
富夫は、少し考えました。確かに、今の状況で夢でも見なければやっていけません。
富夫「分かった。1 枚だけ買ってみるか」
宝くじ売り場で
駅前の宝くじ売り場。長い行列ができています。
富夫「すごい人だな」
売り場のおばさん「何枚ですか?」
富夫「1 枚お願いします」
売り場のおばさん「1 枚だけ?連番の方がいいですよ」
富夫「いえ、1 枚で」
こうして、富夫は人生初の宝くじを買いました。番号は「123456」。なんとなく覚えやすい番号でした。
年末年始
年が明けて、抽選日がやってきました。
富夫は、宝くじのことをすっかり忘れていました。商店街の新年会で、仲間たちと酒を飲んでいる時、テレビで抽選番組が始まりました。
司会者「それでは、年末ジャンボ宝くじの抽選結果をお知らせします」
商店街の仲間たち「お、始まった始まった」
魚屋の山田「誰か当たるかな」
八百屋の鈴木「当たったら、店を改装するんだ」
富夫「俺も 1 枚買ったんだった」
ポケットから宝くじを取り出す富夫。
信じられない結果
司会者「1 等、3 億円の当選番号は…123456 番です!」
富夫「…え?」
手元の宝くじを見直す富夫。確かに「123456」と書いてあります。
山田「どうした、田中?」
富夫「あ…あの…」
鈴木「顔が青いぞ」
富夫「当たった…」
一同「え?」
富夫「1 等…当たったみたい…」
商店街の仲間たちは、しばらく信じられませんでした。
大騒ぎ
その夜、田中電器は大騒ぎになりました。
花子「本当なの?本当に当たったの?」
富夫「間違いない。3 億円だ」
花子「3 億円…」
二人は、しばらく現実を受け入れることができませんでした。
翌日、銀行で換金手続きを済ませた富夫。通帳に「300,000,000 円」という数字が並びました。
富夫「本当だ…夢じゃなかった」
生活の変化
3 億円を手にした富夫の生活は、一変しました。
まず、商店街に新しい大型電器店を開店。最新の設備を整え、品揃えも充実させました。
次に、家を新築。高級住宅街に立派な家を建てました。
さらに、高級車を購入。外車のディーラーで、一番高い車を現金で買いました。
富夫「金があるって、こんなに便利なものなのか」
人間関係の変化
お金を持った富夫に対する、周りの人たちの態度も変わりました。
商店街の仲間たちは、以前より丁寧に接するようになりました。
山田「田中さん、今度お食事でもいかがですか?」
鈴木「田中さんのおかげで、商店街も活気づきますね」
しかし、富夫も変わっていました。
富夫「君たちとは、もう住む世界が違うからな」
山田「え?」
富夫「俺は今度、商工会議所の役員になるんだ」
佐藤おばあちゃんとの再会
ある日、富夫の新しい店に、佐藤おばあちゃんがやってきました。
佐藤「田中さん、立派なお店になったのね」
富夫「ああ、おばあちゃん。どうしたの?」
佐藤「また、テレビの調子が悪くて…」
富夫「そうか。でも、今度は料金をちゃんともらうよ」
佐藤「え?」
富夫「俺も商売人だからね。ボランティアじゃないんだ」
佐藤おばあちゃんは、悲しそうな顔をしました。
佐藤「そう…分かりました」
孤独感
お金を手に入れた富夫でしたが、なぜか心は満たされませんでした。
新しい家は立派ですが、なんとなく落ち着きません。高級車も最初は楽しかったですが、すぐに飽きました。
何より、商店街の仲間たちとの関係がぎくしゃくしていることが気になりました。
富夫「俺は、何をやってるんだろう…」
花子「あなた、最近元気がないわね」
富夫「そうかな」
花子「前の方が、生き生きしてたわよ」
気づき
ある日、富夫は商店街を歩いていました。
すると、「田中電器」の看板がまだ残っているのに気づきました。新しい店を開いたので、古い店は閉めたのですが、看板だけが残っていたのです。
富夫「懐かしいな…」
その時、佐藤おばあちゃんが通りかかりました。
佐藤「あら、田中さん」
富夫「おばあちゃん、テレビの調子はどう?」
佐藤「実は、まだ直ってないの。でも、新しいお店は高そうで…」
富夫「…」
佐藤「前の田中さんは、優しかったのにな」
その言葉が、富夫の胸に刺さりました。
反省
富夫「おばあちゃん、すみませんでした」
佐藤「え?」
富夫「俺、お金をもらってから、おかしくなってました」
佐藤「田中さん…」
富夫「今すぐ、テレビを見に行きます。もちろん、無料で」
佐藤「ありがとう」
富夫は、久しぶりに心が軽くなりました。
元の富夫に戻る
それから、富夫は元の人柄を取り戻していきました。
商店街の仲間たちとも、以前のように付き合うようになりました。お金があることを鼻にかけず、みんなと同じ目線で話すように心がけました。
山田「田中、最近また昔みたいになったな」
富夫「お金があっても、人間は変わっちゃダメだな」
鈴木「そうだよ。お前は、昔のままの田中がいい」
富夫「ありがとう」
1 年後
宝くじに当選してから 1 年が経ちました。
富夫は、適度にお金を使って、適度に貯金して、バランスの取れた生活を送っています。
佐藤おばあちゃんのテレビも、定期的に見に行っています。もちろん無料で。
花子「あなた、幸せそうね」
富夫「そうかな」
花子「前より、表情が穏やかよ」
富夫「お金も大事だけど、それだけじゃダメだってことが分かったんだ」
オチ
ある日、宝くじ売り場の前を通りかかった富夫。
売り場のおばさん「田中さん、今年も買いません?」
富夫「今年は…」
花子「どうする?」
富夫「やめとく」
売り場のおばさん「えー、なんで?去年当たったじゃないですか」
富夫は微笑みながら答えました。
富夫「もう十分、夢を見させてもらったから」
まとめ
古典落語「富久」を現代の宝くじに置き換えてみました。
江戸時代の富くじを年末ジャンボ宝くじに、商人を電器店主に変えることで、現代的にアレンジしました。
原作の「お金が人間関係に与える影響」というテーマはそのままに、現代の商店街文化や家電業界の厳しさなども織り交ぜました。
富夫のように、お金を得ても人間性を失わないことの大切さは、いつの時代も変わらないテーマですね。
でも、3 億円当たったら、私もちょっとは変わってしまうかもしれません。
人間だもの…。それにしても、宝くじって夢がありますよね。
買わなければ当たらないけど、買っても当たらない。でも、買っている間は夢を見られる。それだけでも価値があるのかもしれません。


