ゴルフ練習場
今回も落語をお届けします。ゴルフは大人の趣味として人気ですが、なかなか上達しないものですよね。特に中年から始めると、理屈ばかり先行して体がついていかない。私もゴルフの経験はありませんが、きっと落語と同じで、頭で考えすぎると良くないんでしょうね。今回は関西弁で、ゴルフにハマった中年男性のお話です。
まくら
最近は打ちっぱなしの練習場も増えて、気軽にゴルフを始める人が多いようです。でも、そこには思わぬ落とし穴が待っているのです。
あらすじ
「田中はん、今度の休みもゴルフの練習かいな?」
「そうですねん、山田はん。もう3 ヶ月も通うてまっせ」
「3 ヶ月も?そら上手なったやろなあ」
「それがな、全然あかんのですわ。でも理論は完璧なんですけどね」
「理論?」
「スイング軌道やら重心移動やら、もう博士並みに詳しいんです」
「ほな、実際のスイングは?」
「それが…球が明後日の方向に飛んでくねん」
初日の意気込み
三ヶ月前、田中さんは意気揚々とゴルフ練習場にやってきた。
「すんまへん、初めてなんですが」
「はい、クラブのレンタルもありますよ」
「いや、道具から揃えました!」
田中さんが持参したのは、最高級のゴルフセット。
「おお、いいセットですね。100 万円はしたでしょう」
「そうなんです。良い道具やったら上手なる思うて」
「確かに道具は大事ですが…」
「理論も勉強してきました!」
ポケットから分厚い本を取り出した。
「『ゴルフ完全理論』ちう本、3 回も読みましたんや」
最初のスイング
打席に入り、意気込んで最初のスイング。
「よっしゃ、行きまっせ!」
ブン!空振り。
「あれ?ボールがない?」
「田中さん、ボールはそこにありますよ」
「ああ、そうでした。集中してませんでした」
二回目のスイング。今度はボールにかすったが、チョロして 5 メートルしか飛ばなかった。
「おかしいなあ。本によると、ヘッドスピードを上げれば飛距離が出るはずなんやけど」
「ヘッドスピードよりも、まずミート率が大事ですよ」
「ミート率?それも理論に入ってるかな」
エスカレートする理論武装
翌週、田中さんはスイング解析アプリを持参してきた。
「これでな、スイング軌道が数値化されるんですわ」
「へえ、すごいですね」
スマホをセットしてスイング。アプリが解析結果を表示した。
「ほら見てください。アウトサイドインが15 度もある!」
「15 度って、多いんですか?」
「理論上は 5 度以内やないとスライスしまんねん」
案の定、ボールは右に大きくカーブして飛んでいった。
「やっぱり!理論通りや!」
「理論は分かってるんですが、直らないんですね」
道具マニアへの道
さらに翌週、田中さんの装備はますます充実していた。
「今度は弾道測定器買いました」
「また新しい機械ですね」
「これで打出角度とスピン量が分かるんです」
測定してみると、確かに数値は出るが、ボールはあちこちに飛んでいく。
「打出角度 18 度、スピン量 3500rpm。理想値より高いなあ」
「でも、飛んでる方向が…」
「方向はまた別の理論で解決します」
今度はグリップの握り方の本を 3 冊も買ってきた。
練習場の有名人
3 ヶ月後、田中さんは練習場の名物男になっていた。
「あ、理論の田中はんや」
「また今日もデータ分析してはるわ」
田中さんは今日も機械に囲まれて練習している。
「今日のヘッドスピードは 42m/s、ミート率1.2、サイドスピンが…」
「田中はん、たまには何も考えんと打ってみたらどうです?」
「何も考えん?そんな非科学的なこと、でけまへんわ」
まさかの気づき
ある日、田中さんの機械が全部故障した。
「あかん!スイング解析アプリも弾道測定器も動かへん!」
「たまには機械なしで打ってみたら?」
「しゃあないなあ…」
仕方なく何も考えずに打ってみた。すると、真っすぐ 150 ヤード飛んだ。
「あれ?なんで?」
「田中はん、今のええやん!」
「でも理論に合わへん…なんでやろ?」
もう一度、何も考えずに打つ。また真っすぐ飛んだ。
「おかしい…データがないのに飛んでる」
「考えすぎやったんちゃいます?」
「そんなはず…理論が全てやのに」
周りの人たちが集まってきた。
「田中はん、やっと普通に打てるようになったやん」
「普通って…理論なしで?」
「理論より感覚ですわ」
後日、山田さんに報告した。
「山田はん、不思議なことがありましてん」
「どないしたんです?」
「機械が壊れた時だけ、真っすぐ飛ぶんですわ」
「それ、機械が邪魔やったんとちゃいます?」
「まさか…100 万円の投資が無駄やったちうことですか?」
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はゴルフ練習場でのお話でした。何事も理論は大切ですが、考えすぎると体が硬くなってしまうということがあります。私も落語を作る時、あまり理屈を考えすぎると面白くなくなってしまいます。
田中さんの場合、機械が壊れた時が一番良いスイングだったというのは、なんとも皮肉な話です。きっと「100 万円かけて、何も考えないことを学んだ」と言えるのかもしれませんね。高い授業料でしたが、これも一つの人生勉強でしょう。


