金庫迷子
今回は金庫と迷子という、普通なら絶対に結びつかない組み合わせで新作落語を作ってみました。
金庫の中で迷子って、どんだけ大きい金庫なんだという話ですが、まあ大店の金庫は規格外ということで。
現実味はゼロですが、落語ですから大目に見てください。
大きすぎる金庫の落とし穴
あらすじ
江戸一の大店、万両屋の主人が自慢の金庫を見せていた。
主人:「どうだ、でかいだろう」
番頭:「確かに、蔵みたいですな」
主人:「蔵どころじゃない。中は迷路のようになっていて、泥棒が入っても出られない仕組みだ」
番頭:「それは頼もしい」
主人:「お前に金庫番を任せる。頼んだぞ」
番頭:「はい、お任せください」
—
番頭は早速、金庫の中を確認することにした。
番頭:「どれ、中がどうなっているか見てみるか」
重い扉を開けて中に入ると、確かに広い。
番頭:「おお、廊下があるぞ」
奥に進むと、いくつもの部屋に分かれていた。
番頭:「千両の間、万両の間…すごい構造だな」
さらに奥へ奥へと進んでいった。
—
一時間後。
番頭:「あれ?出口はどっちだっけ」
来た道を戻ろうとしたが、同じような廊下ばかり。
番頭:「まずいな、全部同じに見える」
二時間後。
番頭:「助けてくれー!」
しかし、金庫の壁は厚く、声は外に届かない。
番頭:「これじゃ、泥棒じゃなくて番頭が閉じ込められちまう」
—
三日後、主人が金庫を開けた。
主人:「番頭はどこだ」
使用人:「三日前から行方不明です」
主人:「まさか…」
金庫の奥から、弱々しい声が。
番頭:「だ、旦那様…」
主人:「番頭!生きてたか」
番頭:「や、やっと出られる」
—
番頭がよろよろと出てきた。
主人:「三日も何してたんだ」
番頭:「迷子になってました」
主人:「金庫で迷子?」
番頭:「はい。でも、おかげで中の構造は完璧に覚えました」
主人:「そうか、それは良かった」
番頭:「もう二度と入りたくないですが」
—
ところが、その噂が江戸中に広まった。
泥棒 A:「万両屋の金庫は、番頭も迷う迷路らしいぞ」
泥棒 B:「それじゃ、俺たちじゃ無理だな」
泥棒 C:「番頭が中に住んでるって話もある」
結果的に、万両屋は江戸一安全な店になった。
主人:「番頭、お前のおかげで泥棒が寄り付かなくなった」
番頭:「それは良かったですが…」
主人:「これからも金庫に住んでくれ」
番頭:「えっ?」
主人:「生きた防犯装置だ。給金も上げる」
番頭:「住むって…マジですか」
こうして番頭は「金庫の主」として、金庫に住み着くことになった。
番頭:「番頭のはずが、なんで金庫の住人になってんだ」
まとめ
迷路のような金庫で迷子になり、そのまま住人にされてしまう番頭。
防犯装置として優秀だからって、人を住まわせるのはどうなんでしょう。
でも給金も上がって、雨風もしのげて、案外悪くない暮らしかもしれませんね。


