手習い鰻屋
今回もまた新作落語を作ってしまいました。
手習いの先生が鰻屋を始めるなんて、我ながら無理のある設定です。
でも江戸時代は副業が当たり前だったそうですから、まあ許してください。
鰻の蒲焼きより、私の創作の方が焦げ臭いかもしれませんが。
筆は立つが包丁は立たぬ
あらすじ
手習い所の先生、墨斎は生徒が減って生活に困っていた。
墨斎:「このままでは食べていけん。何か副業を始めねば」
友人:「先生は字がお上手だから、看板でも書いたら?」
墨斎:「看板書きは皆がやっている。もっと違うことがしたい」
友人:「じゃあ、何か商売でも」
墨斎:「そうだ!鰻屋をやろう」
友人:「鰻屋!?先生、料理できるんですか」
墨斎:「できぬが、学べばよい」
—
墨斎は見よう見まねで鰻屋を始めた。
店の看板は見事な筆致で「鰻」の一文字。
客:「おっ、新しい鰻屋か。看板が立派だな」
墨斎:「いらっしゃいませ。ご注文は」
客:「鰻重を一つ」
墨斎は丁寧に筆を取り出し、半紙に「鰻重壱人前」と書いた。
客:「注文票まで毛筆かい」
墨斎:「字は心を表す。注文も心を込めて書くのです」
—
ところが、肝心の鰻がうまく焼けない。
墨斎:「むむ、焦げてしまった」
下働き:「先生、火が強すぎます」
墨斎:「筆圧と同じく、力加減が大切なのだな」
下働き:「いや、全然違いますけど」
焦げた鰻を前に、客が文句を言い始めた。
客:「なんだこりゃ、炭じゃないか」
墨斎:「申し訳ない。まだ修行中でして」
—
客:「でも、この注文票は見事だな」
墨斎:「恐れ入ります」
客:「これ、もらっていいか」
墨斎:「注文票を?」
客:「ああ、額に入れて飾りたい」
別の客も声をかけてきた。
客 B:「俺にも注文票を書いてくれ」
客 C:「私は『上鰻重』でお願いします」
—
いつの間にか、客は鰻より注文票を求めるようになった。
客 D:「『特上鰻重松竹梅』って書いてください」
墨斎:「そんな品はありませんが」
客 D:「いいんです。字が欲しいんです」
墨斎:「では、五十文いただきます」
客 D:「安い!」
こうして墨斎は注文票を売る商売を始めた。
—
一ヶ月後、店は大繁盛していた。
友人:「先生、鰻屋は順調ですか」
墨斎:「鰻は一匹も売れんが、注文票が飛ぶように売れる」
友人:「それじゃ鰻屋じゃないでしょう」
墨斎:「『鰻』という字を書いて売る店だから、鰻屋には違いない」
友人:「屁理屈だ」
墨斎:「いや、これが新しい商売だ」
結局、墨斎の店は「注文票が買える鰻屋」として有名になった。
客:「今日は『鰻重』を三枚と『白焼き』を二枚ください」
墨斎:「毎度あり。全部で二百五十文です」
客:「やっぱり鰻は食べなくていいです」
まとめ
料理の腕前より筆の腕前で商売繁盛。
鰻屋なのに鰻を売らず、注文票だけ売るという本末転倒。
でも考えてみれば、今の時代も似たようなもんで、中身より見た目で売れることも多いですからね。


