お使い近所付き合い
江戸の長屋は人情が厚いと言いますが、時にはそれが仇となることも。
今日はそんな近所付き合いの功罪を描いた一席。
果たしてお使いは無事に済むのでしょうか。
人情に厚すぎる長屋の住人たち
あらすじ
長屋一の人付き合いの良い男、与助が女房からお使いを頼まれた。
女房:「醤油と味噌と、それから大根を買ってきておくれ」
与助:「へいへい、すぐ行ってくるよ」
女房:「寄り道しないでよ。すぐ帰ってきてね」
与助:「分かってるって」
ところが長屋を出たとたん、隣の婆さんに呼び止められた。
婆:「与助さん、どこ行くの」
与助:「ちょいとお使いに」
—
婆:「そう、じゃあついでに私の分も頼めない?」
与助:「いいですよ。何を」
婆:「塩を少し」
与助:「塩ですね。ついでだから構いませんよ」
婆:「ありがとう。あ、ちょっとお茶でも飲んでいかない?」
与助:「いや、女房が待ってるんで」
婆:「すぐ済むから」
結局、三十分も話し込んでしまった。
—
ようやく婆さんの家を出た与助だったが、今度は向かいの大工の棟梁に声をかけられた。
棟梁:「おう与助、いいところに来た」
与助:「なんです、棟梁」
棟梁:「釘が切れちまった。ついでに買ってきてくれ」
与助:「釘もですか」
棟梁:「悪いな。そうだ、一杯やってけ」
与助:「いや、お使いの途中で」
棟梁:「固いこと言うな」
また三十分。
—
やっと店にたどり着いた与助。
醤油、味噌、大根、塩、釘を買って帰路についた。
しかし帰り道でも次々と声をかけられる。
八百屋:「与助さん、大根買ったの?」
与助:「ええ」
八百屋:「実は今朝、大根を切らしちまって。一本分けてくれない?」
与助:「え?でもこれは女房に頼まれて」
八百屋:「一本くらいいいじゃない。また今度返すから」
—
さらに進むと、子供たちが寄ってきた。
子供 A:「与助おじちゃん、何持ってるの」
与助:「味噌と醤油だよ」
子供 B:「うち、醤油切れてるんだ」
与助:「そうか…じゃあ少し分けてやるか」
子供たち:「やった!」
こうして与助は行く先々で頼まれ、買った物を少しずつ配っていった。
—
日が暮れて、ようやく家に着いた与助。
女房:「遅い!何してたの」
与助:「いや、ちょっと近所付き合いで」
女房:「で、頼んだ物は?」
与助:「それが…」
手ぶらの与助を見て、女房の顔が真っ赤になった。
女房:「まさか、全部配っちゃったの!?」
与助:「みんな困ってたから」
女房:「あんたは『お使い』じゃなくて『配達人』になってるじゃない!」
そこへ近所の人たちがやってきた。
隣人たち:「与助さん、明日もお使い配達、頼めますか?」
まとめ
親切心から始まった行為が、いつの間にか仕事になってしまう。
人情も度が過ぎれば商売になるという、なんとも皮肉な結末でございました。
でも案外、これはこれで良い商売かもしれませんね。


