物忘れ近道
今回も新作落語でございます。
物忘れと近道という、なんとも相性の悪い組み合わせを選んでしまいました。
我ながら無謀な挑戦ですが、最後までお付き合いください。
近道を覚えても行き先を忘れる男
あらすじ
物忘れがひどいので有名な与太郎が、友人の熊さんに道を尋ねていた。
与太:「熊さん、あのー、あそこへ行く道を教えてくれないか」
熊:「あそこって、どこだよ」
与太:「えーと、ほら、あの…なんだっけ」
熊:「まーた忘れたのか。さっき『大事な用事がある』って言ってたじゃないか」
与太:「そうそう!大事な用事だ。で、どこだっけ」
熊:「知らねーよ!」
—
与太:「あ、思い出した!確か…いや、違うな」
熊:「しっかりしろよ。じゃあ、とりあえず町の中心に行く近道を教えてやる」
与太:「近道?それはありがたい」
熊:「いいか、まず角の煙草屋を右に曲がって、三軒目の蕎麦屋を左だ」
与太:「煙草屋を右、蕎麦屋を左…」
熊:「それから橋を渡って、お地蔵様の前を通って、八百屋の角を右だ」
与太:「橋、地蔵、八百屋…覚えた!」
—
与太郎は意気揚々と出発した。
与太:「煙草屋を右…よし、ここだ」
与太:「三軒目の蕎麦屋を左…あった」
与太:「橋を渡って…順調だな」
与太:「地蔵様の前を通って…ちゃんと覚えてるぞ」
与太:「八百屋の角を右…完璧だ!」
—
与太郎は得意満面で最後の角を曲がった。
すると、そこには見覚えのある長屋が。
与太:「あれ?ここは…俺の家じゃないか」
熊:「おーい、与太。どうだった」
与太:「熊さん!近道は完璧に覚えたぞ」
熊:「それで、用事は済んだのか」
与太:「用事?」
熊:「だから、大事な用事があったんだろ」
—
与太:「あ…そうだった。で、何の用事だっけ」
熊:「知らねーよ!お前が言い出したんだろ」
与太:「でも近道は覚えたぞ。煙草屋を右、蕎麦屋を左、橋を渡って」
熊:「だから、それがどこへ行く近道なんだよ」
与太:「えーと…あれ?どこだっけ」
熊:「お前が通った道は、ぐるっと回って長屋に戻る道だ」
—
与太:「じゃあ、俺は家に帰る近道を覚えたのか」
熊:「家にいるのに、家に帰る近道覚えてどうすんだよ」
与太:「そうか…じゃあ、何のために出かけたんだっけ」
熊:「だから最初からそれを聞いてんだろ!」
与太:「あ、思い出した!熊さんに道を聞きに行くんだった」
熊:「もう聞いただろうが!」
こうして与太郎は、行き先を思い出すことなく、近道だけを完璧に覚えたのだった。
まとめ
近道を覚えても、肝心の目的地を忘れてしまうという、なんとも本末転倒な話でした。
しかも覚えた近道が、元の場所に戻る道だったというオチも、我ながらひどいです。
でも、こういう人、実際にいそうな気がしませんか?
…私だけですかね。


