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【AI落語】テレビの粗忽(新作落語)

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テレビの粗忽
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テレビの粗忽

昭和三十年代、日本の家庭に次々とテレビジョンというものが入り始めました。箱の中に人が映るという、まるで魔法のような機械。しかし、この文明の利器も粗忽者の手にかかると、とんでもない騒動の種になるもの。今日は、初めてテレビを買った粗忽者の一家が巻き起こした珍騒動をお聞かせいたします。

まくら

えー、昭和ってぇ時代はね、今と違って新しいもんが次から次へと出てきた時代でございまして。洗濯機、冷蔵庫、そしてテレビ。三種の神器なんて呼ばれたもんです。中でもテレビってぇのは、箱の中に人が映るってんですから、そりゃあもう大騒ぎ。でもね、新しいもんってぇのは、使い方を間違えると大変なことになる。今日の話は、そんなテレビで大騒動を起こした、粗忽者の話でございます。

本編

熊五郎「おい、かかあ! とうとう買ったぞ!」

おかみさん「まあ、あんた。本当にテレビ買ってきたの?」

熊五郎「へへっ、月賦だけどな。これで俺んちも文化的になるってもんだ」

おかみさん「でも、これどうやって見るの?」

熊五郎「簡単だよ。スイッチ入れりゃあいいんだ」

カチッ

画面に大相撲が映る。

おかみさん「まあ! 本当に人が映った!」

熊五郎「すげぇだろ? これが文明ってやつよ」

おかみさん「でも、この人たちはどこから来たの?」

熊五郎「どこからって…電波に乗ってくるんだよ」

おかみさん「電波? 見えないじゃない」

熊五郎「見えねぇもんなんだよ、電波ってのは」

そこへ隣の八兵衛がやってくる。

八兵衛「おう熊公、テレビ買ったって聞いたけど」

熊五郎「おう、見てくれよ。大相撲やってらあ」

八兵衛「ほう、これは見事だ。まるで本物みてぇだ」

おかみさん「本物じゃないの?」

八兵衛「本物は国技館にいるんだよ。これは映像ってやつさ」

熊五郎「そうそう、映像。俺も知ってたけどな」

画面では力士が激しくぶつかり合っている。

おかみさん「あら、危ない! 怪我しちゃう!」

熊五郎「大丈夫だよ、テレビの中だから」

おかみさん「でも痛そう…」

八兵衛「おかみさん、心配しなくていいよ。向こうには聞こえねぇから」

おかみさん「そうなの? じゃあ…頑張れー!」

熊五郎「だから聞こえねぇって言ってるだろ」

チャンネルを変える。時代劇が始まる。

おかみさん「あら、今度は侍が出てきた」

熊五郎「時代劇ってやつだな」

八兵衛「おお、斬り合いだ」

画面では侍が刀を抜いて戦っている。

おかみさん「きゃー! 血が出る!」

熊五郎「芝居だよ、芝居」

おかみさん「芝居でも危ないじゃない」

そこで悪役が主人公を追い詰める。

おかみさん「あら大変! 後ろ! 後ろに敵が!」

熊五郎「だから聞こえねぇんだって」

おかみさん「でも教えてあげないと…」

立ち上がってテレビに向かって叫ぶ。

おかみさん「後ろ! 後ろよ!」

八兵衛「おかみさん、無駄だよ」

熊五郎「まったく、粗忽なやつだ」

そこへ息子の太郎が帰ってくる。

太郎「ただいま…あ、テレビだ!」

熊五郎「おう、今日から我が家にもテレビだ」

太郎「すげぇ! 何やってるの?」

熊五郎「時代劇だ」

太郎「チャンネル変えていい?」

熊五郎「好きにしろ」

ガチャガチャ

ニュース番組に変わる。

アナウンサー『本日、国会では…』

おかみさん「あら、この人誰?」

太郎「アナウンサーだよ」

おかみさん「随分真面目そうな人ね」

熊五郎「ニュースってのは真面目にやるもんだ」

アナウンサー『続いて、お天気です』

天気予報が始まる。

おかみさん「明日は雨ですって」

熊五郎「そうか、洗濯物は今日のうちだな」

八兵衛「便利だなぁ、天気までわかるのか」

おかみさん「でも、この人どうして明日の天気がわかるの?」

熊五郎「予報士ってのがいるんだよ」

おかみさん「予報士? 占い師みたいなもの?」

太郎「科学的に予測するんだよ」

おかみさん「へぇ、すごいのね」

そこで画面に泥棒のニュースが流れる。

アナウンサー『本日未明、都内で連続空き巣事件が…』

おかみさん「まあ、怖い! 泥棒ですって」

熊五郎「最近物騒だからな」

八兵衛「気をつけねぇとな」

画面に犯人の似顔絵が映る。

おかみさん「この人が泥棒なの?」

太郎「そうだよ」

おかみさん「覚えておかなきゃ」

じっと似顔絵を見つめるおかみさん。

熊五郎「おい、そんなに見つめたって、テレビから出てくるわけじゃねぇぞ」

おかみさん「でも、用心に越したことはないでしょ」

八兵衛「まあ、それもそうだな」

夜になって、八兵衛は帰っていった。

熊五郎「さて、そろそろ寝るか」

おかみさん「テレビ、消すの?」

熊五郎「電気代がかかるだろ」

太郎「また明日見ればいいよ」

カチッ

テレビを消す。

おかみさん「あら、みんないなくなっちゃった」

熊五郎「当たり前だろ。電源切ったんだから」

おかみさん「でも、どこに行ったのかしら」

太郎「どこにも行かないよ。最初からいなかったんだ」

おかみさん「そうなの? 不思議ねぇ」

その夜、おかみさんは物音で目を覚ます。

おかみさん「あなた、何か音がしない?」

熊五郎「んあ? 気のせいだろ」

おかみさん「でも…」

窓の外を見ると、人影が動いている。

おかみさん「あなた! 人がいる!」

熊五郎「どこに?」

おかみさん「窓の外!」

熊五郎、窓を開けて外を見る。確かに怪しい人影が。

熊五郎「本当だ! 泥棒か?」

おかみさん「きっとさっきテレビで見た人よ!」

熊五郎「テレビで見た?」

おかみさん「ほら、似顔絵の!」

熊五郎「馬鹿言え。テレビの中の人が出てくるわけ…」

よく見ると、確かに似顔絵に似ている。

熊五郎「あれ? 本当に似てるな」

おかみさん「でしょ? テレビから出てきたのよ!」

熊五郎「そんなわけあるか!」

太郎「どうしたの?」

太郎も起きてくる。

熊五郎「泥棒がいるんだ」

太郎「泥棒? 警察呼ばなきゃ!」

おかみさん「でも、テレビから出てきた人なら、テレビに戻せばいいんじゃない?」

熊五郎「だから、テレビから出てきたんじゃねぇって!」

ガタガタ

物音がする。

太郎「とにかく警察だ!」

警察を呼んで、泥棒は捕まった。

警官「ご協力ありがとうございました」

熊五郎「いえいえ」

警官「それにしても、よく気づきましたね」

おかみさん「テレビで顔を見たから」

警官「ああ、ニュースでやってた似顔絵ですね」

おかみさん「それがテレビから出てきて…」

警官「は?」

熊五郎「いや、その、似顔絵を覚えてたんです」

警官「なるほど。テレビも役に立ちますね」

警官が帰った後。

熊五郎「まったく、テレビから出てきたなんて」

おかみさん「でも、本当に似てたじゃない」

太郎「たまたま似てただけだよ」

翌朝、テレビをつける。

アナウンサー『昨夜、住民の通報により空き巣犯が逮捕されました』

おかみさん「あら、私たちのことね」

熊五郎「そうだな」

おかみさん「でも不思議ね。テレビの中にいた人が外にいて、外で捕まった人がテレビの中にいる」

熊五郎「だから、それは…」

おかみさん「もうわかったわ。テレビって、中と外が入れ替わる箱なのね」

熊五郎「違う!」

太郎「母さん、テレビは映像を映すだけ…」

ガチャガチャ

窓の外で音がする。

おかみさん「また誰か来たわ」

窓を見ると、郵便屋さんだった。

郵便屋「おはようございます。郵便です」

おかみさん「あら、郵便屋さん」

熊五郎「なんだ、郵便か」

おかみさん、テレビを見て、また窓の外を見る。

おかみさん「あなた、大変!」

熊五郎「今度は何だ?」

おかみさん「郵便屋さんがテレビに映ってないわ! 本物の郵便屋さんよ!」

熊五郎「当たり前だ! 本物の郵便屋は最初から外にいるんだ!」

おかみさん「そう? でも昨日の泥棒は…」

熊五郎「あれも最初から外にいたんだよ!」

おかみさん「じゃあ、テレビに映ってるのは全部…」

熊五郎「作り物だ! 映像! 本物じゃねぇ!」

おかみさん「なーんだ、全部作り物なのね。つまらない」

その時、窓の外をもう一人の怪しい人影が通り過ぎる。昨夜逃げた泥棒の仲間だった。

おかみさん「あら、また誰か通ったわ」

熊五郎「どうせテレビの見過ぎだろ」

おかみさん「そうね。テレビなんて全部作り物だものね」

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