記憶失走
まくら
年を取ると、物忘れが多くなりますよね。
さっき何をしていたか思い出せない。
でも、昔のことはよく覚えているから不思議です。
あらすじ
最近、物忘れがひどくなった渡辺。
渡辺「また忘れた」
奥さん「何を?」
渡辺「さっき何をしていたか」
奥さん「テレビ見てたでしょ」
渡辺「そうだった」
奥さん「すぐ忘れるのね」
渡辺「年のせいかな」
奥さん「そうかも」
渡辺「でも、心配になる」
奥さん「病院に行ってみたら?」
渡辺「そうだね」
奥さん「念のため」
渡辺「お願いします」
翌日、病院に行きました。
渡辺「物忘れがひどくて」
医師「どんなことを忘れますか?」
渡辺「さっきしていたことを」
医師「具体的には?」
渡辺「えーと」
医師「思い出せませんか?」
渡辺「何だったかな」
医師「今朝、何を食べましたか?」
渡辺「今朝?」
医師「はい」
渡辺「忘れました」
医師「昨日の夕食は?」
渡辺「わかりません」
医師「心配ですね」
渡辺「そうなんです」
医師「検査してみましょう」
渡辺「お願いします」
医師「今日は何月何日ですか?」
渡辺「えーと」
医師「わかりませんか?」
渡辺「4月?」
医師「今は6月です」
渡辺「そうでしたか」
医師「今いる場所は?」
渡辺「病院」
医師「それは覚えてますね」
渡辺「はい」
医師「私の名前は?」
渡辺「わかりません」
医師「さっき名乗りましたが」
渡辺「忘れました」
医師「困りましたね」
渡辺「そうなんです」
医師「でも、昔のことは覚えてますか?」
渡辺「はい」
医師「例えば?」
渡辺「子供の頃のことは」
医師「詳しく覚えてる?」
渡辺「はい」
医師「どんなことを?」
渡辺「小学校の時の先生の名前とか」
医師「それは覚えてるんですね」
渡辺「はい」
医師「不思議ですね」
渡辺「そうなんです」
医師「薬を出しておきます」
渡辺「効きますか?」
医師「少しは良くなるかも」
渡辺「ありがとうございます」
医師「また来てください」
渡辺「はい」
家に帰りました。
渡辺「ただいま」
奥さん「お疲れ様」
渡辺「薬もらった」
奥さん「どうだった?」
渡辺「何だったかな」
奥さん「もう忘れたの?」
渡辺「そうみたい」
奥さん「困ったわね」
渡辺「そうなんだ」
奥さん「薬飲んでみたら?」
渡辺「そうしてみる」
奥さん「効くかも」
渡辺「ありがとう」
薬を飲み始めました。
渡辺「毎日飲んでる」
奥さん「えらいわね」
渡辺「でも、効果がよくわからない」
奥さん「そう」
渡辺「まだ忘れっぽい」
奥さん「時間がかかるのよ」
渡辺「そうかな」
奥さん「続けてみましょう」
渡辺「はい」
1ヶ月後。
渡辺「少しマシになったかな」
奥さん「そう?」
渡辺「今朝のことは覚えてる」
奥さん「よかった」
渡辺「でも、昨日のことは」
奥さん「忘れてる?」
渡辺「そうみたい」
奥さん「まだ完全じゃないのね」
渡辺「そうなんだ」
奥さん「でも、進歩よ」
渡辺「そうだね」
奥さん「でも、お父さん」
渡辺「何?」
奥さん「一つ聞きたいことがあるの」
渡辺「何?」
奥さん「なんで私の名前は覚えてるの?」
渡辺「毎日一緒にいるから」
奥さん「でも、私の名前、『花子』じゃなくて『和子』よ」


