突き落とし
3行でわかるあらすじ
熊さんたちが吉原で棟梁に成りすまして無銭遊興を働く。
勘定を払わずに逃げるため、若い衆をおはぐろどぶに突き落とす。
清ちゃんが若い衆の煙草入れを盗んでくるという意外なオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
町内の若い連中が吉原で遊びたいが金がない。
熊さんが棟梁に成りすまして無銭遊興する計略を提案。
清ちゃんが財布を預かったという設定で重要な役を演じる。
小見世で一晩飲み食いして遊び、翌朝勘定書が来る。
熊さんは財布を清ちゃんに預けたと嘘をつく。
清ちゃんが姉さんが預かっていると演技で答える。
若い衆が付き馬となって財布を取りに行くことになる。
おはぐろどぶで連れションの隙に若い衆を突き落とす。
作戦成功で逃げる中、清ちゃんだけ遅れてやってくる。
清ちゃんは若い衆の煙草入れを盗んできたと明かす。
解説
「突き落とし」は吉原での無銭遊興を描いた廓噺の代表作です。
熊さんの巧妙な計略と清ちゃんの演技が見どころで、棟梁に成りすます手口の詳細な描写が聞きどころとなっています。
物語の核心は最後の「突き落とし」で、若い衆をおはぐろどぶに落として逃げる場面がタイトルの由来です。
オチでは人のよい清ちゃんが実は煙草入れを盗んでいたという意外性があり、悪事に長けた一面を見せる構成になっています。
最後に品川でも同じことをしようとしてしくじるという結末で、因果応報を暗示しています。
あらすじ
町内の若い連中が集まって、仲へでも繰り出そうかなんて言っているが、誰も吉原で遊べる金など持っていない。
すると兄貴分の熊さんが、ただで吉原で遊べる計略があるという。
他の連中は"ただ"と聞いて目の色が変わって大乗り気だ。
熊さんは、「俺を棟梁にして大見世でお前らを遊ばせるという触れ込みで仲へ繰り込む。若い衆(し)が呼び込む小見世に上がり、一晩飲んで大騒ぎをして寝てしまう。・・・・」と、段取りを話し出す。
熊さんは清ちゃんを羽左衛門に似ているとおだたて、重要な役割を頼む。
頭をポカポカ殴られるのだが、人のいい清ちゃんは承知する。
悪だくみはすぐに決行される。
棟梁気分の熊さんを筆頭に小見世に上がり、飲んで食って遊んで寝て、すべて予定どおりに運んで朝を迎えた。
さあ、ここからが計略の本番だ。「昨晩はどうも・・・」と若い衆が勘定書を棟梁の所へ持ってきた。
それには芳さんが土産にしたビール2打、金さんが洋品店から取り寄せた鳥打ち帽子や、寅さん臨月のかみさんが赤ちゃんを産んだ時のタライなんて変な物まで書かれている。
どさくさ紛れに勝手なことしやがると思ったが、どうせ一銭も払う気などないからどうでもいい。
棟梁は持ってもいない財布を探すふりをして、「酔ってすっかり忘れていたが、昨日家を出る時に清公に預けたはずだ」と言い、清さんを呼びにやる。
さあ、羽左衛門の清さんの登場だ。「財布を預かった所を姉さんに見られ、飲み過ぎ遊び過ぎて大事な建前をすっぽかしたりしては事だからあたしが預かって置く。どうしても入り用の時はお前が取りに来るように言われました」と言うなり、棟梁(熊さん)は「なぜ今まで黙っていたんだ」と、清ちゃんの頭をポカポカポカ。
おできのある方はぶたないという約束などとうに忘れている。
止めに入った松ちゃんは、「俺たちが棟梁の家に取りに行けばいいのだが、今日は建前で、ここまで戻って来る余裕がない」と言い、若い衆に、「取りに行けば姉さんはたっぷりとお礼の小遣いをくれるはずだ」と、そそのかす。
その気になって「付き馬」になった若い衆と、偽棟梁一行は店を出る。
おはぐろどぶまで来た時、誰かが、「小便をすれば昨日誰が一番モテたか分かる」と言い出し、嫌がる若い衆も付き合わせての連れション、一列に並んで発車オーライとなった。
すると誰かが後ろに回って若い衆をどぶへ突き落した。
作戦成功と一斉に逃げる連中だが、清ちゃんがいない。
若い衆と一緒にどぶにはまったのか、追いかけられて捕まってしまったのかと案じていると、ニコニコしながら後から駆けて来た。
清ちゃん 「若い衆がいい煙草入れを下げていたので、惜しいと思って抜いて来た」
これに味をしめた連中、「つぎは品川」と調子に乗るが、そうは問屋が卸さず、しくじりとなる。
落語用語解説
- 仲(なか) – 吉原遊郭のこと。仲之町の通りがあったことから。
- 小見世(こみせ) – 吉原の中でも格が低い店。大見世に対する言葉。
- 若い衆(わかいし) – 遊郭で働く男性従業員。客の世話や見張りをした。
- 付き馬 – 代金を取り立てに客について行くこと。またその役目の人。
- おはぐろどぶ – 吉原を囲む堀のこと。女性のお歯黒のように黒かったことから。
- 棟梁 – 大工の親方。職人を束ねる立場で羽振りが良かった。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ清ちゃんが煙草入れを盗んだのがオチなのですか?
A: 清ちゃんは人の良い役として演技していましたが、実は若い衆をどぶに突き落とす隙に煙草入れを盗んでいました。見かけによらず悪知恵が働くという意外性がオチの面白さです。
Q: 「付き馬」とは何ですか?
A: 遊郭で代金を払わない客に、若い衆がついて行って取り立てることです。この噺では、その付き馬を逆に利用して逃げる計略が描かれています。
Q: なぜ品川では失敗したのですか?
A: 同じ手口を繰り返そうとしたため、噂が広まっていたか、単純に運が尽きたかのどちらかです。悪事を重ねると必ず報いがあるという教訓を含んでいます。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。悪だくみの詳細を丁寧に語りました。
- 古今亭志ん朝 – 名人の一人。若い連中の生き生きとした会話が絶品でした。
- 柳家小三治 – 人間国宝。人情味のある語り口で演じました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「突き落とし」は、吉原での無銭遊興を企む若者たちの悪だくみを描いた廓噺の傑作です。熊さんの巧妙な計略、清ちゃんの名演技、そして若い衆をおはぐろどぶに突き落とすという大胆な逃走劇が見どころです。
最後に清ちゃんが若い衆の煙草入れを盗んでいたというオチは、人の良さそうな清ちゃんの意外な一面を見せる構成になっています。また、調子に乗って品川でも同じことをしようとして失敗するという結末は、悪事を重ねると必ず報いがあるという因果応報を暗示しています。
現代でも詐欺や無銭飲食は後を絶ちませんが、この噺は悪知恵が働く人間の滑稽さと、最後には必ず報いがあることを、笑いを通じて伝えています。


