短命
3行でわかるあらすじ
商家の美人娘の婿養子が3人続けて早死にする謎を植木職人の八五郎が隠居に相談する。
隠居は美人妻と仲が良すぎると精のつく食べ物と親密すぎる関係で短命になると説明。
家に帰って鬼のような相撲取り体型の女房を見た八五郎が「俺は長命だ」と安堵してオチる。
10行でわかるあらすじとオチ
植木職人の八五郎が先代から出入りしている伊勢屋の一人娘の婿養子が3人続けて死去。
不思議に思った八五郎が横町の隠居に相談すると、店は番頭任せで夫婦は仲睦まじいと報告。
隠居は「夫婦仲が良すぎて家にいる時も二人きり、原因はそれだ」と合点するが八五郎は理解不能。
隠居は美味しくて栄養満点で精がつく物を食べ、美人で暇があると短命になると説明。
それでも理解できない八五郎に隠居は情景描写を交えてより具体的に説明する。
こたつで手と手が触れ合い、白魚のような透き通る手、美人の顔という官能的な描写が続く。
これを3回繰り返してやっと助平な八五郎も納得し、長屋に戻る。
家では相撲取りのような女房が鬼のような顔で「朝からどこをほっつき回っていた」と怒鳴る。
八五郎が隠居の真似をして「夫婦じゃないか、手渡してもらいたい」と指と指を触れさせる。
女房の顔を見て「ふるいつきたくなるようないい女…ああぁ、俺は長命だ」と安堵するオチ。
あらすじ
植木職人の八五郎が先代から出入りしている伊勢屋の一人娘の婿養子が続けて3人死んだ。
八五郎はなぜだろうと不思議に思って横町の隠居の所に聞き来た。
隠居は伊勢屋の店の様子と夫婦仲を聞く。
店は番頭がすべて切り盛りし何の心配もなく、3人の婿養子との夫婦仲は睦まじいのを通り越して、夫婦はいつもべったりで、はたから見ているのが恥ずかしくなるほどの仲の良さだったという。
これを聞いた隠居、「夫婦仲がよくて、家にいる時も二人きり、ご飯を食べる時もさし向かい。原因はそれだな」と一人で合点だが、八五郎には何のことやらさっぱり分からない。
隠居 「店の方は番頭任せで財産もある。朝から二人きりで美味くて、栄養満点で、精がつく物ばかり食べて、女が美人で暇があるってのは短命のもとだ」と言っても、八五郎は「じゃあ、いい女だと、旦那は短命なんで?」といい所をつくが、まだ核心は頭の闇の中だ。
物分りの鈍い八五郎にいい加減疲れて来た隠居は、「早い話、冬なんぞはこたつに入る。
そのうちに手と手がこう触れ合う。
白魚を五本並べたような、透き通るようなおかみさんの手。
顔を見れば、ふるいつきたくなるいい女。そのうち指先ではすまず、すぅ~と別の所に指が触ってな・・・・なるほど、これでは短命にもなるというもの」と語るのが恥ずかしくなるほどの、エロ本まがいの情景描写で話す。
これをエスカレートして繰り返すこと三度で、やっとニヤニヤ、助平の八五郎も大納得した。
長屋に戻ると相撲取りのような女房が鬼のような顔をして、「朝っぱらからどこをほっつき回っていたんだ、早く飯を食え」と怒鳴る。
ふと隠居の話を思い出した八五郎、「おい、夫婦じゃねえか。
飯をよそってくれ。
おい、そこに放りだしちゃいけねえ。俺に手渡してもれぇてぇんだ」、何を今さらと仏頂面で茶碗を邪険に突き出したかみさんの指と指が触れて、
八五郎 「顔を見るとふるいつきたくなるようないい女・・・・ああぁ、俺は長命だ」
解説
「短命」は、夫婦関係の皮肉な現実を描いた古典落語の傑作です。表面的には美人妻の危険性を語る笑い話ですが、実際は江戸時代の庶民の結婚観や夫婦関係に対する鋭い社会観察が込められています。
この噺の最大の魅力は、対比の妙にあります。伊勢屋の美人娘と仲睦まじい夫婦関係が短命をもたらすという設定と、八五郎の鬼嫁との関係が長命をもたらすという皮肉な結論が、聞き手に予想外の笑いを提供します。隠居の官能的な描写と八五郎の現実の間の落差も、このコントラストを際立たせています。
隠居の説明場面は、この噺の重要な見せ場です。最初は抽象的な説明から始まり、八五郎の理解不足に業を煮やして次第に具体的で官能的な描写になっていく展開は、演者の表現力が試される部分でもあります。「白魚を五本並べたような手」「ふるいつきたくなるいい女」といった美辞麗句が、後の八五郎の現実とのギャップを際立たせる仕掛けとなっています。
オチの「俺は長命だ」は、一見不幸に見える結婚生活を逆転の発想で肯定的に捉える、江戸っ子らしい逞しさと諦観を表現しています。これは単なる自嘲ではなく、現実を受け入れながらもユーモアで乗り切る庶民の生活の知恵を描いたものといえるでしょう。
この噺は長屋噺の特徴である庶民の日常を題材にしながら、夫婦関係という普遍的なテーマを扱うことで、時代を超えて愛され続けています。現代でも通用する夫婦の機微を描いた、古典落語の中でも特に完成度の高い作品の一つです。
落語用語解説
- 婿養子(むこようし) – 妻の家に入り、妻の家の跡継ぎとなる男性。商家では娘に優秀な婿を迎えて跡を継がせることが多かった。
- 横町の隠居 – 長屋の近くに住む知識人的な年配者。八五郎など庶民の相談相手として多くの落語に登場する。
- 番頭 – 商家の使用人の筆頭で、店の実務を取り仕切る役職。主人に代わって経営を任される重要な立場。
- 白魚のような手 – 色白で細く美しい女性の手を形容する表現。江戸時代の美人の条件の一つ。
- 出入り – 商家に定期的に仕事をしに行くこと。植木職人や大工などが特定の家に継続して仕事を請け負った。
- 長屋 – 江戸時代の庶民の集合住宅。一棟を複数の世帯で区切って住んだ。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ美人妻だと夫が短命になるのですか?
A: 隠居の説明によれば、美人で暇があり、精のつく食べ物を食べ、夫婦仲が良すぎると、夜の営みが過ぎて体力を消耗するという江戸時代の俗説を元にしています。これは当時の民間信仰的な考え方を反映した冗談です。
Q: 八五郎はなぜすぐに理解できなかったのですか?
A: 落語の面白さを引き出すための演出です。物分りの鈍い八五郎に隠居が何度も説明する場面が、次第にエスカレートする官能的描写となり、聞き手の笑いを誘う構成になっています。
Q: 「俺は長命だ」というオチの意味は?
A: 鬼のような顔の女房を見て、「こんな不美人なら短命の心配はない」と逆説的に安心するオチです。不幸な境遇を逆転の発想で肯定する、江戸っ子らしいユーモアが込められています。
名演者による口演
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。隠居の官能的描写と八五郎のとぼけた演技の対比が絶妙でした。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。品のある語り口で艶っぽい場面を巧みに表現しました。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。八五郎の素朴な人柄と最後のオチの間合いが見事でした。
関連する落語演目
同じく「夫婦」がテーマの古典落語


同じく「隠居」が登場する古典落語


八五郎が登場する古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「短命」は、美人妻との幸せな結婚と鬼嫁との現実的な結婚を対比させた、夫婦関係の皮肉を描く古典落語の傑作です。「隣の芝生は青く見える」という感覚を逆手に取り、「俺は長命だ」と自らの境遇を肯定的に捉えるオチには、江戸庶民の逞しい生活哲学が表れています。
現代でも夫婦関係の理想と現実のギャップは普遍的なテーマであり、完璧な結婚生活などないという真実をユーモアで包んで伝える本作は、今も多くの人の共感を呼ぶ作品です。


