真景累ヶ淵④
3行でわかるあらすじ
新吉は伯父から武家出身と知らされ、お累との間に子どもが生まれるが、法蔵寺でお賤と不倫関係に。
家に寄り付かない新吉は金を持ち出そうとして子どもに熱湯をかけて殺してしまう。
絶望したお累は新吉を迎えに来た後、草刈鎌で喉を切って自害して果てる。
10行でわかるあらすじとオチ
江戸の伯父・勘蔵から迷子札を渡され、新吉は旗本の若様だったと知らされる。
帰り道で迷い駕籠に乗り、夢の中で獄門になった兄・新五郎と出会う。
お累が産んだ男の子は新五郎にそっくりで気味が悪い。
法蔵寺で名主の妾・お賤と出会い、江戸者同士で意気投合して不倫関係に。
新吉は家に寄り付かず、お累と子どもは貧困に苦しむ。
三蔵が蚊帳と三両を置いていくが、新吉が持ち出そうとして争いになる。
新吉は煮えたぎった薬灌の湯を子どもの頭にかけ、子どもは死んでしまう。
土砂降りの中、死んだ子どもを抱いたお累が新吉を迎えに来る。
新吉がお賤の家から戻ると、お累は子どもを抱いて草刈鎌で喉を切って死んでいた。
壮絶な悲劇で物語は終わり、お累の無念が後の怪異の原因となる。
解説
真景累ヶ淵④は三遊亭圓朝が創作した人情噺「真景累ヶ淵」の第四話で、全編の中でも最も悲劇的で重い内容を持つ一席です。
この話では新吉の出自が明かされ、武家の子であったという身分の秘密が物語に深みを加えています。
迷い駕籠のエピソードは怪談的要素を含み、獄門になった兄・新五郎との夢での出会いが後の悲劇を暗示する構成になっています。
お賤との不倫は新吉の堕落を象徴し、最終的に無力な子どもの殺害という最悪の結果を招きます。
お累の自害は草刈鎌という農具を用いた生々しい描写で、当時の観客に強烈な印象を与えました。
圓朝の人情噺の特徴である社会の底辺で生きる人々の苦悩と、因果応報の思想が色濃く反映された作品です。
この悲劇がやがて怪異として現れる次の展開への伏線ともなっています。
あらすじ
お累と夫婦になってからというもの新吉は改心したようで、親切に身重のお累の面倒を見るようになって三蔵もひと安心。
産み月が近づいた頃、江戸の下谷大門町から瀕死の床に臥せっている伯父の勘蔵が新吉に一目会いたいとの飛脚が来る。
お累のことを三蔵に頼み急ぎ駆けつけた新吉に勘蔵は迷子札を渡し、「おまえさんは小日向服部坂の旗本深見新左衛門様の若様だよ」と打ち明ける。
思いがけない話に驚いたが、
新吉 「・・・もらい乳をしてよく育ててくれた。けっしてその恩は忘れませんよ」、安心した勘蔵は眠るように息を引き取った。
新吉はお累のことが気がかりで雨の中を早々に帰ることにする。
菊屋橋まで来た時に雨が本降りになって駕籠に乗る。
新吉 「亀有の渡しを越して新宿の泊まりとするから、吾妻橋を渡って小梅へやってくんねえ」、新吉は駕籠に揺られて疲れからすぐにうとうと、ついにはぐっすり寝てしまった。
目が覚めると駕籠は止まっていて、駕籠屋が「こっちが吉原の土手、こっちが総泉寺馬場、ここは小塚っ原か?」、なんてどこかよく分からないと頼りない。
仕方なく新吉は、「千住にでも泊まるから本宿へやってくれ」、とせかすと駕籠は走り出すが一向に着かない。
新吉は仕方なく駕籠から下りて歩き出す。
道を聞こうにも夜更けで誰もいない。
すると暗がりから出て来た男が、「これ落としたぜ」と迷子札を差し出した。
迷子札の名前を読んだ男は、新吉の兄の新五郎と名乗りを上げて兄弟の対面となった。
新吉が羽生村の質屋の三蔵の妹(お累)を女房にしていると言うと、「・・・三蔵は谷中七面前の質屋の番頭・・・わしが店のお園を殺した訴人が三蔵・・・そんな憎い奴のところへは帰さん、一緒に逃げろ」と迫る。
新吉が断って逃げようとすると短刀を抜いて、新吉の喉笛へブスリ・・・。
駕籠の中でうなされている新吉を駕籠屋が揺り起こす。
ちょうど小塚っ原の土手だ。
駕籠から降りて千住で泊まろうと仕置き場を通って行くと、捨て札がぶら下がっていて、「無宿新五郎・・・お園に懸想して、無理無体に殺害し、百両盗んで逃げ・・・」と獄門になった罪状が書かれている。
新吉は身の毛もよ立つ思いで駆け出してその夜は千住へ泊まり、翌朝、羽生村へ急ぎ帰った。
新吉の顔を見るとお累が虫気付いて生まれたのが男の子。
これがなんと新吉が夢の迷い駕籠の中で見た兄の新五郎と生き写しの気味の悪い子どもだ。
三蔵は新吉夫婦のために家を建ててくれた。
新吉は兄や我が身の罪滅ぼしのためか寺社参りが多くなる。
大宝の八幡様、大生郷の天神様などに足繁く参っている。
三月のある日、近くの法蔵寺へ参った時に馬方の作蔵を連れた羽生村の名主惣右衛門の妾のお賤(しず)に出会う。
達磨返しの結び髪、藍の万筋の小袖に黒の唐襦子の帯の上に葡萄鼠に小さな紋をつけた縮緬の半纏羽織で、吾妻下駄を履いた粋で綺麗な女だ。
作蔵の話では深川の櫓下にいて、年は二十二という。
お賤も新吉という名に聞き覚えがあり、お賤が櫓下の紅葉屋にいた時分に石町から貸本を背負って来た新吉と分かって、江戸者同士意気投合し、すぐに二人は深い仲になる。
おぞましいつながりがあるとも知らずに。
そうなれば新吉はやけどの醜い顔のお累と獄門の首そっくりの子どもの家には寄り付かなくなる。
家財を売っ払って名主が来ない時はお賤の家に入り浸りだ。
三蔵はあんな恩知らずで薄情な奴とは別れてしまえというが、お累はうんと言わない。
そのうちにお累は心労が重なり、食う物も食わずで病に臥せってしまう。
夏になっても蚊帳がなく、お累は子どもをかばって蚊にぼこぼこに刺されて寝ている。
訪ねて来た三蔵が新しい蚊帳を買ってやり、三両置いて帰って行く。
後から金目の物はないかと帰って来た新吉が三両と蚊帳を持ち出そうとする。
蚊帳だけはと必死にすがりつくお累を足蹴にして振り払い、煮えたぎった薬灌の湯を子どもの頭から浴びせたからたまらない。
子どもはギャア~と叫んで死んでしまった。
さすがの新吉も気分が悪くなりお賤の家にしけ込んで酒を飲んで気を紛らわせていると、土砂降りの雨の中を死んだ子どもを抱いたお累がやってくる。
お累 「・・・どうか今夜だけは帰って坊やの始末をつけてください・・・」、「帰ってあげなさい」と言うお賤の言葉も聞かずに新吉はお累の胸倉をつかんで雨の中へ突き倒した。
新吉は戸をぴたりと閉めてまた酒を飲み続けるが酔えたもんじゃない。
夜も更けて、表の戸をトントン、今頃誰かと開けて見ると、「新吉さん、さあ、早く帰って・・・」と引きずられるように家に戻ると、お累は子どもを片手に抱き、草刈鎌で喉笛をかき切って死んでいた。
落語用語解説
- 迷い駕籠 – 駕籠に乗っている間に不思議な体験をすること。怪談落語でよく使われる手法です。
- 獄門 – 斬首の後、首を晒す刑罰。江戸時代の重罪人に科されました。
- 迷子札 – 子供の身元を示す札。名前や住所が書かれており、新吉の出自を明かす小道具として登場します。
- 薬灌(やかん) – やかんのこと。煮えたぎった湯が凶器となります。
- 櫓下(やぐらした) – 遊郭の入口近くの場所。お賤が以前いた場所として言及されます。
よくある質問(FAQ)
Q: 新吉が武家の出身だったことはなぜ重要ですか?
A: 新吉が深見新左衛門の息子だったことで、宗悦を殺した家の子と、殺された家の娘(豐志賀・お園)という因縁が明らかになります。
Q: お累の自害は豐志賀の祟りですか?
A: お累の自害は、夫の不倫と子供の死という現実的な絶望が原因ですが、豐志賀の「7人の妻を殺す」という呪いの最初の犠牲者とも解釈できます。
Q: 子供が新五郎に似ていたのはなぜですか?
A: 因果応報の表現です。処刑された兄・新五郎の姿が甥に現れることで、罪の連鎖を象徴しています。
名演者による口演
- 三遊亭圓朝 – この作品の創作者。お累の自害場面は圓朝の人情噺の真骨頂です。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。新吉の堕落とお累の悲劇を対比させた名演で知られました。
- 立川談志 – 人間の業の深さを独自の解釈で掘り下げました。
関連する落語演目
真景累ヶ淵シリーズ


同じく「悲劇・人情噺」の古典落語


不倫・裏切りがテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「真景累ヶ淵④」は、シリーズ中でも最も悲劇的で重い内容を持つ一席です。新吉の堕落と、無力な妻子への暴力は、人間の業の深さを描いています。
迷い駕籠のエピソードで兄・新五郎との夢での出会いが描かれ、怪談的要素と現実の悲劇が絡み合う構成が見事です。
お累の自害は草刈鎌という農具を用いた生々しい描写で、当時の観客に強烈な印象を与えた名場面です。


