洒落小町
3行でわかるあらすじ
騒々しい女房お松が、遊郭通いする夫を引き留めるため隠居に相談し、優しく振る舞うよう助言される。
井筒姫の故事を教わるが、間違えて葛の葉狐の歌「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」を詠む。
狐の歌だから、夫はまた「穴っぱ入り」(狐の穴=遊郭)に出かけてしまうというオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
「がちゃがちゃのお松」と呼ばれる騒々しい女房が、夫の留さんが穴っぱ入り(遊郭通い)で家に寄りつかないと隠居に相談。
隠居は在原業平と井筒姫の故事を話し、業平が河内の生駒姫に通っても井筒姫は優しく送り出したという。
ある嵐の夜、井筒姫が「風吹けば沖津白波たつ田山夜半にや君が一人越ゆらん」と歌い、業平は感動して浮気をやめた。
隠居は小野小町が歌で雨を降らせた話もして、お松に優しい言葉と洒落で夫を引き留めるよう助言する。
お松は帰宅した留さんに駄洒落攻めをするが「うるさぎうさぎ、なに見てはねる」など的外れで留さんは怒る。
留さんが家を出て行こうとすると、お松は井筒姫の歌のつもりで声をかける。
しかし間違えて「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と狐の歌を詠んでしまう。
留さんはそのまま出て行き、お松が隠居に文句を言いに行くと「それは狐の歌だ」と指摘される。
お松は「それで(狐の歌だから)また穴っぱ入りに出かけたんだ」と言う。
狐の穴と遊郭通いの「穴っぱ入り」を掛けた秀逸な言葉遊びのオチとなる。
解説
洒落小町は、古典文学の教養と江戸の庶民生活を巧みに組み合わせた作品である。
井筒姫と在原業平の故事は『伊勢物語』を踏まえており、葛の葉狐の歌は『葛の葉』伝説から取られている。
「穴っぱ入り」は本来遊郭通いを意味する俗語だが、狐が穴に入ることと掛けて使われている。
お松が間違えて詠んだ歌は、安倍晴明の母とされる葛の葉狐が子と別れる際の辞世の歌として有名。
隠居の教養とお松の無教養の対比が笑いを生み、最後は言葉遊びで締めくくる構成が見事。
タイトルの「洒落小町」は、小野小町の故事と洒落を言うようにという助言を組み合わせた洒落た命名である。
あらすじ
「がちゃがちゃのお松」とあだ名される騒々しい女房。
亭主の留さんが近ごろ、穴っぱ入りして家に寄りつかないと、横丁の隠居に相談に来る。
隠居 「お前がうるさ過ぎて、家が面白くないので亭主が穴っぱ入りするんだ。
昔、在原業平が、河内の生駒姫の所に毎晩通ったが、妻の井筒姫は嫌な顔一つもしたことがない。
ある嵐の晩、さすがに業平が行くのをためらっていると、こういう晩にこそ行かなければ不実と思われるから、無理をしても行ってくださいと言う。
あまりの物分りよさに業平は不審に思い、出掛けたふりをして庭に隠れて様子を伺うと、縁側の戸が開き、井筒姫が琴を弾きながら、"風吹けば沖津白波たつ田山夜半にや君が一人越ゆらん"と悲しげに歌を詠んだ。
それに感じた業平は河内通いを止めたという故事がある。
歌の力はたいしたもので小野小町は歌で雨乞いして雨を降らせたという。お前は亭主が帰ったら歌は無理でも、優しい言葉の一つも掛け、洒落の一つも言ったら亭主はきっと外に出なくなる」と諭した。
早速、お松は家に帰った留さんを駄洒落攻めにする。「うるさい」と怒鳴る留さんに、
お松 「うるさぎうさぎ、なに見てはねる十五夜お月様・・・・」なんて調子で追い打ちだ。
留さんは調子のおかしいお松なんかには付き合っていられないと外へ出て行く。
お松さんはここぞとばかり、後ろから井筒姫の歌のつもりで間違えて、
お松 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と大声で叫んだが、留さんは行ってしまった。
話しが違うと隠居の所へ乗り込んだお松に、
隠居 「そりゃ狐の歌だよ」
お松 「それでまた穴っぱ入りに出かけたんだ」
落語用語解説
- 穴っぱ入り – 遊郭通いを意味する俗語。この噺では狐が穴に入ることと掛けて使われています。
- 井筒姫 – 『伊勢物語』に登場する在原業平の妻。幼馴染みとして有名で、夫の浮気にも優しく接した賢妻として知られます。
- 葛の葉狐 – 安倍晴明の母とされる伝説の狐。信太の森に住み、「恋しくば…」の辞世の歌で有名です。
- 小野小町 – 平安時代の女流歌人で絶世の美女。雨乞いの歌で雨を降らせたという伝説があります。
- 在原業平 – 平安時代の歌人で、色好みの貴公子として『伊勢物語』の主人公とされています。
よくある質問(FAQ)
Q: お松はなぜ井筒姫の歌と間違えたのですか?
A: お松は隠居から教わった歌を正確に覚えていなかったため、井筒姫の「風吹けば沖津白波…」ではなく、葛の葉狐の「恋しくばたずね来てみよ…」を詠んでしまいました。教養のない庶民の滑稽さを表現しています。
Q: 「洒落小町」というタイトルの由来は?
A: 隠居が小野小町の故事を引き合いに出し、お松に「洒落を言うように」と助言したことから、「洒落」と「小町」を組み合わせた洒落た命名になっています。
Q: 葛の葉狐の歌はどんな意味ですか?
A: 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」は、安倍晴明の母である葛の葉狐が、正体がばれて去る際に残した歌です。「恋しければ信太の森を訪ねてきてください」という意味です。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。古典文学の教養を活かした格調高い語り口で、隠居の場面を丁寧に演じました。
- 桂枝雀 – お松のがさつさと隠居の上品さの対比を、独特の表現力で笑いに変えました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。『伊勢物語』の故事を情感豊かに語り、オチの落差を際立たせました。
関連する落語演目
同じく「夫婦」がテーマの古典落語


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言葉遊びが秀逸な古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「洒落小町」は、古典文学の教養と庶民の無教養を対比させた知的な笑いが楽しめる作品です。『伊勢物語』の井筒姫や『葛の葉』伝説といった古典を知っていればより深く楽しめますが、知らなくても間違えたお松の滑稽さは十分に伝わります。
隠居が説く「優しい言葉と洒落で夫を引き留める」という助言は、現代の夫婦関係にも通じる知恵かもしれません。ただし、お松のように的外れな実行では逆効果になるという教訓も含まれています。
オチの「穴っぱ入り」は、狐の穴と遊郭を掛けた秀逸な言葉遊びで、この噺の完成度を高めています。


