三方一両損 落語|あらすじ・オチ「たった一膳(越前)」意味を完全解説
三方一両損(さんぽういちりょうぞん) は、拾った三両を巡って意地を張り合う正直者の職人二人を大岡越前が粋な裁きで解決する古典落語の傑作。「多かあ(大岡)食わねえ」「たった一膳(越前)」という地口オチが秀逸な名作です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 三方一両損(さんぽういちりょうぞん) |
| ジャンル | 古典落語・人情噺 |
| 主人公 | 左官の金太郎・大工の吉五郎 |
| 舞台 | 神田・南町奉行所 |
| オチ | 「多かあ(大岡)食わねえ」「たった一膳(越前)」 |
| 見どころ | 大岡越前の粋な名裁きと秀逸な地口オチ |
3行でわかるあらすじ
左官の金太郎が拾った三両入りの財布を持ち主の大工・吉五郎に届けるが、吉五郎は落とした金は受け取れないと拒否して大喧嘩になる。
大岡越前が裁きをして、自分が一両足して二人に二両ずつ褒美として与える。
三人とも一両ずつ損をしたという粋な裁きで解決し、最後は「大岡食わねえ」「たった一膳(越前)」の地口オチで締める。
10行でわかるあらすじとオチ
左官の金太郎が柳原で三両入りの財布を拾い、書付けを頼りに持ち主の大工・吉五郎を探す。
吉五郎の長屋で財布を返そうとするが、吉五郎は落とした金は自分のものではないと受け取りを拒否。
二人は意地を張り合って大喧嘩となり、長屋の大家も手に負えない。
双方の大家が南町奉行所に訴え出て、大岡越前の裁きを受けることになる。
越前は事情を聞いて、二人が受け取れないという三両を預かると言い出す。
そして自分の懐から一両を足して、正直者の褒美として二人に二両ずつ与える。
金太郎も吉五郎も越前も、三人とも一両ずつ損をしたことになるという名裁き。
裁きの後、奉行所で鯛の塩焼きとご飯のご馳走が振る舞われる。
二人が夢中で食べていると、越前が「あまりたんと食すなよ」と声をかける。
吉五郎が「多かあ(大岡)食わねえ」、金太郎が「たった一膳(越前)」と返す地口オチで終わる。
解説
「三方一両損」は、大岡越前の名裁きを描いた古典落語の代表作です。
江戸っ子の意地と正直さが生む騒動を、大岡越前が粋な発想で解決する筋立てが見事です。
拾った金を巡って「受け取れ」「受け取れない」と喧嘩になるのは、どちらも正直者で筋を通そうとする江戸職人の気質をよく表しています。
越前の裁きは、三人とも損をしたという形にすることで、誰も得をしていないから不公平ではないという理屈と、実際には二人とも二両もらって得をしているという実利を両立させた名案です。
最後の地口オチも秀逸で、「大岡」と「多かあ」、「越前」と「一膳」をかけた言葉遊びが、緊張感のある裁きの場面を和やかに締めくくります。
あらすじ
神田白壁町に住む左官の金太郎は柳原で書付けと印形と三両入った財布を拾う。
めんどうなことになったと思いながらも、書付けにある神田竪大工町の大工の吉五郎に届けようと長屋にやって来る。
障子に穴を開け中をのぞくと吉五郎は鰯(いわし)の塩焼きで一杯やっている。
中に入って拾った財布を受け取れと差し出すと、長五郎は余計なお節介をしやがってと言い、書付けと印形は大事な物だからもらっておくが、落とした金はもう自分のものではないから受け取れないと言う。
二人は受け取れ、受け取れないの言い合いを始め、ついには取っ組み合いの喧嘩となる。
ドシン、バタンの大音で驚いた長屋の隣の者が大家を呼びに行く。
大家は吉五郎に親切に届けてくれた物は素直に受け取り、後で手土産でも持って礼に行くのが人の道なのになぐりかかるとは何事だと叱るが、てめえなんかにぐずぐず言われる筋合はないと吉五郎は強情だ。
呆れた大家は南町奉行の大岡越前守に訴えて白州の砂の上で謝らせるからと、金太郎を引上げさせる。
白壁町の長屋に帰った金太郎はこの事を長屋の大家に話すと、それではこっちの顔が立たない、先方の大家が訴える前にこっちから訴えてやれと願書をしたため南町奉行所へ。
二人に南町奉行所から呼び出しがかかり大岡越前の調べが始まる。
事の仔細を聞いた越前、二人がどうしても受け取れないという三両を預るといい、改めて両人に正直の褒美として二両づつ与えると言う。
越前はこれは三方一両損の調べだという。
金太郎が届けた金を受け取れば吉五郎に三両入り、吉五郎がいらないと言った金を金太郎がもらっておけば金太郎に三両入る。
そして越前がその金を預ったままでいればこれも三両だが、一両たして二人に二両づつの褒美として与えたことにより、三人とも一両づつ損をしたという勘定になるというのだ。
全員ありがたいお調べと納得すると、お膳が出てくる。
鯛の塩焼きに真っ白い炊き立てのご飯だ。
二人ともたいそうなご馳走に舌鼓を打ち食べ始める。
腹が減ったらちょくちょく喧嘩をしてまたここに来ようなんて調子のいいことまで言っている。
二人の食べっぷりを見ていた、
越前守 「両人いかに空腹だからじゃとて、あまりたんと食すなよ」
吉五郎 「多かあ(大岡)食わねえ」
金太郎 「たった一膳(越前)」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ) – 大岡忠相(1677-1752)。江戸中期の名奉行として知られ、数々の名裁きの逸話が伝わります。「大岡政談」として講談や落語の題材になっています。
- 南町奉行所 – 江戸の町政と司法を担当した役所。北町奉行所と交代で業務を行い、大岡越前守は南町奉行を務めました。
- 白州(しらす) – 奉行所の法廷。白い砂が敷かれていたことからこの名で呼ばれました。訴訟を受ける者は白州に座らされました。
- 左官(さかん) – 壁塗りを専門とする職人。江戸時代は重要な建築職人として尊敬されていました。
- 大工(だいく) – 木造建築を担当する職人。左官と並んで江戸の代表的な職人でした。
- 三両(さんりょう) – 江戸時代の金貨単位。現在の価値で約30万円程度と推定されます。当時としては大金でした。
- 地口オチ(じぐちおち) – 言葉の響きを利用した駄洒落で落とすオチの形式。「大岡」と「多かあ」、「越前」と「一膳」のような音の類似を利用しています。
よくある質問(FAQ)
Q: 大岡越前守の裁きは実話ですか?
A: この噺は創作ですが、大岡越前守(大岡忠相)は実在の人物です。名奉行として知られ、多くの逸話が「大岡政談」として伝わっていますが、その多くは後世の創作とされています。
Q: なぜ二人は金を受け取らなかったのですか?
A: 江戸っ子の職人気質を表しています。金太郎は「拾った金で得するのは筋が通らない」、吉五郎は「落とした金はもう自分のものではない」という、それぞれの意地と正直さが衝突したのです。
Q: 「三方一両損」の意味は?
A: 金太郎は三両を届けて一両しか残らなかったので一両損、吉五郎も三両のところ二両しかもらえないので一両損、越前守も自分の一両を出したので一両損。三人とも一両ずつ損をしたという形になり、誰も不公平ではないという理屈です。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、大岡越前の名裁きものとして現在も多くの落語家によって演じられています。江戸っ子の気質と粋な裁きが楽しめる人気演目です。
Q: 地口オチはどういう意味ですか?
A: 「多かあ食わねえ」は「大岡食わねえ」(たくさん食べない=大岡)、「たった一膳」は「越前」(一膳=いちぜん=越前)という掛け言葉になっています。これで大岡越前の名前が完成するという洒落です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。裁きの場面の重厚さと、最後の地口オチへの軽妙な転換が見事でした。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 江戸前の粋な語り口で、職人二人の意地の張り合いを活き活きと演じました。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。庶民的な温かみのある語り口で、金太郎と吉五郎のキャラクターを見事に描き分けました。
- 春風亭柳朝(七代目) – テンポの良い語り口で、喧嘩場面の迫力と地口オチの爽快さが魅力でした。
関連する落語演目
同じく「大岡越前の裁き」を描いた古典落語
「江戸っ子・職人」を描いた古典落語
「地口オチ」が秀逸な古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「三方一両損」の魅力は、正直者同士の意地の張り合いを、誰も損をしない(実際は全員が得をする)形で解決する大岡越前の知恵にあります。現代のビジネスでも「Win-Win」の解決策が求められますが、この噺はまさにその原型と言えるでしょう。
また、金太郎と吉五郎の行動は、現代では「面倒くさいこだわり」に見えるかもしれません。しかし、拾った金を届ける正直さ、落とした金を受け取らない潔さは、江戸っ子の美学を示しています。損得ではなく筋を通すという価値観は、今の時代にも見習うべき点があるのではないでしょうか。
最後の地口オチは、緊張感のある裁きの場面を一気に和やかに転換させる効果があります。「多かあ食わねえ」「たった一膳」という返しは、江戸っ子の機転の利いた会話を象徴しており、落語ならではの粋な締めくくりです。
実際の高座では、二人の喧嘩場面の迫力や、大岡越前の威厳ある裁きの場面が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。











