三人旅
3行でわかるあらすじ
無尽が当たった江戸っ子の熊さん、辰公、半ちゃんの三人組が京見物の旅に出る。
東海道を西へ向かう道中、馬子との値段交渉や宿場での珍騒動が次々と起こる。
小田原宿では飯盛女を巡る騙し合いで、半ちゃんが尼さん婆を買わされ「お灯明でも上げてくれ」と言うオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
無尽が当たったが宵越しの金を持たない江戸っ子の意地で、三人で京見物に出かけることになる。
神奈川宿では辰公が去年の大山詣りの際の女の話をし、朝這いと洒落た話を披露する。
次の日、足が痛い半ちゃんは馬に乗ることになるが、馬子との値段交渉で言い値のまま乗せられる。
半ちゃんの馬だけがびっこで遅れ、馬子から「癇癪持ちで客を乗せたまま駆け出す」と脅される。
小田原宿の鶴屋善兵衛に着き、女中との珍問答で「じょうご(十五)」「じょうはち(十八)」の年齢話になる。
夜、男三人は飯盛女を買うことにするが、おしくらは二人しかいないと言われる。
辰公は半ちゃんを「一番の色男」とおだてて、江戸から来た年増女を買わせることにする。
翌朝、半ちゃんの相手は尼さん婆だったことが発覚し、激怒する。
辰公と熊さんは女にチップを渡し、半ちゃんにも勧める。
半ちゃんは尼さんに「これでかんざし…髪につける油…まあ、油でも買って、お灯明でも上げてくれ」と言う。
解説
三人旅は、東海道を舞台にした道中噺の傑作で、江戸っ子三人組の珍道中を描いた滑稽噺です。
この噺は神奈川宿、小田原宿などの宿場ごとにエピソードが分かれており、それぞれ独立した小噺としても演じられます。
「朝這い」の部分は洒落の効いた言葉遊び、馬子との掛け合いは「月夜に釜(ただ)」「じばん(襦袢)と股引」など値段交渉の妙が楽しめます。
女中との「じょうご」「じょうはち」のやり取りは、数字の数え方を知らない田舎娘の純朴さを表現。
最後の「おしくら」の部分は上方落語「東の旅」の「尼買い」と似た構成で、騙された半ちゃんが尼さんに「お灯明でも上げてくれ」と言うオチは、かんざしや髪油の代わりに仏前の灯明油という宗教的な転換が秀逸です。
あらすじ
無尽が当たったが、「江戸っ子の生まれぞこない金を貯め」と言われたくもなし、宵越しの金を持たないのが江戸っ子と、友達三人と京見物に行こうということになった。
東海道を西へ、高輪の大木戸で見送りの連中と別れ、品川宿を素通りし、涙橋を渡って鈴ヶ森から六郷の渡しを渡って川崎宿を過ぎ、夕暮れ方に神奈川宿に入った。
羽沢屋という旅籠から声を掛けられ泊まろうとすると、辰公だけが義理のある宿に泊まるという。
去年、五人で行った大山詣りの帰りに泊まった宿で飯盛女が四人しかいなく、女の方から男を選ばせたら、あぶれたのが辰公。
辰公の話によると、すねてやけ酒を飲んで帳場に怒鳴り込んでいると、止めに入ったのが粋な年増女。
今夜、私のところへ忍んで来てと言われ、喜んで飲み過ぎて朝まで寝込んでしまった。
諦めきれない辰公は廊下を這って、女のところへ行ったという。
熊さん「それで夜這いは上手くいったのか」、辰公「ああ、でも朝這って行ったから朝這だ」(以上、発端・朝這い(神奈川宿))
今日は小田原宿の鶴屋善兵衛に泊まると決めているが、熊さんが「腹が減った」の言い通しで、半ちゃんは足に豆をつくって、足を引きずっている。
足元につけ込んだ馬子が寄って来た。
馬に乗ってくれとしつこいので、辰ちゃんがいくらで宿場までやると聞くと、
馬子 「じゃあ、宿場までやみ(三百文)でどうかね」
辰公 「そりゃだめだ。月夜にまけとけよ」
馬子 「なんだね、その月夜ちゅうのは」
辰公 「月夜に釜で、只だ」
馬子 「とんでもねえ、じゃあ、じばではどうかね」
辰公 「じゅばん(襦袢)じゃ高いから、股引(ももひき)にしろ」
馬子 「なんだね、その股引てえのは」
辰公 「お足が二本へえるから二百だ」
馬子 「おう、二百か、まけますべえ」で、交渉は成立したが、
辰公 「さっきの、じばってえのはいくらだ」
馬子 「やっぱり二百だ」で、言い値で全然まけてない。
馬に反対向きに乗って、首がねえと叫んだり、馬と掛け合いでブーッとおならをしたり、その道中の賑やかなこと。
見ると半ちゃんの乗った馬だけが遅れている。
足を引きずっていた半ちゃんが乗っているのがびっこ馬でお似合いだ。
半ちゃん 「この馬やたらとお辞儀をするから礼儀正しい馬と思ったが、ひでえ馬に乗せやがる。でも、馬子さん、この馬おとなしいんだろ」
馬子 「えらく癇癪餅で、むやみやたらに駆け出すこともある。
この間もおらが叱ったら客を乗せたままいきなり駆け出した。
おらあついて行けずに手綱を放したらどこかへ行っちまって日暮れ時に戻って来た。客はどうなったか分からねえ」
半ちゃん 「そんなこと、めったにはあるめえ」
馬子 「そりゃそうだ、せいぜい日に一ぺんだ」と、からかわれ、おちょくられて本気にして、
半ちゃん 「下ろしてくれ、下ろしてくれ!」と叫ぶばかり。
そうこうしているうちに小田原宿に入った。
字の読めない三人はどこが鶴屋善兵衛だか分らず。「・・・鶴屋善兵衛・・・鶴屋善兵衛・・・」と大声で話しているうちに宿はずれまで来てしまって引き返す有様。
やっと鶴屋善兵衛の客引きに拾われて宿へ入った。
女中が熊さんの足を洗いながら、「あれまあ、おめえさまの足を見ると、おら、家(うち)のことを思い出してなんねえだ」
熊さん 「・・・俺の足がおめえの色男の足に似ているか」
女中 「そうではねえ、父っつぁまの引(ふ)っ張って歩く馬の足にそっくりで・・・」
熊さん 「姐(ねえ)さんの年は幾つだい」
女中 「じょうご」
熊さん 「年は漏斗で名前はお鍋か、そりゃ幾つだ」
女中(指を折りながら) 「じょういち、じょうに、じょうさん、じょうし、じょうご・・・」
熊さん 「なるほど分かった十五、お前より大きい姐さんがいたろ。あれは幾つだ」
女中 「じょうはち」
熊さん「それじゃあ城木屋の番頭の丈八さんだよ・・・」
風呂が先か飯が先かで揉めたりして夜を迎えた。(以上、鶴屋善兵衛)
男三人の旅、今夜はこの地でおしくらと呼んでいる飯盛女を買おうと、今度は揉めずにすぐに意見は一致。
辰公が帳場へ行くと、今夜は混んでいておしくらは二人しか手当できないという。
それでは駄目だと言うと、年取った尼さんなら呼べるという。
辰公は策略を考えて二人に話す。
おしくら二人は田舎の女、もう一人は江戸から流れて来たもとは芸者の年増女で、ここはやっぱり、三人の中で一番の色男、色事師の半ちゃんが江戸女の相手だとおだてて、半ちゃんは納得、ご満悦だ。
これで話はついて三人はそれぞれの部屋に引き上げた。
烏カアーで夜が明けて、江戸の女ならぬ尼さん婆を当てがわれた半ちゃんの怒ること、怒ること。
でも後の祭り。
辰公と熊さんは知らん顔で、相手のおしくらに「昨夜は世話になった。これでかんざしなり髪につける油なんかを買ってくれ」と、チップを渡し、半ちゃんに「お前も、いくらかやったらどうだい」、
人のいい半ちゃん「・・・ゆうべは世話になったな。これでかんざし・・・、髪につける油・・・、まあ、油でも買って、お灯明でも上げてくれ」(以上、「おしくら」 この部分は上方の『東の旅』の『尼買い』と似たような話)
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 無尽(むじん) – 講(こう)とも呼ばれる庶民の金融互助組織。メンバーが毎月一定額を出し合い、くじ引きや入札で順番に全額を受け取る仕組み。当たると一時的にまとまった金が手に入りました。
- 飯盛女(めしもりおんな) – 宿場の旅籠で給仕をする女性のこと。実態は私娼を兼ねることが多く、「おしくら」はその方言的な呼び名です。
- 馬子(まご) – 街道で旅人を馬に乗せて運ぶ人夫。客引きや値段交渉の駆け引きも仕事のうちでした。
- 朝這い(あさばい) – 「夜這い」の洒落。夜這いに行くつもりが酔って寝込んでしまい、朝に這って行ったという言葉遊びです。
- 宵越しの金 – 「江戸っ子は宵越しの金を持たない」という気っ風の良さを表す言葉。その日に稼いだ金はその日のうちに使ってしまうのが江戸っ子の美学とされました。
- 大山詣り(おおやままいり) – 相模国(現在の神奈川県)の大山阿夫利神社への参詣。江戸庶民の間で大変な人気がありました。
よくある質問(FAQ)
Q: 三人旅のオチ「お灯明でも上げてくれ」はどういう意味ですか?
A: 通常、女性へのチップは「かんざしや髪油を買ってくれ」と言って渡します。しかし相手が尼さん(坊主頭)なので髪飾りは使えない。そこで「お灯明(仏前に灯す油)でも」と言い換えたのがオチ。仏門に入った人への皮肉と、騙された悔しさが込められています。
Q: 「月夜に釜」とは何ですか?
A: 「月夜に釜を抜かれる」の略で、「ただ(無料)」を意味する洒落言葉です。月夜は明るいので泥棒も入らない、つまり何も取られない=ただ、という意味です。
Q: この噺は続きがあるのですか?
A: はい、「三人旅」は東海道を舞台にした道中噺シリーズの一部で、宿場ごとに独立した小噺として演じることもできます。神奈川宿の「朝這い」、馬子との掛け合い、小田原宿での「おしくら」など、それぞれ単独でも演じられます。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、道中噺の代表作として現在も多くの落語家によって演じられています。特に言葉遊びや宿場文化の描写が魅力で、古典落語ファンに人気があります。
Q: 江戸落語と上方落語で違いはありますか?
A: 江戸落語では「三人旅」、上方落語では「東の旅」として知られています。「尼買い」の部分は上方落語の「東の旅」に含まれる演目で、基本的な筋は同じですが、言葉遣いや細部の演出が異なります。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。道中の情景描写と言葉遊びの妙が冴え渡る高座で知られました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 独特のテンポと飄々とした語り口で、三人の掛け合いを活き活きと演じました。
- 桂文楽(八代目) – 品格ある江戸前の語り口で、宿場の風情を丁寧に描きました。
- 柳家小三治 – 現代の名人として、日常的なやり取りの面白さを際立たせる名演で知られています。
関連する落語演目
同じく「道中・旅」をテーマにした古典落語



「言葉遊び」が秀逸な古典落語



江戸っ子が主人公の古典落語



この噺の魅力と現代への示唆
「三人旅」の魅力は、東海道の旅情と江戸っ子の気っ風の良さが絶妙に組み合わされている点にあります。「宵越しの金を持たない」という粋な美学を貫きながら、実際にはケチな値段交渉をしたり、騙し合いをしたりする三人の姿は、人間味あふれて愛嬌があります。
馬子との掛け合いでは「月夜に釜」「じゅばんと股引」など、洒落言葉を駆使した値段交渉が展開されます。これは現代のビジネスシーンでの交渉術にも通じるものがあり、言葉の力で場を動かす江戸っ子の知恵を感じさせます。
最後の「お灯明でも上げてくれ」というオチは、騙された悔しさを洒落で返すという、負けず嫌いな江戸っ子の心意気を表しています。どんな状況でも気の利いた一言で締めくくる、この精神は今の時代にも通用する処世術かもしれません。
実際の高座では、三人の性格の描き分けや、馬子との掛け合いの妙が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


