辻八卦
3行でわかるあらすじ
街角のインチキ易者が人の特徴を当てて客を集めているが、実は笠に名前が書いてあったりと手口がバレバレ。
忠臣蔵を見てきた客が登場人物の転生を占ってもらい、易者は定九郎を牛、勘平を風呂屋の釜焚きなどと適当に答える。
最後に武士が大石内蔵助について聞くと、易者は困って「まだ誕生(参上)仕りませぬ」と答えて逃げる。
10行でわかるあらすじとオチ
大道易者が「師匠の十三回忌で見料半額」と客集めをしているが、去年も同じことを言っていたとバレる。
易者は人相を見て職業を当てるが、実は笠に名前が書いてあったり見た目で推測したりのインチキ商売。
忠臣蔵を見てきた客が、定九郎や勘平などの登場人物が何に生まれ変わったか占ってもらいたいと依頼する。
易者は定九郎を牛(シイシイ猪の語呂合わせ)に、勘平を風呂屋の釜焚き(鉄砲つながり)に転生したと適当に答える。
力弥は相撲取り(前髪つながり)になったと、それらしい理由をつけて占いを続ける。
そこへ立派な武士が現れ、大星由良助(大石内蔵助)に心服していると告白する。
武士は由良助が何に生まれ変わったか教えてほしいと真剣に尋ねる。
これまで適当に答えていた易者だが、由良助だけは軽々しく扱えない相手だと困り果てる。
武士が「由良助は何に生まれ変わったか」と詰め寄ると、易者は震え上がって答えに窮する。
最後に易者は「まだ誕生(参上)仕りませぬ」と答えて、「誕生」と「参上」を掛けたオチで逃げ切る。
解説
「辻八卦」は、街角のインチキ易者を主人公にした古典落語で、江戸時代の大衆娯楽と忠臣蔵への民衆の愛着を描いた作品です。
易者の占いの手口は現代の詐欺師にも通じる巧妙さで、笠に書かれた名前を読んだり、職業を見た目で推測したりと、観察力を超能力に見せかける技術が描かれています。
忠臣蔵の登場人物の転生という設定は、当時の人々がいかにこの物語を愛していたかを物語っており、定九郎、勘平、力弥という脇役まで含めて転生を気にするほどの人気ぶりが窺えます。
最後の「まだ誕生(参上)仕りませぬ」は、「誕生」(生まれ変わり)と「参上」(やって来ること)を掛けた絶妙な言葉遊びで、由良助という特別な存在への敬意と易者の困惑を同時に表現した秀逸なオチとなっています。
あらすじ
大道易者が偉そうにそっくり返って、「・・・今日は師匠の十三回忌じゃによって、見料は半額・・・」
通行人甲 「この人、下手でっせ。
去年も天王寺さんで師匠の十三回忌て言うとりましたがな。そんな易者に上手いのおらんで」
易者 「それはわしではない。別の易者や」
通行人甲 「隠したかてあかんわ。鼻の頭ににホクロがあるがな」
易者 「そっちから人相みるな。
信用せんのなら、当てものと言うやつで驚かしてやろう。そこの男、お前は泉州堺の人間で、包丁屋の職人と見たがどうじゃ」
通行人乙 「当たったがな。何で分かったんや」
易者 「泉州堺は昔から軒の深いところじゃ。
お前がデボチンだから分かる。そして歯の上が出歯で下が臼歯で包丁屋の職人というこっちゃ」
易者 「ああ、そっちの笠を被っている男、お前は大今里村久太郎の倅も久助だろう」
久助 「何でそんなきっちり分かるねん」
易者 「笠に書いてある」、これじゃ易からはほど遠い。
通行人丙 「ちょっと先生、見てもらいたい」
易者 「ああ、黙って立てばピタリと当てる。何を見て欲しいのじゃ」
通行人丙 「今日、道頓堀の「角の芝居」で忠臣蔵の通しを五段目から立ち見して・・・」
易者 「一体、何を見てくれと言うのじゃ」
通行人丙 「山崎街道の場で"またも降り来る雨のあし、人の足音とぼとぼと・・・花道から与市兵衛が出てくるなあ。・・・懐から縞の財布を取り出して・・・後ろから与市兵衛を刺し殺して財布くわえて顔を出すのが定九郎や」
易者 「一体お前は何を見て欲しいんじゃ」
通行人丙 「・・・猪が飛んできて・・・鉄砲に当たって定九郎はひっくり帰ってしまうがな」
易者 「いい加減にせい。何が見て欲しいのじゃ」
通行人丙 「花道の揚幕から舞台へパーッと勘平が出てくる」
易者 「お前さんの用事は何だんねん」
通行人丙 「・・・‥猪やあらへんで人間やがな・・・五十両の財布を懐にねじこむと花道へ・・・」と、五段目を語ってしまった。
易者 「おい、何を見てくれちゅうねん」
通行人丙 「あの定九郎ちゅう奴、何に生まれ代わってまっしゃろなあ」
易者 「・・・それがお前の見てもらいことか。・・・まあ、定九郎は牛、それも大津の車牛に生まれ代わっておる。重たい車をシイシイ(猪猪)と追われて引かされとるんや」
通行人丙 「ほな、勘平は」
易者 「風呂屋の釜焚きじゃ。いまだ鉄砲とは縁が切れん」
通行人丙 「五段目には出てへんけど、力弥は何に生まれ代わってますやろ」
易者 「相撲取りじゃ。今だ前髪の縁を離れん」、
後ろで聞いていた立派な侍が前へ出て来て、「最前より承っておりましたが、いちいち的確なるご判断、感服つかまつりました。
手前は中国筋のさる藩に禄を食(は)む者でござる。
かねがね忠臣蔵の大星由良助殿に心服いたしております。
もし、大星殿がこの世に生まれ代わっておられるならば、対面してご教示をあずかりたいと思っていたところでござる。いかがでござるな」
易者 「いや、そ、その儀は・・・」
侍 「・・・由良助殿は何に生まれ代わっておるな。・・・これ、易者いかがいたした」
易者 「はっ!」
侍 「こりゃ、易者、易者、由良助は・・・」
易者 「今だ誕生(参上)仕りませぬ」
落語用語解説
- 辻八卦 – 街角で占いをする大道易者のこと。通りすがりの客を相手に商売した。
- 忠臣蔵 – 赤穂浪士の討ち入りを題材にした人気演目。庶民に最も愛された物語の一つ。
- 大星由良助 – 忠臣蔵における大石内蔵助の役名。実在の人物を基にした架空の名前。
- 定九郎 – 忠臣蔵五段目に登場する悪役。猪に撃たれて死ぬ印象的な場面がある。
- 勘平 – 忠臣蔵の脇役。鉄砲で猪を撃つ場面が有名。
- 力弥 – 忠臣蔵に登場する若侍。前髪の美少年として描かれることが多い。
よくある質問(FAQ)
Q: 「誕生」と「参上」を掛けたオチの意味は?
A: 「まだ誕生(生まれ変わり)していない」と言いながら、「まだ参上(やって来ること)していない」という意味も掛けています。由良助という特別な存在への敬意を込めつつ、答えを回避した巧妙なオチです。
Q: なぜ定九郎は牛に生まれ変わったとされたのですか?
A: 「シイシイ」という牛を追う掛け声が「猪猪(いのしし)」の語呂合わせになっているからです。定九郎が猪に撃たれて死んだ場面からの連想です。
Q: 江戸時代の人々にとって忠臣蔵はどれほど人気がありましたか?
A: 忠臣蔵は当時最も人気のある演目で、登場人物の転生まで気にするほど庶民に愛されていました。この噺はその熱狂ぶりを風刺しています。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。忠臣蔵の場面を丁寧に語りました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の重鎮。インチキ易者の胡散臭さが絶品でした。
- 桂文枝(五代目) – 上方落語の大御所。武士と易者の対比を巧みに演じました。
関連する落語演目
同じく「占い・易者」がテーマの古典落語


同じく「忠臣蔵」がテーマの古典落語


同じく「インチキ商売」がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「辻八卦」は、インチキ易者と忠臣蔵への民衆の愛着を描いた古典落語の傑作です。易者が笠に書かれた名前を読んだり、職業を見た目で推測したりする手口は、現代の詐欺師にも通じる巧妙さがあります。
忠臣蔵の登場人物の転生を占うという設定は、当時の人々がいかにこの物語を愛していたかを物語っています。定九郎、勘平、力弥という脇役まで含めて転生を気にするほどの人気ぶりです。
最後の「まだ誕生(参上)仕りませぬ」は、「誕生」と「参上」を掛けた絶妙な言葉遊びで、由良助という特別な存在への敬意と易者の困惑を同時に表現した秀逸なオチです。現代でも、いい加減な占いや詐欺まがいの商売は後を絶ちません。この噺は、そうしたインチキ商売への皮肉を、笑いを通じて伝えています。


