唐茄子屋政談
3行でわかるあらすじ
大店の若旦那・徳さんが遊びが過ぎて勘当され、叔父さんの家で唐茄子売りを始める。
困窮した武士の妻に唐茄子の売上代を渡すが、悪徳家主に取り上げられて妻が首を吊る騒動に発展。
徳さんが家主を殴り、竹さんが家主の頭に薬ではなく唐辛子を塗り込むという爆笑オチ。
10行でわかるあらすじとオチ
大店の若旦那・徳さんが遊びが過ぎて勘当され、吾妻橋から身投げしようとしたところを叔父さんに助けられる。
叔父さんは徳さんを本所達磨横町の家に連れ帰り、翌日から唐茄子売りをさせて働く喜びを教える。
徳さんは転んで「人殺し」と叫ぶが、通りがかりの男に助けられて唐茄子を売ってもらう。
売れ残った唐茄子を持って歩いていると、誓願寺店の長屋で困窮した武士の妻に出会う。
妻は赤ん坊を背負い、男の子は3日間も食事をしていない状況で、夫からの仕送りも3ヶ月途絶えている。
同情した徳さんは唐茄子の売上代を全部置いて飛び出し、叔父さんに全部売ったと報告する。
しかし実際は妻が金を返しに追いかけたところ、家主に店賃として全額取り上げられてしまう。
絶望した妻は首を吊るが、幸い命は取り留め、これを知った徳さんが家主の家に殴り込む。
徳さんが家主の頭をやかんで殴ると、長屋の竹さんが家主の傷口に何かを塗り始める。
長屋の連中が「薬なんか塗るんじゃねぇ」と怒ると、竹さんは「薬じゃねぇ、傷口に唐辛子をすり込んでたんだ」というオチ。
解説
唐茄子屋政談は、勘当された若旦那が労働を通じて人情の機微を学ぶ成長物語と、悪徳家主への痛快な仕返しを描いた古典落語の傑作です。
前半は徳さんの放蕩から勘当、そして唐茄子売りという肉体労働を通じて人の情を知る教訓的な展開で、後半は困窮した武士の家族を助けようとする徳さんの善意が悪徳家主によって踏みにじられる社会批判的な構造になっています。
特に注目すべきは、最後の竹さんのセリフ「薬じゃねぇ、傷口に唐辛子をすり込んでたんだ」という痛快な復讐で、これは単なる言葉遊びではなく、弱者を食い物にする悪徳家主への庶民の怒りを代弁する象徴的な場面です。
江戸時代の長屋社会における貧困問題、武士の没落、悪徳家主の横暴といった社会問題を背景に、人情と正義感を描いた社会派落語としての側面も持っています。
あらすじ
大店の若旦那の徳さん。
遊びが過ぎて勘当になる。「お天道さまと米の飯はいつでもついて回る」とか、吉原の女がいつでも引き受けて面倒を見てくれるなんて本気で思っている能天気なお調子もんだ。
吉原の女からは引き受けるどころか、愛想をつかされお払い箱、幇間(たいこ持ち)とか友達の所へやっかいになっていたが、どこからもすぐいやな顔をされもう行く所がない。
お天道さま裏切らずについて回って暑くてしょうがないが、米の飯はついて来ず、やけになって吾妻橋から身を投げようとする。
そこへ通り合わせたのが本所達磨横町に住む叔父さんだ。
身投げを後ろからはがいじめにして止めたが、よく見るとこれが徳だ。
叔父さん 「なんだ徳か。お前なら止めるんじゃなかった、早く飛び込んじまい」、なんて冷たい。
今度は徳さんが助けてくださいなんて言い出した。
叔父さんは家まで徳さんを連れて帰り、飯を食わせその晩は早く寝かせた。
早朝、徳さんを叩き起こし、用意した唐茄子を篭に入れ天びん棒でかつがせ商売に出させる。
唐茄子の重さと暑さでよろよろしながら歩いているうちに、小石につまづき転んでしまう。「人殺し!」なんて叫ぶもんだから、通りがかりの男がびっくりして徳さんを起こし、道に転がっている唐茄子を拾ってくれる。
事情を聞いた男は、通りかかった人たちに唐茄子を売りj始める。
皆、気の毒がって一つ、二つと買ってくれる。
唐茄子なんか食えるかなんて言う半公には、昔、半公が男の家の二階に居候していた時、唐茄子の安倍川を37切れも食べたことをすっぱ抜き唐茄子を買わせる。
いざ買う段になると、半公は大きい唐茄子を選んでいる有様だ。
売れ残った唐茄子2つをかついで徳さんはまた歩きはじめる。
気づくとここは、吉原田んぼだ。
吉原遊郭の屋根が見え、派手に遊んでいた頃の花魁(おいらん)とのやりとりなどをなつかしく思い出しながら歩いて行く。
黙って歩いていたことに気がついて、売り声の練習も始める。
町の中に戻り、誓願寺店(せいがんじだな)あたりに来たときに長屋の一軒の中から呼び止められる。
着ているものは粗末だが、どこか品がある背中に赤ん坊を背負った若い女が、唐茄子を1つ売ってくれという。
売れ残った一つをおまけといってあげて、家の中で弁当を食べさせてもらうことにする。
柱の後ろからこれを見ていた男の子が弁当を欲しがる。
聞くと3日間もご飯を食べさせていないという。
元は武士で今は小間物商いの夫の旅先からの仕送りが3か月も途絶えているという。
徳さんは同情し、唐茄子の売り溜めを全部そこへ置いて飛び出し、達磨横町の叔父さんの所へ戻る。
唐茄子は全部売ってきたという徳さん。
叔父さんは嬉しがり、飯の支度をさせ徳さんを団扇(うちわ)で扇いだりして大サービスだ。
売り溜めはと聞くと無いという。
怒った叔父さんに今日の顛末を話す徳さん。
その話が本当かどうか確かめに、今から誓願寺店の長屋に一緒に行くという。
長屋に着くと何か様子がおかしい。
隣の海苔屋の婆さんに聞くと、唐茄子を買った若いおかみさんが首を吊ったという。
幸い見つけるのが早く命は取り留めそうだという。
徳さんが売り溜めを置いて飛び出した後、おかみさんはこれは受け取れないと返しに後を追ったが追いつかず、ちょうど出くわした長屋の家主に金があるのを知られて、溜まっている店賃だといって全部取上げられ、やむなく首を吊ったのだという。
これを聞くや徳さん、飛び出し一目散に家主の所へ行って晩飯を食べていた家主のやかん頭をやかんでポカリと一発なぐる。
これを見ていた長屋の連中は拍手喝采する。
すると長屋に住む竹さんが、家主の頭に何かを塗り始める。
これを見た長屋の連中、怒って、「薬なんか塗るんじゃねや」
竹さん 「薬じゃねえ、傷口にとんがらしをすり込んでたんだ」、なんて大騒ぎ。
この事がお上に知れ、徳さんの勘当は解け、奇跡的に命を取り止めたおかみさんを達磨横町の叔父さんの家へ引取り面倒を見たという、
「情けは人のためならず」、唐茄子屋政談の一席でございました。
落語用語解説
- 唐茄子(とうなす) – かぼちゃのこと。江戸時代は庶民の食べ物として広く親しまれていた。
- 勘当 – 親が子の縁を切ること。家から追い出されて相続権も失う厳しい処分。
- 幇間(たいこもち) – 宴席で客を楽しませる職業の男性。遊郭通いの付き添いもした。
- 店賃(たなちん) – 長屋の家賃のこと。家主に毎月支払う。
- 吾妻橋 – 隅田川にかかる橋。身投げの名所としても知られた。
- 誓願寺店 – 誓願寺の境内にあった長屋。貧しい人々が住んでいた。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ徳さんは売上金を全部置いてきたのですか?
A: 3日間も食事をしていない子供と、困窮した武士の妻を見て同情したからです。かつての放蕩息子が、労働を通じて人情の大切さに目覚めた瞬間を描いています。
Q: 竹さんはなぜ唐辛子を塗ったのですか?
A: 悪徳家主への復讐です。弱い立場の人から無理やり金を取り上げた家主への、庶民の怒りを代弁する痛快な仕返しとなっています。
Q: この噺の「政談」とは何を意味しますか?
A: 「政談」は裁判や裁きを題材にした話のジャンルです。この噺では最後にお上(奉行所)が徳さんの勘当を解き、家主を処罰するという結末になります。
名演者による口演
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。徳さんの成長と竹さんの痛快な復讐を見事に演じ分けました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。人情味あふれる語り口で知られます。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。武士の妻の悲哀を繊細に描きました。
関連する落語演目
同じく「人情・長屋」がテーマの古典落語


同じく「勘当・放蕩息子」がテーマの古典落語


政談物の古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「唐茄子屋政談」は、放蕩息子の更生と庶民の正義感を描いた人情噺の傑作です。前半で徳さんが労働を通じて人の情を知り、後半で困窮した武士の家族を助けようとする展開は、成長物語として普遍的な魅力を持っています。
悪徳家主に対する竹さんの唐辛子塗りは、弱者を食い物にする者への庶民の怒りを痛快に表現したオチです。「薬じゃねえ、唐辛子をすり込んでたんだ」という台詞は、観客の期待を裏切る見事なオチとなっています。
現代でも、社会的弱者への搾取や不正義は存在します。この噺は、正義感と人情の大切さを教えてくれる、時代を超えて愛される名作です。


