てれすこ
3行でわかるあらすじ
長崎で捕れた珍しい魚に「てれすこ」と嘘の名前をつけて百両を騙し取った商人・多度屋茂兵衛。
奉行が同じ魚の干物で罠を仕掛けると、欲をかいて「すてれんきょう」と別名を言って捕まり、打首を宣告される。
妻が火物断ちをしていたことと、「スルメ」と言わせるなという遺言で、奉行が無罪を言い渡す。
10行でわかるあらすじとオチ
長崎の漁村で誰も名前を知らない珍しい魚が捕れ、奉行所が名前を知る者に百両の賞金を出すと高札を立てた。
多度屋茂兵衛という商人が「てれすこ」という嘘の名前を申し立てて、まんまと百両をせしめる。
怪しんだ奉行は、同じ魚を干物にして再び高札を出すという罠を仕掛ける。
欲をかいた茂兵衛は今度は「すてれんきょう」と別の名前を言って、見事に罠にかかって捕まってしまう。
奉行は「上を偽る不届き者」として打首を宣告するが、最後の望みを一つ叶えてやるという。
茂兵衛は妻子に会わせて欲しいと願い、やせ細った妻が乳飲み子を抱えて現れる。
妻は茂兵衛の身の証しが立つようにと火を通したものを口にしない「火物断ち」をしていたという。
感動した茂兵衛は「子供が大きくなってもイカの干したのをスルメと言わせるな」と遺言する。
これを聞いた奉行は膝を打って「言い訳相立った」と無罪を言い渡す。
オチは「それもそのはず、おかみさんが火物(干物)断ちをしましたから」という言葉遊び。
解説
「てれすこ」は、知ったかぶりと欲の深さが招く災いを描いた古典落語の傑作です。
前半は嘘で百両を騙し取る詐欺師の話として進みますが、後半で妻の献身的な愛情が描かれ、単なる滑稽噺から人情噺へと転換します。
奉行の巧妙な罠、茂兵衛の欲深さ、そして妻の健気な姿が対比的に描かれ、最後は「スルメ」と「火物(干物)断ち」という言葉遊びで全てが丸く収まります。
特に「てれすこ」「すてれんきょう」という架空の魚名のネーミングセンスや、死刑寸前での逆転劇など、落語ならではの面白さが詰まった演目です。
あらすじ
長崎のある漁村で、珍しい魚が捕れたが誰もその名を知らない。
漁師は恐れながらと奉行所へと申し出て魚の名前を聞くが、むろん役人どもは知る由もない。
だが、知らないのはお上の沽券に関わることなので、名を知っている者には百両を与えるという高札をあちこちに立てた。
しばらくすると、多度屋茂兵衛という商人が奉行所に出頭し、魚を見てこれは「てれすこ」という魚だと申し立てた。
役人の方も本当か嘘かを確かめる術もなく、茂兵衛に百両を与えた。
これを聞いたお奉行は嘘臭い怪しい話と思い一計を案じる。"てれすこ"を干物にさせ、「また珍しい魚が捕れたので、名を知る者には百両与える」と高札を出した。
これを見た茂兵衛さん、柳の下のどじょうで止せばいいのに、また百両せしめようと欲をかき、のこのこと奉行所へ出向いて行った。「てれすこ」の干物を見て、「これは"すてれんきょう"という魚です」と申し立て、奉行の仕掛けた罠に掛かって召し捕られ入牢の身となってしまった。
お白州での厳しい吟味の末、奉行は「始め"てれすこ"と申せし魚を、次には"すてれんきょう"と申し、上を偽わる不届き者。重きお咎めもあるべきところ、お慈悲をもって打首申しつくる」と、前代未聞の「テレスコ裁判」は一件落着となった。
奉行は最後に望みがあれば、一つは叶えてやるという。
茂兵衛は妻子に一目、会わせて欲しいと願い出る。
すぐに乳飲み子を抱えやせ細った女房がお白州へ呼ばれ、茂兵衛との今生での別れの対面となった。
女房のやつれた姿に驚いて理由(わけ)を聞くと、入牢した茂兵衛の身の証しが立つようにと、火を通した物は口に入れない火物断ちをしていたが、赤子の乳が出ないのは可哀そうなので、そば粉を水で溶いたものをすすっていたという。
茂兵衛はそこまでわが身を案じてくれる女房に感謝して、「もう思い残すことはないが、子供が大きくなっても、決してイカの干したのをスルメとだけは言わせてくれるな」と遺言した。
これを聞いた奉行、膝を打って「多度屋茂兵衛、言い訳相立った。即刻、無罪を申し渡す」で、スルメ一枚で首の皮はつながり放免となった。
それもそのはず、おかみさんが火物(干物)断ちをしましたから。
落語用語解説
- 火物断ち – 火を通した食べ物を口にしない断ち物。祈願成就のための苦行として行われた。
- 高札 – 幕府や藩が法令を民衆に知らせるために掲げた立て札。
- お白州 – 奉行所の裁判が行われる場所。白い砂利が敷かれていた。
- 打首 – 首を斬る刑罰。江戸時代の死刑の一つ。
- スルメ – イカを干したもの。「するめ」と呼ぶと「身代を擦る」に通じるため縁起が悪いとされた。
- 沽券 – 面目や体面のこと。「お上の沽券に関わる」は権威に傷がつくという意味。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ茂兵衛は「スルメと言わせるな」と遺言したのですか?
A: 同じ魚を「てれすこ」と「すてれんきょう」と呼んだように、イカの干物も「イカ」から「スルメ」に名前が変わります。茂兵衛は自分の罪が「名前を変えたこと」ではないと訴えたのです。
Q: 奉行はなぜ無罪にしたのですか?
A: 茂兵衛の遺言を聞いて、生魚と干物で名前が変わる例(イカ→スルメ)があることに気づき、「てれすこ」が干物になって「すてれんきょう」になるのも道理だと認めたからです。
Q: 妻の「火物断ち」は本当に効果があったのですか?
A: 物語上は茂兵衛の機転で助かりましたが、妻の献身が奉行の心を動かしたとも解釈できます。オチでは「火物(干物)断ち」という言葉遊びになっています。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。茂兵衛の欲深さと妻の健気さの対比を見事に演じました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。「てれすこ」「すてれんきょう」の怪しげな響きを絶妙に表現しました。
- 桂文楽(八代目) – 昭和の名人。奉行の厳しさと最後の慈悲を巧みに演じ分けました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「てれすこ」は、詐欺師の物語から人情噺へと転換する構成の妙が光る古典落語です。欲深い茂兵衛が罠にかかる前半と、妻の献身が描かれる後半のコントラストが見事です。
「てれすこ」「すてれんきょう」という架空の魚名は、嘘のようでいて実は「イカ→スルメ」という実例で裏付けられるという巧妙な仕掛け。知ったかぶりや欲の深さへの戒めと、家族愛の大切さを同時に描いた名作です。


