手切れ小僧
3行でわかるあらすじ
呉服問屋の旦那が妾お梅の浮気を疑い、小僧の定吉を偵察に送るが、狸寝入りのつもりが本当に寝てしまう。
お梅は定吉が寝ている間に「百円ふんだくって手を切る」と本音を漏らし、目覚めた定吉に一円の賄賂を渡す。
旦那への報告で嘘を言おうとした定吉が、最後に「百円ふんだくって手を切る」と本音を暴露してしまうオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
日本橋本町の呉服問屋の旦那が、根岸の妾宅に囲っているお梅の浮気を疑っている。
小僧の定吉に小遣いを届けさせ、ついでにお梅の様子を偵察するよう命じる。
定吉は根岸に行き、お梅に眠いふりをして隣の部屋で狸寝入りして様子を伺うことにする。
ところが定吉は狸寝入りのつもりが本当に寝てしまい、お花という女性が訪ねてきたことに気づかない。
お梅は寝ている定吉のことを話しながら「百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおう」と本音を漏らす。
目覚めた定吉にお梅は一円を渡し、「旦那にえらい惚れ方してると言って」と口止めする。
店に戻った定吉は、旦那に「誰か訪ねて来ました」と報告し、相手は「お花ちゃん」だったと言う。
旦那が「それは隣の娘だ」と呆れ、お梅は何と言っていたかと聞く。
定吉は「旦那の言うことなら何でも聞きます」と嘘の報告をしようとする。
オチ:「指なんかじゃすみません。百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおうと言ってます」と本音を暴露。
解説
「手切れ小僧」は、江戸時代の商家の妾制度を背景にした人情落語です。
主人公の定吉は「こまっしゃくれた小僧」として描かれ、偵察任務を引き受けながらも実際には寝てしまうという子供らしさを持ち合わせています。
お梅の「百円もふんだくって手を切る」という本音は、当時の妾が経済的な保障なしに捨てられることへの不安を表しています。
最後のオチは、定吉が賄賂をもらって嘘をつこうとしながら、無意識に聞いていた本音を言ってしまうという、子供の正直さと大人の打算が交錯する絶妙な構成になっています。
「手を切る」という言葉が、旦那の理解する「心中の覚悟」と、お梅の意図する「関係を断つ」という二重の意味を持つ言葉遊びも効いています。
あらすじ
日本橋本町の呉服問屋の旦那。
根岸の妾宅に囲っているお梅のよからぬ噂を耳にする。
小僧の定吉を呼んで、
旦那 「根岸に小遣い渡しに行ってついでにお梅の様子を見て来ておくれ」
定吉 「へへへぇ、隠密の偵察ですか。"歳は取っても悋気は止まぬ 止まぬはずだよ先がない"」、よくこんなこまっしゃくれた小僧を飼っている。
早速、根岸に行って、
定吉 「旦那さんからこれを預かって来ました」
お梅 「まぁ、いつもご苦労さん。さあ、こっちへお上がりなさいな」、座敷へ上がった定吉は欠伸をしたり目をこすったりして隠密の仕事の取り掛かる。
お梅 「あれ、どうしたんだい。そんなに眠そうな顔をして」
定吉 「お店は夜は遅くて、朝が早いので今頃になると眠くてしょうがないんです」
お梅 「そうか可哀想に。隣の部屋で少し昼寝して行きなさいな」で作戦準備完了。
隣の部屋でグウグウと狸寝入りで様子を伺っている。
そこへ表の戸が開いて誰かが入って来た。
旦那の言ったとおりだと緊張して耳を澄ませる定吉。
すると、
お梅 「遅かったじゃないの。お花ちゃん」、二人は座敷でぺらぺらとお喋りを始めた。
女じゃしょうがないと、当てがはずれて安心したのか、がっかりしたのか、定吉は本当に寝てしまった。
お花 「あら、隣の部屋に誰かいるの?いびきが聞こえるけど」
お梅 「旦那が小僧の定吉を使いと言って探りによこしたのよ。
でもやっぱり子どもよ、ほんとに寝てしまったみたいね。いい年してやきもちやいて、もうあんな年寄りは何かにつけてうるさいから、今のうちに百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおうと思っているのよ・・・」と、本音を言い出した。
すっかり偵察の任務を忘れていい気持ちで寝てしまって、
定吉 「ああ、だいぶ寝てしまいました。もう店に帰らないと叱られてしまいます」と、帰ろうとすると、
お梅 「これ、ちょっと待ちなさい。あんた旦那から頼まれてここへ隠密の探りに来たんでしょ」
定吉 「隠密ってなんです?」
お梅 「しらばっくれたって駄目よ。寝たふりしてあたしのこと疑って調べようと来たんでしょ。・・・あんたもこんな役目背負わされて可哀想だから、これ少しだけど持ってお行き」
定吉 「えっ、これ一円もらえますの」
お梅 「どうせ何も聞いてないと思うけどな、帰ったら、あたしは旦那さんにえらい惚れ方してると言ってちょうだい。分かったら早くお帰り」
定吉 「へい、わたいも男や。
一度頼まれりゃ否とは言わない。一円の手前もあるけど・・・」、どこまでも現金な小僧だ。
店に戻ると、
旦那 「おぉ、ご苦労さんじゃった。どうだ根岸の様子は?」
定吉 「へい、この定吉、任務を完全に果たして参りました。お梅さんの隣の部屋で寝たふりをして様子を伺っていると、旦那の思っているとおり誰か訪ねて来ました」
旦那 「やっぱりそうか。で、どんなやつだった?」
定吉 「襖の隙間からのぞくと、若くて綺麗で派手な模様の浴衣を着て、馴れ馴れしい物言いで・・・」
旦那 「そうか、芸人か役者かなんかだな。それでお梅は相手のことを何て呼んでいた」
定吉 「お花ちゃんて呼んでました」
旦那 「馬鹿ぁ!それは向こう隣の娘さんだ。・・・それでお梅はあたしのことも話していたか?」
定吉 「お梅さんは"あたしは旦那にこんなに惚れていても、こんな不細工な顔でいつ他所に女ができて捨てられやしないかと心配で夜も寝られない。旦那さんの言うことなら何でも聞きます"と言ってました」
旦那 「そうか、わしの言うことなら何でも聞くと、・・・えらい!心中でも指でも切るということだな」
定吉 「指なんかじゃすみません。百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおうと言ってます」
落語用語解説
- 妾(めかけ) – 正妻以外の女性で、男性が別宅に囲う愛人。江戸時代の富裕な商人には一般的だった。
- 根岸 – 現在の台東区根岸。江戸時代は閑静な住宅地で、妾を囲う別宅が多かった。
- 手を切る – 関係を断つこと。旦那は「心中の覚悟で指を切る」と誤解した。
- 小僧 – 商家で奉公する年少の男子。丁稚とも呼ばれた。
- 狸寝入り – 寝たふりをすること。狸が死んだふりをする習性から。
- 悋気(りんき) – やきもち、嫉妬のこと。特に男女関係での嫉妬を指す。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ定吉は本当のことを言ってしまったのですか?
A: 定吉は賄賂をもらって嘘の報告をしようとしましたが、旦那が「心中でも指でも切る」と勘違いしたことに対して、子供らしい正直さで「指なんかじゃすみません」と本音を暴露してしまいました。
Q: 「百円」は当時どのくらいの価値でしたか?
A: 明治時代の百円は現代の数百万円に相当する大金でした。お梅は手切れ金としてこれだけの額を要求しようとしていたことになります。
Q: お花ちゃんは本当に隣の娘だったのですか?
A: はい。旦那が疑っていた愛人ではなく、単なる隣の娘でした。定吉の偵察は見当違いの結果に終わり、しかも本当に聞いた情報を暴露してしまうという皮肉な結末です。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。定吉の小生意気さとお梅の打算を見事に演じ分けました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。オチの「百円ふんだくって」の間合いが絶品でした。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。旦那の狼狽ぶりを軽妙に演じました。
関連する落語演目
同じく「商家・店噺」の古典落語


同じく「小僧・丁稚」がテーマの古典落語


子供の正直さがオチの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「手切れ小僧」は、大人の打算と子供の正直さが交錯する人情落語の佳作です。お梅は賄賂で定吉を黙らせようとしましたが、子供の無邪気な正直さには勝てませんでした。
「手を切る」という言葉が、旦那の理解する「心中の覚悟」と、お梅の意図する「関係を断つ」という二重の意味を持つ言葉遊びも秀逸です。大人の複雑な人間関係を、小僧という純真な存在を通して描くことで、より一層のおかしみが生まれています。


