たらちね 落語|あらすじ・オチ「酔って件の如し」意味を完全解説
たらちね(垂乳根) は、公家出身の嫁・清女と八五郎の言葉の対比が面白い古典落語の長屋噺。古雅な「恐惶謹言」に対して「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(酔って)件の如し」という掛詞オチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | たらちね(垂乳根) |
| ジャンル | 古典落語・長屋噺 |
| 主人公 | 八五郎・清女(嫁さん) |
| 舞台 | 長屋 |
| オチ | 「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(酔って)件の如しか」 |
| 見どころ | 公家言葉とべらんめえ言葉の対比 |
3行でわかるあらすじ
八五郎が大家から縁談を持ちかけられ、相手は器量よく着物もそろった女性だが元は公家の出で言葉使いが丁寧過ぎる。
八五郎は平気で結婚するが、嫁さん(清女)の「たらちね」という古雅な言葉を使った長い自己紹介に圧倒される。
翌朝、嫁さんが古風な言葉で朝食を勧めると「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(酔って)件の如しか」と掛詞オチ。
10行でわかるあらすじとオチ
八五郎が長屋の大家から縁談を持ちかけられる。20歳で器量よく着物もある女性だが、あまりにうまい話で疑う。
大家によると一つだけ疵(きず)がある:元は京都の公家の出で言葉使いが丁寧過ぎる。
八五郎はそんなことは平気だと大乗り気で、その日のうちに結婚する。
嫁さんが名前を聞かれると、古雅な言葉で「たらちね」を使って非常に長い自己紹介をし、「清女」と名乗る。
翌朝、嫁さんが「わが君」と呼んで八五郎を起こし、仇名をつけられるからやめてくれと頼む。
嫁さんが「しらげのありかはいずこなりや」と米櫃(こめびつ)の場所を聞く。
岩槻ねぎ売りが来ると、嫁さんが古風な言葉で「一文字草を朝げのため買い求める」と言う。
朝食ができると、嫁さんが古雅な言葉で「早く召し上がってしかるべう存じたてまつる、恐惶謹言」と言う。
八五郎が「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(酔って)件の如しか」と答える。
「依って件の如し」(文書の決まり文句)と「酔って」を掛けた掛詞オチで終わる。
解説
「たらちね」は、江戸時代の市民と公家の文化的ギャップをユーモラスに描いた古典落語の長屋噺です。タイトルの「たらちね」は「垂乳根」と書き、実母を意味する古語の枝詞(連語)で、古雅な文学や和歌に登場する言葉です。
この噺の面白さは、まず言葉のコントラストにあります。「べらんめえ」言葉の八五郎と、古雅な公家言葉を使う清女の対比が、本来ならば通じないはずの二人の会話をユーモラスに描いています。特に清女の自己紹介の部分では、「たらちねの胎内を出でしとき」という表現で出産を説明するなど、古雅な表現の面白さが遺憾なく発揮されています。
日常生活の描写でも、米櫃を「しらげ(白米)のありか」、ねぎを「一文字草」と表現するなど、一見大げさに聞こえる言葉で簡単な物事を説明するギャップがユーモアを生んでいます。
最後の掛詞オチは、文書の結びの決まり文句である「依って件の如し」と、酒に「酔って」を掛けた言葉遊びです。清女の「恐惶謹言」という丁寧な表現に対して、八五郎の平民的なユーモアセンスが光る絶妙な結びです。
この作品は、言葉の文化的ギャップをテーマにしながら、結局は人間同士のコミュニケーションの可能性と、言葉遊びの楽しさを伝える温かい作品といえます。
あらすじ
八五郎が長屋の大家に呼ばれて行くと縁談話という。
年は二十で、器量は十人並み以上、夏冬の着物もそろえているという、まことに結構な話だが、うま過ぎる話だと半信半疑で、
八五郎 「そんな女が、あっしのようなところへ来るには何か訳あり、疵(きず)でもあるんじゃねぇですか?」
大家は「一つだけ疵がある」、やっぱりと八五郎、「夜中に首が伸びて行灯(あんどん)の油をなめるとか、寝小便をするとか」、大家が言うにはもとは京都の公家の出で、言葉使いが丁寧過ぎると言う。
この間、風の強い日に出会った時も、「コンチョウハドフウハゲシュウシテ、ショウシャガンニュウシテ、ホコウナリガタシ」、つまり「今朝は怒風激しゅうして、小砂眼入して歩行成り難し」と、挨拶され返す言葉もなかったと言う。
そんなことなら屁の河童、平気の平左、ぞんざいなべらんめえ言葉の自分と似たようなものでちょうどいいと八五郎は大乗り気。
思い立ったが吉日と、その日のうちに大家の仲人で祝言となり、仲人は宵の口で大家は帰って行ってしまった。
さて嫁さんの名前は?八五郎が聞くと、「自らことの姓名は、父はもと京都の産にして姓は安藤、名は慶三あざなを五光。母は千代女と申せしが、わが母三十三歳の折、ある夜丹頂の鶴の夢を見てはらめるが故に、たらちねの胎内を出でしときは鶴女と申せしがそれは幼名、成長の後これを改め清女と申しはべるなりい~」で、聞きしに勝る難敵だ。
烏カァ~で夜が明けると、枕元で両手をつき、
嫁さん(清女) 「あ~ら、わが君」と起しに来た。
寝ぼけながらも自分のことだと分かった八五郎は、「わが君の八公」だなんて仇名をつけられるからやめてくれと交渉だ。
嫁さん 「しらげのありかはいずこなりや」で、何でこんな朝っぱらから白髪探しかと思いきや、米櫃(こめびつ)の場所を聞いていると分かって一安心。
そこへ岩槻ねぎ売りがやって来た。
嫁さん 「こ~れ、門前に市をなす男(おのこ)、一文字草を朝げのため買い求めるゆえ、門の敷居に控えておじゃれ」で、思わずねぎ売りも平伏だ。
ようやく味噌汁ができて、
嫁さん 「あ~ら、わが君。日も東天に出御ましまさば、うがい手水に身を清め、神前仏前へ燈灯(みあかし)を備え、御飯も冷飯に相なり候へば、早く召し上がって然るびょう存じたてまつる、恐惶謹言」
八五郎 「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら依って(=酔って)件の如しか」
落語用語解説
- たらちね(垂乳根) – 母を意味する古語の枕詞。「たらちねの母」のように使い、古典和歌に登場する。
- 恐惶謹言 – 手紙の結びの言葉で、「恐れ多いことですが謹んで申し上げます」の意味。
- 依って件の如し – 文書の結びの決まり文句で、「よって以上の通りであります」の意味。
- 公家 – 京都の朝廷に仕えた貴族。庶民とは言葉遣いや文化が大きく異なった。
- 一文字草 – ねぎの古風な呼び方。形が漢字の「一」に似ていることから。
- しらげ(白米) – 精米された白い米のこと。江戸時代は貴重な食べ物だった。
よくある質問(FAQ)
Q: 「たらちね」とはどういう意味ですか?
A: 「垂乳根」と書き、母を意味する古語の枕詞です。清女が自己紹介で「たらちねの胎内を出でしとき」と言っており、母の胎内から生まれた時という意味で使っています。
Q: 「依って件の如し」というオチの意味は?
A: 清女が「恐惶謹言」という文書の結びの言葉を使ったことに対して、八五郎がもう一つの文書結びの決まり文句「依って件の如し」を持ち出し、「依って」と「酔って」を掛けて、「飯を食うのが恐惶謹言なら、酒なら酔って件の如しか」と洒落たオチです。
Q: なぜ清女はこんなに堅苦しい言葉を使うのですか?
A: 清女は京都の公家(貴族)の出身で、公家独特の古雅な言葉遣いを身につけています。江戸の庶民とは全く異なる文化背景が笑いを生んでいます。
名演者による口演
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。清女の古雅な言葉と八五郎の反応の対比が見事でした。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。八五郎のべらんめえ言葉を生き生きと演じました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。清女の自己紹介の長台詞を流麗に演じました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「たらちね」は、江戸市民と京都の公家という異なる文化背景を持つ二人の結婚生活を描いた古典落語の傑作です。清女の古雅な言葉遣いと八五郎のべらんめえ言葉の対比は、現代でいう「カルチャーギャップ」のおかしさを見事に表現しています。
言葉は違っても互いを理解しようとする二人の姿は、異文化コミュニケーションの本質を示しています。最後の「酔って件の如し」というオチは、八五郎が清女の言葉の世界に歩み寄ろうとした証であり、ユーモアあふれる締めくくりとなっています。








