関の扉
3行でわかるあらすじ
町内の素人芝居で若旦那が仮病で来ないため、飯炊きの権助が桜の精の代役を務めることに。
差し入れの酒に酔った権助は、重い鬘と着物でふらつきながら舞台に登場する。
観客に「桜の精だからふらついてる」と言われ、権助は「桜のせいではない、酒のせいだ」と答える。
10行でわかるあらすじとオチ
町内恒例の素人芝居「積恋雪関扉」の日、伊勢屋の若旦那が仮病で来ない。
若旦那の役は小町桜の精が姿を変えた遊女・薄墨で、急遽代役が必要となる。
困った家主の長兵衛は、去年も代役をした飯炊きの権助に頼みに行く。
権助は桜の精の役と聞いて大喜びし、「撞木町から来やんした」の台詞を気に入って何度も練習。
世話役が重い鬘と何枚もの着物を着せ、差し入れの酒を勧めると権助はすぐに酔ってしまう。
舞台裏の桜の木の陰で寝込んでしまい、出番になっても出てこない。
世話役に押されて、よたよたふらつきながら舞台に登場する権助。
観客は「桜の精だからわざとふわふわしてる」「なかなか上手い」と勘違いして褒める。
舞台から落ちそうになった権助に「どうした、小町桜の精!」と声がかかる。
権助は「今日は桜のせいではねえ、酒のせいだ」と答えてオチとなる。
解説
関の扉は、素人芝居の失敗談を描いた芝居噺の代表作である。
演目の「積恋雪関扉」は実在の歌舞伎狂言で、小町桜の精が登場する幻想的な場面がある。
権助が演じる「薄墨」は桜の精が化けた遊女という設定で、ふわふわした動きが求められる役柄。
酔ってふらつく権助の動きが偶然にも桜の精らしく見えるという皮肉が効いている。
オチは「桜のせい(精)」と「酒のせい」を掛けた言葉遊びで、江戸落語らしい洒落の利いた締めくくり。
素人芝居という庶民文化と、酒好きな飯炊きという親しみやすいキャラクターが魅力の作品である。
あらすじ
今年も町内恒例の素人芝居の日がやって来たが、なかなか幕が開かない。
伊勢屋の若旦那がまた仮病を使って来ないのだ。
今回は関の扉(積恋雪関扉)(つもるこい ゆきの せきのと)で、若旦那の役は小町桜の精が姿を変えた遊女の薄墨で、役不足ということはない。
仮病ではなく本当の病気かも知れないが、今さらそんなことはどうでもいい。
早く代役を見つけなければならないが、急で無理な話で誰も引き受け手はない。
切羽詰まって関守関兵衛(大伴黒主)役の家主の長兵衛が飯炊きの権助に頼みに行く。
去年も権助は若旦那の代役で非人の権平役を一分で引き受けたはいいが、見物人から飯の炊き方でやじられて舞台を台無しにして頼みたくはないのだが、もうそんなことを言っている暇はない。
権助さん、小町桜の精の役と聞いて大乗り気で、二つ返事でOK、すぐに科白の稽古。
さすが芝居好きのことはあってすぐに覚えて得意顔、「・・・あたしゃ撞木町から来やんした」という科白がとくに気に入ったようで、何度も繰り返しながら芝居の小屋へ行く。
世話役は権助に重い鬘(かつら)と何枚もの着物を着せてひと安心し、ご苦労さんと権助に差し入れの酒を勧める。
酒好きだがそんなに強くない権助はすぐに酔ってしまう。
権助さん、ふらふらしながら舞台の桜の木に裏に隠れて出番を待っていたが、酔ってグウグウ寝てしまった。
いざ出番となったが薄墨が出て来ないので見物人もざわつき、やじり始めた。
こりゃまずいと、世話役が、「権助、出番だ、早く出ろ」と押したもんだから、まだ夢うつつの権助さん、鬘と着物の重みと酔いとで、よたよたふらつきながら舞台へ現れた。
見物人1 「おお、やっと出て来たぞ。おい、やけにふらついているじゃねえか」、
見物人2 「桜の精だからわざとふわふわしてるんだ。
なかなか上手いもんじゃねえか。よっ、日本一! 飯炊き屋!」、だが権助さんは足元が定まらず、舞台から足を踏み外しそうになる。
見物人1 「おお、あぶねえぞ、どうした権助、小町桜の精!」
権助 「今日は桜のせいではねえ、酒のせいだ」
落語用語解説
- 積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと) – 歌舞伎の演目。逢坂の関守・関兵衛(実は大伴黒主)と小町桜の精が姿を変えた遊女・墨染の物語。幻想的な桜吹雪の場面が見せ場です。
- 小町桜の精 – 小野小町伝説にちなむ桜の精霊。この噺では権助が演じる役で、ふわふわとした幻想的な動きが求められます。
- 飯炊き(めしたき) – 商家や大きな屋敷で炊事を担当する下働きの男。芝居好きが多く、素人芝居に駆り出されることもありました。
- 鬘(かつら) – 歌舞伎や芝居で使う付け毛。この噺では重い鬘が酔った権助をさらにふらつかせる原因となります。
- 撞木町(しゅもくまち) – 大阪の遊郭のあった地域。「撞木町から来やんした」は遊女が出身地を名乗る台詞です。
よくある質問(FAQ)
Q: 「桜のせい」と「酒のせい」のオチはどういう意味ですか?
A: 「桜の精(せい)」と「酒のせい(原因)」をかけた言葉遊びです。観客は桜の精を演じているからふらついていると思いましたが、実際は酒に酔っていたというオチになっています。
Q: 「積恋雪関扉」は実在する歌舞伎ですか?
A: はい、実在する歌舞伎狂言です。1784年に初演され、現在でも上演される人気演目です。特に後半の桜の精が現れる場面は、幻想的な演出で知られています。
Q: なぜ飯炊きの権助が代役を務めることになったのですか?
A: 若旦那が仮病で来なかったためです。素人芝居では急な欠員に対応できる人材が少なく、前年も代役を経験した権助に白羽の矢が立ちました。
名演者による口演
- 古今亭志ん朝(三代目) – 軽妙洒脱な語り口で、権助の滑稽さと芝居の場面を見事に演じ分けました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。歌舞伎の知識を活かした格調高い語り口で、芝居噺の第一人者でした。
- 柳家小三治 – 人間国宝。権助の酔っ払いぶりを愛嬌たっぷりに演じ、オチの味わいを深めました。
関連する落語演目
同じく「芝居」がテーマの古典落語


酒・酔っ払いが登場する古典落語


言葉遊びが秀逸な古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「関の扉」は、素人芝居という江戸時代の庶民文化と、酒好きな飯炊きという親しみやすいキャラクターが織りなす軽妙な一席です。歌舞伎の演目を題材にしながらも、難しい知識がなくても楽しめる構成になっています。
権助の酔っ払いぶりが偶然にも桜の精らしく見えるという皮肉は、「結果オーライ」の典型例とも言えます。準備不足や失敗が思わぬ成功につながることは、現代でも経験することがあるのではないでしょうか。
実際の高座では、演者が権助のふらつく様子や、芝居の台詞を真似る場面が見どころです。歌舞伎を知っていればより楽しめますが、知らなくても十分に笑える構成になっています。


