さんま火事
3行でわかるあらすじ
長屋の住人たちがケチな家主「吝い屋」にこれまで騙されて利用された仕返しをしようと計画する。
みんなで一斉にさんまを焼いて「河岸だ!」と叫び、火事と勘違いさせて大騒ぎにさせようとする。
しかし吝い屋はさんまの匂いだけをおかずにご飯を食べ、究極のケチぶりを発揮して仕返しは失敗に終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
長屋の住人たちが大家のところに集まり、ケチで有名な家主「吝い屋」の汚いやり口を愚痴る。
蛤の殻を利用して薬を作ったり、子供を騙して炭を集めたり、かんざしを探すふりで草刈りをさせたりした話を披露。
唐茄子のお化けで脅かそうとしたら、逆に朝飯のおかずにされてしまう始末。
大家の提案で、長屋十八軒で一斉にさんまを焼くことに決定。
「河岸だ!河岸だ!」と叫んで火事と勘違いさせ、大騒ぎさせる作戦を実行する。
吝い屋では最初は大パニックになるが、さんまの煙だと気付く。
吝い屋の主人はさんまを以前食べたことを思い出し、美味しかったと懐かしむ。
番頭がタクワンを出そうとすると、吝い屋は「そんなもんいりゃあしないよ」と断る。
「この匂いをおかずに食べちまおう」と言って、さんまの匂いだけでご飯を食べ始める。
仕返しのつもりが、究極のケチぶりで逆に利用されてしまう皮肉なオチ。
解説
「さんま火事」は、ケチの極致を描いた古典落語の傑作です。
吝い屋(しわいや)という名前が示す通り、常軌を逸したケチの極みを見せる家主のキャラクターが秀逸です。
蛤の殻や炭、草刈りなど、長屋の住人を巧みに利用して金儲けをするエピソードの積み重ねが、最後のオチをより効果的にしています。
「河岸」を「火事」と聞き間違えさせる作戦も巧妙ですが、それを上回る吝い屋の「さんまの匂いをおかずにご飯を食べる」という究極のケチぶりが、仕返しを企んだ長屋の住人たちを完全に出し抜く結果となります。
あらすじ
長屋の連中が揃って大家のところへ知恵を借りに来る。
けちでみなが吝い屋(しわいや)と呼んでいる家主の油屋のやり方があまりにも汚いので癪にさわってしょうがないと、愚痴を並べ立てる。
愚痴(其の一):三年前に長屋中で潮干狩りに行って採った蛤(はまぐり)の殻を路地に捨てたら、吝い屋の番頭が怒鳴り込んで来て足でも切ったらどうするんだ。
捨ててあげるから家の裏口まで持って来いと言うんで、みんなで貝殻を裏口へ持って行った。
その年の暮れに吝い屋で、ひび・あかぎれの妙薬というのを売り出した。
これが捨てた蛤の貝殻に入っている油薬だ。
自分の所で銭儲けに使うものを、長屋の者をおどかして裏口まで運ばせていたという、ちゃっかりした話。
愚痴(其の二):長屋の子供たちが吝い屋の壁へ落書きをしていると、番頭が落書きをするなら庭に大きな石があるからと言って子どもたちを庭に連れて行った。
ところがこの石は真っ白で、白墨や蝋石じゃ何を書いたのか分からない。
番頭は子どもたちの家から炭を持って来させて書かせて、少し書くと番頭が出て来てここでご用をするから炭は預かると言って取り上げて子供たちを追い出した。
番頭がいなくなると子供たちは家から炭を持ち出してまた落書きを始めた。
するとまた番頭が出て来て、ここでご用するからと言って炭は預かってあげようと言って集めちまった。
二、三日するうちに長屋中から炭が消えて、吝い屋の物置に炭俵が三俵増えたという、せこい話。
愚痴(其の三):三、四日前に番頭が来て、うちのお嬢さんが、前の空き地に高価な簪(かんざし)を落とした。
このかんざしを拾ってくれた方には、莫大なお礼をしたいと言う。
長屋中の連中は莫大なお礼目当てに草ぼうぼうの空き地の草刈りをして探したがかんざしなんか出てこない。
今朝、吝い屋の前を通ると、主人が前の空き地の草をむしるのは、大分費用がかかると思っていたが、お前の働きで、長屋の連中にただで草をむしらせることができた。
番頭にご苦労ご苦労って言っていたという、骨折り損のくたびれ儲けの話。
愚痴(其の四):悔しくてしょうがないので宗助さんが、唐茄子をくり抜いて中に蝋燭(ろうそく)を立て、目鼻を付けて竿の先に吊して、夜中に手水場に行く吝い屋の鼻先に吊して脅かそうとした。
吝い屋はそれを手にとって眺めていたが、竿から外して持って行ってしまった。
翌朝、番頭が来て、奉公以来三十年、はじめて唐茄子が朝飯に出たと涙を流して喜んで礼をした。
今度は晩飯に鯛と蝋燭ももっと長いやつを頼むよ、とニヤニヤしながら帰って行った。
八公 「そんなわけで長屋中、癪にさわってしょうがねえ。吝い屋の親父と番頭がびっくりして泣きっ面かくような仕返しをしたいんでさぁ」、ここでまた宗助さんが口をはさむ。
宗助 「どうです油の詰まった三番蔵にでも松明に火付けて投込んだら」、やっぱり宗助さんは黙っている方がいいようだ。
八公 「火付けはまずいけど吝い屋の前で火事だ!火事だ!って騒ぐのはどうです?」
大家 「火事でもないのに、火事だと騒ぐのは良くない。
吝い屋の晩飯時に長屋十八軒そろって秋刀魚(さんま)を焼こう。
一軒、三匹づつ、裏の空き地に七輪並べて一斉に焼くんだ。
そこで、声の大きい熊さんが小さな声で、"魚竹じゃあ間に合わない"、その後で大声で、"河岸だ!河岸だぁ!"と叫ぶんだ。
河岸を火事と聞き間違えるのは向こうの勝手。
火事だってんで、家中ひっくり返るような騒ぎになって、皿だの茶碗だの丼(どんぶり)なんか壊したら、みんなで手を打って笑ってやろうじゃないか。どうだい」
無論、異存のあるはずもなく長屋の連中は大賛成の大乗り気。
早速、善は急げ?で実行に取り掛かる。
吝い屋ではタクワンを貴重なおかずにして晩飯を食い始めた。
そこに、「河岸だ!河岸だ!」の声とともに五十四匹分のさんまの煙がもうもうと入って来て、「蔵の目塗りだ!」、「バケツに水だ!」、なんて大騒ぎの大パニック。
だが、どんな店にも利口者がいるもんで、煙の匂いに気づき、空き地でさんまを焼いているのを見つける。
ほっとして、
吝い屋 「うん、この煙はさんまだよ、さんま。
思い出しましたよ。
ずっと前に石町さんでいただきましたよ。
美味い魚なんだよ。
あれから食べたいなあ、食べたいなあ、とずいぶん夢にも見ましたけどね。・・・ああ、みんなぼんやりしてちゃいけない。早く茶碗にご飯をよそって・・・」、「旦那、タクワンを・・・」
吝い屋 「そんなもんいりゃあしないよ。この匂いをおかずに食べちまおう」
落語用語解説
- 吝い屋(しわいや) – ケチで金に細かい人を指す言葉。「しわい」は関西方言で「けち」「しみったれ」という意味です。
- 家主(いえぬし) – 長屋を所有する地主。店子(たなこ)から家賃を徴収し、長屋の管理をする立場でした。
- 七輪(しちりん) – 炭火を入れて使う小型の調理用コンロ。長屋の庶民の必需品でした。
- 簪(かんざし) – 女性が髪に挿す装飾品。高価なものは金銀や珊瑚で作られ、財産価値がありました。
- 河岸(かし) – 魚市場のこと。「河岸だ!」は「魚を買いに行くぞ」という意味ですが、「火事だ!」と聞き間違えさせる狙いがあります。
- 唐茄子(とうなす) – かぼちゃのこと。江戸時代には珍しい野菜で、贅沢品とされました。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ蛤の殻を集めさせたのですか?
A: 蛤の殻は粉にして塗り薬の材料に使われました。吝い屋は長屋の人々を騙して無料で原材料を集めさせ、それを薬として売って儲けたのです。
Q: さんまを一斉に焼いたのはなぜですか?
A: さんまは焼くと大量の煙が出るため、火事と勘違いさせて吝い屋を慌てさせる作戦でした。また「河岸だ」を「火事だ」と聞き間違えさせる仕掛けもありました。
Q: 匂いだけでご飯を食べるのは本当に可能ですか?
A: これは吝い屋の究極のケチぶりを表現した誇張表現です。実際には栄養にはなりませんが、江戸時代には本当に匂いだけでご飯を食べるほど貧しい人々もいたと言われています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 古今亭志ん生(五代目) – 吝い屋のケチぶりと長屋の住人たちの悔しさを絶妙に演じ分けました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 明瞭な語り口で、長屋の騒動を生き生きと表現しました。
- 柳家小三治 – 人間国宝。吝い屋の究極のケチぶりを温かく描きます。
関連する落語演目
同じく「ケチ」がテーマの古典落語


長屋が舞台の古典落語



仕返し・逆襲がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「さんま火事」は、究極のケチを描いた作品です。蛤の殻集めや炭の回収、草刈りなど、吝い屋の巧妙な金儲けの手口は、現代で言えば詐欺まがいの行為ですが、落語では笑いに転換されています。
長屋の住人たちが結託して仕返しをしようとする展開は、弱者が団結して強者に立ち向かう構図で、聞き手の共感を呼びます。しかし最後に「匂いをおかずに食べる」という究極のケチぶりで逆転されるオチは、予想を裏切る見事な結末です。
さんまの匂いだけでご飯を食べるという発想は、ケチの極致を表現すると同時に、物を大切にする精神とも言えます。現代の飽食の時代に、食べ物の匂いを楽しむという感覚を思い出させてくれます。
「河岸」と「火事」の聞き間違いを利用した作戦は、江戸時代の言葉遊びの巧妙さを示しています。現代でも同音異義語を使った誤解は日常的に起こりますが、それを計画的に利用するという発想が面白いところです。
実際の高座では、演者によって吝い屋のキャラクターが異なり、憎めない愛嬌があったり、本当に憎たらしかったりと、様々な解釈が楽しめます。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


